北米

2026.01.17 18:00

トランプ政権、ミネソタ州の約474億円「給付金詐欺」問題で異例の行政措置発動

ミネソタ州のティム・ウォルズ知事(Photo by Alex Kormann/The Minnesota Star Tribune via Getty Images)

ミネソタ州のティム・ウォルズ知事(Photo by Alex Kormann/The Minnesota Star Tribune via Getty Images)

トランプ政権は、ソマリア系住民の関与が疑われる米ミネソタ州の給付金詐欺疑惑に対し、通常はテロ資金や国際麻薬組織の摘発に用いる強力な金融監視ツール「地理的ターゲティング命令(GTO)」の発動に踏み切った。

ターゲットとなったミネソタ州は、民主党の副大統領候補だったティム・ウォルズ知事の地元であり、全米最大規模のソマリア系移民コミュニティを抱える地域でもある。財務省は、子供や貧困層向けの公的資金数十億ドル(数千億円)、少なくとも3億ドル(約474億円。1ドル=158円換算)が不正に海外へ送金されたとみて、銀行に3000ドル(約47万円)という少額送金の報告まで義務付ける異例の措置を講じた。本稿では、単なる不正摘発にとどまらず、民主党州への政治的圧力や移民政策とも絡み合うトランプ政権の強硬姿勢と、金融機関に迫られる新たなコンプライアンス・リスクについて解説する。

トランプ政権が異例の行政措置を発動──FinCENの権限活用

トランプ政権は、ミネソタ州で浮上した政府給付金をめぐる不正疑惑への対応の一環として、通常はマネーロンダリング対策に用いられる行政措置の活用に踏み切った。

米連邦政府は、ミネソタ州で問題となっている政府給付金の不正受給をめぐり、対応を強化している。同州ミネアポリスとセントポールを今月訪問したスコット・ベッセント財務長官は、新たな捜査や監査の拡大に加え、銀行に取引データの追加報告を義務づける、これまでほとんど使われてこなかった行政措置を活用する方針を明らかにした。

財務省の金融犯罪取締ネットワーク局(FinCEN)は、「地理的ターゲティング命令(GTO)」と呼ばれる、時限的な命令を発出した。FinCENは、納税者が海外に保有する金融口座に関する報告を所管する機関として知られているが、連邦政府のマネーロンダリング対策全体を統括し、特定の地域で犯罪行為が行われていると判断した場合には、金融機関に追加の取引報告を義務づける権限を持つ。

ミネソタ州の銀行や送金業者に対し、約47万円以上の国際送金報告を義務付け

財務省は、ミネソタ州の送金サービス事業者に対する調査を進めるとともに、ヘネピン郡とラムジー郡の銀行および送金業者に対し、3000ドル(約47万円)以上の国際送金を対象とした報告を求める命令を発動した。 両郡内の銀行や送金業者は、2026年2月12日以降、特定の国外向け送金について、特に受取人が米国外に所在する場合に、追加の情報を収集し、当局に報告する義務を負うことになる。

この命令は、財務省が同時に打ち出した、州内に拠点を置く資金移動関連事業者への捜査や、内国歳入庁(IRS)による監査の強化、法執行機関向け研修の拡充、連邦の児童栄養プログラムに関連する詐欺について、銀行に注意を促す正式な警告の発出などを含む、広範な対策の一部だ。こうした動きは、給付金詐欺に対する連邦政府の姿勢が大幅に厳格化していることに加え、トランプ政権が、従来の用途を超えてGTOを活用する意思を示していることを浮き彫りにしている。

GTOは、犯罪対策においてFinCENが持つ手段の中でも、特に柔軟性の高いツールの1つだ。財務省は、銀行秘密法(BSA)に基づき、特定の地域で違法行為が行われていると判断した場合、その地域に限って、金融機関に追加の取引報告を一時的に義務づけることができる。

近年では、GTOは不動産取引に関連したマネーロンダリング事案の調査や、米国南部の国境周辺の資金の流れを把握するためにも使われてきた。この命令は、恒久的な規制とは異なる短期間の措置であり、通常の有効期間は180日間とされている。ただし更新は可能で、国境地帯を対象としたものについては、内容を修正したうえで延長された例もある。また、対象は特定の郡や都市、そして特定の種類の取引に限定される。こうした点からGTOは、長期にわたる規則制定プロセスを経ずに迅速な成果を求める政策担当者にとって、使い勝手のよいツールとなっている。

