「役所広司」も素手でトイレを磨いていた
トイレ掃除に重きを置く経営者は少なくない。パナソニックホールディングスの創業者で“経営の神様”と言われる松下幸之助氏は自社工場のトイレが汚れていたことに憤り、自らの手で掃除をしたエピソードが残っている。2025年1月に他界したカー用品メーカー、イエローハット創業者の鍵山秀三郎氏は毎日素手で便器を磨き上げていたという。
「凡事徹底」の精神を持つ経営者が多いせいか、自己啓発セミナーの多くがトイレ掃除の大切さを説いている。
手袋をせずに便器を磨くことに抵抗を覚えなかったわけではない。なにしろ、見ず知らずの人たちがオシッコをした便器だ。しかし“郷に入れば郷に従え”という。ヴェンダースの映画『PERFECT DAYS』で便器をゴシゴシ磨く役所広司の姿に禅の精神を感じてもいた。受け取った雑巾で、男性用の小用便器をキュッキュと磨いていった。
掃除を終えると、いよいよ現場へ出動。社用車で事務所を出た。この日はあいにくの雨天。解体作業を休んでいる可能性も危惧したが、どこも通常通り稼働していた。現場は日雇いが多い。休んだら、その日の収入はゼロだ。
ただ作業員の働く姿をながめる
最初の現場を訪れて「危険」と言われたわけがよくわかった。80坪ほどの敷地に建つ50坪ほどの日本家屋の解体だったが、クレーンのヘッドを使ってひたすら破壊する。建物をガンガン壊していく。柱や壁や屋根が上から降ってくる。地面には廃材が重なり、雨のせいで地面はぬかるみ、落ちてくる廃材を避けるだけでも大変な労働だ。
作業員は6人。この日は全員トルコ系クルド人だという。もちろん在留資格を持つ人たちだ。クレーンを操縦する男性とトラックに廃材を積む男性がリーダーシップをとっていた。あとの4人のうち3人は男性、1人は女性だった。男女とも鎧を着ているように立派な身体だ。
リーダー格の2人のほかは、廃材を拾って集め、トラックに積み、埃のたつところに水撒きをしている(雨降りに水を撒くので、地面は沼のようになっていた)。他の作業員が働く姿をながめている時間は長く、これで日給1万3000円ならばコストパフォーマンスのいい仕事かもしれない。
スギモトさんは担当エリアの現場を手際よくまわっていく。日雇いの僕はサポート役に徹する。現場作業員の名簿をはじめ書類を持ったり、トラックや重機を誘導したり。