Fate/Grand Zero   作:てんぞー

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特異点X日目-7

 ―――作戦は完璧だった。

 

 蟲による盗聴を警戒したからこそ切嗣にはハンドサインで()()()()()()()()()()()()()、とサインを送った。そしてそれに切嗣は応えた。戦意を喪失、心が折れたフリをして、そのまま奇襲に備えた。そして完璧なタイミングで宝具を令呪による強化とサポートを込めて放ったのだ。そこに一切の不備はない、連携は改めて言うが完璧だった。

 

 だけど、状況は変わった。

 

 瞬間、様々な動きが発生した。まず感じ取ったのは英霊達がまるで肉壁になるかのように魔力を放出し、迷う事無く特攻する姿、天が割れる光景、宝具の輝き、地が砕けるような地鳴り、そして押し倒されて大地に背中を打つ感触だった。柔らかい物を感じると思って視線を前へと向ければ、スカサハが覆い被る様に押し倒してきているのが、その背後では黒い風の接近が見えた。それを見て理解した。スカサハが身を挺して守ろうとしている事が。そしてそれに抵抗しようとすれば自分が真っ先に死ぬという事実が。

 

「―――すまん」

 

「気にするな。影の国へ会いに来てくれるのを待っているぞ」

 

 直後、黒い風が落ちてくる。スカサハの体、そしてルーンが発動し、それが壁になる事で黒い風がこちらの体には届かない―――が、それも拮抗するのは数秒ほど。聖杯という圧倒的出力を保有する存在の攻撃がそのまま堪え切れるはずもなく、スカサハの姿が風に飲み込まれ、直後、此方の体にも襲い掛かる。

 

 寸前、固有結界の外へと弾き出された。

 

「がぁっ―――」

 

 血と息を吐き出しながら大地に落下、衝突し、即座に息を整えつつ受け身を取ってすぐに立ち上がり、太陽弓を構え直す。目の前の空間には何も見えないのが解るが―――直後、虚空から出現する様にぼろぼろで今にも消えそうなイスカンダルの姿、そしてそれに守られたウェイバーの姿が出現する。ウェイバーの手からは完全に令呪が消失していた―――おそらくはこの瞬間、全ての令呪を使って防御に入ったのだろう。おかげでスカサハとは違ってまだ生きている。生きている()()とも言える状態だが。しかしこの様子を見る限り、アーサーも駄目だったらしい。

 

 ゾォルケンからの攻撃に()()()生き残れたのはイスカンダルだった。ただその豪運であっても今回は完全にしのぎ切れたものではなかったらしい。イスカンダルももはや瀕死と呼ぶのにふさわしい状況だった。これ以上の戦闘に耐える事は出来ず、ゆっくりと魔力へと散って行く。それだけだった。そんな絶望的な光景の中、

 

 姿を現す存在があった。

 

「―――だから言っただろう、全ては無駄であると」

 

 異形の姿ではなく、人の姿をしたマキリ・ゾォルケンが再び出現した。先ほどのゾォルケンとは違い、その右手には黄金の器が―――聖杯が握られていた。それを握るゾォルケンの姿には傷なんて一つも見当たらずに、先ほどまで戦闘があったというのがまるで嘘の様にさえ感じられるほど、先頭の形跡がその姿には見えなかった。涼しい表情を浮かべ、ゾォルケンは立っていた。

 

「……完全に殺したと余は思っていたんだがな」

 

「まぁ、実際一度は死んでいる。レフ・ライノール・フラウロス―――あぁ、フラウロスの様に確かにマキリ・ゾォルケンは一度死んだとも。見事としか評価のしようのない動きで連携だ。英雄の精神性を舐めていたのも謝らなければいけないだろう。そこは素直に謝罪しよう―――そしてもう一度言おう、無駄だ、と。全ては無駄だ。この世界は閉じている。可能性は発展しない。故に無力だ。この聖杯が存在する限り―――」

 

 ゾォルケンの言葉の途中で発砲音が響く。直後、ゾォルケンの頭に穴が開く―――が、それを埋める様に蟲が集まり、その欠損を消失させた。銃撃の主である衛宮切嗣はトンプソン・コンテンダーを真っ直ぐゾォルケンへと向けていた。その眼を見れば解る。切嗣の闘志は一切萎えちゃいない。故に射撃した。が、

 

「無駄だ。お前達では私を殺―――」

 

 生命力を。()を燃焼させて魔力を生み出し、それを太陽弓に乗せて、全力で奥義を乗せた一撃を放つ。()()()の一撃は阻まれることもなく、太陽そのものとなって蹂躙しながら、その射線上の存在全てを消し飛ばしながら突き進む。

 

