完全週休2日、校務分掌を大幅削減…「子ども主体の学び」実現の両輪で必要だった"本気の働き方改革"《カリキュラムで勝負する横浜創英》の現在地

2026/01/18 6:00
横浜創英中学・高等学校の校舎
神奈川県横浜市にある横浜創英中学・高等学校(写真:筆者提供)
目次

2024年4月、横浜創英中学・高等学校(以下、横浜創英)の校長に就任したばかりの本間朋弘氏は、最初の職員会議で次のように宣言している。

「これで“ネームバリューのある校長”がいる学校ではなくなった。ここからはカリキュラムで勝負する学校としてスタートしていく」

“ネームバリューのある校長”とは、本間氏の前任で、24年3月に退任した工藤勇一氏を指している。工藤氏は、千代田区立麹町中学校の校長時代に「学校の『当たり前』をやめた」を実践して、全国的に有名になった。その工藤氏が横浜創英の校長に就任したのは、20年4月のことである。

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横浜創英はダメになるかもしれない…

就任前後の横浜創英について工藤氏は、「(生徒の)9割が県立高校を落ちた子でした。それが今は、半分くらいが第一志望に変わりました。さらに劇的に変わったのは中学。80人の定員に満たない状況でしたが、今年度は4クラス140人の募集に対し、5回の入試で計914人が受験。受験者層がまったく変わりました」(『朝日新聞EduA』23年4月28日付)と語っている。

この激変は、麹町中での改革を実行した工藤氏の手腕に期待する生徒や保護者が多かったから起きたのだろう。その工藤氏が突然、横浜創英を去った。大きな動揺が学校内外に走った。「ネームバリューのある校長」を失って横浜創英はダメになるかもしれない、と不安に包まれた。

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【以前は「大学合格者数」に人一倍こだわっていた】

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工藤氏の後に就任した本間氏にとっても危機だったのだが、それを救ったのが保護者たちのLINEのグループだったという。そこでは、「横浜創英の改革を実質的にやってきたのは本間さんだから、工藤さんがいなくなっても大丈夫だ」という声が飛び交った。それで校内の動揺は収まっていく。

本間朋弘 横浜創英中学・高等学校 校長
本間朋弘(ほんま ともひろ)横浜創英中学・高等学校 校長 (写真:筆者撮影)

生徒募集についても、横浜創英の26年度の募集が25年中に推薦でほぼ埋まってしまっていることからも、すでに動揺は鎮まっていることがわかる。

公立高校が第一志望で、いわゆる“滑り止め”の学校は「併願校」と呼ばれる。かつて併願校だった横浜創英は、工藤氏が校長になってしばらくして併願校ではなくなり、第一志望で合格すれば必ず入学する単願だけの選抜になった。それでも、同校は今も人気校である。

一般的に名門といえば、「進学校」とイコールだと解釈される傾向が強い。有名大学への合格者が多いほど高く評価されるので、学校はそのための体制を整えて、結果をアピールしたがる。

「進学実績を聞かれることもありますが、『それなりです』と答えています。進学体制について学校説明会でもふれないし、学校案内にも載せていません。重視していないからです」と、本間氏は言う。

校長になって最初の職員会議で「カリキュラムで勝負」すると本間氏は宣言したものの、それは大学合格率を上げるためのカリキュラムではない。それでも横浜創英の人気は依然として高いのだ。

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以前は「大学合格者数」に人一倍こだわっていた

しかし、12年に横浜創英に異動してきたころの本間氏は、逆に大学合格者数には人一倍こだわっていた。横浜創英に移ってくる直前の本間氏は、9年間にわたって神奈川県内の公立高校を名うての進学校に育てあげている。その手法を、そのまま横浜創英に持ち込んだ。

「嫌らしいことをやっていました。希望制だった模試を全員が受ける体制にし、面談も生活指導中心だったのを進路指導中心に変えさせ、夏期講習もいい加減だったから変えさせ、公立でやった進学体制に変えようとしていました。そのときの脅し文句が『潰れるよ』でした」と、本間氏は言った。

神奈川県でも中学の卒業生はどんどん減る傾向にあり、入学希望者を集める策をとらなければ閉校に追い込まれる高校がでることが予測される中で、併願校だった横浜創英は危ないところに立たされていた。

生き残り策として進学体制を整え、有名大学への合格実績を上げることが生き残る道だと、当時の本間氏は考えていたのだ。すでに実績もあったので、自信もある。

ただ、そういうやり方に、横浜創英の教員も生徒も慣れていないこともあってなかなか本間氏が考えるような体制は整わなかった。

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【6000字におよぶ「働き方改革プラン」の中身】

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そんなときに工藤氏が校長として赴任してくるのだが、ちょうどコロナ禍での一斉休校とぶつかる。

