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本当のピルとの付き合い方 前編

 ピルは女性側が接種する避妊のための薬であり、その他にも女性ホルモンのコントロール、月経痛をやわらげ、月経リズムを整える等、色々な目的で利用されている薬であり、女性のために使われるものである。
 また、ピルは女性にとって妊娠を管理するものであるから、女性が男性からの生殖管理から離れて、女性が主体的に自分の体を管理することが出来るものとして期待されてきた。
 ただ、ピルは承認から普及に至るまで、かなりの時間を要してきたものであり、現在でも女性の避妊方法としては、ピルも含めてなかなか普及が広まらないのが現状である。
 それに対抗するものとして、ピルや緊急避妊薬を認めてほしいという運動はフェミニズムから主張される。その動きで少し前に話題になったわけだが、その内容を少し紹介しよう。




 こちらはNHKの番組である「おはよう日本」7月29日に放送されたもので、予期しない妊娠で苦しむ女性に関する話として、緊急避妊薬を薬局で購入できるようにしてほしいという内容にて放送されたものである。一時ツイッターでトレンド入りするくらいに反響があった。

 このツイートは、女性の望まない妊娠を避けるために緊急避妊薬を薬局で販売することを主張する遠見才希子先生と、産婦人科医会前田津紀夫副会長の日本の若い女性は性教育不十分だから安易に緊急避妊薬を利用することを主張するコメントを載せたのである。

 これに対する反応としては、この男性医師や男性にこそ性教育を施すべきなのだ、と言うような意見や性教育に関してしっかりと出来ていない教育機関を作った社会が悪いといった意見が見られた。女性だけが性教育に乏しいというのはおかしなことだし、安易なる利用と言うが緊急で必要とするものもいるのだから、おかしいのではないかと。 

 今年の6月10日に開かれていた厚労省のオンライン診療検討会の内容や男女比の構成も踏まえて、女性の意見が通りにくいような現状があり、性において保守的な感覚を持っている人物たちや決定権を持っている医師会や男性たちが妨害しているからこそ、女性の主体性は実現できていない。これこそがピル普及が妨げられている原因である。

 とこの番組を見た人たちなどは言いたいのかもしれない。しかし、私を含めフェミニズムを知っているものなどからは、この流れに大きな疑問を持っているのではないだろうか。
 それは、ピルに関しては、フェミニズムも承認や使用を押しとどめ、積極的に働きかけてこなかったことを知っており、一般女性もまたピルをそれほど望んでいなかったからことを知っているからである。


我が国の自称フェミニストたちは、ピルに対して否定的な態度をとり続けてきた。
世界中で、我が国のフェミニストだけが、ピルを否定した。

しかし、女性の自由獲得のために戦っているはずのフェミニストが、ピルの普及に反対するとは、一体どういう了見なのだろうか。



 先ほど、ピルは女性解放のために求められてきたものであるとしてきたのに、日本ではなぜか世界の動きとは真逆の方向に展開している。フェミニストからすらも叩かれるというのも珍しくない。本当ならこれらの部分に関しても触れるべきなのだが、そういった面に関しては何かなかったかのように、かの男性医師などは叩かれたのだ。

 一体なぜこうなっているのか?なぜ、彼女たちはそれを隠そうとするのか?フェミニズムや女性がピルについて争っていった経緯を元に、その原因を紐解いていきたい。


1 フェミニズム同士や女性との対立と特異性

 フェミニズム同士や女性とで争っていると言うが、その原因にはいくつかの理由がある。ピル自体には様々な争点があるが、ここではできる限りフェミニズム同士や女性との関係で争った事実を中心に論じていきたい。


(1)ピルの副作用


 ピルの問題としては、第一に挙げるのはピルの副作用の問題だろう。近年では、副作用の少ない低容量のピルが存在するが、それでもピルに関しての副作用を懸念する動きというのは昔から存在した。
 主な副作用として、吐き気・頭痛・下痢・体重増加やむくみといったものがありますが、特に、高容量や中容量のピルが主流だった時代では、ホルモンの量もかなり多く様々な副作用もあれば、その作用も強い面もあったことから、使用に関して周囲からの懸念はあった。

 女性の身体に悪影響を考えるのはよくない。そう考えることによって、ピル使用に躊躇してしまうというのは当然考えられる。それは現代でも変わらない面もある。

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より

 資料を見てもらえばわかるが、日本における主な避妊方法はコンドームが圧倒的に多く、どの年度調査を見ても一貫して高い水準にある。その次が膣外射精法であり、ピルの使用は1割にも満たない。

