Fate/Grand Zero   作:てんぞー

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三日目-2

 冬の寒さは嫌いではない。

 

 その寒さは生きている実感でもあるのだから。

 

「―――うっし、メシでも食いに行きながら場所を変えるか」

 

 駄弁って休息をとっているだけだが、十分長い時間をラブホテルで過ごした。そろそろ場所を変えた方が良いだろうという判断でチェックアウトを行い、ラブホテルを出る。ラブホテルを出て感じる太陽の光の眩しさを感じつつ、そのまま迷う事無く大通りの方へと向かう。極力人混みに紛れて生活している方が標的の場合、殺すのが面倒になってくる。特に聖杯戦争というルールが存在している今、昼間の間、一般人を巻き込むようには行動できない。そして夜の間は襲撃の為に超高速で移動すればいいのだ。

 

 第一今は防衛力の減った遠坂時臣がいる。そちらを狙うので忙しいだろう。寧ろ殺してくれ、そろそろ参加者を減らして戦いやすくしたいのだから。まぁ、雁夜が勝手に襲い掛かっているだろうとは思う。その為の拠点テロだ。弱ったところをハイエナするのは戦術の基本だ。その機会を他の陣営に与えているのだから感謝されるべきだろう。

 

 うん、そうだな。

 

 一人で納得しておきつつ、大通りの流れに紛れ込んで歩く。スカサハの姿はすぐ横にある。基本的にサーヴァントは情報流出を回避する為にも霊体化しているものだが、ダメージを受けていないし、そもそも見破られたり情報を得られてもクー・フーリン呼んで来いとでもいうこの英霊は、隠すだけ意味がない存在だ。

 

 なおクー・フーリンが来たら来たで喜ぶ。無論俺を含めて。新たな殺戮者のエントリーである。

 

「たまにゃあジャンクフードでも食べるか」

 

「というとチップスの類か」

 

「嫌そうな表情を浮かべるなよ……時計塔のクソメシとは違うから」

 

 スカサハにそう言いながら適当のバーガーチェーン店を見繕う。最近は比較的健康に良い物ばかり食べていたが、やはり偶にはジャンクフードを食べたくなる時がある。あの無駄に油っぽく、そして味がでたらめな感覚、中毒的ではないが、調子が悪いときだからこそ食べたくなる、そういう魅力がある様な気がする。今日の昼間はずっと静養の予定なのだ、調査とか準備も捨てて大人しくしていよう。そう思いながら見つけたバーガー店に入ろうとした瞬間、

 

 ―――直観的に危機を感じた。

 

 意識的に後ろへと一歩、滑る様に下がった瞬間、何かが高速で飛来し、入ろうと思っていたバーガー店の扉を突き抜けながら粉砕し、突き刺さった。突き刺さった飛来物はそのまま店内を蹂躙する様に悲鳴を生み出し、血肉をばら撒きながら地獄絵図を作り上げた。その光景を見て、真っ先に襲撃者から切嗣の線を消す。こんなスマートではないやり方はあの男のスタイルではない。となると、それ以外の襲撃者になるが、

 

 切嗣以外で昼間の襲撃者は思い至らない。

 

「―――さて、と―――」

 

 息を吐いた瞬間に悲鳴と人混みが一斉にパニックに陥る。だがそれと同時に黒い影が一瞬で屋上から跳躍する様に落ち、ビルの壁面を蹴りながら一気に接近してくる。その姿に対して左手をポケットの中に忍ばせつつ、右手を背面、そこに背負っている大きなカバンに当てる。昼間の間は【天を翔けろ、太陽よ(サルンガ)】もロングソードも全部しまっている。だから動きはそのまま、

 

「ぽんぽん痛いから頼んだぞ、スカサハ」

 

「良かろう。力を示すが良い、このスカサハに―――!」

 

 落ちてくる黒い影に一瞬でスカサハが跳躍する様に接近し、ビルの壁へと槍を突き刺し、それを起点に体を回転させるように力を込めて、影を路地裏へと蹴り飛ばし、自らも其方へと向かって跳躍した。その姿を追いかける様に歩いて、魔宝石を取り出し、砕きながら路地裏の中へと入れば、そこには影と対峙するスカサハの姿が見える。赤い二本の魔槍を握るスカサハの正面に相対するのは文字通り”影”の存在だった。

 

 ただシルエットを見る限り、その服装はアジア系―――いや、武器が薙刀である事を確認すると日系の存在に見える。完全に影で構成されたその存在は薙刀を真っ直ぐ、突きつける様にスカサハへと向け、それに対応する様にスカサハが魔槍の構えを深くする。

 

