映画

2025.11.30 14:15

クマとヒトの関係に重ねられる”女の闘い”|「リメインズ 美しき勇者(つわもの)たち」「デンデラ」

seread / Adobe Stock

アクション俳優として有名な千葉真一の初監督作品で、マタギたちをジャパンアクションクラブ(JAC)の俳優らが演じる本作は、ホラーやパニック映画というよりまさに「アクション映画」である。マタギ装束で銃を背負い槍を持った男たちが、雪山を駆け、滑り降り、ジャンプする、その躍動的な姿が、まるで忍者映画かスパイアクションもののようにカッコ良く撮られている。終盤、鋭治とユキがアカマダラを迎える場面においても、二人が背中合わせになり銃を構えながらキメのポーズを次々変えていくさまは、ほとんどアクションの様式美と言っていい。

どこから見てもサマになる真田広之やマタギの頭を演じるシブい夏八木勲も良いが、真田と同じくJACの村松美香のキビキビした動きが魅力的だ。山中に姿を消した彼女が突然ターザンのように蔓にぶら下がって画面を横切るシーンは、いささかやり過ぎで笑ってしまうが、ともかくアクション俳優を活かそうという監督の心意気は伝わってくる。

肝心のクマは、二重の防弾ガラス越しに撮られたという迫力ある実写シーンが数多くあるものの、最後の死闘では明らかに作り物とわかる状態で、当時の技術力の限界が感じられる。ただ、そこまでに至るクマ襲来の描写には工夫が凝らされており、凄惨極まる被害の有り様と相まって恐怖を掻き立てる。

特に、祭りの日の村のよろず屋の場面。愛想良く出てきて一旦奥に引っ込んだおかみが、なかなか戻って来ないと思っているうちに、障子にパッと血飛沫が飛び、そこから血まみれの女の腕が突き出されるシークエンスが秀逸だ。

立ち向かう男は一撃で殺してその場に残し、瀕死の女を咥えて山奥に去るアカマダラ。その跡には髪の毛束や引き裂かれた着物が点々と残され、遺体(remains)は食い荒らされて回収できる状態ではない。

しかし、アカマダラはなぜ女だけを狙うのか。この答えはドラマの中では描かれていないが、ヒントとなるシーンがある。銅山の試験堀りで仕掛けられたダイナマイトが爆発し、動物たちが逃げ惑う場面と、警察と県会議員がやってきて「密猟者」がいたと村人たちを難詰し、この地からの立ち退きを命じる場面だ。県会議員が銅山開発を推し進める側であることは言うまでもない。

マタギたちは生計を立てるための狩猟は行っても、無闇に殺生をするわけではない。アカマダラも、人的被害が出て狩りの対象にしている。しかし1910年代、北国の山にも資源開発の手が伸びてきたことが、山神様の怒りに触れたのではないか。銅山ができれば鉱夫の飯場が生まれ、そこに女たちが入ってくることは必定だ。つまり嫉妬深い女性神である山神様の怒りがアカマダラに乗り移り、麓の集落の女性たちが狙われたと見ることもできる。

ユキは髪を切りマタギに扮して山に籠ることでわざわざこのタブーを破りに行ったので、最後はアカマダラ=山神様と闘うことになった。表向きは自然と人間の対立として描かれる物語に、あたかも「女と女の闘い」が埋め込まれているかのようだ。

次ページ > 姥捨山の老婆たちにクマが迫る『デンデラ』

文=大野左紀子

ForbesBrandVoice

| あなたにおすすめの記事

人気記事

映画

2025.11.26 18:30

ネトフリ『トレイン・ドリームズ』はオスカー候補有力作、ロッテントマトで批評家スコア95%

『トレイン・ドリームズ』(Train Dreams)(C)ネットフリックス

『トレイン・ドリームズ』(Train Dreams)(C)ネットフリックス

ネットフリックスがオリジナルの番組や映画を大量に投入し、当たりを狙って「ショットガン」のように撃ちまくっていることを、筆者はしばしば手厳しく批判してきた。しかし現在、同社が配信しているオリジナル長編映画が、映画評論サイトのロッテントマト(Rotten Tomatoes)で156件を超えるレビューを集め95%のスコアを獲得し、まさに今年最高得点の作品の1つとなっている。

その映画とは『トレイン・ドリームズ』(Train Dreams)だ。普段は助演に回ることの多いジョエル・エドガートンが主演を務める。デニス・ジョンソンの2012年の中編小説を原作とし、今回これが見事な映画に仕上げられた。以下は概要である。

『トレイン・ドリームズ』は、20世紀初頭のアメリカという未曾有の変化の時代に生きたロバート・グレイニア(ゴールデングローブ賞ノミネートのジョエル・エドガートン)の、心揺さぶる人物像を描く。幼くして孤児となったロバートは、太平洋岸北西部のそびえ立つ森林の中で大人へと成長し、そこに暮らす風景と同じくらい忘れがたい男たちと肩を並べ、国の鉄道帝国の拡張に従事する。やがて慎ましい求愛を経て、彼はグラディス(アカデミー賞ノミネートのフェリシティ・ジョーンズ)と結婚し、2人は家庭を築くが、仕事のため彼はしばしば妻と幼い娘のもとを離れねばならない。彼の人生が思いがけない方向に転じるとき、ロバートは自らが倒してきた森と木々に、美しさ、残酷さ、そして新たな意味を見いだす。

