第174話 魔女の縁
「へぇ……かー君の新しい鎧は予定より早く完成しそうなのね」
『おう。オレもあんだけ派手に壊れりゃ暫く掛かると思ってたんだけどよ、黒鉄は今頃新鎧の繋ぎの素材を錬成しまくってる頃だ。帰ってくるのは明日だな』
王都の街並みを1人歩く朝霧は少し離れて付いて歩く人影と話していた
その姿は制服姿ではなく、週末の休みに合わせたスカートルック。
涼しさを増してきた気温に対する薄手の長袖ニットのような物に加えて膝上までのスカートを合わせた格好は彼女の凛とした美しさと違う可愛らしい印象を浮かび上がらせる
長く濡れたような質感の黒髪は普段のように一房に纏めておらず、風にはらりと靡く姿は普段と少し違った魅力をかきたてていた
そんな彼女から数歩離れた場所を行くのは…少し透明がかった光を纏う男の姿だった。
背はかなり高い…かなり筋肉質な青年でノースリーブのトップスに作業用の長ズボンという出で立ちであり、剥き出しの腕は筋肉がしっかりと固めていた。
明るい茶髪の短髪が真上に流してあり、よく言えば快活、悪く言えば少し粗野な印象を見せる
「…もしかして更に強くなったりするのかしら。この前見た限りかー君の強さは現状でも災害そのものよ?」
『ま、それが必要な敵が控えてるってこった。零界のだって随分な強さしてるぞ?ぶっちゃけ半端な生産系勇者よりかは断然強ぇし』
「慣れないわね……その『零界』って私のことよね?普通に名前で呼びなさい、反応しずらいのよ」
『あー、こりゃ俺達の風習みたいなもんだ。「歴代勇者は通り名で呼ぶ」……どんな勇者だったか、何が出来たのか1発で分かんだろ?あんたは零界の勇者ってな、俺が名付けた!』
「まさか生きてて本当に二つ名が付けられる日が来るなんて思わなかったわよ……確かあなたは鉄糸の勇者よね?」
『おうよ、
彼の名は秋島桐士、かつて鉄糸の勇者と謳われた男であり…400年近く前に死亡した男でもある。
これはその魂であり、今も他の歴代勇者達と共にアルスガルドの現世へ留まっているのだ
根っからの生産系勇者であり、彼方と音撃の勇者の2人と共に勇者蘇生機構『Re・Birth』を、構造構築術式等のアイデアや構想面で共に完成させた男……最近では雫が彼方に勝つべく彼女の彼方お手製装備を魔改造させ、魔力を回復させる常識外れのアイテム『マナ・スフィア』を産み出す一翼を担っていた天才肌
そんな桐士が珍しくも朝霧と共に動いていた
「術式仮想展開…?あんまり聞き馴染みないわね…」
『あん?零界のだって聖都じゃ使いまくってたろ?ほら、氷晶から魔法を撃ちまくって砲台衛星にしてたやつだ。あれが術式仮想展開だ、俺が作った魔法だな』
「あ、そう言えば使ってたわね。便利なのよねー、あの魔法気に入ってるのよ私。ビット兵器とかのロマンが分かる女なの、今も色々と考えてるわ」
『いや、普通は出来るヤツなんざ限られるはずなんだが…。言っちまえば「遠隔操作する操作体から魔法を術式構築して放つ技術」だ。仮想展開する為の物理触媒が必要になるし精密で高度な術式刻印と遠隔操作、魔力供給が出来なきゃ話にならねぇ。精度とマルチタスクの合わせ技だ』
「そんなに難しいとは思ってなかったけれど……でもこれ、サンサラ先生の得意魔法よ?あなたが作る前からあったんじゃないかしら」
『そりゃおめぇ、サンサラにこれ教えたのが俺だからだろうが。てか、俺が唯一教えたのがサンサラだ。そこから世界に広がったんだろ』
その言葉に朝霧が少し目を見開いた
彼が…サンサラの名を口にしたからだ
それも面識があるような言い方であるが、何気なく言われた今の言葉はわりと朝霧にとって衝撃的な一言である
「私、今かなり驚いてるのだけど…サンサラ先生と知り合いだったの?」
『あー……まぁな。俺がアイツの面倒見てた時はこーんな小さいガキンチョだったんだけどよ。あん時のサンサラは魔法なんか見習いも良いとこだったんだがなぁ……』
「あ、もしかしてそれで私に憑いて来てる?」
