Fate/Grand Zero   作:てんぞー

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序章-1

「冷静に考えれば研究者―――求道家の領分ではない。そう思ったのだよ」

 

 ケイネス・エルメロイ・アーチボルトという金髪の男がソファで足を組みながらそう言った。テーブルの上には紅茶が並べられており、その品質が良質であるのは己でさえ解る。楽しみ方は解らないが、それでも礼儀は弁えている。ケイネスの前で淹れられた茶をちゃんと飲み、そしてそれを味わっている様に見せる。細かい作法を理解している訳ではないが、持て成された側として、出されたものは適度に”楽しんでいます”とアピールするのは重要だと思う。

 

「令呪が私の手に出現した時、私はこれを己の箔付けする為には最適の機会だと思った。故に私は探せる聖遺物の中でも古いものを、そして強力な英霊のものを探し、そして見つける事に成功した。あとはこれをここへ送ってもらうだけだったのだがね―――何ともまぁ、嘆くべきか笑うべきか。どうやら聖遺物を盗まれてしまってな」

 

「不幸な出来事ですね」

 

「あぁ、実にね」

 

 ケイネスはその言葉で苦笑した。だが、しかし、と言葉を付け加える。

 

「私は令呪がこの手に出現した時、高揚していたと言っても良い。話にのみ聞いたあの聖杯戦争へと参戦する事が出来る。これは私の名に、家名に箔をつけるだろう、と。何せ仕切っているのがあのアインツベルンなのだから。期待を抱かないという方がおかしいだろう? しかしな、触媒を盗まれた時、私はふと、怒りに包まれつつも冷静になったのだよ」

 

 ケイネスは言う。

 

「あぁ、次の触媒を用意しないと、と。英霊はどんなのが召喚される? どういう触媒を用意すればいい。あらかじめ組んでいた戦術はどうなるのだ? 私の礼装との相性は? 根本的な部分が揺るぎかけた状況ではあるが、考えさせられる状況でもあった―――果たして、これは労力に見合うのだろうか、とも」

 

 そこで、紅茶のカップをソーサーの上に下ろしながら言葉を加える。

 

「それでエルメロイ教授は労力に合わぬ、と判断したわけですね」

 

「然り、だ。箔付けの為に参戦するのは悪くはない。だが聖杯戦争は本当に私が参戦するだけの価値があるかどうか、それをもう一度考えさせてくれる余裕をくれた。その結果、過去の記録を確認し、品も誇りも感じないような野蛮な殺戮が行われているのを知り、過去三度の聖杯戦争でもとてもだが完成からは程遠い結果だったのを理解した」

 

「失望なさったのですね」

 

「端的に言えばそうなるだろう。まぁ、私はこれに自分が参戦する事には不満を覚えてしまった。故に参加を拒否したかった所なのだが―――そこに君が来た。まさかこの話を嗅ぎ付けてくるものがいるとはね」

 

「偶然ですよエルメロイ教授。俺は偶々、幸運にもそれを耳にしただけです。それに教授もここ最近は生徒達の方からやる気がない様に見える、と言われているらしいですよ?」

 

 その言葉にやれやれ、といった風にケイネスが息を吐いた。

 

「なんと、そうか、私とした事が見える程に落胆していたか。うむ、やはりアインツベルンが主催する聖杯戦争という言葉に少々浮かれすぎていたのだろう。―――私は天才で、我が家はこのまま研鑚を積めば順当に根源へと到達する。そこに急ぐ理由は一切存在しないのだ。今回の件は憶えて自分を戒めるとしよう」

 

「失敗を次へと繋げますか」

 

「失敗から学ぶ者こそが魔術師だ。我々は失敗しながらも前進を続けているのだ」

 

「流石です、エルメロイ教授」

 

 軽く相手の気分をよくするためにヨイショするのを忘れない。ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは魔術的に考えれば間違いなく天才の部類に入る。自分の様な菲才とは格が違う。だけど、同時にこの男は”俗物”だと自分は思っている。少なくとも家柄を、家名を、そして誇りなんてものを持ち出す人間の大半は俗物だ。その中でもケイネスは非常に解りやすい男だ。何せ、自分の家と魔術、それに婚約者に対して強い執着を見せているのだ。割と話しやすい相手だと思う。若干見下されることさえ無視すれば。

 

「それではケイネス教授―――」

 

「―――あぁ、約束通りこの令呪を君へと譲ろうではないか。何よりもアニムスフィア家のご令嬢の紹介であるならば私も無碍にはできない」

 

 ケイネスの笑みに対してこちらも柔らかな笑みを返しつつ、思う―――結局は家柄か。

 

 

                           ◆

 

 

