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大辞泉が選ぶ新語大賞2025年10月の月間賞に「緊急銃猟」「体験格差」と並んで、「半うつ」が選定され、この言葉の社会的認知が急速に広まっています。

半うつとは、一言で言うと、「抑鬱以上、うつ未満」のこころの状態に付けられた新語です。

現役精神科医であり、過去に「半うつ」を経験した著者が、なぜ今半うつという概念が必要なのかを解説します。(『半うつ 憂鬱以上、うつ未満』(平光源・サンマーク出版)から再編集してお届けします。)

半うつ 憂鬱以上、うつ未満
平 光源
サンマーク出版
2025-09-24


■「半うつ」と「うつ」の違い
「半うつ」の話をする前に、まずは「うつ病」とは一体どんな状態なのかについてお話します。一度は聞いたことがあるかもしれませんが、「うつ病」には明確な診断基準があります。

うつ病の診断基準は、アメリカ精神医学会が定めた定義が一番有名です。

(1)抑うつ気分:悲しい、虚しい、なぜか涙が出る
(2)興味・喜びの消失:何をしても楽しめない、喜べない
(3)体重・食欲の変化:食欲がない、または食べ過ぎて1ヶ月で体重が大きく変わる
(4)睡眠障害:眠れない、または寝すぎてしまう
(5)精神運動の変化:そわそわして落ち着かない、または動作がのろくなる
(6)疲労感・気力の低下:すぐ疲れる、やる気が湧かない
(7)無価値観・罪悪感:自分を責める、罪の意識に苦しむ
(8)思考力・集中力の低下:考えがまとまらない、決断できない
(9)死への想い:死にたいと思う、具体的に方法を考える

これら9つのうち、5つ以上が、2週間以上ほぼ毎日続き、日常生活に支障をきたしている状態――これが「うつ病」の診断基準です。

でも、ちょっと待ってください。

平日は集中できなくて仕事が手につかなくても、土日に家族と過ごせるなら「ほぼ毎日」には当てはまらない。

職場のパワハラで「死にたい」と思っていても、眠ることができて、食べられているなら、該当項目が足りない。

何か不調を感じて、内科を受診したらどうなるでしょう?

「特に異常はありませんよ。ちょっと疲れたんでしょうね」
こう言われることがほとんどでしょう。

そう告げられた方が、職場でどんな扱いを受けるか想像できますよね。

「やっぱり病気じゃないじゃないか! 気合が足りないんだよ」

実際にこう言われるかは別として、そのような空気に包まれることが多いはずです。

こうして、心の警報が鳴り続けているのに、「根性」や「気合い」で乗り切ろうとする日々が続いていく。

気が付いたら取り返しがつかないところまで来ていて、2か月待ってメンタルクリックで「うつ病」と診断を付けられ、けっして短くない休職期間が始まっていく。 

これってとても危険だと思いませんか?

そこで、私はあえて、うつ病の診断基準まではいかないものの、明らかに一時的は気分の落ち込みを超え、「身体は何とか動いているけれど、心が動きを止めてしまった状態」を半うつと名付けることにしました。

名前が付くことで、対策を考えることが出来ます。井戸に落ちてから救い上げるより、井戸に落ちる前に「このままいったら落ちるルートに入っているよ」と注意喚起することで、落ちてしまう人を大勢救うことができるのです。

■現代人の5人に1人を襲う「半分うつ」
それでは、「半うつ」とは一体どんな状態なのでしょうか?

実は、心の状態を理解するのに、とても分かりやすい方法があります。それは「脳の中で何が起きているか」を見ることです。

私たち人間の脳の中では、神経細胞同士が「神経伝達物質」という物質を使ってやり取りをしています。これが減ってしまうと、脳のネットワークがうまく働かなくなり、心にも影響が出てきます。

数人で会話のやり取りをしようにも、誰かが無視したり、あやふやなことを伝えたりすればコミュニケーションは破綻します。

脳内でもまさに同じようなことが起こってしまうのです。

特に重要な役割を持つ各神経伝達物質が以下の3つです。

(1)セロトニン:心の安全装置のような存在。低下すると憂鬱、不安、焦燥感が強まる。
(2)ノルアドレナリン:心にやる気を灯す存在。低下すると意欲低下、興味関心が低下する
(3)ドーパミン:心にワクワクを抱かせてくれる存在。低下すると楽しくなくなる。
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極端に言ってしまえば、うつ病とは、この3つの神経伝達物質全てが大幅に減ってしまった状態と言えます。

では、「半うつ」は?

3つの神経物質全てが不足しているわけではないけれど、どれか1つ、あるいは2つが不足している状態。

これが「半うつ」だと考えています。
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ここでとても大切なことをお伝えします。

うつにしても半うつにしても、あなたの「気合い」や「怠け」が原因ではありません。

「神経伝達物質の減少」という、れっきとした生理的な変化によって起こっているのです。

ですから、くれぐれも自分を責めないでください。

この神経伝達物質は、ストレス、睡眠不足、栄養の偏り、運動不足などによって過度に消費され、必要以上に減少していきます。現代社会で生きている以上、誰にでも起こりうることなのです。

では実際、どれくらいの人が「半うつ」状態にあるのでしょうか?

