100回キスしないと出られない部屋。
タイトルがすべて。ドウシテコウナッタ
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「みのり、みのり起きて」
「……えへへ、サーモンいっぱい……」
「どんな夢見てるんだろう……寝顔も可愛いけど……みのり起きて?」
「……はるかちゃん……わたしもう、サーモンたべられないよ……」
「私もいるの? ……起こすの心苦しいけど……みのり、みのりっ」
ゆさゆさと体を揺すると、ベッドの上で横たえていたみのりが「んぅ……?」と身じろぎする。ようやく目覚めたお姫様に安堵しながら、遥もベッドのわきに腰を下ろした。
「ふぁ~……あれ? 遥、ちゃん?」
「おはようみのり」
「うん、おはよ…………ん? おおお起きてすぐに遥ちゃんの尊すぎる笑顔が見れるなんて、これが二重夢というものですか!? わたし初めて体験しちゃったかも!?」
「うーんとね、その質問への返事はちょっと難しいんだ。まわりを見てみて」
言われるままに周囲を見回したみのりが、銀色の瞳をくりりと丸くする。
あれれ? というみのりの疑念に強い共感を抱きながら遥は苦笑した。
「知らないベッド、真っ白なお部屋、窓も扉もなくて、遥ちゃんと二人きり……」
「最初は私も夢かなって思ったんだけど、どうやら違うみたいなんだ。目を覚ましたら気づいたらここにいて、しかもみのりが隣で眠っていて……」
苦笑する遥の腕には強くつねった赤い痕があった。痛みを感じるから夢じゃない。ベタだけれど他に立証する方法もないのだ。
ひとまず何か探してみよう、という遥の提案で部屋を散策し始める。
――もしかしてここもセカイなのかな。
――ミク達と出会った時みたいに、不思議な出来事が起こり始めているのかも。
――でも遥ちゃんが一緒で良かった。一人だと不安でいっぱいだったよ。
――私もみのりがいて心強いよ。みのりと一緒だと元気になれるしね。
そんな言葉を交わしながら、なぜか置かれているベッドや机、冷蔵庫(寝室のような部屋なのになぜ冷蔵庫?)などを漁っていると――
「……え、えええっ!?」
「みのり、何か見つけたの?」
「……遥ちゃん、こ、こんな紙が……っ」
『100回キスをしないと出られない部屋』
――――もう一度強く腕をつねる遥を、みのりが慌てて取り押さえるのだった。
♪
RPGの勇者ばりに散策するも、他に手がかりになりそうなものは無し。
冗談みたいな内容が書かれた紙をテーブルに置いた遥は、もう一度ベッドへと腰を下ろした。すぐ隣に座るみのりは――明らかに挙動不審になってしまったけれど。
「壁を無理やり壊すこともできなさそうだし、今、頼れる情報があるとすればこのメモ書きくらいだね……」
「……う、うん……」
「でもどうしよっか。100回もキスするなんて」
「…………うん……」
リンゴみたいに顔を真っ赤にして俯くみのり。そんな姿を可愛いなぁと思いつつも、遥は本気で頭を悩ませていた。
大前提として――ただの友達であり、仲間である彼女に100回もキスするなんて。
そんなの、遥の中にある恋心をこれ以上誤魔化せる気がしない。
しかしこのメモ書きを信じたところで、本当に部屋から出られる保証もないのだ。
(……それでも、いつまでも囚われているわけにもいかないよね)
遥は硬直したみのりの右手をそっと手に取り――
「は、遥ちゃん!?」
「――んっ」
……その手の甲に唇を触れさせた。あくまで軽くだけれど。
騎士が姫へ捧げるような、少しきざなキス。繋いだ手のひらを通じてみのりの体温が上昇するのを感じながら、遥は小さく苦笑する。
「これで一回だね」
「……あっ、そ、そっか! どこにキスしないとダメか、なんて書いてないもんね!」