とはいえ、実際の運用は控えめで、2020年から2024年までの5年間で、財務省が発出したGTOは年平均で約2件にとどまり、2025年も3件にすぎなかった。

ミネソタ州では、新たなGTO命令により、ヘネピン郡とラムジー郡の銀行および送金業者に対し、3000ドル(約47万円)以上の特定の国外向け国際送金について、追加の情報を報告することが義務づけられた。財務省は、この措置の目的は単純だとしており、「資金が米国を離れた後の行方を追跡することにある」としている。

次ページ > 数千億円規模の不正流出疑惑、米財務省は公的資金が海外で不正利用されたとの見解

翻訳=上田裕資

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2026.01.14 15:00

「ICE廃止」望む米国人が急増、半数に迫る 第2次トランプ政権発足以来の劇的な変化

米ミネソタ州ミネアポリスで移民・税関捜査局(ICE)の職員に射殺された米国人女性レニー・ニコル・グッドさんを追悼し、英ロンドン在住の米国人らが米国大使館前で灯したろうそく。2026年1月12日撮影(Lab Ky Mo/SOPA Images/LightRocket via Getty Images)

米ミネソタ州ミネアポリスで移民・税関捜査局(ICE)の職員に射殺された米国人女性レニー・ニコル・グッドさんを追悼し、英ロンドン在住の米国人らが米国大使館前で灯したろうそく。2026年1月12日撮影(Lab Ky Mo/SOPA Images/LightRocket via Getty Images)

米国で、移民・税関捜査局(ICE)の廃止を支持する人が増えている。ミネソタ州ミネアポリスで米国人女性がICE職員に撃たれて死亡した事件を受けて、同局に対する抗議や非難の声が広がる中、最新の世論調査結果は昨夏の調査から一変。第2次トランプ政権発足以来の大きな変化が米国社会に起きている。

経済誌エコノミストと調査会社YouGov(ユーガブ)が1月9~12日に実施した世論調査(13日公表)では、「ICEの廃止を支持する」と答えた人が46%に上った。「支持しない」は43%、「わからない」が12%だった。

昨年7月の調査時点でICE廃止を支持していた人は27%だったことからみても、今回の結果は世論の大きな変化を表している。

ICE廃止を求める運動は2018年に始まった。1年後の2019年にエコノミストとYouGovが行った世論調査では、ICEの移民取り締まり方針は不評だったものの、ICEそのものを廃止すべきだとの回答は32%にとどまった。

オンライン世論調査会社のCiviqs(シビックス)によれば、ドナルド・トランプ大統領の2期目就任以降、ICE廃止を支持する人は増加傾向にある。政権発足前のCiviqs調査でICE廃止への支持は25%だったが、今月7日にミネアポリスでレニー・グッドさんがICE職員に射殺された事件後には42%に上昇した。グッドさんの死をめぐっては全国的な抗議デモが起こっており、連邦議会でも関心が高まっている。

事件後に実施された別のYouGov調査でも、これらの最新世論調査結果と類似した傾向が明らかになっている。この調査では52%がICEの活動を不適切と評価し、51%がICE職員の対応について「過度に強硬」だと答えた。

連邦議会では、ミシガン州選出のシュリ・タネダル下院議員(民主党)が「ICE廃止法案」の提出を表明した一方、廃止ではなく改革を模索する動きもある。カリフォルニア州選出のスコット・ピーターズ下院議員(同)は「過剰で不必要な武力行使を抑制する」法案を提出。イリノイ州選出のデリア・ラミレス下院議員(同)は、ICEの予算停止を求めている。

マサチューセッツ州選出のジム・マクガバン下院議員(同)は「米議会で最初にICE廃止を訴えた議員は私だ」とX(旧ツイッター)に投稿。「私の直感は正しかったようだ」と述べた。

ミネアポリスでの事件を受け、週末にかけて全米各地で抗議デモが相次いだ。進歩的な草の根運動「インディビジブル」によれば、グッドさんの名に掛けて「ICE Out For Good Weekend of Action(ICEを永遠に追い出す週末アクション)」と銘打った抗議集会が1000カ所以上で開催されたとみられる。連携した抗議活動は全米で勢いを増しており、ミネアポリスでは数千人がICEに抗議するデモ行進をした。

forbes.com原文

翻訳・編集=荻原藤緒

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