「解散はフリーハンドにさせて」秘密貫いた戦略、首相が重視した進言
高市早苗首相(自民党総裁)は14日、首相官邸で自民の鈴木俊一幹事長、日本維新の会の吉村洋文代表(大阪府知事)、藤田文武共同代表と会談し、23日召集の通常国会冒頭で衆院を解散する意向を伝えた。急きょ浮上したように見える今回の解散劇。関係者の証言をもとに舞台裏を探る。
13日午後、自民党本部4階の一室。首相官邸ナンバー2の木原稔官房長官が部屋に入ると、鈴木俊一幹事長と古屋圭司選挙対策委員長が待っていた。両氏は、高市早苗首相が冒頭解散に踏み切ることを前提に、全国の選挙区情勢を分析している最中だった。木原氏が途中で呼ばれたのは、首相と解散戦略について直接意見を交わしている最側近の一人だったからだ。
3人の議論は投開票日に及び、野党の選挙準備が整わないうちに行うことを念頭に「短期決戦の方が良い」と意見は一致した。最速の想定は「1月27日公示、2月8日投開票」だが、3人は「最後は首相に決めてもらおう」と木原氏が議論を持ち帰ることになった。
複数の政権幹部によると、今回の解散戦略は、首相や木原氏、安倍晋三元首相の側近だった今井尚哉内閣官房参与ら限られたメンバーで極秘に練られたという。1月上旬の情勢調査の結果が「自民の単独過半数」を優に超えていたことが、首相の決断につながった。
読売新聞が9日夜、「首相が衆院解散検討、通常国会冒頭に」と報じると、蚊帳の外だった党幹部の一人は首相に電話で反対した。「今後の国民民主党との関係を考えても、今解散するのはどうなのか」。新年度予算案への賛成を約束した国民民主党と連立拡大ができないか、水面下で駆け引きが行われていた最中だったからだ。
だが、首相はこう返したという。「国民に信を問い、政権運営を安定させるのも一つの方法だ」
予兆は年末に
急きょ浮上したようにみえる今回の冒頭解散。しかし、その予兆は昨年末からあった。
昨年12月26日午後、首相官邸。高市早苗首相が自民党税制調査会幹部らを集め、新年度税制改正をまとめた労をねぎらう昼食会を開いた。首相は自身に近い税調幹部にこうささやき、解散戦略を練り始めていることを示唆した。「解散はフリーハンドにさせて欲しい」
もともと政権発足当時、首相には「まずは政権の実績をきちんとアピールしなければいけない」(政権幹部)として物価高対策や経済対策にじっくり取り組む考えがあった。石破前政権が発足直後に衆院解散を打ち、歴史的惨敗を喫した苦い経験もある。
だが、首相が初の臨時国会で直面したのは「数」を持たぬ政権の厳しい現実だった。
日本維新の会と連立を組んだが、衆院はぎりぎりの過半数で、参院は「ねじれ国会」の状態に。憲法改正を議論する憲法審査会の会長や、予算案を審議する衆院予算委員会の委員長のポストを立憲民主党に奪われ、議論を主導できないことに首相はいらだった。与党内でも、議員定数削減をめぐって自民内で不満がでると、維新は「連立離脱」をちらつかせた。
首相や側近らは、首相が力を入れるスパイ防止法の制定や外国人政策の厳格化を推進するためにも選挙を経て国民からの「信任」が欲しいと考えた。
「今の支持率なら単独過半数を回復できる」
そんな中、首相や側近らの念頭に常にあったのが歴代屈指の高い内閣支持率が続くことだった。側近の一人は周囲に「今の高支持率で解散すれば、自民は『単独過半数』を回復できる。そうすれば、新しい世界が開ける」と漏らした。昨年11月の党情勢調査で自民優勢の結果がでると、首相は党幹部に対し、自民候補空白区での候補者擁立作業を加速させるように指示した。
複数の政権幹部によると、解散戦略を練る首相と木原稔官房長官が参考にしたのが、安倍晋三元首相の側近だった今井尚哉内閣官房参与の進言だった。安倍氏の解散戦略に深く関わり、長期政権を作り上げた立役者の一人である今井氏の経験値を重視した。
政権内では当初、解散時期の本命は新年度当初予算成立後とみられていた。だが、通常国会で審議が始まり、政治スキャンダルなどが出れば、政権の体力がそがれるリスクがある。また首相自身の台湾有事答弁をめぐる日中関係の悪化で経済面の悪影響が出れば、経済政策を看板政策として据える政権に大きな打撃となる。「自民単独過半数」の可能性を高めるためにも、首相は冒頭解散へと傾いていった。
官邸幹部によると、国民民主党との交渉の行方も冒頭解散を後押ししたという。新年度予算案への同党の賛成の見通しはついたが、支持母体の連合が与党入りに反対し、水面下の連立交渉の不透明感は増していた。
ただ、冒頭解散実現の最大のハードルは、当初予算の年度内成立断念に与党内から反発が出ることだった。首相がこれまで物価高対策や経済対策に最優先に取り組む姿勢を示していたからだ。
貫いた秘密主義、根回し避ける
このため、首相は木原氏や今井氏らごく少数だけで解散戦略を練る徹底した秘密主義を貫き、党幹部らへの根回しを避けた。事情を知る側近は「周囲にあれこれ相談しないのが、首相のリスクマネジメントだ」と明かす。
9日夜、読売新聞が首相が冒頭解散の検討に入ったと報じると、与党議員らは真偽をいぶかりつつも選挙事務所の確保などの準備に一斉に走り出した。自民幹部は「こうなればもう引き返せない」と語った。
ただ、側近だけで進めた異例の解散に、首相に近い中堅議員からもこんな声が上がる。「今は党内は黙っているが、今回のやり方はしこりを残す。支持率が下がったときに一気に足を引っ張られるだろう」
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解散について相談したのがごく限られた側近だということ自体が、政権基盤の状況を表しているように感じる。 解散は、政権の生殺与奪の鍵となる最重要意思決定であり、首相は孤独な決断をしなくてはならない。本当に自分を支えてくれる頼れる人に相談するのだろう。 限られた側近と相談して決めたということは、そのくらい本当に頼れる味方がいないということなのかもしれない。 頼みの綱は高い内閣支持率だけど、ひとたび不祥事などが起これば落ちていく可能性があり、不安定だ。 この孤独な戦いの構図を脱却するためには、選挙で勝ち、人事や政策で報いるなどして、味方を増やすことなのだろう。言葉を変えれば権力を盤石にするということだ。 各党の動きも慌ただしくなっており、短期決戦の中で、どういう選挙結果になるか分からないが、公約をどう示していくのかも気になる。今後の動きから目が離せない。
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自民を2009年に下野させた麻生太郎が引っ張り出した高市早苗が、2012年以降の安倍政権で数々の愚策を弄したとされる今井尚哉の進言に、麻生を蹴ってまで従うという、笑うしかない醜態である。これまでの自民党で暗躍しながら失敗を繰り返してきた麻生や今井が、リベンジしようとした際の操り人形が高市だった。 しかしおとなしく操られるだけの高市であるはずがない。国際的失言や政治資金問題、カルト問題など、色々しでかしてくれた末の解散劇である。愚かさが何乗にもなっているような現政権党のありさまに対して、有権者はいかなる審判を行うのか。
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