「―――【梵天よ、魔王を滅ぼせ(ブラフマーストラ・サルンガ)】」

 

 文字通り全力、限界を超えた必殺の一撃。サーヴァントでさえ一撃で蒸発させる一撃。それは一瞬でゾォルケンの姿を完全に呑み込んで消滅させ、その背後の岩場を完全に溶かして砕き、その背後にある濃密な魔力と悪の塊である大聖杯に直撃し―――核爆発と表現されるその破壊力を見せつける。一瞬で大聖杯に到達した奥義の一撃は大聖杯を砕こうとして―――時間が停止したかのように崩壊が、衝撃が止まる。

 

「―――す事が出来ない」

 

 まるで何事もなかったかのようにゾォルケンが再生した。大聖杯もそれに合わせて時間を巻き戻す様に再生し、命を削り、血を吐いて放った奥義は一瞬で消え去った。あまりの理不尽、あまりの法則性のなさ。それは圧倒的上位の存在が踏み潰しているような状況だった。聖杯。それだ。それだけだった。たったそれだけで、全てが無力化されていた。万能の願望器、確かにそうなのだろう。納得してしまった。

 

 聖杯は、正しい聖杯であれば、時空すら超えて願いを完成させる。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()。真に完成された聖杯であればこの程度児戯の様にこなす。私が死に、完全に消滅したとしても聖杯が存在する限りはどうしようもない、それだけの話だ。諦めろ、それが賢い選択だ。そしてそこでゆっくりと眺めるが良い、人理定礎が崩壊し、人類史が焼却される姿を」

 

「うるせぇ、死ね」

 

「それに関しては完全に同意だね」

 

 銃撃と射撃が再び同時に放たれるが―――ゾォルケンが掲げるように前へと出した聖杯がゾォルケンへと向けられた攻撃を無力化し、完全に防いだ。今度こそ、目の前で、完全に無力化させられる姿に絶望を覚えるが、()()()()()()()()()()()()()()()()為、困る事もなく―――命削りの奥義を三度目を放とうとする。

 

 が、それに体の方が耐え切れずに膝が折れる。

 

「クソ、が……!」

 

 弓を握る手が震える―――それでも落とさないのは戦士としての矜持からかもしれない。だけど体がまともに動かない状態なのは事実だ。そんな中で、弾丸を弾かれた切嗣の動きに続くようにイスカンダルが剣を抜き、ゾォルケンを砕くためにそれを振り上げる。が、直後、聖杯の力によって強化されたゾォルケンが黒い風を生み出し―――それでイスカンダルを飲み込んだ。その光景を見て、今度こそ状況が確定した。

 

 ギルガメッシュを除いたすべてのサーヴァントの全滅―――状況は完全な敗北だった。死んでからの蘇生を願うなんて破綻した事、まずありえない。だがそれを成立させてしまうのが聖杯であり、それがゾォルケンの手にある限りは、あの男は無敵だった。

 

「まだ立ち上がる気概はあるか? どうする? 逃げるか? ギルガメッシュの応援を期待するか? 大聖杯を破壊して爆殺するか? それとも何かほかに殺害手段を用意しているか? 教えてやろう―――無駄だ。完成された聖杯の前では全てが無力だ。サーヴァントでさえ所詮は聖杯によって生み出された存在。確たる序列として聖杯以下の存在である事が確定している。故に絶対に勝利する事は出来ないだろう、サーヴァントでは」

 

 ゾォルケンの言葉は何よりも正しかった。

 

「絶望が心に差し込んだか? 安心しろ、()()()()()。このまま目を閉じて外界を拒め。己の内に沈め。目を開けるな。このまま、奈落の底へと沈んで全てを忘れろ。それが幸福だ。もはや人類史の焼却は()()()によって確定している事だ。王が決定してしまった事だ。もはや覆す事は不可能。人類には焼却以外の道が残されてはいない」

 

「王、だと……?」

 

 ゾォルケンの放った言葉を確かめる様に呟いた途端、ゾォルケンの背後、大聖杯が震える。否、大聖杯が纏っている魔力が、悪の泥が震えているのだ。

 

 スカサハ、アルトリア、イスカンダルが散った。

 

 そしてギルガメッシュが残った。

 

「あぁ、そう言えば聖杯戦争が終了したのだったな―――まぁ、欠陥品が完成したところでどうにもならんがな」

 

「アイリ―――」

 

 アイリスフィールが人として死んだ事の証明でもあった。アイリスフィールが小聖杯として完成され、それを喜ぶように歓喜の震えを大聖杯は現していた。第四次聖杯戦争の終了を告げる様に、大聖杯から泥が溢れ出す。噴火する様に、津波の様に、世界を飲み込まんと、災禍と共にこの世全ての悪が溢れ出し始める。それをゾォルケンが眺め、そしてあぁ、と呟きながら背を見せる。

