<注>
当ページは私個人が用いている下方倍音的存在の活用方法が含まれます。専門研究の方は内容にご注意ください。(素人ブログ情報です)。
引用先表記のない内容は、私の独自論です(または先行独自研究の引用先を探し当てられていない)。
この記事内容と同一の出典不明の言説やアイディアを見た場合、出典が拙ブログである可能性があります。ご注意を。
先行研究を見つけたらすぐに掲載しています。
- 最初に知った引用文献
- 概要いろいろ
- 上下の倍音列表の記事へ
- 下方倍音の計算方法について
- 『20世紀の和声法』に見る言説
- ピタゴラステーブルを元にして
- スティックスリップ現象によるサブハーモニクスの誤解?
- 脳は倍音を聞き、音色の知覚を確かなものにするため低音を自ら補完する
- その2に続きます。
- 結合音について
- 倍音についての参考記事
- 当ブログ音楽理論関連記事目次はこちら
最初に知った引用文献
濱瀬氏の著作で下方倍音を知った方も多いでしょう。私も『ブルーノートと調性』で初めて知りました。最初期は批判もしましたが、当時はいろんな著作を結構読み込んだので許してください。
概要いろいろ
・下方倍音は振動数を整数の逆数で割って生み出される計算上の概念です。よって線形音響学では弦や管の振動は基音の整数倍しか生まれない、 という理由により、下方倍音は存在し得ません。しかし 声帯や楽器のリードのように非線形に揺れる=倍周期の振動が起こる状況においては、サブハーモニクスという形で下方倍音的存在は実在します。
・つまり、現状の物理学的な理解では、“狭義の理論(線形音響学)では存在しない”が、“現実の非線形振動現象として主にオクターブ下の低音発生現象自体は存在する” と分けて話すのが良いでしょう(参考)。
・「下方倍音列理論」という音楽の理論が明確に存在するわけではありません。
・短三和音が下方倍音から生まれたわけではありません。その数理的類似性をもとにサブハーモニクス等の物理現象とは別に後付けされただけです。
・論文等では、実在する下方倍音は、主に基音より低い基音と同じ高さの音を指す場合が多く、耳の中では基音よりも1-2オクターブ下の音が、その音色を分析解釈する過程で知覚される(低音が補強される)ことは知られています*1*2*3*4*5*6。
・下方倍音という用語は、私のような専門外が面白がって扱う側面と過去の関連著作の偶然が重なり、いまだ専門的な論術や発表現場で扱うとき、ちょっとした違和感を与える可能性もあります(それを楽しんでる面もあります)。
上下の倍音列表の記事へ
実際の倍音列表は下記をご覧ください。
下方倍音の計算方法について
倍音について数理的に計算方法等を見たい方は、その2に進んでください。
『20世紀の和声法』に見る言説
『20世紀の和声法』では、下記のようにp164に現代的和音の作り方の例「投影作法」というようなやり方を説明する際に、自然的な世界で上下の領域に音程的反映が投影を実証する唯一の例、として紹介しています。

ピタゴラステーブルを元にして
ピタゴラス学派による"ピタゴラステーブル"を応用すると下方倍音列の概念が生まれます。

古代哲学者時代から"下方倍音の数理"は概念として知られていたようです。
哲学者イワンブリコス(ランブリコス)はピタゴラスの研究家でしたが、彼がその本に下方倍音列の元とも解釈できるアイデアを書き記しています。
この表を元にギリシャ語のラムダ(Λ)という文字に形にしたモデルを書きこんでいます。

下記はグラハム・J・ジャクソンが"Adolf von Thimusがラムダモデルを倍音列の列の表に昇華した図"を掲載しています。

https://www.scribd.com/document/619875286
出典は下記記事の最下段にあります。
こういう本でもピタゴラスの図が紹介されています。
スティックスリップ現象によるサブハーモニクスの誤解?
