Fate/Grand Zero   作:てんぞー

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序章-4

「―――うぅ、寒ぃ。日本の冬ってこんな寒かったっけ」

 

 手を擦り合せながら乗っていたタクシーから降りた。タクシーの中は非常に暖かったものの、やはり日本は冬で、冬木市は辺境の都市だ。山に、そして海に囲まれたこの大地は基本的に発展性に乏しい―――つまりは良く都会にあるヒーターガンガンつけっぱなし外までなんかちょっと暖かくね? という感じの現象がない。故に普通にとてもとても寒い。とはいえ、魔術のちょっとした応用でそこら辺はどうにかなるのだ。何より自分の魔術の属性は”火・空”の二重属性だ。体を温めるぐらいだったらなんてことはない。

 

 まぁ、時計塔で勉強するまではできなかった事なのだが。

 

 相変わらず、俺はポンコツだった。

 

「さって、と。とりあえず冬木に到着したけど―――どうだ、ランサー。見えるもん変わってるか?」

 

 同じくタクシーから降りたポンチョにマフラー姿のスカサハへと視線を向ける。スカサハはその赤い目で世界を見つめ、そして頭を横へと振りながら息を吐く。吐かれた白い息が拡散して消えて行くのを眺めながら、スカサハの見た風景が変化していないのを理解しそうか、と言葉を掃き出し、歩き始める。冬木市の地図は入手してある。が、それよりも重要なのは拠点の確保と確認だ。幸い、拠点の確保はアニムスフィア家側でやってくれている。ホント頼りになる所だ。

 

「んじゃまずは拠点の確認をすっか―――一応共同で使う場所だし」

 

 誰とは、言わない。そんな事は言わなくても理解しているからだ。そもそも同盟なのだから一緒に行動をするのは決まっている。まぁ、向こうは後からやってくる手筈になっている。それは同盟を組んでいる、という行動をあからさまにしない為なのだが―――既にバレている気はしなくもない。なにせ、アニムスフィア家は今回、かなり精力的に動いている。となるとアインツベルン辺りが監視していてもおかしくはないと思う。

 

 まぁ、それは追々、今は先にやるべきことを終わらせなくてはならない。

 

 既に与えられた拠点がどこなのかはわかっている。

 

 

                           ◆

 

 

 冬木は東西で二つに分かれている。中央には川が流れ、それが冬木を分断している。この分断されている冬木市の内、東側に拠点となる建造物を用意してくれた。それは第三次聖杯戦争においてエーデルフェルト家が利用した館であり、聖堂教会に比較的に近いこの場所が拠点として選ばれた。一つ目の理由はこの館の入手が比較的に楽だった事、二つ目の理由は少々手を加えれば簡単に霊脈のラインを通せる事、そして三つめは魔術拠点としての加工のしやすさから来ていた。元々第三次聖杯戦争においてエーデルフェルトの双子の当主はこの日本で戦い、そして敗北し、その屈辱から二度と日本には足を踏み入れない事を誓っている。そしてその際、この建造物を魔術教会へと預からせた。

 

 故にこの双子館、魔術教会へと交渉し、多少金を握らせればあっさりと入手できるのだ。

 

 そういう経歴で確保のできた双子館は非常に良いコンディションにあった。修繕は既になされており、掃除も綺麗にされてあった。どうやら予め掃除して、使える状況にアニムスフィア家の方で仕立て上げてくれたらしい。中に入ってみると装飾品の類は置いていないが、それでも冷蔵庫の中にはインスタント、そして食材がちゃんと中に保存されていた。

 

 ついでに出前のチラシも。特上寿司はぜひとも頼んでみたい。

 

 そんな事で館の確認を行っていると、スカサハが姿を現す。その服装は現代の服装のままなのは見られても良い様に、という事なのだろう。

 

「それでは私は陣地の建築作業に入るが……良いな?」

 

「あぁ、任せた」

 

 返答するとスカサハは頷いて姿を消す。胸が大きいのもいいが、ケツも悪くないなぁ、と思いつつキッチンへと視線を戻す。出前を取らずに今日は何か、メシは自分で作っておくか。そう思いながら色々とキッチン周りの確認を進める。

 

 なお、陣地構築に関してスカサハに心配するものは一切ない。スカサハが保有しているスキルにある”魔境の智慧”はA+ランク存在し、これはスカサハに様々なスキルを使用する事を許す、そういうスキルらしい。そのスキルのランクもスカサハの技量や経験に合わせてA~Bの間に変動するらしい。そして稀代のルーン魔術の使い手でキャスター適性の存在するスカサハが、影の国を支配し、神殿すらも保有した彼女が陣地構築程度出来ない訳がない。放っておけば優秀な防衛拠点を築いてくれるだろう。そう思いつつ、