「こやつ―――格は落ちるがサーヴァントの類だな」

 

「マジか」

 

 言葉を放った瞬間、影の英霊が踏み込んだ、反応する様に前進したスカサハが薙刀の振り下ろしを魔槍で受け流し―――その手から魔槍は消失し、影の英霊の脇に、奪われたように出現した。影の英霊は弾かれた薙刀から片手のみを解放しながら魔槍を掴み、それをスカサハへと向けて突き刺してくる。

 

「ふむ、武器を奪う能力か。まぁ、悪くはない―――」

 

 魔槍と魔槍がぶつかり合い、スカサハの両手から完全に武器が消失―――そして真紅の魔槍が再び、スカサハの手の中に出現する。そこからスカサハと影の英霊が奪った魔槍がぶつかり合い、同時に破壊される。同質、或いは同じ武器を力いっぱい叩きつければ当然の結果として発生する武器破壊。だがそれに異にすることなくスカサハも、影の英霊も戦闘を続行する。スカサハは新たに魔槍を取り出し、そして影の英霊はそれを奪いながら破壊し、両者共に一歩も動くことなくその場で連続で攻撃を続行する。

 

 が、

 

「―――私が相手では相性が悪かったな」

 

 二十八合目、スカサハと影の英霊が保有する槍が砕けた瞬間、虚空から出現した真紅の魔槍が降り注ぐ様に影の英霊を串刺しにし、それでもなお動こうとするその膝を物理的に破壊し、立つのを不可能にしてから、スカサハ自身が新たに握った槍でその頭を貫き、潰す。

 

「ふむ、出来る事ならば本来の格を相手にしたかった相手ではあるな。武器を奪い、そして奪い取った武器を初見ながら十全に振う技量、見事。しかし、己を偽っている限りはどうあがいても私には届かん。次があるなら偽らざる己としてかかって来い」

 

 スカサハの言葉と共に影で構成された英霊らしき者は霧散し、まるで最初からそこに存在しなかったかのように一切の痕跡を残す事もなく消滅した。しまった、記録を残せていないな、と少しだけ嘆く。この白昼堂々発生した魔術のテロがもし、己だけの事だったら責任を押し付けられてしまうかもしれない。それは、ものすごくヤバイ、というか納得いかない。

 

「うっし、予定変更だ。人が集まる前にソッコで逃げるぞ」

 

「拝承した」

 

 スカサハと共に気配を殺しながら跳躍し、一気に近くの建造物の屋根の上へと着地し、そこから全力で逃亡を開始する。今のところ判明しているサーヴァントは()()だ。全てのサーヴァントの真名がスカサハによって看破されている。そして自分が把握している限り、こんな行動、こんな効果を生み出せるような英霊は一人として存在しない。だから、この疑問に答えてくれそうな場所へと、迷う事無く向かう。

 

 ―――冬木教会だ。

 

 

                           ◆

 

 

「いやぁ、昨夜ぶりだなぁ。まさかテロった場所に戻ってくることになるとは思ってもいなかったわ」

 

 だけどそれ以上に、

 

「流石に俺、更地にまではしてねぇんだけど」

 

 冬木教会が更地になっていた。いや、正確に言えば崩壊していた。目の前に広がっている冬木教会はアサシンのマスターである言峰綺礼の拠点だったのだが、昨晩見事に霊地破壊に成功したために拠点としての全ての価値を失い、脱落したマスターが逃げ込む為の場所となっていた。それが今、目の前で完全に破壊された姿を見せている。その光景に軽く頭を掻き、移動している間は霊体化させていたスカサハを出現させる。

 

「ちと調べる、警戒頼む」

 

「任された」

 

 スカサハが警戒を担当してくれる中で教会へと近づき、そしてその様子を確認する。

 

 それはまるで圧倒的な暴力によって叩き潰された光景だった。いや、個人の暴力と言うよりは数の暴力かもしれない。襲撃の跡には()が見える。少なくともここに襲撃に来ていた犯人は一人や二人という規模ではなく、十や二十と言う規模だった。……或いは多脚の人外生物。少なくともその線が強い。何せ、足跡が人間の形をしていないのだから。痕跡を消せるほど脳はない、と判断したところで崩れた教会の中へと進んでゆく。

 

 その中に見えたのは言峰璃正の死体だった。その姿を確認してあちゃぁ、と声を漏らし、直ぐに腕を確認する―――しかし、そこに存在するはずの預託令呪どころか腕その物がなかった。つまりは令呪そのものが全部持っていかれた―――それが目的だったのかもしれない。単純に令呪はサーヴァントへの絶対行使権限ではなく、強化や触媒にも使えるミニ聖杯とも呼べるものだとオルガマリーは言っていた、それを全部丸ごと奪われたとなると、少々笑えない話になってくる。

 

 携帯端末を取り出し、即座にメッセージをオルガマリーへと入れる。

 

「璃正が死んで令呪は丸ごと奪われましたよ、っと。ま、こんなもんだろ。これ以上調査しても何かが出てくるとは思えないし―――」

 

 魔術的な襲撃なのだから痕跡が残る訳もない。これが普通のテロリストだったら薬莢とかが残っているのだが、そんな訳はない。だからとりあえず、この璃正殺害犯を影の英霊(シャドウサーヴァント)だと判断しておく。

 

 ……誰が放った?