ピアノを鳴らしても物理現象として根音より低い音は自然には鳴りません(鳴りづらい)。(差音による低音、耳の構造の中で仮想的に構成される音(?)の認識が感じられる可能性はあり得ます。)
また100歩譲って、奇跡的に何らかの複合要因でいわゆるサブハーモニクスが偶然(部屋の反響、共鳴、前出音との振動の打ち消しによる差音などが発生し)鳴ったとしても可聴範囲にない音であれば聞こえません(20Hz周辺以下で鳴った場合など)=認識しづらい存在ゆえ認め難い。
また上方倍音は音色に影響しますが、下方倍音が鳴っても、西洋音楽の耳には音が濁るだけで不快になるだけ、という状況が多いと言えます=必要性の希少さ。
その不快さを逆に詩的に「もの悲しさ」と感じることを了承できる人にとっては、下方倍音列は短調的な雰囲気を作る象徴的存在になるかもしれません。
そこは科学的事実とは別に、個人の独自論で処理した方が良いと感じます。
弦の原理的に、鳴らした基音よりも低い音は鳴りようがありません(ピアノの高い弦で、その張力のままそれ以上低い音は鳴らせない、ギターの6弦より低い音は弦を緩めないと出ない)。
それでも楽器/環境/音色セッティングの要因で、たまたま基音よりも低い音が物理的には生み出されてしまう場合がないとは言えない、と考えるのが自然発生する下方倍音の可能性を言及する限界ではないでしょうか。
(参考)
なお、演奏技巧における"低い音"については、上記で"anomalous low frequency vibration=ALF"異常な低周波振動、などと呼んでいます。木村まりさんの演奏技巧が著名のようです。
Subharmonic Partita, by Mari Kimura
先の"サブハーモニクス"については、上記アダム・ニーリーさんの動画にて音叉を紙に触れることで440Hzより低い200Hzの音を出しています。これは紙に触れる回数が、その距離感(紙と音叉の振動の接触)で実際の音叉の振動の半分ぐらいだったりするから、という説明です。下記の紙(青い線)に触れた音だけが鳴ってると考えてみてください。振動数は半分になるわけですから、音程もオクターブ下がります。

音叉自体の振動なのか、紙などにかかる振動の折り返しによる打ち消しなども含まれた結果なのか、手で触れるときの微妙な距離感がブレるからなのか、とにかくスティックスリップ現象と似たような原理が働くことにより、原音より低い音が出せるわけです。
これ自体は下方倍音現象というよりも、演奏テクニックによる振動数の間引きによる低音の生成です。ボーカリストのテクニックとしても最近はyoutubeなどで発信されています。こうした低音は下方倍音というよりサブハーモニクスと表現するのがポップなようです。この辺は界隈の用語的利用としてであり、当人が下方倍音の意味で「サブハーモニクス」という語を使ったとしても、単語単体の意味においては必ずしも間違ってはいないので、聞き手側が十分に解釈すれば良いと思います。またサブハーモニクス=下方倍音として話を進める場合もありますので、文脈に注意してください。
捕捉:これは声帯の振動が部分的に“倍周期”になった結果として生じます。声帯の非線形振動や、左右声帯が本来のように1:1ではなく、たとえば 3:2 の比率で振動する「エントレインメント(同期)」 によって振動が1回ではなく2回に1回のリズムとなることで、基音の半分の周波数(=オクターブ下)が現れます*7。
しかも、サブハーモニクスは弦の長さに応じ1/2、1/3倍音などがランダムに鳴る(どの音が鳴るかコントロールが微妙)、と説明しています。
どこまで意図的にサブハーモニクス演奏テクニックによって、出る音をコントロールできるか、は個人のスキルに依存します。
上方倍音を意図的にコントロールするにはEQなどのエフェクトツールを使いますが、サブハーモニクスの場合、弦を当てる角度、喉を鳴らす力加減、と言った技術的スキルによって異なる音を出すので、それぞれコントロールの意味も変わってきます。
スティックスリップ現象は「ヘルムホルツモーション」という表現もあるようで、弦の振動現象を利用した演奏法が発生原因である、としているようです。
下記ページ中段にヘルムホルツモーションの解説があります。
