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あの女優も40代で発病
女性の双極症に早く気付くために 【第1回】
先日、女優の広末涼子さんの突然のニュースを聞いて驚かれた方も多かったのではないでしょうか。その後、広末さんは「双極症(双極性障害)」と「甲状腺機能亢進(こうしん)症」を公表し、全芸能活動を休止、治療に専念すると発表しました。この双極症とはどのような病気なのでしょうか。例を見てみましょう。
広末涼子さん
◇双極症Ⅰ型とは
【30代女性の例】大学卒業後、金融関係の会社に就職。学生時代から友人も多く、リーダー的存在で人気者。就職してからも明るく、面倒見が良く、少し気分屋のところがあるものの、頑張り屋として評価されていた。
しばらくすると人事異動があり、仕事内容には問題を感じなかったが、人前で叱咤(しった)するような上司の下で働くこととなった。自分のミスを指摘されるのはしょうがないと思いつつ、みんなの前で注意されることには納得できず、嫌な気持ちはありながらも毎日の仕事をこなしていた。
少したった頃、夜は寝ているようで夢ばかり見て朝起きても疲れが取れなくなった。寝不足のせいか食欲もなく、痩せてしまった。休日は家族と楽しい時間を過ごしたいが、どうにも疲労が強く起き上がれず、家族に申し訳ないと思いながら、子どものことは夫に任せてほとんど寝ている状態になった。次第に毎日の家事もできにくくなり、どうしたらよいのか考えたいがうまく頭が回らない。
心配した家族の勧めでかかりつけ医を受診。「仕事を頑張り過ぎてうつになっている」と言われ、抗うつ剤や睡眠薬を処方され、しばらく内服を続けた。その後、上司の異動が決まり、次第に調子も良くなったので内服と通院を中止した。
3年後、仕事のストレスには気分転換が必要と言い、仕事帰りに毎日飲み屋へ行くように。帰りが遅い毎日に夫は心配していたものの、ストレスをため込んで以前のようにうつになってしまうのはかわいそうという気持ちから好きなようにさせていた。休日は朝からショッピング、普段は興味もない高価なブランド物を幾つも買うようになり、支払額も相当になっている様子。本人に注意しても聞く耳を持たない。
最近は飲み屋に寄ってそこで知り合った男性と夜を共にして朝方帰るようになった。ほとんど寝ていないが、朝は普通に支度をして会社へ行く。ぐったりしているような様子はない。会社では納得いかない上司の態度にキレて大げんかとなり、「辞めて来た」とあっけらかんとしている。「たまの休日家族でどこかに行こう」と朝早くから車で出掛けたが、無謀な運転により物損事故を起こした。
困った夫は最近の様子を見ていて家族みんなが心配していることを伝え、精神科の受診を勧めたが、「自分は元気に毎日を過ごしているのに何で医者にかからないといけないのか」と拒否。本人が信頼している自身の父親から説得してもらい何とか受診することができた。そこで「双極症Ⅰ型」と診断され、入院の上、しっかりと休息を取ることとなった。
以上が「双極症Ⅰ型」の一般的な経過です。
◇そう病エピソードの特徴と症状
1、 高揚、誇大、あるいは過激性気分
2、 自尊心の増大あるいは誇大性
3、 睡眠欲求の減少(2~3時間の睡眠)
4、 とても多弁で、しゃべり続けたいという欲求
5、 思考疾走
6、 注意散漫、集中困難
7、 浪費、過剰な快楽活動(性行為、賭博)
8、 職業的および社会的機能における重度の障害
例にもありますが、上記のような症状はそう病エピソードと呼ばれ、そう病エピソードを有する気分障害を双極症Ⅰ型と呼びます。そう病エピソードでは派手で目立つ症状が出現することもあり、その他の精神病が疑われたり、薬物の影響が疑われたりすることもあるほどです。
これらの状況が続けば、社会的機能(仕事)が損なわれるなど困った結果を引き起こす可能性が高いにもかかわらず、その行動が止められない状態がそう状態です。
◇抑うつエピソードの特徴と症状
1、 抑うつ気分と興味や喜びの喪失
2、 憂うつ、希望がない、ふさぎこんでいる、または価値がないと感じる
3、 睡眠障害、特に早朝覚醒または過眠
4、 食欲不振と体重減少、または食欲増進と体重増加
5、 集中力低下と思考の障害
6、 ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分
7、 精神運動興奮または制止
8、 疲労感とエネルギーの減退
9、 罪責感を伴う無価値観
10、自殺念慮と反復する陰うつな思考
一方、上記のような症状が抑うつの状態です。例にあった初めにかかりつけ医を受診した時にはうつ状態であったと言えるでしょう。
◇寛解と再発を繰り替えす
