【採択者インタビューvol.3】世代を超えてゆるやかにつながる―「地域の縁側」を仙台から全国へ―
-社会課題に挑む採択者8団体のストーリーを、シリーズでお届けする「採択者インタビュー」。事業の背景、描く未来、そしてプログラムコンセプトである「Think,Our Social」への想い―それぞれの挑戦のかたちをお届けしていきます-
仙台市若林区・なないろの里。約1000坪の敷地に、介護が必要な高齢者から元気いっぱいの保育園児まで、多様な人々が日常的に交わる場所があります。それが、未来企画が運営する多世代複合施設「アンダンチ」、顔の見える「地域の縁側」です。
閉じた世界になりがちな介護や福祉の領域を、地域に開かれた場として機能させたい-そんな想いから、代表の福井大輔さんはこの場所を育ててきました。
今回お届けするのは、地域共想プログラム採択者インタビュー第3弾。人が誰かとつながり、役割を持ち、暮らし、生きていく。その風景を仙台から東北・新潟、そして全国へ。つながりを広げる福井さんの新たな挑戦に迫ります。
地域の声に応え、広がった事業
「福祉の世界に関わるようになったきっかけは、『結婚』なんです」
大学卒業後、総合商社に勤務していた福井さん。義父が腎臓内科クリニックを開業したことで転機が訪れました。
透析患者の方たちは、週に3日、長時間にわたり治療を受ける必要があります。「彼らが安心して暮らせる住まいをつくれないだろうか」という相談を義父から受け、医療と暮らしをつなぐ場所づくりに関わり始めたことが、すべての出発点でした。
最初に立ち上げたのが、通所・訪問・宿泊の3つのサービスを一つの事業所で提供する小規模多機能ホーム「福ちゃんの家」(仙台市若林区荒井)。2015年にスタッフ9名からスタートし、現場の課題や地域のニーズに応えながら、少しずつ事業を拡大してきました。
その後、2018年に開所した複合施設「アンダンチ」(仙台市若林区なないろの里)を中心に、介護事業、障害者就労支援、児童発達支援、保育園、飲食店、給食事業、スポーツ教室など現在では幅広いサービスを展開。スタッフ数は約130名、利用者は介護と障害福祉を合わせて230名以上に増えました。さらに、飲食店利用者やスポーツ教室の生徒など、利用者は広がっています。
一見すると着実に事業を拡大してきたように見えますが、これまでの歩みを振り返り、福井さんはこう語ります。
「あらかじめ計画していたものではありません。事業を続ける中で見えてきた課題を一つずつクリアする、あるいは、地域から届く声に応えていくうちに、自然に形になってきたという感覚です」
原点はケニアへのインターン留学
アンダンチの根底にあるのは、「世代を超えた人同士がゆるやかにつながる」という考え方です。
学生時代、ケニアに半年間インターン留学していた福井さんは、スラムの小学校などを訪れる機会がありました。
「決して経済的に豊かな場所ではありませんでしたが、そこで暮らす人たちはお互いに助け合いながら生きている。人と人とのつながりの中で、今日一日を楽しく、前向きに過ごしている姿から、精神的な豊かさを教えてもらいました」
その体験が今も、福井さんが事業に向き合ううえでの確かな原点になっています。
「きょうだい児」と地域をつなぐ、新しい仕組み「ダンチ」
「地域共想プログラム」への応募は、未来企画が次のチャレンジに踏み出そうとしていたタイミングとちょうど重なりました。
その取り組みの一つが、障害のある子どもの兄弟姉妹、いわゆる「きょうだい児」への支援です。福井さんはこの分野を、「これまで支援が行き届きづらかった領域」と捉えています。
「障害のあるお子さんがいるご家庭では、どうしても親の時間も意識もそちらに向かいます。その結果、兄弟の自己肯定感が下がってしまうケースがあるんです」
こうした課題に応えるため、福井さんは新しいプログラムを構想しています。その実現に向けて、「地域共想プログラム」のトライアル資金(社会課題解決のための事業アイデアの実証・検証を行うための資金)を活用し、実証事業の準備を進めています。
具体的には、未来企画が運営する放課後等デイサービスを利用するご家族や、きょうだい児を対象に、ものづくり・調理・自然体験などを取り入れた特別プログラムの実施を計画しています。きょうだい児同士の交流や、アンダンチに入居する高齢者との自然なふれあいを促し、多世代が混ざり合う「地域の学びの場」をつくることがねらいです。
