ガッシャーーーーーーンッ!!!!
まただ、今月でいったい何度目よ。今回のはいつにもまして音が酷かったから、破損が激しいだろう。京太郎が目覚まし時計を壊すたびに、おじいちゃんが新しい物を買い与えてくれる。物を大切にしなさいってあれほどおじいちゃんにも言われているのに。
私は何度もため息を吐きながら、隣の部屋で眠る京太郎を起こしに、部屋のドアをノックした。
「京太郎〜、起きて〜、入るよ〜!!」
部屋の中へ入ると、あの大きな身体はベッドから半分ほど放り出され、掛け布団も下に蹴り落とされている。捲れあがった服からチラリと覗く腹筋は綺麗に六つに割れていた。はぁ……身体はこんなに大きいのに、まだまだ子どもね。
気持ち良さそうに眠る京太郎を足蹴に「起きろ〜」と声をかけるも、全くびくともしない。何度か蹴りを入れてみるも、全くだ。眠りが深く、朝が苦手なのは昔から変わらない。
小学生までは一緒に眠っていたけれど、日に日に成長する京太郎にベッドを追いやられ、次第には部屋も別になった。昔からシスコン気味な京太郎は、髪型も私を真似ている。同じシャンプーを使い、トリートメントも同じもの。
私が髪を切ったら京太郎も同じように切るのかな。
ふと疑問に思ったが、そんなことはどうでもいい。今は起きないのを良いことに、伸びた京太郎の髪を、腕に付けていた私のヘアゴムで結んで遊ぶ事にした。やっぱりするなら三つ編みよね。
少し前に奮発して買ったトリートメントのおかげか、染めていない髪は艶があってサラサラだ。定期的に美容院でトリートメントはしているが、同じなのに京太郎の方が髪にコシもあるような気がする。
大雑把に髪を取り、素早く三束に分けて組んでいく。左側は簡単に三つ編みにすることが出来たが、右側はどうしよう……。せめて顔をこちら側に向けてくれないかな。
うんうんと唸りながらどうしようか悩んでいると、布の擦れる音がした。ふとその音のする方へ顔を向けると、京太郎が顔の向きを変えて眠っている。……チャンスだ。
右側も左側と同じように素早く三束に分け、交互に組んでいく。左右の高さは少し違うが、おさげスタイルの完成だ。我ながら可愛くできたと思う。さっそく記念撮影をしようと、ポケットに入れていたスマホを取り出し、カメラモードにしてモデルである京太郎をフレームに入れる。……あっ……「何してんの……」京太郎とカメラ越しに目が合った。……カシャ。
「京太郎……おはよう」
「……おはよう」
寝起きで状況を掴めていない京太郎が不思議そうに聞いてくる。
「姉ちゃん……俺の部屋で何してんの?」
「……京太郎を起こしにきたの」
「……さっき……写真撮った?」
「……撮った」
京太郎は寝起きが悪い。いつもの三割増くらいには目付きも悪い。さすがに私を目覚まし時計のように壁に投げ付けるなんて事はしないが、今日はとくに寝起きが悪い。不機嫌さを全開に私を睨むもんだから、ついつい私は笑ってしまった。
だって、どんなに鋭い目で睨まれようが、髪型がおさげスタイルなんじゃあ威厳もへったくれもない。「……なんで笑ってんだよ」なんて言われたから、私はこれ以上京太郎に隠し通せないと思い、先ほど撮ったばかりの写真を見せる。
「可愛くできてるでしょ?」
「…………」
「ちょっとズレてるのが気になる?」
「…………」
「……わ、私も三つ編みにして京太郎とお揃いにしようかな〜」
スマホの画面を見て固まってしまった京太郎は、何も答えず無言を貫いた。……怒ってる。……けど、可愛い。
「はいはい、ごめんね、直ぐに外しますよ~」
「……変なのにすんな」
「ポニーテールなら良かった?」
「はぁ?」
「ハーフアップも似合うと思うよ」
「……何だよそれ」
どんな髪型か分からないようなので、私が目の前で自分の髪をハーフアップにしてみせた。「可愛いでしょ?」と京太郎に問うと、素直に小さく頷いてくれる。横から髪が垂れてくることがないから、何をするにも楽だとは思う。「お揃いにする?」なんて調子に乗って聞いてみると、意外にも頷いてくれた。
「ほんと!?やった、じゃあ、今日は二人ともハーフアップで登校だね!」
「……」
「はい、じゃあやってあげるから、ちょっと前に行って」
「……ん」
「うん、オッケー」
表情こそ大きくは変わらないけれど、さっきまでの睨みが嘘かのように今はまとう空気が柔らかくなった。京太郎は私に髪を触られるのが好きなようだ。
ベッドで上体を起こし前に移動してもらい、私がその後ろに回りこみ膝立ちで高さを合わせる。丸くなった背中のせいで、少しだけ頭が遠い。髪をひとつかみ引っ張って後ろへと調整したら「ん゙っ……」なんて拗ねた声が返って来た。
寝癖もついていないサラサラの髪を手櫛で整え、左右の耳の上辺りから髪を取る。真ん中で一つにまとめ、完全に髪をヘアゴムに通しきらずにお団子にした。……うん、可愛い。
「出来たよ~」
「……見せて」
ちょっと待ってとスマホをインカメモードにして、鏡のようにして見せた。私の髪型と比べて同じだったので満足したのか、嬉しそうに「ありがと……」とお礼を言う。
三つ編みのおさげスタイルも可愛かったけれど、こっちの方が断然良い。弟がカッコ良すぎて心配になるレベル。女の子からも人気が出そう……なんて思うも男子校だったのを思い出し、心配の矛先を変えた。
「今何時?」
「えっと……七時半」
「えっ……目覚ましは?」
「ぶん投げて壊してたでしょーが」
「…………」
壊れた目覚まし時計を指差して教えてあげると、京太郎は数分前の自分の行いについて考えることをやめた。小さな段ボールの中には今までの壊れた目覚まし時計が山のように入っている。今回のもそこへ追加されるんだろうな。
「とりあえず、さっさと起きて着替えなさいよ」
「……ん」
「新しい目覚まし時計は、私が選んで買って来てあげるから」
「……姉ちゃんが?」
「そう、だから壊さないでね」
「……ぅ゙っ……」
きっと、私があげる目覚まし時計ならいつもの目覚まし時計よりは寿命は長いだろう。とびっきり可愛いのにしてやろうか。それとも、録音機能のあるものにして、京太郎が尊敬してやまない梅宮くんに声を吹き込んでもらおうか。
梅宮くんがベストだな。
目覚まし時計よりも、私の声かけよりも、梅宮くんの声の方が京太郎は飛び起きるだろう。飛び起きて、正座をしながら最後まで録音された音声を聞いていそうだ。想像すると笑えてくる。
私ものんびりしてると遅刻しちゃう。
先に下りてさっさと朝食を済ませようとしたら、祖母に「ナマエったら今の顔京太郎そっくりね」なんて言われたけれど、嬉しくないのは何でだろう。直ぐに着替えて下りて来た京太郎を見て「京太郎もナマエに似て来たわね」なんて言っている。京太郎は「……お揃いにしてもらった」とかなんとか言いながら祖母に髪を見せていたが。
「二人で並ぶとまるで双子ね」
なんて祖母の言葉に、やっぱり嬉しく思えないのは京太郎の目付きが悪いからだろうか。……ま、いっか、姉弟だし。
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- じんじゃー📣August 9, 2024