弦の毛が滑ってひっかかることで振動数が減少し、結果低い振動数となり、低い音になって現れます。
脳は倍音を聞き、音色の知覚を確かなものにするため低音を自ら補完する
またニーリーさんも述べていますが、脳は欠けた基音を補う能力を持っています。
例えばシンセサイザーで上方倍音のc-c-g-c-c-e-gをの3倍音以降(g-c-c-e-g)を弾くと、演奏していない低い基音cが耳の中=脳の中?では感じられます。EQでも出ていない音が耳に確かに聞こえます(差音?アーティファクト=デジタルノイズの増幅、の可能性もある?=デジタルに実際存在しているならEQで確認できる場合も考えられます。差音の実音自体も耳の中で増幅される場合もあります)。
それらはスピーカーも鳴らしていない脳の中で作られた基音です。
WAVESはこの特許も持っていて、それをMAXXBASSなどのプラグインに応用した、ということです。下記は同プラグインマニュアルより。
However, the harmonics of the bass guitar are indeed coming from the speaker, and your ear interprets these harmonics and creates the “missing fundamental” inside your head. This is a well-known psychoacoustic phenomena. MaxxBass takes this phenomena to the maximum, and gives you control of it.
Using this principle,MaxxBass can extend the perceived frequency response of a speaker about two octaves below its physical limitation.しかし、ベースギターの倍音は確かにスピーカーから聞こえており、耳はこれらの倍音を解釈し、頭の中に「欠けている基本音」を作り出します。 これはよく知られた音響心理現象です。 MaxxBass はこの現象を最大限に活用し、コントロールできるようにします。
この原理を使用して、MaxxBass はスピーカーの知覚周波数応答を物理的限界より約 2 オクターブ下まで拡張できます。
なんでそんなことになるか、というと、そもそも人類の音楽文化自体が、脳の空気振動認識構造に適した形で進化してきたからです。どちらかというと楽器もDAWもシンセも脳内が倍音を上手に聴き分けることを活用して作られているので、脳(または必要な聴覚関連器官)は自動的に倍音を生成(補完)し、楽器の音色を聞き分け、脳内で生み出される倍音を勝手に聞いてしまっている、ということです。
「豊かな倍音」みたいな言い方をしますが、そもそも耳は倍音の複層構造の集合体でしか音を認識できません。
上記のような著名な著書にも、脳自体が倍音を感じ取る能力により現在の音楽(音色)文化が成り立っている、という方向に解説がなされています。
人の聴覚器官や脳が倍音を選別/聴取する機能に優れた組織(蝸牛の基底膜は音の周波数ごとに異なる部位が共鳴する構造を持っている=トノトピー構造)だから、現在の音楽文化のような形態になった、というのが実際のようです。
耳は原音よりも低い基音が作られ聞こえた音の"感じ"を補完して、知覚と解釈を確かなものにする機能を有しています。これがベース音に安定を感じる人の感覚そのものである、と言えます。自然と基音を補ってしまう性質からバスという概念があるんですね。バスがあるから安定するのは、音楽の真理ではなく、人間の聴覚構造における都合と心象が作る「心理的安定」です。
不定調性論は、この人間の聴覚主体性を一旦バラし、そこまで低音優位を神格化しないバランスで音楽を作るとどうなるか、について考えています(制作メモ)。
実際の世界には人間が聴取できる存在以外に、振動現象を構成している何らかの現象がある可能性も当然あります。