「双極症」とはこのように抑うつという落ち込む状態と、気分高揚であるハイテンションの状態という大きな気分の波の中で、激しい気分の変動があるもので、それが良くなったり(寛解)、悪くなったり(再発)を繰り返すことを特徴とする疾患です。
例にあるように、そう状態の場合、自分としては「楽しくてしょうがない、絶好調!」と思っているため、自ら病院を受診することはほとんどなく、心配した家族に連れられて受診となるか、うつ状態で受診することがほとんどです。そのため、「うつ病」「うつ状態」と診断がつくことが多いとされ、「双極症」と正しく診断されるには数年かかることがあると言われています。家族に連れられてきた場合は例のように拒否的になることが多いですが、そのような場合でも信頼している人の意見は聞くことが多いことから、周囲の人が違和感に気付いたら、そのような人に説得してもらうのも早めに病院受診へつなげるポイントです。
双極症には幾つかのタイプがありますが、一般的に双極症と言われるのは双極症Ⅰ型と双極症Ⅱ型の場合がほとんどです。Ⅰ型とⅡ型の違いは、Ⅰ型は過去にそうのエピソードがあること、またはそうと抑うつの混合性のエピソードがあること、Ⅱ型は過去にそうのエピソードはなくてもよいが、軽そう(4日以上)のエピソードおよび抑うつのエピソードがあることが診断基準となります。
「双極症」の頻度ですが、わが国のデータによるとⅠ型、Ⅱ型を合わせた全体で0.16%から0.23%となっています。うつ病の生涯有病率は6%とされていることから「双極症」と診断されることは圧倒的に少ないことが分かります。ただし、これは先ほど触れたように、双極症の半数以上の方が抑うつ気分で受診をするため、過去のそう・軽そうのエピソードが見逃されてしまい、うつ病の診断がついている場合が多くあるからではないかと言われています。
◇性差は見られず
一般的にうつ病は女性に多いとされますが、双極症には性差は認められていません。ただし、そう病エピソードは女性に多く、抑うつエピソードは男性に多いとされます。発症年齢は10~30歳頃とされますが、幼児や高齢者でもかかることがあります。女性の場合の特徴としては、出産後に再発率が高いこと、産後うつ病を発症した症例で後にそう病相が出現することが多いことが明らかにされています。
双極症の診断は今までの経過を伺うとともに、兆候や症状をチェック、他の疾患との鑑別を行いながら進めます。先に挙げたように、双極症はその診断がなされるまで治療抵抗性うつ病、難治性うつ病として治療されていることも多く、初診時からの注意深い問診が必要です。
◇うまく病気と付き合うことが重要
双極症はその症状により衝動性や攻撃性の高さ、情動不安定性が強く、精神疾患の中では最も自殺率が高いとされています。適切な治療を早期から始めるためには早い段階でしっかりとした診断がつくことが大切です。
診断がついた後は薬物療法によりそう病エピソードの出現を抑制し、抑うつエピソードをできるだけ軽減するという治療が行われます。薬としては、基本的には気分安定薬が用いられることが多いですが、症状にあわせ非定型抗精神病薬や抗うつ剤が選択されることもあります。
双極症の特徴として、その症状により家族に影響が及ぶことが多く、またそう・軽そうエピソードについては本人にとっては病気の症状という自覚に乏しいことからも家族も含めて、関係者一丸となり治療を進めていくことが好ましいとされます。薬物療法だけではなく、心理教育も行うことにより、双極症がいかなる病気でどのような治療が必要か、どのように目標設定をして日々の生活を過ごしていくか、患者やその家族と治療者の中で共通の認識を持ち、理解を深めていくことが大切です。
再発率が高く、慢性の経過をたどることが多い病気ではありますが、病気を治そうと必死になるのではなく、うまく付き合っていこうという気持ちを持つことで、今までの生活を維持しながら普段通りの日常を過ごしている方も多くいらっしゃいます。信頼できるクリニック、主治医を見つけて自分らしく病気と向き合っていきましょう。(了)
松澤美愛医師
松澤美愛(まつざわ・みあ) 慶應義塾大学病院初期臨床研修後、同大学病院 精神・神経科に入局。精神科専門病院での外来・入院診療に加え、救急・総合病院でのリエゾン診療、障害者支援施設や企業でのメンタルヘルス対応など、幅広い医療現場を経験。個人と社会の変化に応じた「こころのケア」を実践。24年東京都港区虎ノ門に「神谷町カリスメンタルクリニック」を開院。精神疾患を抱える方が“自分らしさ”を取り戻すきっかけとなるよう、患者一人ひとりの背景に寄り添った診療を心掛けてている。
(2025/07/25 05:00)
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