 ケイネスとの面談、或いは交渉が終わると右手にはケイネスの手にあったはずの令呪が移植されていた。ただケイネスの手にあった頃とは微妙に異なり、デザインは大きいUの字を描くような鞘に十字架に近い形をした剣が収まっている様な、そんなデザインだった。令呪、それは聖杯戦争に参加する資格であり、聖杯戦争で戦うために必要な英霊を呼び出す為の鍵で、チケットでもある。これがない事には聖杯戦争には参加すらできない。だからこれで漸くスタートライン、という所まで来れた。

 

 ケイネスと話し合うのに使っていたケイネスの執務室から出て時計塔の廊下に出ると、そこには数少ない時計塔の知人の姿があった。白髪にオレンジと黒のジャケットに腕を通す女性の姿、彼女こそがケイネスの言った”名門”アニムスフィア家の令嬢、オルガマリー・アニムスフィアになる。手を上げて彼女へと挨拶しつつ、

 

「お前って相変わらず信じていた相手に裏切られて捨てられそうな顔をしてるよな!」

 

「ぶち殺すわよ!」

 

 どうやらこちらの交渉、というか面談が終わるまで律儀にも待っていてくれたらしいオルガマリーに手を振りながら近づきつつ、右手の甲にケイネスから譲られた令呪を見せる。それをオルガマリーは確認し、そしてふんっ、と声を漏らす。

 

「ちゃんと手に入れた様ね。ま、私がバックについているんだからこれぐらいできて当然なんだけどね。それにしてもロード・エルメロイの相手はどうだったかしら」

 

「めんどくさいアレ」

 

「そう、良い気味ね」

 

 あっかんべー、という風に舌を突き出しながら此方をののしるオルガマリーの姿を見て、軽く息を吐く。なんとなくだが馬鹿な姿を見たら安心したというべきか、アニムスフィア家の次代当主がこれでいいのか、とか思ったりもするが、なんだかんだで自分の立場は”外様”だ。そこまで言うもんではないし、何より友人に近い感情を抱いているのだ、こういう軽い付き合いの方が比較的に楽しい関係というものだ。

 

「とりあえずこれで聖杯戦争に参戦する資格はゲットした―――これでいいんだよな、マリー」

 

「えぇ、そうよ。アニムスフィア家は聖杯を必要としているわ。だけどウチにはマスター適正の高い人間はいないわ。聖杯戦争に必要なのは魔術師として優秀な人間ではなく、マスターとしての適性が高い人間。それを調べた結果―――」

 

「引っかかったのがお前の知り合いだった俺で、俺も俺で聖杯戦争には個人的な興味はあったから―――」

 

「―――win-winな関係ね。契約やら捜索やらで色々と時間がかかるから身近な人物でヒットして本当にここは助かったわ。魔術師として有能な人材イコールマスターとして優秀な人間とは限らないもの」

 

「マスターにはマスターとしての適性が存在し、魔術回路の有無とは別にサーヴァントを上手く扱えるかどうか、って話だっけ」

 

「大体そんなものね」

 

 魔術回路を保有し、サーヴァントに対して十分な魔力補給を行えることはマスターとして最低限必要な条件だ。だがそれとは別に、オルガマリーが言うには”マスター適正”というものが存在し、マスターとしてサーヴァントの力をどれだけ引き出せるか、サーヴァントを上手く運用できるか等、そういう能力適性が存在するらしい。そしてオルガマリーとその家が調べた所、十全に魔力供給を行えつつ戦闘をこなせ、それでいてマスターとして優秀なのは俺だったらしい。

 

 オルガマリーの数少ない知人が、だ。

 

 そこに運命を感じる。まるで何かが聖杯戦争へと向かえ、と言っているかのような。まぁ、それはそれとして、聖杯戦争に参戦する資格をこうやって得る事が出来たのだ、こうなってくると色々と準備を進める必要がある。礼装、人知、拠点、サーヴァント、と、やる事はたくさんある。遊んでいる暇はなくなってくる。

 

「んじゃ、まずはサーヴァントの召喚か」

 

「そうね。貴方の魔力量を考えたらセイバーやライダー、バーサーカーはなしね。アレらは魔力の消耗が激しいクラスだし。かといって地の利がこちらにある訳じゃないからキャスターもなしね。既にアサシンは別の参加者に召喚されているらしいし―――」

 

「―――となってくるとコストパフォーマンスで優秀なランサー、或いはアーチャーが最適か」

 

「魔術師としての能力のなさを考えると魔術系統のスキルを使用できるサーヴァントが理想的ね。そうすれば魔術による攻撃から身を守れるし、ね。対魔力を保有しているのはランサーのクラスだったかしら」

 

「となるとランサーで大英雄クラス、魔術の知識がある者か。ここまで来ると大分絞り込む事が出来るな」

 

「そうね」

 