 

 間違いなく今の参加者達でこんな手段を取る様な馬鹿はいない。態々敵を作って死にたがるようなやり方だ―――やっても勝てるという確証が存在しない限りは。だけど現在の聖杯戦争の参加者、そこまで自信を持って勝機を持てる奴は存在しない。俺でさえタイミングを間違えれば無駄に敵を作って圧殺されるだけだ。その為、同盟が成立しない様にヘイトの調整を行っているのだ。だからこの局面、誰が動けるかと考えると、

 

「―――レフか? いや、でもしっかりと斬り殺した感触あるしないな」

 

 レフ・ライノール・フラウロスは確実に殺した。心臓を貫いたうえで肉体を破壊し、浄化と焼却を同時に行った。たとえ再生、蘇生能力持ちだったとしても蘇る事が出来ない様に消滅させたのだから、あの男は確実に死んでいる。少なくともアレで殺せなかったのなら他に殺す手段が解らない。そしてレフのキャスターに関しても詳細は不明だったが、スカサハが確実に霊核を破壊していると言っている。彼女の実力を疑う必要はない、自分よりも上なのだから。

 

「……考えていても解らねぇな、これ」

 

 まだ自分が知らないもう一人のプレイヤーが存在するのかもしれない。或いは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と考えておくべきなのかもしれない。

 

 そしてそんな裏技が出来るような相手は実に限られている。

 

「今夜は襲撃をキャンセルして、シャドウサーヴァントに関する調査に回るか―――」

 

 犯人はある程度絞り込む事が出来る。まだ妄想の領域でしかないが、八人目のマスターが存在し、それがいきなり参戦する事が出来る状況があるのだとすれば、それは間違いなく聖杯戦争というシステムそのものの根本に関わっている存在であるに違いない。だからまず第一の容疑者はアインツベルン。聖杯そのものを作り出し、提供している陣営だが―――切嗣が姿を隠している間はどうしようもない。アインツベルン城を調べる程度の手段しかないが、こうなると確実に切嗣と生きるか死ぬかの戦いになる。だからここは後回しだ。

 

 第二容疑者の時臣は個人的な感想からすると()()()()()になる。この男は魔術師らしい魔術師だが、昼間に堂々とテロを許す程外道には染まってはいない筈だ。何より土地の管理者でありながら一般人に被害を出すようなことは許さないだろう。そこらへんを考えると切嗣も可能性は低くなってくる。となると、容疑者は一つに収束する。

 

 間桐家。

 

 いや、間桐雁夜にそんな事をするだけの余裕はないし、頭もない。未熟者の魔術師ではバーサーカーに食われない様に何とか生き残ろうとするだけで限界だろう。だとしたら、彼をこんな事態へと追い込んだ、そんな存在がいるはずだ。

 

 五百年の妄執を抱いても未だに生き続ける化け物が。

 

「一番の容疑者は間桐臓硯―――いや、マキリ・ゾォルケンか。オルガマリーから話半分で聞いておいてよかったな……アイツ、プライドむっちゃ高いけど優秀だわ」

 

 もう一度、プランを修正する必要があるなぁ、とぼやきながらあごを掻く。軽い髭の感触に、そろそろ剃るべきかと判断し、璃正の死体へと背を向ける。元々今日は時臣を殺して、一番厄介なギルガメッシュを聖杯戦争から脱落させる予定だったが、こうなってくると話は別だ。

 

「スカサハ! 行くぞ」

 

「ほう、どこへだ」

 

 声と共に横へと出現するスカサハへと答える。

 

「間桐だ―――五百年の妄執が今回の件に絡んでるかどうか、爆撃してから考えるぞ!」




 聖杯アップデートにより運営はシャドウサーヴァントを実装しました。聖杯戦争に参加中のマスターの皆様はいつでもどこでもどんな時でもシャドウサーヴァントに襲撃されます。撃退して戦果を集めましょう! なお報酬は特にありません!

 クソゲー(確信

 蛮族のお時間。
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