おっと、フェリシティ・ジョーンズも出演していたな、気付いていなかった。思い出してほしいが、彼女のオスカー2度のノミネートは『博士と彼女のセオリー』(The Theory of Everything)の主演女優賞と『ザ・ブルータリスト』(Brutalist)の助演女優賞である。彼女はまた、新時代の『スター・ウォーズ』(Star Wars)作品でもおそらく最高の出来とされる『ローグ・ワン』(Rogue One)の主演でもあった。

一方のエドガートンは、『ザ・ギフト』(The Gift)から『ブラック・スキャンダル』(Black Mass)、『華麗なるギャツビー』(The Great Gatsby)、『ゼロ・ダーク・サーティ』(Zero Dark Thirty)まで、いくつもの作品で見覚えがあるはずだ。彼は『スター・ウォーズ』にも出演しており、前日譚三部作で若きオーウェン・ラーズを演じ、その役をドラマ『オビ=ワン・ケノービ』(Obi-Wan Kenobi)でも再演した。私が彼を最初に見たのは、たしか2011年のMMA映画『ウォーリアー』(Warrior)だったと思う。

『トレイン・ドリームズ』(Train Dreams)は現在、ネットフリックスのトップ10で第5位に位置し、6月初旬から同リストに居座っている『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』(KPop Demon Hunters)を追い抜いた。批評家の評価がここまで高いことを踏まえると、作品そのものに加え、エドガートンやジョーンズがオスカー争いに絡む可能性も十分にあるといえるだろう。明白な有力候補とされる『ワン・バトル・アフター・アナザー』(One Battle After Another)(94%)、『罪人たち(Sinners)』(97%)、『ハムネット』(Hamnet)(88%)、『ブゴニア』(Bugonia)(87%)などのスコアは、同等かそれ以下だ。ネットフリックス作品であることも、初期ほど不利にはならないかもしれない。

同社はこれまでにオスカーで通算73件のノミネーションを得ており、昨年の『エミリア・ペレス』(Emilia Perez)だけで13部門にノミネートされた。配信プラットフォームが作品賞を制した前例もあり、2021年にはApple TVの『コーダ あいのうた』(CODA)が受賞している。

というわけで、『トレイン・ドリームズ』は見逃せない1本のようだ。上映時間は1時間43分しかない。今すぐチェックする価値がある作品だ。

forbes.com 原文

翻訳=酒匂寛

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

| あなたにおすすめの記事

人気記事

映画

2025.11.25 17:30

映画『ウィキッド』続編が北米で公開、オープニング興収は約235億円で前作上回る

Loredana Sangiuliano/Anadolu via Getty Images

Loredana Sangiuliano/Anadolu via Getty Images

ハリウッド業界紙の早期推計によれば、先日北米で公開された映画『ウィキッド 永遠の約束』がオープニング初週を席巻し、その興行収入は推計1億5000万ドル(約235億円)に達した。これにより、同作は2025年で2番目に大きいオープニング興行収入をあげた作品となった。

2024年に公開された映画『ウィキッド ふたりの魔女』の続編である本作では、ハリウッドの重鎮ジョン・チュウが再び監督を務めた。ブロードウェイの人気ミュージカルを原作とした本作は、グリンダ役のアリアナ・グランデ、エルファバ役のシンシア・エリヴォが前作に引き続き出演している。

『ウィキッド 永遠の約束』は前作のオープニング興行収入記録である約1億1250万ドル(約176億円)を上回った。同作は海外興行でも成功(7600万ドル)し、その記録を含めた興行収入は2億2600万ドル(約354億円)に到達した。

しかし、この数字をもってしても、2025年の首位に立つ『マインクラフト/ザ・ムービー』から首位の座を奪うことはできなかった。同作は巨大な人気を誇るビデオゲームの実写化であり、4月の公開時には米国で1億6200万ドル(約254億円)以上を稼ぎ、その後の世界興行収入は最終的に9億5000万ドル(約1490億円)以上となった。

一方、『ウィキッド 永遠の約束』に対する批評家からの評価は、前作より低い。Metacriticの批評家スコアは、前作の73に対し、今作は58にとどまった。

しかし、同作品は観客の心には響いているようだ。上映後の調査に基づくCinemaScoreはA評価を獲得し、Rotten Tomatoesでも観客評価95%を得ている。

『ウィキッド 永遠の約束』は、年末に公開される複数の大型話題作の先陣を切る存在であり、低調だった今年の興行に待望のヒットをもたらす可能性がある。アナリストたちは、ジェームズ・キャメロンの『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』など、11月と12月に公開予定の作品群が、歴史的に不振だった10月の後に売り上げを押し上げると予想している。

次ページ > 公開初日の興行収入は約6860万ドル(約108億円)

翻訳=江津拓哉

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事