繋ぎの第15回です
「世の中の全てのことは数学で説明がつく」とは北野武氏の言葉です。せっかくですので評価・賃金制度を数学してみます。基本的に大体のことは数式に表すことが可能と私も思っています。
人事はあまり数学を使わない職種であり、特に採用・労務・育成では数学がほぼ必要ないです。また、人事管理職であっても、KGIやKPIの設計や、PLを組む時に四則演算(足し算・引き算・掛け算・割り算)は使いますが「人事とは小学生レベルの算数(算術)ができれば十分な仕事」と言えます。
但し、人事制度設計は別です。評価・賃金制度を作る際には複数の指標を整理し、ロジカルに調理する必要があるので数学は必須です。また、自分で作った制度を(後付けであったとしても)数式でイメージして他者に説明することで相手の納得感を増進することもできます。
そのため人事企画職など人事制度設計で食っていこうと思うのであれば、最低でも大学入学共通テスト(旧センター試験)で6~7割の数学力があった方が良いと思います。
私は私以外に数学の視点を持っている人事制度設計屋に出会ったことがないので、身に付けておくと市場価値が上がると思います(人事職や人事コンサルもそうですが、最低限の数学を修めていない私大文系が数多くいるので高校レベルの数学を活用するだけでも色々な企画立案等の差別化に繋がります。人事だけに限りませんが)。
添付の資料は「営業職の賃金制度」の一例です。ポイントは3 つです。
まず、企業価値と評価指標のズレθが大きければ大きいほど、cosθは低下し、最適契約のインセンティブ強度は弱まります。つまり報酬の評価指標に対する感応度β*が下がります。これは、θが大きくなるほど、努力配分の歪みのコストが大きくなるので、インセンティブを弱めて効率的努力配分比率からの乖離が大きくなり過ぎないよう調整する必要が出てくるからです。極端な場合、θ=90°であれば、固定給が最適であり、評価指標は役に立ちません。但し、90°<θ< 270°であれば、評価指標は「望ましくない行動を測っている」ことになり、インセンティブ強度β*はマイナスとなり、企業価値を下げる行動が罰されます。
次に、評価指標の不確実性「σ2η1」が大きくなればなるほど、最適契約のインセンティブ強度は弱まります。これはリスク回避型の従業員にとって不確実性の増大は収入の変動上昇を通じて効用の低下をもたらしますので、それを部分的に相殺するため、評価指標と報酬の結びつきを弱める必要が出てくるからです。
最後に、最適契約は、企業価値と評価指標の間の社員努力を条件とする条件付相関Corr(V , p|ts , tc)= Corr(ε , η)に全く依存しません。これは、企業目標と評価指標の間に観察上大きな相関が見られたとしても、それは評価指標の有効性を示す証拠とは必ずしも言えないことを示しています。見掛け上の相関はεとηの間の相関から来ている可能性があり、実際のズレを決定するパラメーターである(Bs , Bc)と(gs , gc)の間には大きな開きがあるかもしれないからです。例えば、顧客満足度とその顧客への売上の間に高い正の相関があるということは、必ずしも顧客満足度が報酬制度で使用する評価指標として適切であることを意味しません。顧客満足度を効果的に押し上げる行動と、売上を高める行動は全く異なるかもしれないからです。
続きはいずれ。