『そういうこった。生きててくれてんならそれで良いが……ま、昔面倒見た縁だ。育った姿を見たいんだが……っても破壊のヤツと違って400年も前の事だ、忘れられてても仕方ねぇけどな!』
思い出すのは雫とメリアの2人の絆…100年以上も昔の縁は今も2人を繋いでいる。
しかし雫は100代目勇者だが桐士は43代目勇者…生きていたのは400年も過去の話であり、遡る時間が大きいのだ
カラカラと笑う桐士は元から今見せている竹を割ったような性格なのだろう
だが…朝霧は少なからずサンサラの元で暮らしながら彼女の教えを受け続けている、だからその人と成りは知っているのだ。
彼女が今も、1枚の写真を大切に大切に…自室の枕元に置いていることを。
そこに写る自分の隣に立つ彼の姿を…まるで眠る自分を見守って貰うように向けている事を
「……まぁ、いいわ。憑いて来なさい、サンサラ先生のお店はすぐそこよ」
敢えて、ここで朝霧はその事を言わなかった
ここは王都の一番通…朝霧が目指していた『メールウィ魔法店』はすぐそこであった
ー
「ちょっと初耳よそれっ!なんで私に秘密でそんなことしてるのかしらあの2人っ!?」
「まぁ落ち着きなさいサギリ……私もついさっきザッカーから教えられたばかりなのよ?もう……お祝いくらいしてあげないとだめね?」
「まさか耀にそこまでの度胸があるなんて思わなかったわ…!いやルルエラが仕掛けたのも予想外っ……でもないわね…そういえばあの子、結構食い気味に迫るタイプだったわ」
「ちなみに、サギリの言う通りで今回仕掛けたのはルルエラの方よ?大胆にもシースルーのベビードールで……ふふっ、素敵ねぇ」
「大胆……っ!恐ろしい子ねルルエラ…!私もそこまでは考えてなかったわ…!」
「はぁ……いつもしっかりしてるのに、ジンドーが絡むと抜けるのよねぇこの子…」
サンサラが深ぁい溜め息を漏らしたことに朝霧は気が付いていなかった…!
相変わらずオフショルダーのワンピース風に腹部を鮮やかな布地で、きゅっ、と巻いたウィッチスタイルはしっかりと脛の辺りまで丈があるにも関わらず彼女の美しく艶かしい体付きを見せるような出で立ちだ。
秋だからなのかその上から肩にショールを羽織っており、僅かな垂れ目と小さな泣き黒子、明るい紫色の髪は朝霧よりも長く大人の女性としての魅力を全面に押し出している
ちなみに朝霧に憑いて同行している秋島桐士はサンサラを目の当たりにして顎が外れたような珍妙な顔で驚きまくっていた。
それはもう目を真ん丸にして『これが……あのサラか…!?別人だぞおい……!あんな痩せたちんちくりんが…育ちすぎだろ…!』と戦慄を露にしている…どうやら彼の知るサンサラ・メールウィは背も延びていない痩せた少女だったらしい
ラウラには少し届かないながらも、女性としては長身に起伏の富んだ肢体、落ち着いた大人の空気を醸し出し余裕ある色気すら感じる雰囲気と装いは、昔の姿しか知らない桐士からすれば晴天の霹靂だった。
あと愛称は『サラ』らしい……ちなみに、これは彼女の400年を越える生涯で産みの親と彼以外に呼ばせたことが無い事を桐士が知るのは少し先の話である
そんなサンサラは店を当たり前のように『準備中』と札を書けて施錠し、朝霧を招き入れて店置くにある自宅部分へと招き入れていた
今日は恒例とも言える魔法の修練の日…朝霧は定期的にサンサラの元に通い詰めて魔法の下地をひたすら固めていた。
応用は先で、まずは基礎……サンサラ独自の操り方や理論を元に自分の形に叩き直すことを日々繰り返しているのだ
そこから…自らの手でオリジナルの魔法を編み出す
朝霧の魔法の発想は趣味のゲーム等から引っ張ってきている為、この世界の発想から生まれた魔法とはかなり違う。
だからこそ効果が高い、完成した魔法へのイメージが容易く行えるのは魔法創造の最たるメリットなのだ
そんな彼女も、どうにも彼方が絡むと普段の凛としたしっかり者の空気が音を立てて抜けてしまう…普段なら朝に眠りこけるサンサラを冷却して叩き起こすくらいしっかり者なのに…
