1月15日、東京・杉並区のアパートで強制執行に訪れた執行官ら2人が刺され、1人が亡くなる痛ましい事件が起きました。逮捕された男性は「生活保護を打ち切られた」と供述していると報じられています。報道によれば「保護を受けながらスキマバイトを始めたが、それが原因で保護を廃止された」とのこと。家賃滞納は半年ほど続いていたと推測されます。この男性個別の事情はまだ不明ですが、実は私たちが運営する「せかいビバーク」にも、これと酷似した経緯で困窮する方からの相談が絶えません。なぜ、働こうとした人が追い詰められてしまうのか。類似の相談事例をもとに、その背景を推測・解説します。(元記事はリプ欄)
40代で生活保護を利用し、アパートに入居した方のパターンとして、それまで「住み込みの仕事」で全国を転々としてきた背景が多い場合があります。失業と同時に住まいを失う→ネットカフェなどで過ごしながらスキマバイトで繋ぐ→次の「寮付き」の仕事を探してまた移動する。こうしたサイクルの中にいたため、「定住してそこから職場に通う」というキャリアデザインの選択肢がそもそも少なかった方が多いのです。これは本人の選択という側面もありますが、産業構造そのものがこうした不安定な労働力を必要としてきた結果でもあります。
住まいを確保し、ホームレス状態を脱した後に、新たな葛藤が始まります。 アパートという「足場」ができたことで、以前のように「仕事があるから遠隔地へ行く」という動きができなくなります。しかし、いざ通える範囲で仕事を探そうとしても、ハローワークには条件の合う仕事が少なく、製造業中心だった方への「リスキリング(学び直し)」の機会も不足しています。「一刻も早く自立したい」「体がなまるのが嫌だ」「生活保護で休んでいると罪悪感がある」……そうした焦燥感から、手軽に始められるスキマバイトに活路を求めてしまうのです。
ここに、制度上の大きな「罠」があります。 例えば、ストイックに週6日でスキマバイトに入り、月13万円を稼いだとします。それを正直に収入申告すると、どうなるか。勤労控除の限界として、 控除額(手元に残せる額)は数万円程度。残りの10万円以上は、翌月の保護費から差し引かれます。するとおこるのは、キャッシュフローの崩壊です。 差し引き(減額)が行われるのは「収入を得た翌月」です。手元の現金をやりくりして翌月の家賃を払う必要がありますが、ギリギリの生活の中でこの管理は極めて難易度が高く、固定費である家賃が真っ先に滞納へと回ってしまいます。
また、変動への弱さも見過ごせません。 福祉事務所の「収入認定」は前月の実績で見込まれることが多いですが、スキマバイトは翌月の仕事量が保証されません。「今月15万稼いだが、来月は3万しか仕事がない」となると、手元の現金が底をつき、即座に家賃滞納に直結します。
この状況を福祉事務所側から見れば、トータルの収入が基準を超えれば「自立による廃止(打ち切り)」と判断します。しかし本人からすれば、手元に現金がないまま家賃滞納と「返還金(払いすぎた保護費の返済)」の請求だけが残る形になります。相談に行こうにも、「まずは返金してください」と言われるのが怖くて、再度困窮しても福祉を頼れなくなる心理的障壁も高くなるという、誰も得をしない状況が生まれます。
「せかいビバーク」の相談者でも、8割以上の方が「生活保護などの公的支援は望まない。今日さえ凌げればいい」と回答されます。しかし、そのうち約4割は再び困窮します。現在の日本の福祉制度は①仕事と収入が安定しているが住まいがない人(TOKYOチャレンジネット等)②仕事も住まいもない人(生活保護) の二極化されており、「働けるが不安定な人」を支える仕組みが決定的に不足しています。「本人は働きたい、国も働かせたい」という思いが一致しているはずなのに、現行の仕組みでは働くほどに生活が破綻していく。このミスマッチを解消するための制度改正が、今こそ必要だと現場から強く感じています。