20年2月27日、当時の安倍晋三首相が突然、コロナ対策として全国の学校に一斉休校を求めた。それは3月から始まり、休校期間は長いところで約3カ月にもおよんだ。

「工藤さんが言ったのは、最大の目標である命を守るためにオンライン授業に移行することでした。それで、授業を普通にまわしました。教員の命も守るために、教員の出勤も止めました」

生徒の登校は制限しても、教員の出勤まで止めた学校は珍しかったはずである。命という点では生徒も教員も同じで、生徒は休みにして教員だけ出勤させることのほうがおかしい。

「自宅でのオンライン授業で生活にゆとりができることが、どれだけ家族にとっても自分にとっても幸せなのか、そのとき教員も気づいたはずです」と、本間氏。

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6000字におよぶ「働き方改革プラン」の中身

ここから、横浜創英の働き方改革が始まる。21年6月に本間氏は、教職員に向けて6000字におよぶ「働き方改革プラン」を示す。その冒頭には次のように書かれていた。

「業務体制、勤務時間や職場環境、そして学校が本来果たすべき役割を総点検し、前例や慣習を臆することなく打破し、教職員が働きがいと生きがいの両方をもって職務に取り組むことができるよう、労働環境を抜本的に改革することを目的とする」

もっとも大きな働き方改革は、「完全週休2日制を整えるためのシフト制」の導入だった。月曜日と日曜日が休み、水曜日と日曜日が休み、木曜日と日曜日が休み、土曜日と日曜日が休みの4シフト制に変えたのだ。

全教員が、平日に必ず1日は休む体制である。そのため土曜日の午後は勤務日とした。土曜日の午後に部活動指導をしても、それは勤務時間内の仕事になる。それで月曜日と日曜日を休みにすれば、週休2日を確保できるのだ。

火曜日と金曜日は全員出勤日として、この日に全員での会議はやるようにした。ただしムダな会議は省き、必要な会議も短時間で終わるようにした。そのために、資料を読みあげるようなムダな進行は許されず、提案や意見も他者に結論を委ねるのではなくて骨子を明確にして示さなければならないようにした。

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【高校1年生で多くの必履修科目を終える理由】

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そうしたルールを決めることで、1回の職員会議は15分以内に終わり、従来と比べると「年間100時間くらいの時間短縮になっているはずです」(本間氏)という。それだけ教員の時間には余裕が生まれる。

また教員の多忙化を生みだす元凶として問題にされているのが、教員が分担して行っている学校内の仕事や役割である校務分掌である。それも大幅に削減した。

「伝統・慣習だけで意味のない分掌が多すぎたし、くだらない校内の委員会もありました。そういうものは大胆に切っていくしかありません。コロナ禍を経験したことで、教員も余裕が必要なことを理解できていたので、大胆に整理することができました」と、本間氏。

分掌は大幅に再編され、17あった委員会の大半も廃止された。出欠や成績などの管理にICTを活用するなどして、業務改善も大幅に進んだ。教員の仕事は大幅に減り、余裕が生まれることになった。

教員の時間に余裕を生みだすためには、働き方改革だけでは不十分である。カリキュラムにも手をつけなければ、教員の働き方は改善できない。

そしてカリキュラム改革は、生徒の学び方とともに、生徒の学びを支援する教員の働き方も変えてこそ意味がある。その改革を本間氏は、プロジェクトチームをつくって進めることにした。22年ごろのことだった。

進学実績に熱心だった本間氏がカリキュラム改革に着手したといえば、本格的な進学校にするための改革なのか、と考えてしまう。実際はそうではなく、教員主体だった授業から「子ども主体の学び」に変えるための改革だった。本間氏の“変身”といえるのだが、その理由を次のように説明する。

「社会に出た教え子たちと会うと、彼らが社会を楽しんでいない。未来を語るよりも、現在の苦悩を語ることが多い。その姿を見た時に、自分の教え子たちが社会でどう過ごしているのか、社会で活躍しているのか、そうしたことに無関心であった自分をふりかえって反省しました。学校のもっとも大切な役割は、社会を生き抜く力を育てることにあります。これからの学校は、社会で活躍する準備の場所に変わっていかなくてはならないと考えました」

そこから導いた答えが、「学びを生徒主体に移譲し、実学的な学びで生徒と社会をつなげる」という横浜創英の最上位目標であり、それを実現するためのカリキュラム改革だったのだ。学習指導要領でも「主体的・対話的で深い学び」が謳われているけれど、多くの学校で「主体的」は絵に描いた餅になっているのが現実である。