 

「お、米があるじゃん。あっちにいる間はパンばっかりだったし、使うか」

 

 さっそく台所を使う。

 

 

                           ◆

 

 

「で、お主は何をやってるんだ」

 

「見て解るだろ、炒飯食ってるんだよ。自分で作っておいてアレだけど、美味いぞ」

 

 キッチンのテーブルで一人、座りながら皿いっぱいに乗せた炒飯をレンゲで口の中へと運んで行き、久方ぶりの簡単な中華料理を楽しむ。それを見て口元を隠しているスカサハが呆れたような溜息を出すが、何かを言う前にテーブルの反対側へとレンゲを向ける。そこには運んでおいた大皿とレンゲが用意されており、テーブルの中央には中華鍋とその中に大量に突っ込んである炒飯が存在する。

 

「あんまり味に期待すんなよ。別に料理に凝ってる訳じゃないし」

 

「いや……まぁ、いいか」

 

 スカサハが観念したかのように反対側へと回り込み、無言で中華鍋から炒飯を大皿の上へと移すと、その中にレンゲを突っ込んで食べ始める。一口目で此方へと視線を向けてくるが、味には期待するなと言っておいた筈なので無視する。まぁ、普通の味、というレベルだ。個人的にはこれでも美味しいと言えるが。だけどやっぱり米は良い。日本人はやっぱりこれが食えないと駄目だなぁ、と思う。まぁ、実際は旅してまわっている間はそれなりにコメは食えていたから、やっぱり時計塔のメシがダメだっただけだ。

 

「やっぱ時計塔のメシはクソだな。研究研究研究勉強勉強勉強。あいつら人生を無駄にしてやがるわ。目的に対して一直線なのはいいけど、もっと人生に彩とか余裕とか持たなきゃだめだなぁ……」

 

「お主は人生、色々と余裕がある様に見えるな」

 

「まぁ、ウルトラ求道僧との出会いが俺を変えた、って感じだな」

 

 椅子に寄りかかりながらそう思う。人生の転機を語るならやっぱあの馬鹿との出会いが重要な所だろ。門司と旅をしている間に細かい事でぐだぐだと悩むことをやめ、心に余裕を抱きつつも、信念や情熱はそのまま抱き続ける事を覚えたと思う。やっぱり出会いは人生を豊かにすると思う。出会いを重ねる事によって人生が広がり、そして成長して行くのだ。だから改めて思う。狭い魔術の世界だけに留まらずに、もっと広い世界を見る事が出来たのは幸運だったのだ、と。

 

「とりあえず誰を最初にぶっ殺すかは決めたわ」

 

「そうか。方針としては積極的に攻める事でいいんだな」

 

「あぁ。ぶっちゃけ待ちの戦法を取る様な戦力でもねぇしな。逆に籠城するとめんどくさい事になりそうだし……叩ける相手はなるべく叩いて速攻で終わらす。これに尽きる」

 

「で、誰を相手にするんだ?」

 

 食べながら聞いてくるスカサハのその言葉に対して、一旦レンゲを置き―――答えた。その言葉にスカサハは一瞬だけ驚いたような表情を浮かべたが、しかし、直後納得したような表情を浮かべる。そして再び、何でもないかのように炒飯を食べ進め始める。自分のサーヴァントはこの方針に関しては全くの異存を見せない、存在しないらしい。スカサハが協力的なのは非常に助かる―――まぁ、何かを抱えていそうな場合もあるが。

 

「とりあえず陣地の構築の方はどうなってんだ」

 

「其方の方は問題はない。まだ初期の段階だがすぐにこちらに馴染む様になる。優先しているのは魔力の回復でいいんだな?」

 

「あぁ、もっぱらそれが一番の問題だしな」

 

 ポケットの中に手を入れ、その中に入れてある小粒の宝石に触れる。魔宝石は常に持ち歩いている。冬木市に入ってしまえば完全に聖杯戦争にエントリーしたようなものだ、何時襲い掛かられてもおかしくはない。礼装は流石に目立つから昼間から持ち歩けないのが辛い。しばらくは冬木を歩き回って、地理を頭の中へと叩き込む事から始めた方がいいな、と判断する。まぁ、スカサハの様な美女と一緒に歩き回るのは実際ご褒美以外の何物でもない。

 