放課後等デイサービスの制度上では、きょうだい児支援の仕組みは正式には位置付けられておらず、多くの場合、その役割は家庭や地域に委ねられています。未来企画では、3つの放課後等デイサービス事業所が近接しているという地理的な強みを活かし、同じ学校や地域で暮らすきょうだい児同士がつながり、支え合える関係づくりを目指します。最終的には、未来企画が介在しなくとも「同じ学校に相談できる誰かがいる」状態を実現したいと考えています。
さらに、この取り組みを支える仕組みとして導入するのが、施設内通貨「ダンチ」です。
子どもたちはお手伝いをしてダンチを獲得し、アンダンチ内の飲食店や駄菓子屋などで使うことができます。役割を果たして対価を得るという体験は、子どもたちの自己肯定感を育み、地域の中での「役に立てた」という実感につながります。
こうした一連の取り組みにより、きょうだい児の孤立を防ぎ、地域と多世代が自然につながる新しい支援モデルをつくり上げていきます。
さらに福井さんは、「お手伝い帳」のようなノートの導入も考えています。
「何をして、いくらダンチをもらったのかを書き込むノートです。お手伝いの内容は『何それ?』と言いたくなるような、ちょっと変なものでもいい(笑)。そのほうが家に帰ったとき、親子の会話のきっかけになりますよね」
また、福井さんは、今回のプログラムを他の参加者が持つ視点や価値観に触れる「学びの場」としてとらえ、若手スタッフが組織外の人脈を形成する場としても活用したいと考えています。
「アンダンチモデル」を全国へ
福井さんが次に見据えているのは、「アンダンチモデル」の横展開です。すでに県外の医療関係者から相談を受けアドバイス業務を行っており、可能性は着実に広がっています。
アンダンチのような施設は、必ずしも立地には左右されません。提供する機能は、既存の介護や障害福祉のサービスを組み合わせたもの。その地域に必要なサービスを選び、形にしていくことで、どこでも拠点として成立する可能性があります。
「特に地方に行けば行くほど、人材確保の面でもこのモデルは必要だと感じています。行政と連携すればサポートを受けることもできますし、再現性は十分にあると思っています」
介護や福祉の課題は全国どこにでも存在します。仕組みを広げていくことで、仙台だけでなく、東北全体、さらには日本各地の地域課題の解決にもつながる―福井さんはそう考えています。
あなたにとっての「Think, Our Social…」とは?
福井さんが描く未来は、「福祉と地域が循環し多様な人が役割を持つ調和の取れた社会」です。
アンダンチでは、施設内の利用者と保育園児の交流や、夏祭りや駄菓子屋に近所の子どもたちが遊びに来る光景が日常になっています。介護や障害福祉の施設でありながら、地域に開かれた場所として機能しているのです。それは、立ち上げ当初から掲げてきた「開かれた介護・福祉」という理念に通じています。
そして、福井さんの考える「Our Social」とは、世代や立場を超えて人と人がゆるやかにつながり、互いの暮らしを豊かにする社会。
「かつての私もそうでしたが、介護や障害といった福祉の世界は、自分からは遠いと感じている人が多いと思います。でも、本当は知っていたほうがいいし、知らないことが偏見につながることもあります。来てもらいながら、『こういう人たちもいるよね』『楽しそうに暮らしてるね』と感じてもらえる機会をつくりたいんです。また、高齢者のための施設だからといって、高齢者だけで楽しいのかといえば、きっとそうではありません。いろんな世代が日常的に関わり、ゆるやかにつながるほうが、人生は豊かになると思っています」
あなたなら、どんな“地域の縁側”をつくりますか?
Profile
株式会社未来企画 代表取締役
福井 大輔
活動拠点:宮城県仙台市
実現したい未来
福祉と地域が循環し多様な人が役割を持つ調和の取れた社会
事業概要
介護や障害福祉、飲食など複数事業を掛け合わせ、人材確保と収益性を補完し持続可能性を高める。福祉複合施設「アンダンチ」のように地域に福祉を開き、地域づくりと雇用創出に貢献する。
※本インタビューは2025年11月に行いました。
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