なぜエース社員が、たった数百円のために交通費をごまかすのか できる社員ほど陥る心理的なワナ
モラルライセンシングがもたらす組織への影響
モラルライセンシングの影響は、個人にとどまらない。 目標達成を妨げ、“一歩進んで二歩下がる”という結果を招くことがある。せっかくの努力が、自分への甘さによって帳消しになってしまうのだ。 さらに厄介なのは、組織への波及効果である。 研究によれば、道徳的な行動を取った上司を見た部下は、かえって倫理観が低下する可能性があるという。「上司があれだけ良いことをしているのだから、自分は少しくらい手を抜いてもいい」という心理が働くのだ。 トップセールスが会議に遅れることを許容すれば、その空気は必ず組織全体に波及する。「結果を出せば何をしてもいい」というメッセージが、暗黙のうちに共有されてしまう。 ルールとは、成果を縛るためにあるのではない。組織の信頼と再現性を守るために存在している。誰か一人の例外を許すことは、組織全体の空気を少しずつ悪くしていくのである。 最悪なのは、倫理観が低下した組織に「心理的安全性」を求めることだ。モラルが低いのに「何でも発言できる」という空気を作ったら、さらに無秩序な状態になっていく。
組織として必要な「仕組み」による対策
モラルライセンシングは、意志の弱さの問題ではない。人間の認知のクセであり、誰にでも起こる心理現象である。 私も睡眠時間を確保するというルールを決めているのに、ついつい「今日はいつも以上に頑張ったのだから、夜遅くまでNetflixのドラマを観ていいだろう」と、まるで理屈に合わない判断をしてしまうことがある。そして翌日には「どうしてあんな判断をしたのか」と後悔することになるのだ。 組織として対策をとるべきは、以下の3つである。 1. 成果とルール順守を明確に切り離す 2. 優秀な人ほど、あえてルールを守る姿勢を求める 3. 例外を許容しない空気を組織全体で共有する どれだけ成果を出していても、ルール順守は例外なく求められる。この原則をあいまいにしてはならない。 また、個人レベルでも対策は可能だ。自分の行動パターンに意識を向け、気が抜けていないか? と気づくことである。具体的には、良い行いをした後に「緩みが出ていないか」を意識的に振り返ってみる。さらに、組織として倫理的な行動の意味を継続的に議論する機会を設けることも有効だろう。