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【採択者インタビューvol.4】「介護タクシー」で地域の医療と日常を支える―元救急隊員が挑む、非緊急搬送のインフラ構築―

- 社会課題に挑む採択者8団体のストーリーを、シリーズでお届けする「採択者インタビュー」。事業の背景、描く未来、そしてプログラムコンセプトである「Think, Our Social」への想い―それぞれの挑戦のかたちをお届けしていきます-

第4弾は、秋田県で介護タクシー・民間救急事業を手がける株式会社VISTAの挑戦です。VISTAは、高齢者や要介護者、障害のある方など、自力での移動が難しい人たちの外出を支えています。代表を務める戸井田 涼さんは、救急隊員として働く中で、「救急車ひっ迫」という現実に直面しました。「本当に必要な人に、救急車という限られた資源をどう届けるか 」― 現場で抱いたこの問いが、非緊急搬送を担う介護タクシー事業に踏み出すきっかけになりました。
まだ認知が十分とはいえない介護タクシー事業を、今後どう広げていくのか。そして、全国的な課題である「地域の移動」をどう支えていくのか。秋田から始まる社会課題解決の新しい仕組み、その構想と理想の未来を戸井田さんに伺いました。

元救急隊員が直面した「救急車頼り」の現状と課題

秋田県出身の戸井田さんは、高校卒業後に専門学校で救急救命士の資格を取得。消防士の道へ進み、約10年間、救急隊員として多くの現場に携わってきました。

「たくさんの人を救いたい」―そんな想いで選んだ仕事でしたが、日々の現場では、非緊急の要請や、本来であれば別の手段で対応できる搬送に直面することが少なくありませんでした。戸井田さんは、救急車だけに頼らざるを得ない現状に、次第に課題を感じるようになったといいます。これは、全国的にも問題視されている「救急車ひっ迫問題」です。

『令和6年版 消防白書』(総務省消防庁)によると、令和5年の全国の救急出動件数は763万8,558件、約4.1秒に1回の割合で救急隊が出動したことになります。一方、そのうち48.5%が入院加療を必要としない軽症者でした。

戸井田さんも救急隊員時代の経験から、「救急要請全体の1〜2割は、医療的処置を必要としない搬送だと感じた」と話します。

現在の仕組みでは救急隊員は要請があれば必ず出動しなければならず、その結果、本来なら民間の移動サービスで対応できるケースにも救急車が出動し、重症患者への対応が遅れるリスクが生じてしまいます。

「国の制度の整備や、誰かが状況を変えてくれることを待つ側だった」と語る、戸井田さん。しかし、この課題を解決するためには、自ら動くしかない-そう考え、「介護タクシー」という選択肢に関心を持ちました。

事業化に向けて、まずは1年間、ウェブマーケティング事業で、集客や事業運営のノウハウを習得。準備期間を経て、2022年に株式会社VISTAを設立し、介護タクシー事業をスタートさせました。

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救急隊員時代の戸井田さんと同僚(写真手前中央が戸井田さん)

医療だけじゃない、日常を支えるVISTAの介護タクシー

VISTAは、介護タクシーや民間救急事業を展開し、一般のタクシーやその他の公共交通機関を一人で利用することが難しい高齢者や要介護者、障害のある方などの外出を支えています。

利用目的の8〜9割は通院ですが、冠婚葬祭やイベント、日常の買い物など、「行きたい場所に行く」ための外出もサポート。ストレッチャーや車いすに対応したリフト付きの車両を備え、救急隊員としての経験を生かしながら、乗り降りから付き添いまで、利用者の状態に応じた対応ができる体制を整えています。

現在は役員を含め5人で事業を運営し、秋田県内での利用者は累計約1,600人。毎月50〜80人の新規利用者が増え、地域の中に少しずつ浸透しつつあります。

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ストレッチャーのままでも乗車できるリフト付き車両

また、2025年1月からはフランチャイズ展開も開始。介護タクシー事業を立ち上げたい人を対象にノウハウを提供し、現在は全国各地で約20の加盟事業者が活動中です。
介護タクシー事業は、介護・医療業界の経験がなくても、普通自動車第二種免許があれば事業を始められます。営業許認可の申請や集客サポートなど、幅広い支援を行いながら、丁寧に伴走することで、介護タクシーという「インフラ」の裾野を広げています。

