【採択者インタビューvol.7】「香り」から始まるまちづくり 川内村発・クラフトジンブランドの挑戦
-社会課題に挑む採択者8団体のストーリーを、シリーズでお届けする「採択者インタビュー」。事業の背景、描く未来、そしてプログラムコンセプトである「Think,Our Social」への想い―それぞれの挑戦のかたちをお届けしていきます-
第7弾は、福島県川内村を拠点に、「香りで地域と世界をつなぐ」挑戦を続ける株式会社Kokage代表取締役・大島草太さんです。東日本大震災の影響で一度は人口がゼロとなり、今は約2,000人が暮らすこの村に、蒸留所「naturadistill(ナチュラディスティル)」を立ち上げ、日本古来の植物を活用したクラフトジンづくりに取り組んでいます。
香りが持つ力に強い可能性を感じ、たった一人で始めた事業は、今では仲間が集まり、生産体制も整い、お酒づくりの枠を超えたまちづくりへと広がりつつあります。オンリーワンの香りを媒介して地域の魅力を全国そして世界へ届け、その香りをきっかけに村へ人が集まり、交流が生まれる。やがてその動きが渦のように広がり、地域に新たな循環をもたらしていく。大島さんは、そんな未来を思い描きながら挑戦を続けています。
「福島の魅力を伝えたい」―学生起業家としての挑戦
栃木県宇都宮市出身の大島さんは、教師を目指して福島大学へ進学。授業で訪れた川内村で、豊かな自然と人の温かさに触れたことから、福島という土地そのものに強く惹かれていったといいます。
しかし、大学3年生のとき、休学してワーキングホリデーで訪れたカナダで衝撃を受けます。現地の方から、「震災後の福島って人が住めるの?」と問われたのです。この経験が、「福島県のイメージをもっと向上させたい」という強い想いを芽生えさせました。
その想いを形にするため、大島さんは「五感で福島の魅力を直接届けたい」と考え、飲食の世界に飛び込みます。川内村のそば粉と田村市都路町の卵を使った「そば粉ワッフル」を考案し、2019年、大学在学中にキッチンカーで販売を開始。「Kokage Kitchen」が誕生しました。
さらに、2022年には、県内の大学生や高校生と栽培したハーブと規格外フルーツを組み合わせたフルーツハーブティーブランド「TEA&THINGS」を立ち上げました。これを機に事業を拡大し、株式会社Kokageとして法人化します。
同時期に大島さんは、田村市に拠点を置くクラフトビールメーカー「ホップジャパン」の代表・本間さんと出会います。
「お酒をつくって売るだけではなく、クラフトビールを軸に人・ものの交流を生み、地域の活性化につなげる。その『循環』をとても大切にする姿勢に強く感銘を受けました」
本間さんの考えに共感した大島さんは、自身の事業を続けながらホップジャパンで働き、地域産業の循環を生み出していく過程を学びました。
クラフトジンの「香り」で地域を伝える
「福島の魅力を広く届けたい」―その想いの実現に向け、直面した大きな課題の一つが保存性でした。ハーブティーやクラフトビールの賞味期限は、通常半年程度で、特にビールは冷蔵が必須。こうした条件では、遠方への配送には多くの制約がありました。
そんな中で出会ったのが、香り豊かな「ジン」でした。ジンは穀物由来の蒸留酒に風味づけしたお酒で、アルコール度数が高く、長期保存が可能。必須の材料であるジュニパーベリー以外は自由に植物を組み合わせられるため、製造における自由度の高さも特徴であるほか、地域の個性を香りで表現できるのも魅力です。
「地域の植物で香りづけしたジンなら、土地の魅力を伝えられるだけでなく、その香りに込められたストーリーに惹かれた人がこの地を訪れ、地域活性化につながるのではないか」―大島さんはそう考えました。
こうして2024年11月、川内村に蒸留所を開設。日本古来の植物「かやの実」を主原料にしたクラフトジンの製造・販売をスタートしました。