厚生労働省の調査では、うつ病の有病率は5.7%。

さらに、2018年のチューリッヒ大学の研究によると、うつ病の一歩手前の「適応障害」の有病率は15.7%とされています。

「適応障害」とは、今いる環境にいることが辛く感じられる状態です。

しかし、環境は変わっていないのに憂鬱以上の気分を感じている方もたくさんいるはずです。そういったことから鑑みると、控えめに見積もっても、現代人の5人に1人は「半うつ」の状態にあると言えるでしょう。

ではなぜ、これほど多くの方が「半うつ」の状態になるのでしょう。

現代社会は「成果主義」「効率性」「比較社会」という三つの怪物に支配されています。SNSで他人と比較し、常に成長と成果を求められ、少しでも立ち止まると「怠け者」のレッテルを貼られてしまう。

そうして、夜は本当は寝ないといけないのに、納期があるからと不眠不休で頑張る。熊が冬に冬眠するように春夏秋冬で生活リズムを変えた方がいいのに、労働時間が決まってるからと、冬の朝、自分を叩き起こして無理やり職場に行くなどを繰り返しています。

「半うつ」が増えているのは、私たちが人間本来のリズムを忘れ、機械のように動くことを強要されて、頑張りたいのに頑張り切れなくなっているからなのです。

■半うつと判断されたら
「半うつ」の判断のための、チェックシートを作りました。もしよろしければ、一緒にやってみましょう。

以下の20項目について、当てはまるものにチェック をつけてください。

□頭がモヤモヤして、スッキリしない。
□美味しいものを食べたり、嬉しいことがあったりしても、心から喜べなくなった。
□夜なかなか眠れない、または休日に1日中寝てしまう。
□食事が面倒になる、または無意識に食べ過ぎてしまう。
□朝起きるのが辛く、朝起きた時点で「もう疲れている」と感じる。
□本や資料を読んでも頭に入らない、仕事に集中できない。
□「私ってダメだな」「価値のない人間だ」と思うことが増えた。
□理由もないのに不安になったり、心配事が頭から離れない。
□原因不明の頭痛、肩こり、のどのつまり感、嘔気、胃の不調が続く。
□周囲からの誘いを断ることが多くなった。
□「今日の夕食何にしよう」といった小さなことでも決められない。
□笑顔や楽しい表情をすることが減った。
□「あの時ああしていれば」と自分を責めることが増えた。
□話している最中に集中が途切れ、相手の話を聞き逃すようになった。
□歩くのが遅くなったり、物が重く感じたり、身体的な動作が鈍くなった。
□些細なことで急に悲しくなったり、ソワソワしたり、怒りっぽくなった。
□掃除、洗濯、料理などの日常的な作業が億劫になった。
□小さい物音でも音が高く感じたり、うるさく感じるようになった。
□「消えてしまいたい」など、希死念慮(死についての考え)が浮かぶことがある。
□仕事でケアレスミスが多く、もの忘れも目立つ。

以下のチェックリストのうち5つ以上チェックがつく場合、「半うつ」の可能性があります。

まずは、体によい食べ物をしっかり摂取することから始めましょう。なぜならば、「私たちの体は、私たちの食べたものでできている」からです。

たとえば、セロトニンの原料は「トリプトファン」というアミノ酸ですし、ノルアドレナリン、ドーパミンの原料は「チロシン」というアミノ酸です。

それらのアミノ酸はタンパク質の中に多く含まれています。ですから、当たり前ですがタンパク質をとらないと、アミノ酸が体に入ってきません。

その結果、脳の機能も低下するわけです。さらに重要なのは、そのアミノ酸から神経伝達物質への合成は、多くの場合、休息や睡眠の時に行われるということです。

つまり、
1.食事により、アミノ酸を摂取する
2.睡眠中にアミノ酸から神経伝達物質が合成される
3.翌日、心の状態が安定する

この流れが正常に働かないと、どんなに意志の力で頑張ろうとしても、材料不足で心が思うように動かなくなってしまいます。

「食う・寝る」の大切さは、精神論ではなく生理学の話なのです。

「気合いで乗り切れ」
「根性が足りない」

そんな言葉をかけられても、材料がなければ神経伝達物質は作れません。食事と睡眠は、まさに心にとってのガソリンの役割を持っているのです。だからこそ、まずは質の高い「食う・寝る」を実践するところから始める必要があるのです。


平光源 精神科医


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■プロフィール 平光源 精神科医
東北のとある精神科医院を営む精神科医。
高校時代、自分の不登校によって医学部受験に失敗。3浪してうつになり、恩人のある言葉とある本がきっかけでうつから回復した経験をふまえて、約25年精神科医として心のケアに当たる。
産業保健総合支援センター相談医、老健施設往診医、いのちの電話相談医、傾聴の会顧問など、その活動は多岐にわたる。精神保健指定医、精神科専門医、日本医師会認定産業医。
著書『あなたが死にたいのは、死ぬほど頑張って生きているから』が2022年の第2回メンタル本大賞優秀賞を受賞。中国や台湾、タイで翻訳されその活動は世界に広がっている。『半うつ 憂鬱以上、うつ未満』(サンマーク出版)』。

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半うつ 憂鬱以上、うつ未満
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サンマーク出版
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