世界一甘い糖質制限
だってこれは、遥ちゃんのためだけの、世界一甘い糖質制限。
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みのはるアンソロ「with you.」に寄稿させていただいた原稿のweb再掲です。お手に取っていただいた皆様、主催様、本当にありがとうございました…!
みなさんが心をえぐるような神みのはる小説を寄稿していく中、一人だけラブコメに全振りしてて恥ずかしかったのは、ここだけのお話ということで……。
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「今日は楽しかったね、みのり」
「うん! ゲームセンターで遊んだの久しぶりだったからテンション上がっちゃった! ガンシューティング中の遥ちゃん、とっても格好良かったです……!」
「ふふ、ありがとう。みのりもクレーンゲームどんどん上達してるね。今日もペンギンのぬいぐるみ取ってもらっちゃったし……この子も大切にするよ」
ぎゅっとペンギンのぬいぐるみを抱きしめながら、小声で囁く遥ちゃん。わたしがあまりにも可愛い仕草に心臓を締め付けられつつ、喜んでもらえてよかったと頬を緩めていると……。
「でも今日はみのりとの大切なデートだから、お家に帰るまで待っててね」
そう呟いた遥ちゃんは、ゲームセンターで貰った袋にペンギンさんを大事そうにしまった。
「みのり、はい」
「えへへ……うんっ」
差し伸べられた手に手を重ねると、すぐにきゅっと指を絡めてくれる。普段はアイドルだからできないけど、デートの日だけ特別にしてくれる恋人繋ぎだ。
スマートに手を繋いでくれる遥ちゃん。
でも実は、頬っぺたがほんのり赤くなる遥ちゃん。
わたししか知らない、恋人の遥ちゃん。
アイドルの遥ちゃんも友達の遥ちゃんも勿論素敵だけど、こういう一面を見れた時に胸がキュンとする。
今の幸せ過ぎる関係に『いつか特大の不運が来る前触れなのでは……!?』と不安がっていたら、『今まで不運だった分の帳尻合わせと思っときなさいよ』と愛莉ちゃんに苦笑されちゃったのはこぼれ話だ。
「――ん? 遥ちゃん?」
そうして歩いていた帰り道。
急に手を引かれる感覚に振り返ると、足を止めた遥ちゃんがとあるお店に釘付けになっていた。
「……あのクレープ屋さんがどうかしたの?」
「あ、ごめんねみのり。美味しそうだなと思ってつい」
遥ちゃんは苦笑しながら、
「期間限定で新しい味を出しているんだって。だけどチートデーの周期を考えるとギリギリ食べられなさそうだから、どうしようかと思って」
「そっか。確かに美味しそうだけど……クレープのカロリーを考えると、うかつに手は出せないよね」
「うん。告知見落としちゃってたなぁ……」
小さくため息をつく遥ちゃん。
わたしとのデート中でも、遥ちゃんは糖質制限をきっちり守っている。お付き合いを始めてすぐ、わたしから「恋人だからってデート中でも特別扱いしないでね」と進言したのだ。遥ちゃんはその約束通り、デート中でもきちんと甘い物を我慢しているんだけど……。
「あのね遥ちゃん、答えづらかったら無視してほしいんだけど、チートデーじゃない日に甘いものを食べたくなった時、遥ちゃんはどうしてるの?」
「そうだね……だいぶ長い間続けているから最近は何もしなくても平気だけど、始めたての頃、どうしても我慢できない時はゼリーやドライフルーツを少しだけ食べていたよ。あとはランニングやダンスでとにかく体を動かして、気を紛らわせたり、かな?」
「そっか……。どうしても甘い物が食べたくなったら、無理しちゃダメだからね? 無理し過ぎて体を壊しちゃうのが一番良くないから!」
「うん。雫や愛莉にも怒られちゃうしね」
気をつけるよと苦笑した遥ちゃんは「クレープはまた今度だね」と呟くと、わたしの手を引いて歩き出した。
今まで、ストイックで格好いいなと思っていたけど。
チートデーに一緒にスイーツパラダイスに行ったりして、少しでも甘い物を楽しんでもらおうとがんばってきたけど。
わたしも遥ちゃんの糖質制限の力になれないかな?
♪
「――なんて風にやる気を出したはいいものの、アイデアが出てこなくて早速SOSってワケね」
「おっしゃる通りです!」
翌日のお昼休み!
わたしがメッセージで助けを求めた頼れる先輩こと愛莉ちゃんが、屋上のベンチに背中を預けながらやれやれと溜め息をつく。
「でも確かに、私たちで遥ちゃんの糖質制限そのものに協力しようと思ったことはなかったわね」
もう一人の頼れる先輩、雫ちゃんもお弁当の卵焼きをお箸で切り分けながら苦笑を零した。
「まぁ遥って基本的には一人で何でもこなせちゃうものね。日ごろから完璧に糖質制限できているし、わたし達が手を出す余地があるかと聞かれると……」
「そう! そうなんです! 遥ちゃんは自制心もしっかりしてるし自己研鑽も怠らない完璧で素敵な遥ちゃんなので、実のところわたしに手伝える余地なんて一切ないのでは……という所感でございまして!」
「はいはい。付き合い始めてもアンタは一切変わらないわね……」
「ふふっ、みのりちゃんらしくていいと思うわ」
わたしもお弁当を広げる。愛莉ちゃんは唐揚げをモグモグと口にしてから、
「ん……ようはみのりは、普段みたいに『チートデーの日にデザートを食べに行こう』って誘うのとは違うことがしたいのよね?」
「うん。何かいい案ないかなぁ?」
一応、昨晩アイデアをまとめたノートを見せる。
甘い物が食べられなくても、その寂しさを埋めてあげられるもの。ペンギングッズをプレゼントするのはいいアイデアだと思ったんだけど。
「これはみのりちゃんが大変そうね……」
「あはは、そうなんだよね……。バイト代はアイドル活動に使ってるからあんまり余裕ないし、新しいペンギングッズを何種類も見つけられるか分からないし……」
「プレゼントされる側の遥の部屋も、将来凄いことになるでしょうね……」
遥ちゃんの糖質制限はきっと、アイドルを引退するその日まで続く。すでに可愛いペンギングッズでいっぱいの遥ちゃんの部屋が本物の南極になってしまいかねないので、この案は自分でボツにしたんだ。
すると愛莉ちゃんは別の行を指さした。
「『糖質制限中でも食べられる美味しいデザートを作ってみたい』って、これはいいアイデアじゃない。なんでセルフボツにしてるの?」
「遥ちゃん、昨日『どうしても我慢できない時はゼリーやドライフルーツを食べていた』って言ってたんだ。その時との違いを出すのがわたしじゃ難しくて……」
「あら、みのり? わたしに相談しておきながらそう考えるのは早計じゃないかしら?」
「……! そっか、愛莉ちゃん先生!」
「ふっふっふ、この桃井愛莉に任せなさい! デザートだけなんて言わずに、あの遥でも舌鼓を打つ、だけどヘルシーな料理! 一緒に考えましょう!」
最高すぎます…全ての作戦がかわいすぎますし、見られて焦る(恥ずかしがる)遥とみのりが見れて最高です