「そうそう。だからこうして、適当な場所に唇を触れさせて脱出しちゃおっか」
遥がにこっと微笑みかけると、みのりも――顔こそ紅く熟れさせたままだったが、こくりと頷いてくれた。
とはいえ雑にキスするなんて有り得ないけど、と心の内で呟く。
みのりの肌に唇を触れさせるんだ。たとえ手の甲でもドキドキしたし、体が震えてしまわないよう気を遣うのでいっぱいいっぱいで、しかも口づけをしてみれば彼女は――驚きながらもこの上なく幸せそうに顔を赤くする。
密室。二人きり。おあつらえ向きにベッドまである。
流石の遥も、雑念が過らないと言えば嘘になる。
(……理性的でいないと。あくまで意味わからない現状を打開するための……)
そう遥が自分に言い聞かせた瞬間だった。
「じゃ、じゃああと99回だね!!」
「へっ?」
――みのりが、遥の正面に回り込んで膝立ちしていた。
しかも無防備に晒していた左手を、両手でギュッと握られている。一切予想していなかった仕草に理解が追いつく前に――――それは始まった。
「ん、んっ! ん……!」
「ひゃっ……」
みのりの唇が、ちゅ、ちゅ、と遥の左手に触れては離れてを繰り返し始めたのだ。
瑞々しいみのりの唇が手の甲とこすれる。ふにと柔らかな感触。湿った吐息がかかって……、
「ん……あと95回……んっ」
「み、みのり待って……っ」
遥の声が聞こえていない……はずはないけれど、みのりは一生懸命に遥の左手へ口づけを捧げてくれる。そのたびに、遥は自分の頬に熱がこもるのを自覚した。
手の甲だ。別に大したことないはず……なんて言い切れない。
だってそれは、片想いしている相手からの口づけ。
そんなみのりを見下ろしていると――上目遣いに様子を伺う彼女と目が合って。
「……みのり、続けられる?」
「ん……! んちゅ、んっ」
「……あと90回かな」
「……そんなにいっぱい……で、でもわたし、頑張るからね! 遥ちゃんがここから出られるように! でも遥ちゃんを傷つけないように、手とか指とかに、その、たくさんキスします、ので!」
――――こんな状況でも、じゃないんだ。
こんな状況だからこそ、みのりは遥のことを気遣ってくれる。いつもそうだ。遥が想像する以上の善意や好意、優しさ、暖かさ……眩しい希望で遥に手を差し伸べてくれる。頭痛がするような状況でも『花里みのり』は変わらない。
だからこそ、遥は委ねるように左手を差し出した。
「辛かったらすぐに言ってね?」
「遥ちゃんもだからね。……早速ですけど、手の甲ばっかりは、いや、だよね?」
「そんなことない……っていうと語弊があるかもしれないけど、みのりのことを嫌だと思うことはないよ」
「……遥ちゃん」
「でも何度も同じ場所はあんまりだよね。……指に、してみる?」
人差し指を差し出してみる。
するとみのりは――両手で遥の手を包み込んで、人差し指を唇で食んだ。
「ん、んんぅ」
「……っ!」
「……ん、んむ、遥ちゃん……ん」
指の先から、爪を吸うように。関節に唇が擦りつけられたかと思えば、付け根にぎゅっと唇が押し付けられる。丁寧に、少しずつ、まるで遥を味わうみたいに……。
そんな風に懸命に遥の手を口に含む彼女を、ベッドに腰掛けて見下ろす。
顔があまりにも熱い。頭が少し、ぼうっとしてきた。
キスはあと、83回。
「……遥ちゃん、ごめん、他の指も……」
「いいよ。みのりのしたいようにしてみて。嫌だったらちゃんと言うから」
「うんっ……ん、んんっ」
脱力させた左手のひらにぎゅっとキスが注がれる。遥が「っ」と体を震わせるのをみのりは見逃さなかった。人差し指。中指。薬指。小指。一本ずつ丁寧に、宝石を扱うように手で触れて、キスを捧げて。
もう左手にみのりの唇が触れてない場所なんてない。
全部ぜんぶ、堪能されてしまう。