そう、話はサンサラにザッカーからの連絡が入ったのが原因だった
ー
『今ねぇ、会ってきたんだけど…ありゃ凄い。ヨウ君とは思えないくらいの男気だね』
『ちょっとザッカー…まさか覗いてないでしょうね?』
『まさかまさか……普通に顔を会わせただけさ。以前とは丸で別物……ルルエラちゃん、頑張ったんだねぇ』
『あの子、珍しいくらい真っ直ぐな娘なんだから……ちゃんと幸せならそれでいいの。それにしても、やっとくっついたのねぇ…』
『ほーんと…やっとだね。次に会う時はお祝いかな?』
『そうねー……って、ちゃんと避妊してるのよね…?勢いあまって、なんて幸せになれないわよ?』
『そこはラウラちゃんが考えてくれてるさ。なにせルルエラはラウラちゃんの一番弟子だからねぇ、悪いようにはしないとも』
『……ラウラもリミッター外れると少し抜けるんだから、少し心配よ。ジンドーとくっついてから昔よりこう…ぽわぽわしてるのよねぇ』
『陰が差してた部分が晴れたんだろうね。ま、ラウラちゃんが付いてれば取り敢えずあの2人は大丈夫だ。……さて、遅れてるのは姐さんだけかな?』
『ちょっといきなり失礼なこと言わないで……あなたとレオルドが残ってるじゃない。私は当の昔に想い人は諦めたのよ』
『え、知らない?レオルドは奥さんいるけど』
『……は?』
『おじさんも一応、既婚者だよ?』
『い、いやそんな………し、知らされてないわよ…』
『ほら、カナタ君の世界だとこういうのを教えると死にやすくなるジンクスがあるらしいし』
ー
「こ、こほんっ……とにかく!…今はヨウとルルエラは初夜の真っ最中なの、お祝いでも用意しましょ?」
「そうですね…何かアクセサリーのような物とか送りたいです。既製品とかではなく、手作りとか……」
「ふふっ、いい子ねぇ。なら、今日はモノ作りにしましょ?せっかくなら…そうね、いざという時に役立つものかしら」
友人2人への曇りない想いを言葉にする朝霧に微笑ましく思うサンサラは今日の魔法修練を無しに、代わりに朝霧から結ばれたあの2人へ送る贈り物造りへと変えた
今日の魔法店は終日閉店が決まった瞬間である
この店はサンサラの機嫌次第で開いたり閉まったりするのだ
サンサラが自室へと朝霧を招き入れる。
広い部屋だ、大きなベッドと丸机、絨毯、チェストが並ぶ部屋であり色々なものが飾られている。
希少な素材、杖、魔道具等…彼女が魔女と呼ばれるに似合う部屋の景色は朝霧にとって既に見慣れたものだった
絨毯に置かれたクッションに朝霧を座らせたサンサラはチェストは片っ端から開けては中身を見て「う~ん…微妙ねぇ…サギリらしい物……」とぶつぶつ言いながら何かを探しているらしい
ガシャガシャ、ゴソゴソと何かをひっくり返す音に朝霧を首をかしげるが、ようやく「あっ、これかしら?」とサンサラは何かを両手にして持ってきた
「これって……大きい鉄細工?」
「そう、アミュレットの雛型よ。形はこの中から朝霧の好きなものにしなさいな。どれも二つ一組で同じ形、素材も悪くないわ」
「アミュレット……お守りですか?この世界にもあるのね、お守り……でもせっかくなら私が何か作ってあげたいです。その、先生から貰ったものを渡すというのも…」
「まぁまぁ早とちりしないの。これからサギリが選んだアミュレットに、貴女が魔法を刻むのよ。ただの願掛けなんてまやかし……本物の『守る力』を込めるの」
「それって…魔道具を造る、ってことですかっ?わ、私そんなの全く経験ないけれど……出きるかしら……」
「サギリなら出来るわ、だって私が教えるんだもの。でも…魔道具とは少し違うものよ?普通の物を渡しても面白くないでしょ?」
悪戯な笑みを柔らかく浮かべるサンサラ
彼女にそう言われると、自然と安心してしまう
こうして朝霧の初めての魔法系アイテム造りが始まったのであった
ー
『おい零界の!そこはそうじゃねぇ!いいか、もっと直線的に術式を引かなきゃだめだ。六芒星の外線が円形にたわんでる!』