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小回りが利く軽自動車でも対応

地域の安心を支える、新しいインフラをつくる

地域の安心を守るため、戸井田さんは、秋田県で非緊急搬送の「新たな仕組み」づくりに挑んでいます。

「現在、消防庁が普及を進める『救急安心センター事業(#7119)』がありますが、秋田県では未導入であるほか、全国的にも地域差が大きく、必ずしも十分に機能しているとは言い切れません。結果として、軽症・非緊急の相談先が限定的で、救急車の出動が増えやすい状況が続いています。」

そこでVISTAは、非緊急搬送の受け皿となる民間事業者を地域で活かすため、デジタル技術を活用した『マッチングプラットフォーム』の開発・運営に取り組んでいます。利用者が、介護タクシーや民間救急などの「対応可能な事業者」を簡単に探せる仕組みを整えることで、地域に点在する搬送リソースを有機的に結び、救急医療の負担軽減につながる非緊急搬送体制の基盤を構築することを目指しています。

さらに、この仕組みを広げるためには、介護タクシー事業者の増加が不可欠です。安定した事業運営を支えるため、顧客管理や請求書発行など、日々の運営に欠かせない業務を一括で扱える業務効率化ツールの開発も進めています。

DXを活用して搬送の仕組みや事業運営を整え、非緊急搬送を「地域のインフラ」として根付かせたい-そんな想いを胸に、戸井田さんは社会実装に向けた第一歩を踏み出しています。

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VISTAでは多様なニーズに応えられるよう複数車両で対応

あなたにとっての「Think, Our Social…」とは?

戸井田さんが描く未来は、救急車が本当に必要な人へ確実に届く社会を実現するために、非緊急搬送の仕組みを地域のインフラとして定着させることです。

現在の救急搬送の状況を変えるためには、自治体・消防・民間事業者が連携し、「救急車が不要なときに、民間事業者へ適切に切り替えられる仕組み」を制度として位置づけることが重要です。

その第一歩として VISTA は、自社サービスの提供にとどまらず、地域全体で非緊急搬送を円滑に行うモデルケースづくり に取り組んでいます。

例えば、消防・行政・民間事業者が協力し、VISTAのマッチングプラットフォームを活用して、現場からの問い合わせに対して「救急車を出すべきか」「民間で対応できるか」を適切に判断し、必要に応じて介護タクシーへスムーズに切り替える——

そんな実証モデルの構築を目指しています。

「1社だけでは、制度の枠組みづくりは難しい。でも自治体や地域のプレイヤーと連携しながら、非緊急搬送の“当たり前”を少しずつ変えていきたい」―戸井田さんはそう力を込めます。

これらの構想を実現するため、さまざまな知見を得ようと、戸井田さんは地域共想プログラムに応募しました。プログラムでは、メンターや東北電力社員による伴走支援を通じて、自治体とのネットワーク構築や提案資料の作成ノウハウなど、さまざまなサポートを受けています。「何を、どの順番で進めていくべきか」を一緒に考えられる場として活用し、自社だけでは届きにくい相手や情報にアクセスできることも、大きな支えになっています。

そして、戸井田さんの考える「Our Social」とは、誰もが必要なときに安心して移動できる社会。

「『介護タクシー』をはじめとする非緊急搬送のインフラが確立し、必要なときに利用者が自然とそれを選ぶ。その結果、救急車は本当に必要とする人のもとへ確実に届く―それが私の思う理想の未来です。そこに近づけるよう、これからも一つひとつ取り組みを積み重ねていきたいと思います」

地域の医療と日常を支えるために、あなたなら、この課題にどう向き合いますか?

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Profile
株式会社VISTA 代表取締役
戸井田 涼
活動拠点:秋田県秋田市
実現したい未来
非緊急搬送インフラの構築と制度化
事業概要
DXで民間事業者の基盤を強化し、消防・行政と連携し、地域全体の安心安全を支える非緊急搬送を制度的インフラとして確立に取り組む。
※本インタビューは2025年11月に行いました。


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