数値的に見て優秀なn平均律は何か?
n平均律の性質を測る基準はいくつかあります。
「各倍音の近似精度はどれくらい良いか」「どのコンマを緩和するか」あたりが主に比較されるところでしょう。
先日行った「推し平均律を見つけよう!」という配信では、このあたりを明確に定義せずに耳と感覚で "優秀さ" を測り、(31平均律、41平均律は既知として除外した上で) 気になっていた46平均律に肩入れする結果になってしまいました。
そこで、本記事ではあくまで数値的に "優秀な平均律" を考えたいと思います。
結論だけ知りたい方は目次から「まとめ」に飛んでください。
Xenharmonic Wiki においては
The Riemann zeta function and tuning というページにおいて、リーマンゼータ関数を使って平均律の "優秀さ" を測定しています(理論の説明が長いので、結果だけ見たい方は List of record zeta edos まで読み飛ばしてください)。
リーマンゼータ関数による測定は「無限倍音までの相対誤差の重み付き平均」を表しており、音楽に使う実践的な指標としては少し疑問に感じます。
そこで、この記事では「13倍音までの誤差の平均」で優秀さを測っていきます。
相対誤差と絶対誤差
それぞれ次のような計算式で、
例えば12平均律における5倍音は、
このように、オクターブの分割数によらず常に同じ指標で測るのが絶対誤差です。
対して相対誤差は、n平均律に対して 1/n オクターブ、すなわちその平均律における最小分割単位(1step)を基準とします。相対誤差を使うと、12平均律は5倍音を約13.7%高い音で、24平均律は(12平均律の2倍の)約27.4%高い音で近似していることになります。
ここで疑問がわきます。相対誤差をもって「24平均律は12平均律よりも5倍音の近似精度が悪い」と言ってよいのでしょうか?聴く人にとっては同じ約13.7セントなのに、基準値のほうが小さくなるために「精度が悪い」と判定されるのは、単純に誤差を比較するには実践的ではないと思います。
しかし分割数を増やすと傾向的に近似精度が良くなるのは当然なので、相対誤差はこのぶんのハンデを考慮した誤差の指標と言えるでしょう。
本記事では、絶対誤差に別のハンデを付加した指標と、相対誤差の指標を両方とも使って優秀さを測定してみます。
p倍音までの絶対誤差による測定
というわけで、3~13倍音までの絶対誤差を使ってn平均律の "優秀さ" を比べる表を作りました。
この表の見方
端的に言えば、赤いセルがいっぱい横に並んでいる平均律が "優秀" です。
各倍音の誤差は、上で説明した各倍音に対する絶対誤差(単位はセント)です。
平均絶対誤差は、 p以下の絶対誤差の絶対値の平均です。「5限」の列には、各平均律における3倍音と5倍音の絶対誤差の絶対値の平均が記されます。「7限」の列には、3倍音・5倍音・7倍音の平均、「11限」には3~11倍音の平均…と続きます。各倍音をまんべんなく使って作曲する場合に指標となります。
重み付き平均絶対誤差は、p倍音の絶対誤差の絶対値 ÷ p の平均です。一般的に小さな素数倍音のほうが重要でよく使われるので、小さな素数倍音の誤差が大きく影響する値になっています。一般的な微分音作曲において指標になります。
赤いセルは各列の "記録更新者" であり、小さい順に「精度ランキング」に参加していった場合に、n平均律が参加時点で暫定1位であることを表します。
例えば12平均律は、12未満平均律のどれよりも3倍音の近似精度が良いので、「3倍」セルが赤く塗られています。黄色いセルは各列の "同率1位" を表し、赤と同様のランキングで同率1位になることを表します。24平均律の3倍音は、記録更新者である12平均律と同じ値なので黄色く塗られています。
"記録更新者" という評価方法は、事実上 分割数が少ない平均律へのハンデとして機能します。2n平均律はn平均律の完全上位互換になってしまうため、「良い」と評価される平均律が上位に固まってしまうのを避けるためにはやはりハンデは必要です。もし評価に相対誤差を使っていた場合は二重にハンデをつけることになります。
考察
この表から読み取れる「優秀な平均律」は、5, 7, 9, 10, 12, 15, 19, 22, 31, 41, 53 あたりです。これらの平均律は、(ある観点で)それ以下の全ての平均律よりも優秀な「ゲームチェンジャー」になり、次のゲームチェンジャーが現れるまで環境に席巻します。