「そう、その調子よサギリ。術式線が集中して重ならないように、でも形は崩さずに線を引くの。初心者ならこのやり方が間違いないわ」
『あ、待て待て!それは遠隔起動に使う術式部分だろ?もっと輪郭を強く出さないと起動時にムラが出るぞ!』
「よしよし…そうよ。貴女の魔力命令を受けとる部位だから、そこは少し大きめでやんわりと描くの。これならある程度の命令差があっても誤作動が無くなるからね」
『おいそこをそんな大きくしなければもうひとつ術式が入るだろ…そんなにスペース贅沢に使うなんて、せっかくならもっと詰め込んで…!』
「良いわね…贅沢に使いましょ?初心の内はしっかりと、1つの力を強力に使える方が効果的に抜群なの。あれもこれも、って詰め込むのはもっと慣れてからね?」
(うるっっさいわねー横から……。サンサラ先生に見えてないからいいけど、私が聞こえないから静かにしてなさいよ…!集中出来ないわねもうっ……!)
……朝霧の耳に飛び込んでくる2つの教え方は大まかに同じではあるものの細部がかなり異なっていた。
どちらも選んだ鉄細工に魔法の術式や仕掛けを施して魔法効果を付与する工程なのだが…サンサラが優しく手ずから教えるやり方は効果が強く初心者向けで安定的、しかし多機能性などはかなり控えめだ
そして隣から煩くその工程にやいやい騒いでいる秋島桐士が言う工程は複雑で緻密、間違えればそもそも機能しない程に精密で無駄がないが難易度高く使いこなせなければ実用性が下がりかねないもの
当然ながら作業している朝霧にとってサンサラのやり方がとにかく向いていた。
彼女にとっては初の手作り魔道具…しかも友人への祝いの品だ、失敗したくないのだ
しかしモノ作り系勇者らしい秋島桐士は隣でぎゃーぎゃー言いながら頭を抱えている…頭を抱えたいのは朝霧の方であった。
鬱陶しくて仕方がないのだ…頼むから静かにしてて欲しい
「しかし良いわね……人が結ばれる瞬間はいつ見ても幸せな気持ちになれるの。サギリもジンドーと結ばれた時は教えなさい、ちゃんとお祝いしてあげなきゃ、ね?」
「そ、それはっ…あ、ありがとうございます。私も…耀とルルエラが結ばれたのは凄く嬉しいです。ただの友人…と言うには足りないくらい大事な2人ですから」
「大切になさい。そういう人達は宝……決して手放してはダメよ?この世界は今も安全ではないから、あわよくば…あの2人の子供や孫が見れればいいわねぇ」
「気が早いような気も……いや、きっとそうでもないんですね…。この世界だとそれすら難しかった、というのは…やっぱり私の世界とは違います」
「そう…どんなに大切な人でも、ある日突然消えてしまうの。そんなことが当たり前に起こる世界だから、サギリのジンドーに向けたアプローチは正解なのよ?ぐいぐい行きなさいな」
朗らかに笑うサンサラに少し恥ずかしい気分になる朝霧だったが…その奥にある一筋の寂しさが見えてしまうのだ
それはサンサラと少なからず寝食まで共にして彼女の教えを受けてきたからこそ、なのかもしれない
知恵、と言うよりも…まるでそれを経験してきたかのような……
「…サンサラ先生にも、居たんですか?」
聞いてしまった
なんとなく、既に分かっているのに…聞かずにはいられなかった
その一言にサンサラは手を止めて…自嘲気味に笑った
「…そうね。1人だけ居たわ、この長い人生の中で…1人だけ、私の全てを捧げても良いと思った人がね?出会ったのは400年も昔……私がなにも出来ない、子供だった時なの」
ぴた……と、朝霧が作成するアミュレットに文句を言い続けていた霊魂となった桐士が動きを止めた
彼の姿も見えず、声も聞こえないサンサラだが…おもむろに自らの首にかけられたチェーンをゆっくりと外して持ち上げると…肩の出た服の胸元に覗く柔らかな胸の谷間に繋がるそれを引き抜くようにして姿を表した
3枚のメダルだ
中心にチェーンが通された500円玉よりも少し大きめのメダル…前後には緻密で複雑怪奇な幾何学模様が刻み込まれている。
かなりの年季が入っていそうにも拘らず光を返すほどしっかり手入れされたそれを手のひらに乗せて見せた