そうしてみのりが再び人差し指に触れた瞬間――ほんの少しの好奇心が、遥を突き動かした。
「みのり」
「ん、ぅっ……!?」
――唇を割るように、人差し指を押し付ける。
不意打ちだったせいか簡単にみのりの口へ指が入ってしまい……熱く湿った舌が、遥の指につんと触れた。
目を真ん丸にしながら、上目遣いで遥を見やる彼女。
真っ赤に染まり上がった顔と潤んだ瞳と、その奥に少し灯った……妖しい火種。
みのりのそんな眼差しが、遥のいけない衝動を加速させていく。
「……指、なめてみて?」
「ん……んちゅっ……っ」
……従順なみのりの舌が、遥の指を絡めとる。
ちろと舐め挙げられたかと思えば、ちゅうと指先に吸い付かれて。
「んん、ふぁ、ん、はるかちゃん……んん……っ」
「みのり……うん、上手……」
指に絡みつく熱い唾液の独特な感触。付け根まで口の中へと含んで、時折遥を見上げながら懸命に……まるで何かに奉仕するかのように指をちゅうちゅうと食んでいく。そんなみのりをぼうっと見下ろしていた時だった。
「ん、ふぁ…………遥ちゃん、もしかして、気持ちいいの?」
「へっ?」
頭が完全に熱に浮かされていた。だからこそ、その問いかけに不意を打たれたように息が詰まってしまう。
指を舐められる。そのことに自分が一体、何を感じていたのか。
この行為自体にきっと意味はない。ただ、みのりが自分のために何かしてくれるということが……想いが通じ合っているみたいで、嬉しくて……。
「――っ!」
「……遥ちゃん、顔、そらさないで?」
「み、のり、やだ、見つめないで……」
「……今の遥ちゃん、すごい、何て言えばいいのかな……」
唾液に濡れた手をお構いなしに握ったみのりが、少し腰を上げる。そのままギュッと指を絡めるように握ってくる。
「……かわいい」
「っ!」
「かわいい、遥ちゃん……遥ちゃんもこんな顔するんだ……」
それはこっちの台詞だ、と遥は脳内で反論する。けれど言葉にできない。だってみのりが反対の手首を掴んで、腕ごと自分の口元へ引き寄せたから。
「みのり……っ」
「たぶん、あと50回くらいだよね……ちゅっ」
手首。腕。肘の裏。少しずつキスをする位置が体に近づいてくる。その分だけみのりと遥の距離も近づいてくる。
ぎし、とベッドが軋んだ。
遥の上に乗るようにベッドへ膝をついて、手をついて、二の腕に顔を寄せて。先ほどつねって赤くなった肌が優しく舌で撫ぜられる。
「ひゃっ!」
思わず口から高い声が漏れた。不可抗力。だってそうだ、二の腕を他の人に触れられるなんて……どころかキスされるほどに身を委ねる経験なんて遥にはない。
「はるかちゃん……っ、遥ちゃん……ッ」
「みのり……ひあっ!」
そんな声がみのりを強く刺激する。
茶色い髪が揺れて甘い香りが鼻先をくすぐる。遥はつい零れる声を必死に抑えた。けれどちろと肌を舐められたかと思えば、腕のわずかな脂肪を食べるみたいに口に含まれて、その度に甘い声が溢れてしまって。
手を伸ばす必要もない距離で熱く揺れる瞳。
「みのり……あ、あのね」
「……遥ちゃん……」
「…………変なお願いかもしれないんだけど……」
……こんな時でさえ、甘えるのが下手な自分の性格を恨む。
どう懇願すればいいのか、どう伝えればいいのか、遥には皆目見当もつかないけれど。
「……遥ちゃん、わたしがんばるよ?」
「みのり……」
「遥ちゃんがしてほしいこと、上手にできないかもしれないけど……でもいっぱい応えられるように、もっともっとがんばるから!」
「あはは……もっともっと頑張られちゃうのは少し困るかな」
きゅっと目の前三十センチで細められる瞳。
そんなみのりの袖を握って、遥は呟いた。
「……キス、したいの」
「……遥ちゃん……」
――――唇と唇を重ね合わせるのに、それ以上の言葉は必要なかった。
「んっ」
「ん……っ」
