プログラミングが好きな人は、もうIT業界に来るな。
「プログラミングが好きなんです。だからITエンジニアになりたいんです」
もし今、かつての私のような若者が目を輝かせてそう言ってきたら、私は静かに首を横に振るだろう。
「コードを書くのが好きなら、趣味にしておきなさい。仕事にするのは、もうやめたほうがいい」
これは、小学生の頃から黒い画面に向かい続け、コードで世界を変えられると信じていた一人のエンジニアからの、少し残酷で、でも正直な思いだ。
コミュ障たちの「最後の楽園」は失われた
誤解を恐れずに言おう。LLMが登場する以前、IT業界は私たちのようなコミュ障にとって「楽園」だった。
もちろん、「プログラマーにもコミュニケーション能力は必要だ」という説教は当時からあった。しかし、それは営業職や接客業に求められるものとは、明らかに質が違った。
饒舌である必要はない。気の利いたお世辞もいらない。論理的に仕様を詰め、正確なコードを書くことさえできれば、多少無愛想でも「職人」として尊重された。
私はその空気が大好きだった。人間関係が苦手でも、キーボードを叩いている間だけは自由だった。「プログラミングが好き」という、ただそれだけの理由でこの世界に飛び込んだ。
自分の指先から生まれるロジックが、動かなかったものを動かす。言葉を交わさずとも、圧倒的な技術力だけで周囲を「あっ」と言わせる。
それが私にとってのコミュニケーションであり、誇りだった。「得意なことでお金が稼げるなんて、最高じゃないか」本気でそう思っていた時代が、確かにあったのだ。
生成AIという「黒船」が奪ったもの
しかし、ChatGPTをはじめとする生成AIの登場ですべてが変わってしまった。この変化は、単なる「便利なツールの登場」ではない。私たちプログラミング愛好家のアイデンティティを根底から揺るがす「地殻変動」だ。
今の私の仕事を見てほしい。一日中エディタに向かってコードをガリガリ書く時間は激減した。今の主な役割は、「AIが吐き出したコードの検品係」だ。
AIが数分で生成した80点のコードを読み、バグがないか、セキュリティホールがないかを確認する。それはまるで、自分が書きたかった小説をAIに書かせ、その誤字脱字を直す校正者のような気分だ。そこに「創造する喜び」はない。
さらに残酷なのは、「プログラミング能力」の価値暴落だ。
先日、現場でこんなことがあった。プログラミング未経験の業務担当者が、ChatGPTを使って簡単なツールを自作し、業務を自動化してしまったのだ。
以前なら、彼らは私のところへ来て「これを作ってほしい」と頼んできたはずだ。私はそれを魔法のように解決して見せ、感謝されたはずだ。しかし今、現場のドメイン知識(業務知識)を持つ彼らが、AIという「最強の手足」を手に入れてしまった。
間に私のような「通訳」はもう要らない。これはビジネスとして見れば極めて自然で、効率的な進化だ。この流れは不可逆だろう。
だが、プログラマーとしての私は、心の中で何かが音を立てて崩れるのを感じた。
「書く力」よりも「話す力」の時代へ
コードを書く時間が減った代わりに増えたのは、何か。
それは「高度なコミュニケーション」だ。
要件定義、業務整理、ステークホルダーとの調整。AIがコードを書けるようになった分、ITエンジニアには「何を作るべきか」「なぜ作るのか」を言語化し、整理する能力が求められるようになった。
最近ではポジション的にも、不慣れな要件定義の場に立つ機会が増えた。拙いながらも仕事は回っている。だが、かつてのように「技術力一本」で評価される爽快感は、もうどこにもない。
評価軸も変わった。「どれだけ美しいコードを書けるか」ではなく、「どれだけ生成AIを使いこなし、素早くアウトプットを出せるか」が問われるようになった。
ITエンジニアとして、新しい技術であるLLMを触るのは楽しい。むしろ楽しまなければいけない。だが、ふと画面から目を離したとき、強烈な虚無感に襲われることがある。
「ああ、コミュ障の楽園は、この世から一つ消えてしまったんだな」と。
それでも、IT業界を目指す君へ
だから私は言う。
「プログラミングが好きで、人と話すのが苦手だから」という理由だけでIT業界に来るのは、もうやめておけ。その動機だけで生き残れるほど、この世界はもう甘くない。
その好きだったプログラミングは、AIがもっと上手にやってのけるようになる。
しかし、ここで話を終わらせるつもりはない。
「プログラミングそのもの」を愛する人には地獄かもしれないが、「プログラミングを使って何かを成し遂げたい人」にとっては、これ以上ない天国がやってきたとも言えるからだ。
もし君が「技術力には自信がないけれど、作りたいサービスがある」「コードは書けないけれど、解決したい社会課題がある」「自分のアイデアで、世界を少しでも良くしたい」
そう思っているなら、今すぐIT業界に来るべきだ。
かつて私たち「技術屋」が独占していた「モノづくりの魔法」は、AIによって民主化された。高度なコーディングスキルという壁は消え去った。情熱とアイデア、そしてAIへの指示力さえあれば、誰でもクリエイターになれる。誰でも世界を変えるアプリケーションを作れる。
私が愛した「静寂とコードの職人芸の世界」は終わったのかもしれない。でも、その代わり「誰もがアイデアを形にできる、騒がしくて創造的な世界」が始まったのだ。
私は少し寂しいけれど、この新しい世界で、AIと共にまた新しいものを作ろうと思う。
かつて小学生の頃プログラミングで周りを驚かせたように、今度はこの新しい相棒と共に、まだ見ぬ未来を作ってみせる。
「プログラミングが好き」なだけの時代は終わった。これからは、「何を作るか」を愛せる人の時代だ。
さようなら、私の愛した楽園。
ようこそ、君たちのフロンティアへ。




どうなんでしょう。 コミュ障云々が本物のプログラマーだったのか? ネィティブ オタク プログラマーだったのか? 怪しいです。 本来であれば、プログラミングから初めて、設計、アーキティクト、分析、モデリングへと興味が広がるはずと思います。それは世間でいう、和製英語のシステムエンジニアとか…
私もIT業界でコミュ障を武器にエンジニアとして戦い、プログラムを言語として周囲との対話をしてきたものとして首がもげるほどの共感としたたる涙をぬぐいながら本文拝読いたしました。 かつて楽園だったプログラマー/SEという楽園は無くなったかもしれませんが、新しいレイヤに全人類が同化を始める…
多分プログラミングやITに限らない事象なんでしょうね。 多くの分野において、実行する手段はAIの強力なサポートのおかげでハードルが大きく下がり 何をやるかを自分で創出できる人が生き残っていくということなのでしょう
共感しました。 僕の場合も最初正直そのような感じでIT業界に入ったことがあります。その頃は生成AIはなく、コーディングに苦労した覚えがあります。今は別の仕事をしていてIT業界から足を洗いましたが、生成AIが出て、進化してから、noteを書きまくれるようになりました。思考がどんどん出てくるから…