よく見ればチェーンに見えるのは非常に細かな鉄の糸のようなものが束ねられて出来ているのが近くで見て分かる。
かなり変わった作り方…いや、そもそも鎖ですらなく柔軟な鉄の糸など普通の作り方では不可能とすら言える
それを見て動揺したのはではなく桐士の方だった…
固まる声で『お前……まだそんなモン持って……』と呆然と呟いたのだ、まるで見覚えがあるかのような反応であった
そのメダルにどれ程の思い入れがあるのか、柔らかくて撫でる彼女の指の動きはまるで宝物を労るようですらある
「…この遠隔起動魔法式、『仮想展開』を教えてくれた人よ。他にも沢山の魔法の使い方を教えてくれた……私が魔法使いとして大成出来た、始まりの人。それが私の初恋で、今も続いてる片思い……その人は死んでしまったのだけどね」
「その人って…やっぱり……んっ」
「だーめ。皆には内緒よっ?私はその人以外に心も、この体も許す気はないの。だからこれから先…きっと私は1人だけ。だから貴女達が繋ぐ命の先を見たい……サギリ、貴女の先も楽しみにしているわ」
その名前を言いかけた朝霧の唇に指を添えて止めるサンサラはちょっとはにかんで見せた
分からない訳がない…彼女の枕元に置かれた唯一の写真に写る、小さな少女と青年のツーショット。
片時も離さないとばかりに、自身の首から下げて心臓に近い胸の谷間にしっかり挟んで身に付けている、鉄の糸を編んだチェーンとメダル
答えなど分かりきってる
朝霧は言いかけた…勇者達は甦り始めた事を
サンサラはまだ知らないのだ
ラウラを含めた彼方のパートナー達と、そして地球人組にしか伝えられていない極秘情報…
『Re・Birth』は稼働を開始し、死に絶えたかつての勇者は再び肉体を取り戻すだろうことを
もしかしたら…会えるのではないのか
かつてサンサラを救い、魔法を伝え、命をかけて守った彼に………
しかし、朝霧の開きかけた口を本人が止めた
『零界の……それは言うな。頼む』
(それは………でもこれじゃあ、あんまりにも…!)
『バカヤロウ……お前に先出しされちゃ、俺の立つ瀬がねぇっての』
(………え…?)
『……俺は用が出来たから戻る。ちょいと……黒鉄に頼まないといけない事が出来た。はぁ……俺は後の方でも問題ねぇって言っちまったのになぁ』
朝霧はまだ知らなかった
彼方と勇者達との会合により、その順番が決められている事を
ふっ、と桐士気配が消えた
彼方の制作物が繋ぐ魔力の線に乗って、別の場所へと移動したのだろう
それを朝霧は振り替えること無く静かに見送った…彼が最後に言った言葉の意味は分からないが、何故か良い予感がしたのだ
「さぁ、続きをしましょ?懐かしむ為に見せただけじゃないの、これはその彼が私に送ってくれたアミュレットでね?メダルに刻まれた術式は製作者本人が中距離から魔力を送り込むことで起動する…サギリが今造ってるのも、これよ」
「魔道具とは少し違うんですね…確か魔道具は装備者が魔力を与えて起動するモノだったはずです。でも、これは…」
「そう、装備者にとってはただのお守り…アミュレットの周囲50m以内で製作者が魔力を繋げることで初めて起動するの。その分、魔法の起動や出力は魔道具よりも桁違いよ?ただし…サギリが近くに居ないと本当にただのアクセサリーね」
「なら、サンサラ先生のそのアミュレットは……」
「…もう二度と、起動することはないわ。造ってくれた彼が近くに居て、魔力を送らないと動くことは決してない……それでも、手放せないのよね…。まぁ、さておき…サギリがあの2人の近くに居れば少しの魔法はこのアミュレットから遠隔起動出来るようになるの。これから先、きっと役に立つわ」
魔法は自身の周囲でのみ、術式を編み顕現させられる
そうでなければ非常に遠方から魔法そのものを出現させて攻撃、なんて非常識な真似が起こってしまうのだ。
故に普通は手元や精神、体内で魔法の術式を完成させてから起動し魔法へと至る
これを、ある程度自分から離れた場所へと術式を展開して魔法の起動できる技術が存在した