 ピル利用を否定する女性からの使用拒否理由にかんしては、副作用の点について挙げているものが一番多い。そこには、体に何かあったら良くないだろうなと言うような考えや、排卵などを止めるというのは何か悪影響があるのではないだろうか。といったような懸念があると考えられる。
 しかも、この数字はどの年度調査であっても一貫して高い。それだけ副作用の懸念は一般的に大きいのだと言える。情報不足を懸念する声、医師の診断の面倒さを理由にあげるものもいるが、このアンケートでは1割もない少数派である。

 ピルに関する副作用について、医師からも必要以上に気にしすぎているというような見解があるわけだが、それでも一般の人にとっても懸念が強いもとなっている。そして、このことは、後に紹介する男性への責任と女性の主体性の側面に関わってくる。

(2021年8月19日追加)

 ちなみに、1973年と古い時代に戻るのではあるが、この頃にもピルに関して大学婦人協会婦人の地位委員会が調査を行っており、「家族計画」第244号(74年7月1日)で報告されているのではある。

第24話 ピル ー 4割弱が解禁に反対(1973年調査)

ピル解禁に賛成は17.7%、反対37.2%、どちらとも言えない30.0%、わからない14.4%

 解禁反対の理由について聞くと、「副作用があり健康を害する」が56.1%、特に20代では79.2%を占め、ピルの副作用問題の解明が解禁に向けた鍵であることを示唆している。また「性道徳の乱れ」を挙げる人が高年齢になるにつれ増加し、20代では13.8%だったのに、50歳以上では51.1%となっている。

 1970年代当時の話であるので、年代層的にはかなり時代を感じるような意見を見ることが出来るのではあるが、この時代でも特に若い世代では副作用懸念があったようだ。この時代にはまだピルの性能も今ほどではないため、確かに懸念を抱くというのは無理もないのだろうが、現代でもそれほど変わらないことを考えると、女性自身が自分の身体の安全を優先している傾向があると判断できる。

 性道徳観念が年齢層が高くなるに連れて多くなるのは、まだ戦前の価値観が残っているような時代でもあり、こういった意見が出てもおかしくはないのだろう。ただ、既に見てもらったように、現代ではすっかりそういった価値観を理由に反対している意見はほぼなくなってしまっている。

 それにもかかわらず、古い価値観を持った人たちが反対していると針小棒大に扱うのはいささか実態を見ていない不当な要求にも映らないだろうか?


(2)過激派の存在


 フェミニズムが争ったものとして、中絶禁止法に反対しピル解禁を要求する女性解放連合(通称中ピ連)というものがある。1970年代付近に台頭していたフェミニズム団体の一つであり、名前の通り、中絶禁止法に反対、ピル容認を求めた団体である。
 この団体はかなり過激なところがあり、浮気をした夫に対して職場に集団で押しかけて圧力をかけるといった実力行使的なところもあれば、厚生労働省に押しかけて座り込みを仕掛けるなど、かなり過激な運動をする集団として、当時注目された。見た目も学生運動をモチーフにした、ピンク色のヘルメットなどを装着するなど、何かと目立つ行動を複数してきたので、マスコミは常に注目していた。

 最終的には、中ピ連が母胎となった政党を作って政界進出を果たそうとした。公約もやはり極端で、内閣はすべて女性、公務員はすべて女性とし、男性は臨時職員かアルバイトとする。といった、女性中心主義的な思想を掲げたのだが、票が集まらず全員落選してしまったので、その後の活動は終息していったようである。

 彼女たちは過激さ故と、マスコミの好奇の目にさらされたこともあって、ピル解禁と言えば、中ピ連というイメージが付いてしまった。まともなフェミニズムからは完全に邪魔な存在として写ることもあった。

 その一端を垣間見ることが出来るものを一部紹介しよう。

「女の運動」といえば「ああ、中ピ連か」と言う様な半分嘲笑的な目でみられ、私たちのほんとうに言いたいことを受けとめてもらえなくなってしまった面がおおいにある
(おんなはくしょ編集部 1977「日本女性党に対して」「おんなはくしょ」第1号→溝口、佐伯、三木編 1994)

 過激な人々が、運動全体を悪くすると言うのはどこの世にも存在するのだが、ここでも一部先鋭化したものたちのせいで、善良な人々が苦労したようだ。

 このことは、この後もピル関係の問題を取り上げる際に足かせになり、容認するための言論が出来なくなった原因にもなってきており、低用量のピルの承認にも少なからず影響があったものと見受けられる。

(3)男性の責任と女性の主体性

 ピルというのは女性の権利であると言われているが、ピルの使用に関しては、男性の責任所在と女性の主体性がかえってうやむやになるのではないだろうかという批判である。
 女性が出産に関してコントロールすることを主目的としているのだが、それに疑義を呈しているのも、また、フェミニズム側から多く主張された。