例えば20~30分割の間で5-素数限界の曲を作ろうと思ったら22平均律を使うでしょう。これは23以上に分割数を増やしても、22平均律より良い精度が出せないからです。
余談: 実数平均律への拡張
※この節は読み飛ばすことができます
ところで、最初に提示した「n平均律の誤差の計算」は、nが整数以外でも成り立ちます。これによって例えば2オクターブを25等分する「12.5平均律」のようなものが考えられるようになります。この拡張にあたって、これまで無視してきた「2倍音の近似精度」も比較基準に含めましょう。
これによって、オクターブを扱わない音律や、オクターブをずらした音律も同じ指標で "優秀さ" を比べられるようになります。なんだそれ?と思った方は、周波数比
というわけで、n平均律のnを実数まで拡張した場合の、各素数限界における重み付き平均絶対誤差のグラフを載せます。グラフ下の数表記は記録更新者を表します。(重み付きでない平均絶対誤差グラフまで載せると情報量が増えすぎるので省略します)
このグラフからは、「オクターブの純正性を失うことで、全体としては近似制度が上がる」ようなn平均律や、そもそもオクターブを基準としない音律を読み取ることができます。
例えば8.18付近の山(谷?)は、先述のボーレンピアース音律(13ed3)を表します。また、7-素数限界以降で顕著になる 27.13付近(43ed3)の山も面白いですね。
※ "ed3" は、周波数比3をn等分する音律を表します
p倍音までの相対誤差による測定
単純な精度を測るのではなく「多い分割数を扱うのに見合う精度か」を測る指標としては相対誤差は優秀でしょう。今度は相対誤差を使い、そのかわりに"記録更新者"ではなく単純に53以下の平均律におけるランキングで評価してみましょう。
絶対誤差の時と同じ計算方法で「平均相対誤差」「重み付き平均相対誤差」でランキングをつけると、次のようになります。
考察
この表から読み取れる「優秀な平均律」は、5, 12, 19, 22, 24, 31, 41, 46, 53 あたりです。絶対誤差と記録更新者による判定では目立たなかった24平均律と46平均律が分かりやすくランクインしました。これは、24平均律が22平均律のすぐ後、46平均律が41平均律のすぐ後に現れるために、直前の優秀なゲームチェンジャーの影に隠れていたことを表しているようです。
まとめ
「平均絶対誤差、重み付き平均絶対誤差で記録更新者になっているか」「平均相対誤差、重み付き平均相対誤差の順位」に応じて各平均律にスコアを付け、Tier 表を作ってみました。スコアの付け方は、(記録更新者1つにつき0.25点 + それぞれの順位の逆数) です。同じ行内では左にあるほうがより優秀です。
なお、あまりに分割数が少ない5未満平均律は除外しました。
Tier S は 53, 31, 41, 12, 22 と納得のラインナップでしょう。このあたりは、スコアの付け方を多少変えても順位が入れ替わらない強者です。
Tier A は 5, 7, 10, 19, 9 と、分割数が小さい中で優秀な平均律群がランクイン。19平均律は歴史的なミーントーンなので、気持ちとしてはもう少し左にいてもいいような気がしますが、相対誤差ランキングの成績が芳しくないのでこの位置。9平均律は11倍音の近似精度を大幅に更新することから相対的に優秀と判定されました。
Tier B は 24, 46, 15, 37, 26, 34 と、あまり聞かない平均律もランクインしてきます。46平均律は全体的に精度が良いものの特別良くもない中堅枠。37平均律は3倍音以外の精度がかなり良い制限付き優秀枠。15平均律は3, 5, 7, 11倍音すべての誤差が20セント以内に抑えられる最小の平均律です。26と34もそれぞれ得意な倍音を2つずつ持つので Tier B 入りしました。
Tier C になるとそろそろパッとしません。29平均律と17平均律は3倍音の精度こそ良いものの、他にあまり良い近似がありません。50, 43, 36 はそれぞれ個性のあるミーントーンですが、分割数の多さに対して精度が足りませんでした。6平均律は何なんだ。
Tier D になると私の知識ではもう言えることが無くなってきます。27平均律は「余談: 実数平均律への拡張」で触れた 43ed3 の近くにあり、一定の精度が出るためかろうじて Tier 入りしました。
この記事が皆さんの微分音作曲ライフの助けになれば幸いです。


コメント