それが『術式仮想展開』
何かの触媒となる物質、順物質性体に術式を刻んで遠くに置いておく事でその場所からでも魔法を放つことが出来るようになる、言わば魔法の術式を遠隔操する為の魔法技術。
手から、体の周囲からしか放てない魔法がその術式を刻んだ場所から起動可能となるのだ
魔道具と似ているが、かなり性質が違う。
魔道具は込められた魔法の機能を持たされた道具であり、言わばゼンマイを巻けば動く人形と同じだ。
魔力を込めて使えば必ずその機能が使える、しかしその機能を越えることは決して行えない
術式仮想展開は魔道具から利便性を落とす事となる。
術式を刻み、そこに自分の魔力と繋げる事でのみ起動できるものであり他者の魔力では起動しない。
しかし魔道具に刻む術式とは根本が事なり、ある程度の自由度と汎用性、出力調整が発動者によってリアルタイムで行える…言わば操作可能なラジコンのようなものである
朝霧は知らずのうちにサンサラから教えられたこれを応用した魔法を使っていた。
聖都戦にて彼女が使用していた、ビット兵器のように追従させていたクリスタル状の氷結晶から冷凍ビームを撃ちまくっていたのが、まさにこの技術の凡例だ
その極致の1つこそが……ペルトゥラス・クラリウスの奥義『
自分が産み出す風の大蛇に向け自分と同等の魔法発動可能な術式を、風に織り込むという絶技を10体同時に行う離れ業…彼女の才覚とセンス、努力によってのみ実現可能となる奥義だ
その通りで、使い手にかかれば魔法の打ち手が2倍3倍にも膨れるような魔法技術である。
それをお守りに刻んで相手に渡せば…自分の魔力が接続できる距離にいる限り、そのお守りから魔法をある程度発動できるのだ
しかし魔力で自分と刻んだ術式とを繋げなければならない…その距離は術者にもよるだろうが、朝霧の場合はサンサラの見立てで約50mの距離、それほど強力な魔法でなければ発動可能となる
これを刻むのは非常に難しい…まともに作用するよう造るには専用の熟練の魔法使いが必要となる。
平然と教え、平然と作業を開始した2人だが普通の魔法使いから見れば意味不明な光景であった。
それ程の難易度と専門工程が介在する高難易度の魔法技能なのである
こうして、サンサラの手ずからの教えにより朝霧は夕方には美しい氷の結晶にも似た一対のアミュレットを完成させたのであった
……ちなみに、普通の専門魔法使いなら完成させられるのは20日程はかかるらしい
ーーー
草原を一閃の瑠璃色に瞬く稲妻が駆け抜けた
その直線上の草は瞬時に黒く焼け焦げた後になり、大地に放射状の稲妻が駆け抜ける跡が広がる……そこに込められた莫大な熱量は無差別に地面を引き裂く
彼女……猫耳とふわふわの尻尾の少女は雷光一閃と化して槍の一撃が如く異常な速度をそのままに、紅蓮の魔力を噴火させるように放つ存在へと向けて猛突した
雷速とも見える速度を保持したまま……マウラは無尽の魔力をふんだんに使い加速の勢いのまま飛び様の蹴撃を放つ。
衝撃が彼女に遅れて周囲の大地を一直線に吹き飛ばす速さで放たれる稲妻の蹴撃は……
「っ………!!?」
片手で止められた
マウラのいつも眠そうに和らぐ目が見開かれる
自分の足の裏を正面から掴むようにして、たった1本の腕がこの一撃を受け止めたのだ。
柔な一撃ではない、受け止めた彼女の足元はその際の衝撃で根こそぎ吹き飛び土と粉塵を巻き上げる
どれ程の威力と衝撃をその体で受け止めたのか計り知れないが…それでも勢いを受け止めた筈の彼女の両足は一歩として後ろに下がっていなかった
掴まれたマウラの脚は、そのまま横スイングで棒でも振りきるように思い切り投げ飛ばされ地面の水平に吹き飛ぶマウラは強烈なGに無理矢理抗って体勢を整えると地に足が着く前に轟音と共に顕現させた瑠璃色に爆ぜる雷の槍を、体を捻るようにして思い切り投擲した
当たれば雷撃が爆裂して周囲を焼き付くしていく必滅の雷槍が一条の稲妻のように飛翔し……
ーー バ ヂ ン ッ ッ !!
