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プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

80 / 267

5分

分岐点当日 オランダ 1

 午後1時を過ぎてしばらくすると、少女は家から出てきた。  Marilou(マリルー) Hautvast(ハウトヴァスト)は、昨日と同じ髪型で、服装はワンピースに長めのコート。首には、口元が見えないほど毛足の長い、フサフサなマフラーを巻いている。   「あれが、地球の運命を乗せた手紙か。不思議な感覚だな」  マリルーの左手には青い封筒。 「行きましょう。達也さん」  僕と彩歌(あやか)は、尾行を開始した。  マリルーは、気さくに道行く人に挨拶をしながら歩いている。 「彼女、学校閉鎖でお休みなのに、あんなに大っぴらに出歩いて大丈夫なのかしら」  そういえば僕も以前、学級閉鎖で休みになった時、堂々と駄菓子屋へ行って、怒られたことがあったな。 「まあ、手紙を出しに行くくらいなら、大丈夫なんじゃない?」  通りを南に抜け、教会が見えた辺りで、彩歌が僕の袖を引っ張った。 「見て、達也さん!」  マリルーが初老の男性に呼び止められた。  分岐の現場までまだ少しあるが、もうトラブル? もしや、ここで手紙を紛失するのか……?  ……何か会話しているようだ。若干怒っているような感じの男性と、うつむいているマリルー。 「ブルー、翻訳出来る?」 『タツヤ、すまないがもう少しだけ、近付いてほしい』 「了解!」  僕と彩歌は慎重に近付いていく。 『OK、この距離で大丈夫だ。翻訳するよ?』  ブルーから、二人の会話が聞こえてきた。 『……マリルー、何のための臨時休校だと思っているんだね?』 『ごめんなさい、リートフェルト先生』  ……先生に見つかっちゃったみたいだ。 「過去の自分を見ているようだ」  だってまさか、駄菓子屋に先生が来るなんて思わないじゃん。ねぇ? 「もしかしたら、私達も叱られるかもしれないね」  彩歌がクスリと笑う。  もしリートフェルト先生に見つかったら、観光客のフリをして、知らぬ存ぜぬで通そう。 『……ふむ。仕方ないな。ではその手紙を出したら、すぐに家に帰って、大人しくしているんだよ?』 『はい、先生!』  良かった。どうやら許してもらったようだ。 「僕の時は、プレイ中のゲームを中断させられて、即時帰宅を言い渡されたけどなあ」  あとちょっとで、ハイスコア更新だったのに。 「そんな事はよく覚えているのね」 「そういえばそうだね。不思議だなあ」  確かにあの頃は、下駄箱の位置なんかより、隠れキャラの位置の方が重要だった。 「あ、彩歌さん。マリルーが歩き始めたよ」  教会の前を通過して、とうとう、〝ファン・スピルベルゲン通り〟に差し掛かった。周囲に怪しい人影や車は無い。 「もう少し近づこう」 「うん。その方がいいわね」  鼻歌()じりにトコトコと歩くマリルーに、気付かれないように少しずつ距離をつめる。 『タツヤ、アヤカ、気をつけて』 「ブルー、何かあったら教えてくれよ」 「達也さん、私がマリルーと手紙を見ているから、周囲を見張って」 「了解!」  キョロキョロと辺りを見回すが、特に何もない。 『タツヤ……! 犬か猫だ。近付いてくる!』 「ちょっと待て! まさかダーク・ソサ……」 『違う。本当に犬か猫だ』  というか、犬だ。種類のわからない大きな犬が、マリルーの正面から走って来る。  悲鳴を上げるマリルー。 「危ない!」  僕はダッシュで犬とマリルーの間に割り込んだ。 「こいつが手紙紛失の原因か!」  ギリギリで間に合った。僕を噛もうとして弾き飛ばされる犬。 「ガルルルル……」  犬は牙をむいて、こちらを睨んでいる。まだ来るか!  尻もちをついて恐怖に顔を引きつらせたマリルーを(かば)いつつ、僕はファイティングポーズをとる。 『こ……怖い……』 『大丈夫。僕がついてる!』  震えながらも、ゆっくりと起き上がるマリルー。 『あなたは誰?』 『正義の味方さ。キミを助けに来たんだ』 「達也さん、前!」 「おっと、コイツめ!」  飛び掛かってきた犬を払いのける。数メートルコロコロと転がり、起き上がってまたこちらを睨む。 「仕方がない。ちょっとお仕置きしてやるか」 『ブルー、あの犬、パンチして大丈夫?』 『今のキミのパンチだと、一撃ではじけ飛ぶ。別の方法がいいだろう』  そうだな。マリルーの精神衛生上、よろしく無さそうだ。 『達也さん、私が魔法で眠らせようか?』 『魔法は一般人には極力見せたくないな。大丈夫。僕がやるよ』  後で記憶操作という手もあるが、マリルー以外の人に見られる恐れもあるしな。  僕は飛び掛かってきた犬を両腕で抱きとめた。そのままギュッと抱きしめる。首や肩に噛み付いてくるが、もちろん僕には効かない。おいおい、それ以上噛むと歯が折れちゃうぞ。 「こら、暴れるな」  僕は犬に顔を近づける。鼻を噛まれたが、気にしない。暴れる犬の目を見ながら、ゆっくり腕に力を込めていく。ゆっくり、ゆっくり、じわじわと締め付けていく。じっと目を見つつ、ギリギリまで締めていく。暴れても噛まれても、とにかくじわじわと、無力感を植え付けるように。  暫くして、犬が大人しくなったのを見計らって、僕は腕の力を緩めた。 「キャイン!」  ひと声吠えて、犬は逃げていった。もう悪さすんなよ! 「達也さん、今の……」 『タツヤ、怖いぞ。猟奇的(りょうきてき)だ』 「え、そう? 優しい解決法だったじゃない?」  振り返ると、マリルーも怯えた目で僕を見ている。あれあれ? 駄目だった? 『た、助けてくれてありがとう。私、マリルー』  引きつった笑顔でお礼を言われた。  と、その後、何かに気づいた様子でキョロキョロと周りを見ているマリルー……あ、いつの間にか手紙を持ってない! さっきの騒ぎで落としたのか! 『マズい、手紙!』 『探しているのはこれ?』  マリルーに青い封筒を手渡す彩歌。なんだ、拾っていたのか。良かった! 『ありがとう!』 『いいのよ。もう無くさないでね』 『うん!』  ふう。危ない危ない。よし、念のため、マリルーが無事ポストに手紙を投函するまでついていこう。 『マリルー、郵便局に行くなら、僕達も一緒に行っていい?』 『いいよー!』  微笑むマリルー。なんだ、最初からこうしておけばよかったな。 分岐点当日 オランダ 1の挿絵1