「……」

 

 ―――スカサハを見る。

 

「なあ、スカサハ」

 

「なんだ」

 

「死にたいって思ってる?」

 

「あぁ、思っているぞ。此度の召喚が未熟ながらも私が応えたのは試してみる価値がある様に思えたからだ。真に万能の願望器なら私すら殺してくれる筈だとな、と」

 

「ふーん……」

 

 スカサハ―――あまりにも神の領域へと踏み入れる存在であったが故に、呪われた影の国の女王。死を奪われたスカサハは老いる事もなく、死ぬこともない。それを幸福に思う人間は多くいるのだろうが、現実は違う。命には限りがあるからこそ潤いが存在する。スカサハは死を奪われることによって人生から潤いを奪われてしまった。どんな優秀な統治者で、師で、そして武芸者であろうとも、不死者である以上、長い年月をかければ到達出来て当然という風になってしまう。スカサハは死を奪われ、その全てを奪われた事に等しい呪いを受けた。

 

 故に死を望む。

 

「へぇ、実際ここにいるスカサハってどんなもんなんだよ。本体って訳じゃないよな」

 

「無論この私は本体とは別だ。召喚に応じて生まれた写し身の様なものだ。本体の私から抽出された情報が聖杯戦争というシステムを通して英霊という形で他の英霊たちと同じように顕現しているだけだ。今も私の本体は影の国にいる。まぁ、本体とは言うがこの身は完全に独立した人形の様な存在だ。繋がりはもう一切ないのだがな」

 

「はぇー……まった面白い事になってるなぁ。つー事はアレか、この世界のどっかに影の国が存在するって訳か」

 

 その言葉にほう、とスカサハは言葉を漏らす。

 

「なんだ、私に師事したいのか? 見た所お前は魔術師としては劣悪ではあるが、戦士としての素養は非常に高い。不毛の平原を、光が一切存在せず見通せない大森林を、魔獣の住み着く絶望の谷を、心を試す為の橋を、そして城壁を超えて我が国へ来るというのか」

 

「これ軽い観光って気分で行ける領域じゃねーぞ! というか影の国って観光業とか産業とかそこらへんどうなってるんだ」

 

「そうだな、観光業は死んでいる。そもそも試練を乗り越える事の出来るやつすら数世紀はいなくてな、おかげで宿屋が全て閉店してしまった」

 

「昔はあったのかよ観光業……」

 

 意外と影の国って楽しい場所なのかもしれない、と一瞬思ったけどケルトのキチガイ戦士たちが理想の修行場として目指した場所なんだからキチガイ・オブ・キチガイの聖地であるに違いない。たぶん門司辺りが白目剥きながらマイドリーム、とか叫びながら喜びそうなイメージはある。あぁ、うん、あの修行キチガイであれば間違いなく影の国の入国試練も喜びそうだ。

 

「でも実際影の国ってのはちょっと興味あるな……」

 

「ならば戦いが終わったら私が招待しよう。戦士としては間違いなく一流の領域に入るが―――磨かれていない部分はまだある。私なら今よりも更に優秀な戦士として育て上げる事も出来る。うむ、久しぶりに話をしたら少し楽しみになってきたな。お主、今夜は暇か?」

 

「いや、エンジン入ったのはいいんだけど今夜は調査とかあるからな」

 

「それならば仕方がないな」

 

 少しだけ残念そうにため息を吐いたスカサハの姿に苦笑しつつ、懐で震えを感じ、ポケットの中に手を入れる。その中から取り出すのは英国を出る前にオルガマリーに手渡された携帯端末だ。それを操作しながら確認すれば、

 

「お」

 

「どうした」

 

 携帯端末をポケットの中に戻しながらスカサハに答える。

 

「先ほど最後のサーヴァントの召喚を確認したってさ。あとはレフさえ日本に到着すれば聖杯戦争は開始―――そのレフに関しても三日後には日本に到着するってよ。戦いもあと少し、って所だな」

 

「ふむ、ならば準備を早めるか」

 

 そうだな、と答えつつ、炒飯を食べる事に戻る。

 

 聖杯戦争。

 

 ―――英霊と戦う事の出来るこの舞台は、ずっと前から楽しみにしていた。




 影の国のぼっち女王スカサハさん。たぶんコミュと戦争に飢えてる。ケルトってきっとそういう文化だろうか(圧倒的偏見

 というわけでおそらくは次回が序章ラストで。

 次回のあとがき辺りで主人公のステかなんかでも。師匠のデータに関してはFGO師匠を参照で。
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