例えば、ある音を思い切り鳴らし、壁などで反響する音と正確に打ち消し合うことが出来れば、振動数は半減し、1オクターブ低い音が生まれる、なんて可能性の世界もありえます(これが先に書いた「楽器/環境/音色セッティングの要因で、たまたま基音よりも低い音が物理的には生み出されてしまう場合」)。それらの音がとても小さいレベルでは存在しているとしたら、やはり人が認識できる世界でのみ評価を下している、と認めねばなりません。
ヘンリー・カウエルの下方倍音に対する考えはこの空気共鳴による下方倍音の発生の可能性を指していると考えられます。
<参考>
ヘンリー・カウエルの音楽理論と実践― 『新しい音楽の源泉』における新たな音響素材の探求―
実際に鳴っていない音存在も知覚できる人間の耳の性質は日常の音楽にも知らず知らずに使われているでしょう。ゆえに厳密には「下方倍音は鳴っていない」とか「下方倍音は存在しない」という言い分は「そうだろう、今のお前の中ではな...」という程度の話になります。
「存在しないかどうか」は限定的な条件を組み込んだ際に、「耳の外では存在しない」とか「無響室では存在しない」「EQの上では現れない」と厳密に存在しないとする領域がどこを指すか、を定める必要があります。
その2に続きます。
結合音について
和音に関わる別の話で結合音についての論談は下記をご覧ください。
倍音についての参考記事
当ブログ音楽理論関連記事目次はこちら
*1:下方倍音列の動力学 聴覚系では耳から入ってくる音に対して合成モードと分析モードの段階があり、同論文で、その切り替えが数式化されている。分析モードはいわゆる耳コピ時の耳の状態。個別の楽器が何をしているか聞き分けたり、純音の周波数に集中できたりする。この場合欠けている低音などの補完作業は行われづらい。一方合成モードでは複数の楽器の出す音の倍音構造の全体を形成するように知覚システムが働き、低音の不足する状態においても欠けている低音-聞き取りづらいベース音や基音に該当する音を補完できるシステム。音楽を分析モード的に聴くとつまらなくなったりするのは、どのように音楽を聴くか、ということに影響しているのではないだろうか
*2:またこちらの論文では実際に鳴っている音の高音成分が干渉して低い差音が生み出される時、相応する基音を知覚する(「Virtual Pitch」または「Residue Perception」と呼称)、といった実際に生じる差音現象を用いて下方の音の存在に対する聴覚系の反応を指摘しています
*3:こちらの論文では、ストカスティック共鳴=確率的に聴くシステムについて述べられ、適度なノイズが加わることによって、聴覚系が欠けている音を補完しやすくなることを述べています。フォーマット変換におけるディザー処理もこうした"耳に聴きやすくさせる処理"とか変わっていると言えます。なっている音の周波数ので凸凹を、耳は正確に聴取しようとするため、必要のない凸凹をディザーノイズで鳴らすことによって、必要な凸凹を耳が認知しやすくなる、という仕組みが働くと補完される音の精度も上がるようです。
*4:こちらの論文では、3ヶ月および4ヶ月の乳児が、基音が存在しなくても、音のピッチを知覚し、基音の変化に反応する能力をすでに持っていることが示され、早期に精密な聴覚システムが出来上がっていることが示されています
*5:こちらの論文では、聴覚皮質におけるピッチ選択性ニューロンが欠落音の補完を行っていることを指摘しています。音の高低などを識別する仕組み自体がなっっていない音を補完する機能を持っていることがまとめられています
*6:こちらの論文では、基音のピッチを明確にする低次倍音が大きい音=ピッチサリエンスが高い、と表現、が鳴ると、聴覚系は欠けている低音を補完しやすい、ということが示されています。低次倍音、例えば上方三倍音まで、の成分が少ない音色だと基音が補完しいづらい、ということがわかっています
*7:1996年の研究では、正常な喉頭(声帯)においても、F0(基音)の半分にあたる周波数が微かに振動する「F0/2 のサブハーモニックパターン」が観察されています。最近では、サブハーモニクスの特徴を自動検出し、「ガラガラ声」のざらつきを定量化する音響モデルARI(Acoustic Roughness Index)が開発されています。音声診断や医療への応用が期待されています