初回投稿日時:2019年10月27日 19:46

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  • 賢者

    SHO

    ♡300pt 〇100pt 2019年10月27日 20時49分

    流石は主人公、林檎を握り潰すどこかの有名作家さんとは一味違う!?

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    SHO

    2019年10月27日 20時49分

    賢者
  • カレーうどん

    ガトー

    2019年10月27日 22時32分

    アワアワアワ((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル  次からは私も潰さないようジワジワ握ります!!←?   という事で←? いつも有難うございますッッ (´∀`*)ウフフ

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    ガトー

    2019年10月27日 22時32分

    カレーうどん
  • チンチラちゃん

    hake

    ♡500pt 2019年10月27日 19時58分

    おおおおお達也くんさすがに強いですね! わんこを木っ端微塵にしなくて良かったです! そして、彩歌ちゃんナイスフォロー(*´Д`*)

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    hake

    2019年10月27日 19時58分

    チンチラちゃん
  • カレーうどん

    ガトー

    2019年10月27日 20時21分

    ありがとうございます! 。・゚・(ノ∀`)・゚・。 ここだけご覧になった方が〝ワンコを木っ端微塵??!〟ってなってくれると嬉しいですね!←  ……さて! 二人は無事に、任務を遂行できるのでしょうか……!?

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    ガトー

    2019年10月27日 20時21分

    カレーうどん
  • ひよこ剣士

    渡鴉

    ♡100pt 2019年10月27日 23時02分

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    見事なお点前で

    渡鴉

    2019年10月27日 23時02分

    ひよこ剣士
  • カレーうどん

    ガトー

    2019年10月27日 23時13分

    ウレシヤ(´∀`*)   有難う御座います! まだまだがんばって参ります! どうぞ今後とも、よろしくお願い致します!

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    ガトー

    2019年10月27日 23時13分

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