「人事を数学する」の続き①です。
評価の現場では主観的評価が良い(かもしれない)時もあり、インセンティブが経営に悪影響を及ぼすケースもありますのでそれを解説します。
長いので同じ資料で2回に分けて話します。
●主観的評価が良いかもしれないケース
仮に販売活動とクレーム活動に注がれる努力をそれぞれ測る2つの評価指標が利用可能であった場合、前項のミスアラインメントは無くなると期待されるかもしれませんがそうではありません。
例えば、 2 つの評価指標を想定してみます。
Ps=ts+η1 , P2=Tc+η2
販売成績は例えば目標売上達成率によって評価し、クレーム処理に関する成績は報告されたクレームごとに顧客に処理後の満足度を尋ねるメールアンケートを行い、その結果に基づき評価しているとします。
これらの業績評価指標は従業員本人のコントロールの及ばない様々要因によって定まることは明らかです。そうした不確定要素を表す η1 , η2 はお互いに独立な確率変数でありますので、その分散を σs^2 , σc^2 とおきます。
この時、やはり w=α+β1p1+β2p2 という線形の契約を前提に、最適なインセンティブ強度β1*およびβ2*を求めると、それぞれ β1*= Bs/(1+rσs ^2) , β2*= Bc/(1+rσc ^2) と表せます。
この時、仮に Bs=Bc であったとしても、クレーム処理後のアンケート調査の不確実性σc^2の方が販売業績のそれσs^2よりも大きいとすると、β2*はβ1*に比べ低く設定され、販売業績の方により大きなウエイトを置くことになります。
したがって、2 つの評価指標が存在する場合でも、2 つの業務の間の努力配分が望ましい比率よりも大きく乖離する可能性は排除できません。
マルチタスク問題が深刻となり客観的評価指標が望ましいインセンティブを与えることが困難になる場合には、主観的評価を使うことが効果的であるかもしれません。何故なら、上司が部下の行動をモニターすることによって、その人が組織にとって望ましい行動をとっているか直接評価することが可能となるため、従業員本人のコントロールの及ばない様々要因によって生じる不確実性を排除できるからです。ただしその場合、評価者には正しく評価する十分なインセンティブが与えられている必要があります。
販売のための努力とクレーム処理のための努力の間に補完的あるいは代替的な関係がある場合、インセンティブ強度の設定には更なる注意が必要です。販売のための努力水準を高めることが、クレーム処理のための限界費用を低下させる時、両者の間には補完性があると言います。
例えば、販売活動に注力することで、顧客とのコミュニケーションが改善したり、顧客のニーズをより正しく理解することが出来るようになるかもしれません。それは、クレームの適切な処理を容易にし、顧客満足を得るために必要な従業員の時間を下げる方向で働く形になるからです。こうした補完性は、両方の評価指標の強度β1*およびβ2*を押し上げる方向で働きます。
逆に、販売活動に注力すればするほど、クレーム処理に割く時間がなくなり、その効果的解決が難しくなる場合も考えられます。その場合は、クレーム処理に十分な時間を充てるインセンティブを作り出すため、販売活動に対するインセンティブ強度β1*が大きく押し下げられる場合もあります。
2つ活動の努力の間には代替性があるため、その場合は固定給 (β1*=β2*=0) が望ましいと考えられます。