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大嘗祭の「米と粟」が理解されない──令和の御代替わりの報道と研究者のコメントを振り返る(令和8年1月14日。歌会始の日に)

(画像は令和の大嘗宮)

◇1 歌会始の御製


歌会始の儀が行われました。陛下は次のように詠われました。

天空にかがやく明星眺めつつ新たなる年の平安祈る

Instagramに載る宮内庁の説明では、元朝の祭儀のおり、明けの明星をご覧になった。そのときの感慨を詠まれたもののようです。ひたすら国と民のために祈る、126代続く、歴代天皇の歴史と伝統の重みを感じさせられます。

その祈りは皇室第一の重儀とされる新嘗祭、そして天皇一世一度の大嘗祭に込められ、その核心部分は、神嘉殿あるいは大嘗宮で斎行される神人共食の儀礼にあります。天皇は皇祖神ほか天神地祇を祀り、「米と粟」の新穀を捧げ、「国中平らかに」と一心に祈られます。稲作民の米と畑作民の粟が用いられるのは、収穫儀礼というより、国民統合の儀礼だからです。

◇2 大嘗祭の神髄は神饌御親供


大正の御代替わりの際に、三浦周行・京都帝国大学名誉教授(歴史学、法制史)は『即位礼と大嘗祭』(大正3年)で、大嘗祭の神髄は神饌御親供にあり、「御大典の根本精神」は、「皇室のご祖先はじめ、一般臣民の祖先を崇敬され、また一般臣民とともに楽しみたもう大御心を表される」ことだと説明しています。

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天皇=スメラミコトのお役目は万民をシラスことであり、そのための祭祀であることはなかなか理解されません。三浦名誉教授が指摘したように、「近世」になり、神事の内容は「秘儀」とされ、詳述されなくなると、誤解はますます拡大します。

平成の御代替わりには、とりわけ反天皇論の立場に立つ人たちが、折口信夫ばりの非実証的なマドコオブスマ論を盛んに吹聴しました。これに対して、実証主義的立場から、寝座秘儀否定論=「稲と粟の祭り」論を主張したのが岡田荘司・國學院大学名誉教授(神道学)で、そのことは以前、書きました。


◇3 寝座には立ち入らない


令和の御代替わりにも誤解は解かれませんでした。メディアの世界では、さすがにマドコオブスマ論は見られなくなりましたが、正確な理解が進みません。その最たるものが「米と粟」です。

たとえば、「週刊朝日」(2019年11月14日)です。「いよいよ大嘗祭 夜通し行われる『秘儀』とは?」(永井貴子記者)が載っています。

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@AERADIGITAL
〈https://dot.asahi.com/articles/-/118869?page=1〉

記事のリードで永井記者は、「暗闇の神域で、天皇陛下と皇后雅子さまが行う儀式の中身とは」と問いかけています。基本的な誤りがあります。

宮中祭祀一般もそうですが、大嘗宮の儀は天皇による、天皇の祭りです。皇后は拝礼のみです。皇后が拝礼する帳殿が設けられるようになったのは近代以後のようです。とくに新嘗祭の場合は、天皇と皇太子、男子成年皇族以外、拝礼すらありません。

記事は続いて、昭和の御代替わり時に提唱された折口説が、平成の御代替わりで否定された経緯を説明します。宮内庁は「特別の秘儀はない」と打ち消しました。

永井記者は、藤森馨・国士舘大学教授(歴史学)に取材しています。藤森教授は、「寝座は天照大神のための場所ですから、天皇は立ち入ることはできません」と折口説を明確に否定します。

◇3 粟は「飢饉の備蓄」なのか


さらに教授は「大嘗祭の本質は、皇祖である天照大神をもてなすこと。平和や豊作を祈願する儀式です」と説明します。これも基本的な誤りがあります。記事に掲載された教授のコメントには、祈りの対象としての「天神地祇」が抜けています。大嘗祭は皇祖神のみを祀る神事ではありません。藤森教授ともあろう方がどうしたのでしょうか。ただ、記事本文には「新穀を皇祖はじめ神々に」と正確に記されています。

ならば「平和や豊作を祈願」の根拠は何か?

記事は、「徳仁天皇が口に運ぶのは3口の新穀と粟のみである。注目したいのは、庶民の食べ物である粟が含まれている点だ」と記述しています。「徳仁天皇」という表現はまったくいただけませんが、「粟」に注目した点はさすがです。

けれども、藤森教授の解説は同意できません。

「米は、天照大神からのいただきものとして大切に供えられます。天皇は、災害から民を守る役割を担う存在でした。災害や飢饉の多い列島で、国民の食糧である粟を育ててくれた感謝の意味が込められていた」

記事はこの解説を、「歴史学者の岡田荘司氏の説を踏まえる形で」と説明しています。岡田説は粟=「飢饉の備蓄」でした。

藤森教授も、「粟」の存在は知りつつ、「米と粟」の説明ができていないということです。永井記者の問題関心もそれ以上の深まりがありません。

◇4 皇后の関わり


もう1本は「女性セブン」(2019年11月28日号)の「謎に包まれた大嘗祭、陛下は一体どんな秘儀をされたのか」(無署名)です。

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@女性セブン
〈https://www.news-postseven.com/archives/20191115_1487073.html?DETAIL〉

記事は正しく「米と粟」を指摘し、さらに白酒黒酒にも言及していますが、その意味は追究していません。興味深いのは「米と粟」に加えて、白酒黒酒の存在を指摘した「皇室研究家の高森明勅さん」が監修したという「大嘗宮の儀の流れ」です。まるで皇后が神事に関与されるかのように作表されています。

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@女性セブン
〈https://www.news-postseven.com/archives/20191115_1487073.html?IMAGE=2&PAGE=1-2〉

宮内庁の解説と比較すると、高森先生監修のスケジュールは、皇后が帳殿に着座され、拝礼され、皇族、さらに参列者が拝礼し、皇后が退出されたあとに、神饌行立、神饌御親供が行われるというもっとも肝心な行程が抜けています。これではまるで天皇の祭りが、天皇と皇后の祭りのように誤解されかねません。

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@宮内庁資料
〈https://www.kunaicho.go.jp/kunaicho/shiryo/tairei/pdf/shiryo011002-7.pdf〉
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@宮内庁資料
〈https://www.kunaicho.go.jp/event/pdf/inui-r01aki-daijyokyu.pdf〉

なお、宮内庁の説明には「新穀」としか記載がなく、「米と粟」の神事の詳細は省略されています。それこそが三浦名誉教授が指摘した「秘儀」だからです。

◇5 「稲と粟の祭り」説の真意


平成の御代替わりの際は、おどろおどろしげな折口説が流布したものの、岡田名誉教授の「稲と粟の祭り」論がこれを否定しました。しかし令和の御代替わりになると、皮肉なことに、岡田先生の「粟は飢饉の備蓄」という珍説が代わって浸透することになりました。

それなら、岡田先生は「稲と粟の祭り」について、ほんとうは何をどう説明したかったのか、先生が30数年前に行った、ある講演録をもとに、今日は考えたかったのですが、長くなりましたので、次の機会とします。


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昭和31年、崇峻天皇の后・小手姫が養蚕と機織りを教えたと伝えられる福島県・小手郷に生まれる。弘前大学、学習院大学を卒業後、雑誌編集記者、宗教紙編集長代行などを経て、現在フリー。著書に『天皇の祭りはなぜ簡略化されたか』など。「戦後唯一の神道思想家」葦津珍彦の「没後の門人」といわれる
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