 予め聖杯戦争で使えそうな英霊はリストアップしている。と言うのも、アニムスフィア家から聖杯戦争にマスターとして参戦してみないかと声をかけられたとき、そこから既に聖杯戦争に参加し、戦う為の準備は進められてきたのだ。アニムスフィア家はこの聖杯戦争に関しては本気だ。何よりも、”英霊召喚術式”というものを欲しがっており、聖杯を手にすることで術式を手に入れようと計画している。

 

 ケイネスの令呪の放棄も、実はケイネスの気まぐれではないのだ。

 

 生徒に、或いは友人に金をつかまさせ、少しずつケイネスの頭の中に言葉を溜めこんで行くのだ。周りの人間が”聖杯戦争なんてくだらない”、”リスクに成果が合わない”。そんな風に言っているのを聞けば成程、と思うのが人間の集団心理だ。ケイネスの一件はそれに引っかかっただけだ。まぁ、間抜けと言ってしまえば間抜けなのは魔術的要素が一切ないからだろう。

 

 基本的に魔術師という生き物は魔術ばかりを見ているせいで現代を見ていない連中が多い。アニムスフィア家の連中はそこらへん、実に賢いとは思う。

 

「ほかの参加者たちは現在、どんな感じだ?」

 

「遠坂家、間桐家、アインツベルンは既に召喚済みね。あとは聖堂教会の神父もどうやらマスターとして参戦するらしいわね―――さっき言ったアサシンはここよ。ちなみに遠坂家の当主、遠坂時臣とこの神父は師弟関係にあったらしいから同盟を真っ先に疑うべきね」

 

「同盟ねぇ……面倒くせぇ。こっちから同盟を組めるような相手、いるのか?」

 

 その言葉にオルガマリーは足を止め、そしてこちらへと振り返る様にいるわ、と答える。

 

「―――レフ・ライノール・フラウロス。時計塔十一科ロクスロート研究棟の館長でありサーヴァント・キャスターのマスターよ。事前にこちらから話を通して、支援体制と同盟の体制を整えてあるわ。だからあとは貴方が英霊を召喚すればそれで一先ずの準備は完了―――聖杯戦争へと状況を移行する事が出来るわ」

 

「そっか」

 

 オルガマリーの様に足を止め、そして自分の右手の甲を見る。自分の様な非才の者が―――才能がないから、と家から放逐されたような存在が聖杯戦争へと参戦する。半ば捨てられるように放逐され、旅に出て、修行して、そしてオルガマリーにスカウトされる様な形でこの時計塔へとやってきた。それで今、自分は想像もしなかった舞台にいる。聖杯戦争。興味はあった、だが実際にこうなるとは欠片も思いはしなかった。

 

 が、それはそれ、これはこれ、だ。

 

 やるとなったら緊張や使命感は投げ捨てる。覚悟なんてものは判断を鈍らせる道具でしかない。生きるのであれば流されつつも舵を取るのが大事なのだ。フレキシブルに、柔軟に、しかししっかりと芯と”真”を持って生きれば、世の中は何とかなるものなのだ。

 

「うっし、さっそく今夜から召喚をしよう」

 

「触媒は色々と用意してあるけど、召喚したい英霊は決まっているの? まさか縁召喚でガチャるとか言わないわよね」

 

「流石に俺もそこまでダイナミックな自殺志願者にはなれねーわ」

 

 笑いながら煙草を取り出し、咥えたそれに火をつけつつ、あのウルトラ求道僧と名乗った馬鹿が今、世界のどこらへんで旅をしているのだろうか、そんな事を思いつつ答える。

 

「―――影の国の女王を召喚する」

 

 魔術に対する知識、数多くの英雄を育て上げた実績、統治者としての人格、そして予想出来る”願い”を考慮する。総合的に見ると非常に強力で、扱いやすい英霊になると思う。多少聖杯のピックアップ範囲から外れる可能性がスカサハの存在を考えれば有り得るが、アニムスフィア家の誇る技術力を合わせればそこら辺は多少、どうにかなると思う。少なくとも、

 

「そうね、ならばさっそく召喚の為に最高の環境を用意しましょうか」

 

 迷う事無く、そして自信を持って連絡をサポートスタッフに入れようとするオルガマリーの姿は信頼できた。




 zeroxfgoなSS。なおこれは完結予定。

 本来はカルナさん奉納品だったけどガチャから出てこなかったのでリアルで絶叫して隣の部屋の人に壁ドンされながら発狂してカルナはこの世から消えた……そう……私がカルナだったのだ……。つまり師匠はナイスおっぱいって話だ。

けいねすくん
 出番はもうない。指ポキ回避。

おるがまりーちゃん
 バンッ! するとビクッ! っとする子。

主人公
 ウルトラ求道僧の友人。いやぁ、キチガイは強敵でしてねぇ。

 インドォ……。
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