きゅっと両手を繋いで、指を絡めて繋ぎ合わせながらキスを交わす。体重を少しずつかけながら、角度を変えながら、重ねて、離れて、もう一度重ねて。遥の心臓は今まで経験したことないほどの早鐘を響かせていた。
「……遥ちゃんとキスしちゃった……やっぱり夢みたい……」
名残惜しそうに離れていくみのり。
そんな彼女の腕の中へ、遥は身を預ける。
「……ね、ねぇみのり。こんな時に聞くことじゃないと思うんだけど……そういうことだと思っていいの?」
「へ? そ、そういうことって?」
「察してよ! その……私とみのりは両想いで、いいんだよね?」
今度は遥が彼女を覗き込む番だった。不安な視線を受け止めたみのりは――
「……遥ちゃん、可愛い」
「っ!」
「うん、そうだよ。好きだよ遥ちゃん。好き。好きっ。わたしね、遥ちゃんのこと大好きだよっ」
「ま、待ってみのり、まって!」
「ううん、もう待てない……遥ちゃん大好きっ。大好き……っ!」
「きゃ……っ!」
それは、一度溢れ出したら止まらないと言わんばかりに。
みのりの口から囁かれる無数の好きが、遥の心をぐずぐずに溶かしていく。
彼女の体重を支え切れなかった。ベッドにぽすんと背中から倒れ込むと、みのりがすぐに顔の横に両手をついて……覆いかぶさってきて。
「……遥ちゃんにも言ってほしいな」
「……好きに決まってるでしょ。みのりが好き。みのり、大好きっ」
「…………遥ちゃん……!」
遥が頬に手を伸ばすと、みのりはもう限界だと言わんばかりに瞳を蕩けさせて。
「――んっ。んんっ!」
またキスを交わす。想いが通じ合って初めての口づけ。
遥をベッドへ押し付ける力加減さえ忘れた熱い熱いアプローチに、遥は無自覚のうちにときめいてしまう。
普段から好きだとは何度も言ってくれた。だけど今は偶像への言葉じゃない。息ができなくなるほどの執着。情欲。それをみのりが向けてくれることをこの上なく嬉しく思ってしまう。だけど……。
「ん、んんっ……はるかちゃん、んちゅ……んっ!」
「んぁっ、みのり……んむぅ……っ!?」
みのりの想いが行為になって届けられることを甘く見ていた。
ぷるぷるの唇が幾度も幾度も重なるたびに心臓が破裂しそうなほど高鳴るし、甘い刺激がばちばちと瞬く。いつまでも何度でも応えたい気持ちと、酸欠でくらくらする思考回路の激しい矛盾。限界は程近かった。
「ん、ふぁ……待ってみのり、少し待って!」
「んむぅ……!」
無理やり彼女の口に手を添えてキスを止める。それでもキスしようとするみのりのせいで、手のひらと手の甲に二人分の唇の感触を感じることになって……。
「はぁ、はぁ……っ」
今なら普段みのりが言っている『心臓が爆発しそう』の意味を十全に理解できた。
「遥ちゃん……? あっ、や、やっぱりこんないきなり、嫌だったかな!?」
「ううん、そうじゃなくてね……元々は、100回キスをしてこの部屋から出るのが目的だったでしょ?」
「あ……そういえば……」
「それで思ったんだけど……みのりのキスってすぐ唇離しちゃうから、一回一回が、その、短いんだよね」
「う、うん? そうかも……? あっ、えっと、不満ということですか!?」
「自覚ないんだ……そうじゃなくってね。……このままじゃきっと、すぐに100回になって、この部屋から追い出されちゃうよ?」
みのりが目を真ん丸に見開く。
……変なことを言っている自覚はあったけれど、すぐに目の前の彼女はくすくすと体を揺らした。
「……ふふっ、遥ちゃん、欲張りさんだ」
「もうみのり……」
そうしてみのりが、遥の横にころんと寝転がる。
先ほどまでの熱すぎる瞳はようやく収まって……今はまた違う、甘く柔らかな視線で遥を包み込んでくれる。
広げられた腕の中に身を寄せながら、遥は囁いた。
「……優しくしてね?」
「……うんっ」