現在は代表作の「naturadistill固有種蒸溜酒」を中心に、限定品を含め月間約1,000本を製造。酒店や飲食店への卸売を軸に、オンラインショップで一般のお客さまにも販売しています。
さらに、2025年大阪・関西万博や、海外でのイベント出展等を重ね、2025年5月からはシンガポールへの輸出を開始。2026年には台湾やアメリカへの輸出も計画しています。
加えて、立ち上げ当初は大島さん一人で運営していましたが、現在は7名の生産体制に拡大。作業スペースの拡張や設備の増設も進み、2026年には月3,000本の生産を目指しています。
共想を力に、さらなる共創を目指す
関わる人が増え、事業が順調に拡大していく一方で、大島さんには気がかりなことがありました。それは、事業の根底にある地域や社会への想いが十分に言語化されていないことです。
「地域の人と薬店の倉庫だった建物を蒸留所に改修したり、ジンの材料となる植物を集めたりと『共創』はできてきたと思っています。一方で、事業を通して目指すビジョンや、社会的な価値についての共通認識がまだ明確にできていない感覚があります。」
今回の地域共想プログラムには、運営メンバーも一緒に参加しています。「共に考えながらビジョンをつくり、想いを共有する。まさに『共想』しながら、いろいろな人を巻き込んでいける事業として育てていきたいです」
「この場所ならでは」の体験を届けたい
現在、蒸留所の2階にレストランバーを開業する準備を進めています(2026年夏予定)。地元食材を使用した、ジンならではの香りに合う料理のほか、オリジナルのノンアルコールドリンクも提供し、誰もが楽しめる場所を生み出したいと考えています。
「食材の一つひとつには、その土地の文化や歴史、関わる人々の物語があります。お酒をきっかけに集まる人々に、『ここならでは』の要素を込めた食体験を届けたいです」
さらに、大島さんが見据えているのは、まちづくりへの本格的な関与です。蒸留所におけるジン製造の基盤を築いた先には、森や宿泊といったフィールドにも事業を広げたいと考えています。川内村は面積の9割を森林が占め、井戸水や湧水を生活用水として使うほど水資源にも恵まれた土地。一方で、十分に手入れが行き届いていない山林も多く、大島さんはその一部を買い取り、木を植え、育て、収穫するというプロセスを、ファンや地域の人たちと一緒に楽しめる「体験の森」として育てていく取り組みを考えています。さらに、体験型宿泊施設の開業など、構想は広がり続けています。
あなたにとっての「Think, Our Social…」とは?
大島さんが目指すのは、「香りが土地の魅力を運び人が循環し誇りが育つ未来」です。
人の感情や記憶に深く作用する「香り」を通じて、その土地に触れてもらい、そこから森や水、文化など、地域の奥深い魅力を知り、訪れた人がファンになっていく―そんな循環を思い描いています。
「川内村では、新しい事業を始める人が増え、村の人々も積極的に応援してくれます。」と語る大島さん。その環境が、大島さんの考える「Our Social」につながっています。それは、外から来た人も自然に溶け込み、交わりながら新しいものが生まれ続ける、そんな開かれた地域社会です。
「外に出ていったお酒の『香り』がきっかけで人が訪れ、その人たちとの交流から新たに面白いものが生まれていく。そうやって地域の内と外の交わりが大きくなり、渦が広がっていくような地域になればと思っています」
一滴のジンが、地域と世界をつなぐ―あなたもこの輪に加わりませんか?
Profile
株式会社Kokage 代表取締役
大島 草太
活動拠点:福島県双葉郡川内村
実現したい未来
香りが土地の魅力を運び人が循環し誇りが育つ未来
事業概要
土地の固有植物を活用したクラフトジン製造を軸に、宿泊や飲食、再生可能エネルギーと連動させ、滞在体験を通じて地域循環の仕組みを形づくっていく。
※本インタビューは、2025年11月に行いました。
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