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高校1年生で多くの必履修科目を終える理由

横浜創英では約2年間の検討を経て、25年度に入学した生徒から、改革カリキュラムが本格的に実施されている。大きな改革点は3学期制から2学期制にして時間を確保し、自由選択の幅を広げたことにある。

高校で修得しなければならない単位科目には必履修と自由選択があるが、横浜創英では1年生の段階で多くの必履修科目を終え、2年生からは自由選択の科目が増え、3年生ではほとんどの時間が自由選択科目になる。自由選択なので、どの科目を選ぶかは生徒の判断に委ねられるので、「主体」を実現することになる。

「今までの学校は生徒に好きなものを諦めさせて、やりたくない嫌いなものを押しつけるカリキュラムでした」と、本間氏。学年が進むほど自由選択の幅が広がって時間割が生徒一人ひとりで違ってくるので、本間氏に言わせれば「1200人の生徒がいれば1200通りの時間割」となる。

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【次は中学のカリキュラム改革】

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関心のある科目を選択できるようになったことで、自分の将来に向けたキャリア形成に早い段階から取り組むことができるようになるわけだ。大学入試で人物を評価する総合型選抜の比重が増してきている中では、入試にも効果的なカリキュラムになる可能性もある。

もちろん大学入試のためのカリキュラムではないので、「大学に進むかどうか別にして、映画づくりに興味のある生徒は、それに関する自由選択科目を選んで、将来は映画界入りするために役立てればいいわけです」と、本間氏は言う。

ただ、自由選択科目の幅が広がると、そのための授業準備に追われて教員は忙しくなり、余白どころではなくなってしまうのではないかと考えてしまう。それに対して本間氏は、「授業準備は必要ありません」と言って笑った。授業準備をせずに教員が楽になるという意味ではなく、教員の役割が変わるのだ。

「探究型、生徒主体の授業のため教員は寄り添うだけ。授業を主導しないので準備をする必要もありません。今までの学校は一斉授業による知識の伝達に追われすぎていたので授業準備が必要でしたが、AIも利用しながら生徒は自主的に学んでいくので、それを教員は後ろから支えていけばいいのです」と、本間氏。生徒主体の授業スタイルは自由選択科目だけでなく、必履修科目でも同じである。そして、中学でも行われている。

これらの働き方改革によって横浜創英では、労働基準法で定められている時間外労働(残業)の上限である「月45時間、1年360時間」を超える教員はいないという。これは給特法による公立学校教員の時間外労働の上限ガイドラインでもあるが、これを超えている公立中学校教員は8割近くにもなっているのが現状でもある。

それでも、学びを生徒主導に移譲することは、教員が授業を主導する従来のやり方に慣れてきた教員には難しい。にもかかわらず横浜創英で実現できたのは、働き方改革を通じて教員が自分の時間に余白をつくることの重要性に気づくことができたからである。

これまでの一斉授業では、教員が先頭で引っ張るのでかなりの授業準備も必要だが、生徒主導の授業では教員は後ろから生徒を見守り、進む方向を修正したりなど支援するという従来とは違う役割になるので授業準備に追われることもない。もちろん、教員が楽になるということではなく、そこでは教員の能力が問われてくるに違いない。本間氏も、「働き方改革を先にやっていたからこそ、カリキュラム改革ができたのです」と言った。

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次は中学のカリキュラム改革

ここまで説明してきたのは、高校におけるカリキュラム改革である。高校と違って標準授業時数を学習指導要領で決められているため、中学では難しい。中学について訊ねると、本間氏は次のように答えた。

「次の学習指導要領で検討されている『調整授業時数制度』では、標準授業時数の範囲内で一定割合を柔軟に運用できるようになります。この制度によって、これまで小規模な改編にとどまってきた中学校の教育課程についても、『高次な資質・能力』を育成するための大胆なカリキュラム編成が可能となります。高校でのカリキュラム改革を先行してきた経験を活かして、次は中学校でも子どもたちの学びと社会をつなげるカリキュラム・マネジメントを構築していきたいと考えています」

働き方改革とカリキュラム改革は、待っているだけでは実現できないことを横浜創英は教えているようだ。そして、「カリキュラムで勝負」する横浜創英は、先駆的な存在でありつづけるのかもしれない。

東洋経済education×ICTでは、小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。
前屋 毅 フリージャーナリスト

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まえや つよし / Tsuyoshi Maeya

1954年、鹿児島県生まれ。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。著書に『学校が合わない子どもたち』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』(朝日新聞社)、『ほんとうの教育をとりもどす 生きる力をはぐくむ授業への挑戦』(共栄書房)、『ブラック化する学校 少子化なのに、なぜ先生は忙しくなったのか?』(青春出版社)、『教師をやめる 14人の語りから見える学校のリアル』(学事出版)など。

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