 

「終わりだな。じきに焼却も終わる―――それまで幸福な悪夢の中で溺れていると良い」

 

 ゾォルケンがゆっくりと、歩いて大空洞の外へと目指して行く。その姿を殺そうと獣の様な咆哮を響かせながら腕を持ち上げ、震える手で矢を放ち―――明後日の咆哮へと矢が飛翔する。それでもゾォルケンを殺そうと、どうにかして止めようとする為に命を更にもやし、全身を無理やり動かす様に立ち上がらせようとして、

 

 魔術回路そのものがオーバーヒートするかのように全身から力を奪う。

 

 自分の体を支えきれずに、そのまま前のめりに倒れる。

 

 ―――そして、泥がやってくる。

 

 ゾォルケンが一歩、そしてまた一歩、ゆっくりと歩きながら去って行くのを眺めながら、大聖杯からあふれ出した泥が一気に此方へと向かってくるのを見ていた。赤く、そして黒いその泥は見ただけでありとあらゆるこの世の悪を内包した、それだけでおぞましい物体だった。否、物体と評価していいのかすらも解らない。そんな存在だった。ただ解っていたのはそれが間違いなくこれから、自分を飲み込む事だった。目前まで迫ってくるその泥の津波を前に、ゾォルケンは一切焦ることなく、時間を楽しむかのように去って行く。

 

 スカサハはもういない。

 

 令呪もない。

 

 ご都合主義は発生しない。

 

 タイミング良く助けてくれるようなヒーローなんてものはあり得ない()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。そんなヒーローがいたら今頃、世界には戦争なんて存在しなかった。聖杯戦争そのものが存在しなかった。だからご都合主義のヒーローには願えない。決して願ってはいけない。自分が辿る結末というものは結局のところ、自己責任、自分で招いたものの結果なのだ。だから人を殺して、好き勝手生きた自分の結末は、

 

 ある意味で、これが一番正しいのだろう。

 

「悪ぃスカサハ……約束守れそうにねえわ―――」

 

 直後、泥がすべてを飲み込んだ。

 

 熱く、冷たく、痛く、優しく―――そして苦しい。ただただ、ひたすらに苦しい。拷問の様な苦しみに考えつく限りの負の感情がまるで物理的衝撃の様に叩きつき、そして耳や口、穴という穴から体の中に侵入してくる。吐き出そうとしてもがいても、それを無視する様に体に入り込んで、そして心を侵食しようとその悪意を手の様に伸ばしてくる。言葉として表現できない行為。常に頭の中で死ね、と呟かれている様な不快感。育ての親が笑顔で生まれて来なければよかったと壊れたレコードの様に繰り返すイメージが脳裏に浮かび上がる。

 

 好きだった女性が目の前で笑顔のまま首を絞められて殺されるイメージが走る。

 

 昔、どこかで助けた人はレイプされてヤク漬けになって死んだと囁く声が聞こえる。

 

 手段なんて選ばない。()()()()()()()()()()()()で無限大の悪意を込め続ける、触れた者をその瞬間に発狂する悪しか泥の中には詰まっていなかった。心が強すぎるが故に発狂できない。発狂して死ぬ事が出来ない強者の苦しみが精神的にではなく肉体的に締め上げ始める。

 

 そして、息苦しさを感じる。

 

 肺から完全に酸素を叩きだされ、その代わりに悪意を込められた。

 

 全身の血液が全て泥に入れ替えられたような重さを感じ、

 

 悪意の底へと、ドンドンと体が沈んで行く。開いた目はひたすら死の色のみを映しており、今まで経験した地獄という言葉が、どれだけ生温いかを理解した。

 

 ―――ここが本当の地獄だった。

 

 それでも、そんな地獄でも、

 

 心が―――精神力が強すぎて、

 

 発狂できなかった。これほど心が強かった事を恨む日はなかった。ただひたすら苦しみを感じながらもがく力さえもなく、視界の全てが死の一色に染まって行く中で、

 

 発狂すらできずに底なしの悪意へと沈んでいった。




 ラスボスは強くないとね! 大丈夫! リセットされるから! 全部リセットされるから!

 勝てればな。

 ヒロインとかヒロイン候補とか、強そうとか、正義の味方とか、救済が基本とか。そういうのガン無視してぶっこむ漢字でドンドン殺すスタイル。今日から毎日ヒロイン殺そうぜ。

 ヒロインがいたかどうか疑問だけど。ともあれ、聖杯戦争系列で滅多に見た事のない、聖杯の戦闘活用をガッシリやってみた感じ、無敵すぎて話にならない感が。
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