 女性に産む権利があり、主体的に選択権を持っているというのであれば、男性が何か出産に関して首を突っ込むようなことは出来ないのではないだろうか?
 と言うことは当然であろう。何ら決定権を持っていないにもかかわらず、なぜ責任だけは男性側が負うことになるのだろうか?このあたりもフェミニズムにとっては論争の種になっている。

 また、男性が女性に対して利用を強要するのではないだろうかという懸念もある。男性側から女性にピルを飲むことを強要することによって、女性側はかえって避妊に関することについて受動的になってしまい、かえって女性側が負担を負うようなケースがでると考えられる。
 このような状況になってしまえば、ピルが主体性をもたらすというのは考えにくいことである。自分からコントロールするためのものが、他人にコントロールされているのだから、こんな利用がされているのなら、本末転倒であると判断されてしまう。
 しかも、これはかなり昔から議論されているものであり、1970年代付近からもその対立を伺うことが出来る。男性についての避妊方法とセットになっていることも珍しい話ではない。


「女は出産・中絶の当事者、だのに避妊まで女に押しつけられるのは御免こうむる。男の避妊の開発・研究はどうなっているのか」(優生保護法改悪阻止委員会{1973}→溝口、佐伯、三木編 1994)

「中絶にしろ副作用という点には、いつも女性の側に負担がかかってくるのは不合理よ。男性側の避妊手術、たとえば精輪管のケッサツ法をもっと普及させるとか男性の飲むピルと言ったものの研究・開発をもっとすすめるとか、男性の負担で避妊を行ってほしいとおもいますわ」(国会議事録 衆議院社会労働委員会 1974.5.23 土井たか子議員の発言)

「万一ピルを飲み忘れ、間違って妊娠してしまった場合には女だけが一方的に避妊責任を問われかねない」(沼崎一郎 1997 <孕ませる性>の自己責任―中絶・避妊から問う男の性倫理「インパクション105」)

 これ以外にも、複数の懸念を示すものはある。また、現代でもこの件では意見を鞍替えしたのだが、以前は意見を違えたフェミニストやそれ以外のものからもそういった声を見ることが出来る。

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 女性が出産を管理することを目指しながらも、その管理権を専有することを避けたのである。しかも、それはフェミニズムそのものからも懸念したことであり、現代でもこのパラドックスを常に抱えているのである。

 ピル使用において、女性の主体性や解放をうたっているものの、フェミニズムの中からはかえって主体性を失うのではないだろうか?と一度考えれば、及び腰になったフェミニストがいるのも不自然ではない。

2 現代では何と争っているのだろうか

 ここまでフェミニズムや女性との対立を中心に論じてきたのだが、現代におけるまで未だにピルがらみで争い続けているのはなぜなのだろうか?
 中ピ連の様な存在は既に過去の存在であり、今の状況でそこまで影響があるとは思えない。性教育とで充実していないと言うが、充実していればピルは普及するのか?と言われれば本当かと疑うばかりであるし、知識がえられないことを主張するものは利用したくない側の意見として少数であることも既に述べた。
 どれだけピルに関して普及を進めたいと思っていても、一般的な利用は少なく、利用者側も副作用を懸念しているので、利用が進められるのかは怪しい。
 この点は、守旧派の存在があるからという理由にはならないだろう。彼らがいてもいなくても、他人がどう行動するかは他人の内心が判断することであり、彼らの言葉に利がないと思えば、従う道理はない。また、中絶における体の負担を考えれば、なおのこと緊急避妊薬などを否定する理由も乏しいだろう。それでも普及の動きがあまりに弱い。

 では、一体何を争っていることになるのだろう?私がたどり着いた一つの結論がある。それは

女性の身体を誰がどう保護するのか

と言う対立ではないだろうか。

 様々な理由を検討して、今でもぶつかり立っているもの、既に過去のことになったものを除いていったことなどを考えると、この点が色濃く残っているのである。今も尚残る副作用懸念における女性の保護、避妊に対する女性の主体性及び中絶などにおける体の負担の懸念。ここはピルが日本に現れ始めてから今に至るまで、変わりがないのである。

 男性に対する責任への言説もあるが、最終的には女性にとって良いかどうかという点に回収される。

 これに対して、本当にそうだろうか?本件はたまたまそのように考えられるような事情があるだけであって、医学会やマスコミなどの他の動きの影響があったのではないだろうか?という考えもあって良いはずだ。だから今回はたまたまそう見える面があっただけなのだ。とまだ考えるものもいるだろう。

 だが、そう判断するに至るものとしてピル以外にも類似するものがある。子宮頸がんワクチンを巡っての論争である。これを次の章で紹介しよう。


 とりあえず、今回はココまでです。 残りは後編になります。



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