……紅蓮の魔力を纏う少女の裏拳が、ただの一撃で真横から雷槍を殴り飛ばして軌道を斜めに思い切り弾き飛ばしたのだ
直撃する筈だった雷槍は斜め後方へと外れて地面に打ち込まれ…瑠璃色の稲妻が間欠泉のように爆散し、周囲の全てを破壊し尽くした。
そんな青の光を背景に…深紅を越えて紅蓮に見える魔力を放つ彼女が、雷槍を弾いて少し煙を漂わせる握った拳を振ってその煙を掻き消す
その姿に、さしものマウラも頬をひきつらせた
「…手応えを、感じます。やはりカナタが教えてくれた事に間違えはありませんでした。……これが私の次のステージ…使いこなして見せます、必ず」
一方的にマウラの猛撃を受け弾いた少女……シオンは傷1つ、火傷1つも負わずに落ち着き払った声で確かめるように言ったのだった
それを見ていたペトラも興奮か戦慄に震えるような声で呆然と言葉を漏らした
「は、ははっ……どんな教え方をすればこうなる…カナタめ…!」
3人揃っての修練を行っている…これはカナタの家に住んでいた時からの恒例であり、王都に移ってからも必ず欠かさず行っているものだ
カナタから止められていた特異魔法の訓練をしていたのも、さまざまな魔法の開発と試し撃ちをしたのもこのような場での事。
特に彼が勇者と呼ばれる男と分かってから、戦いの運命が待っていると分かってからは取る時間も長くなってきていた
そんないつも通りの修練で……シオンの戦闘能力が激変していた
これまでは肉弾戦でマウラと戦う時、少なからず彼女に追従して受け流し、反撃へ繋げるように戦っていたシオンは今日の修練ではかなり違う動きを見せたのだ
マウラを追うことを早々に止めたのである
速度は完全にマウラの独壇場で、その勢いに任せた一撃は強烈…まともに受けるのは悪手である筈のそれを、シオンはまるで避けようとも受け流そうともしなかった。
最初はマウラの近接戦魔法『雷迅掌』を放たれた時の事……普段ならば避ける、または接近そのものを阻止する動きをしていたシオンはこれを真正面から殴り飛ばしたのだ
マウラの掌からゼロ距離で撃ち込まれる雷の衝撃を、紅蓮の魔力でギッチリと固めた右の拳撃により真正面から撃ち抜き、逆にマウラを弾き飛ばして見せた…ちなみにこの時のマウラの驚き方は結構なものだった
雷迅掌をまともに撃った彼女の拳は…無傷
受けたマウラの掌は信じられない程の馬鹿力とインパクトでジンジンと痺れを残す…つまり完全にシオンとの打ち合いで負けたことを意味していた。
当然だが本気ではない、殺し合いではないのだから…しかし手を抜いた訳でもないのだ
今のシオンは明らかにパワーと撃たれ強さのレベルが以前と段違いに跳ね上がっている…それを、シオンはしっかりと語って見せた
「最近はどうにも自分の強さが分からなかったんです……マウラのように他を置き去りにする速さも無く、ペトラのように多様な魔法を戦況に合わせて組み合わせることも出来ない…。それをカナタに相談しました……それで、やめたんです。マウラに追い付くことも、ペトラに合わせる事も……必要なのは汎用ではなく特化、それをカナタが教えてくれました」
伸び悩んでいたのは感じていた…受けに限界がある以上、耐久や防御と言うのは長所としてなかなか厳しい。
特に相手とする存在が火力にインフレしている現状でシオンの防御能力とパワーではかなり戦うのが厳しい相手が立ちはだかってきた
様々な魔法と唯一無二の消滅を操るペトラと、無尽の魔力と魔神族の三魔将を除き圧倒して見せる神速を誇るマウラ……2人の力は明らかに通用していた
だが、シオンは力不足を痛烈に感じていた…
寄生型魔蟲の奇襲をもろに受け、聖都では魔神族殲滅を支援に回りペトラに一任、マウラのように耀やルルエラ、朝霧達の支援にも回れずガランドーサに堕とされ拐われる直前まで…。
悩んでいたのだ、それをカナタに打ち明けた結果が……
「せいっ!!」
ーーハゴォォォォンンッッ!!
「んんっ……!?!?」
(いや、そうはならんだろう!?)
紅蓮の魔力を渦巻かせたシオンの振り抜いた拳撃の衝撃波が、大地ごと根こそぎに粉砕する。
ただ腕を振るうだけで地形を力業で変形させ、その度に大地が揺れ動き、巨大な隕石が地面を引きずって落ちたかのような破壊の景色を作り出す
辛うじて凄まじい反抗速度により回避したマウラに向けて、右足をゆっくりと上げて思い切り足の裏を地面に叩き付ける震脚を放つシオンはその一撃により自身を中心とした100m近くをクレーター状に消し飛ばした。
今までならば魔法による爆炎を纏い実現させていた破壊力を、ただの強化状態だけで息も乱さず乱発してくるようになったシオンに「えー……」と表情が固まるペトラ
挙げ句、マウラが牽制で放つ雷撃を拳撃一蹴により全て弾き返して進み電撃は体を這うことすら気にも止めず、襲来するマウラの神速からの一撃を殴り飛ばして押し通る…まるで3人の師を見るかのような正真正銘の怪物と化していたのだ
「あ、ぶな……まっ……ちょ……アッ……!!?」
……なにやらマウラのちょっとした悲鳴が聞こえてくる気がする
そりゃそうだ…神速で避けようとしてるマウラに対して範囲攻撃を連発してくるのだから、彼女からしたら嫌に決まっていた
まるで超装甲を施した重戦車が大砲を乱れ撃ちしながら近づいてくるようなものだ、相手をしたくないにも程がある
これでまだ、まともに戦闘用の力を引き出していないと言うのだから彼女の力の目覚め方は壮絶だ。
カナタによる一対一のお悩み相談がここまで効果的ともなると…ペトラもつい気になってしまう
三魔将への圧倒的力不足、四魔龍への対抗手段の無さ…ここぞという戦場で守られるような存在ではいられないのだ。
まずは三魔将の教え子を討つ…そこからカナタ達に守られ続けずに自衛くらいは出来なければ話になら無いのだ
(力不足……いや、綺麗に言ってもしかたあるまい。足手まといだ……聖都での我らは明らかにカナタやラウラさんの手間を増やしていた…。足りんのだ、根本的に…実力が……!変わらねばならん……我も…!)
ペトラはそれを強く確信していた
同時に…マウラも、シオンからの攻撃を雷光を纏って回避し続けながら思う
(っ……これくらい飛び抜けなきゃダメ…っ!……ガランドーサに簡単にやられた……逃げ切るくらい出来なきゃ…!…シオンは変わった…私だって……!)
その思いが……2人を更に先へと連れていく
彼女達の努力と、才能と……そしてその体に流れる偉大な祖先の血は、決して裏切ることは無い
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【後書き】
ーー驚いた…本当に驚きました
まさかある1話のワンシーンでのみ名前だけ登場した彼とサンサラの繋がりを覚えていて前話でそれを書いた読者の方が居るとは
タイムリーどころでは無く、今話の直前にドンピシャでその繋がりを持ち出されて少し動揺した程です
残る愛や繋がりの物語は耀君だけではありません
まだ彼女も残っています
ここまでサンサラに敢えて専用のフォーカスを当ててこなかった理由は…まぁその通りです
長い目で、楽しみにしていただければと思います
この物語はカナタ君を中心とした皆が幸せになることを考えていますので
あ、ちなみに勇者パーティの男性陣2人は既婚者ですよ?
いやぁ、やはりイケてる奴らはその辺しっかりしてるんですよねぇ
え?
「ならその2人は何人の奥さんが居るんだ」…って?
そこはまぁ……今後をお楽しみに!
一応言うと……カナタ君程ではないかな?
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