【採択者インタビューvol.2】人口5人の蛤浜から豊かな自然再生へ―地方と都市が手を取り合い紡ぐ未来―
- 社会課題に挑む採択者8団体のストーリーを、シリーズでお届けする「採択者インタビュー」。事業の背景、描く未来、そしてプログラムコンセプトである「Think,Our Social」への想い―それぞれの挑戦のかたちをお届けしていきますー
第2弾は、宮城県石巻市・牡鹿半島の小さな集落、蛤浜(はまぐりはま)から始まる挑戦です。震災前には、約25人が暮らしていたこの浜は、震災で人口5人にまで減少しました。そんな浜で、豊かな自然を取り戻し、海や山と人が共生する暮らしを育もうと挑むのが、一般社団法人はまのね代表理事・亀山貴一さんです。
震災後に立ち上げたカフェ「はまぐり堂」を出発点に、獣害対策や山林再生、地域の担い手育成など、浜の暮らしを守りながら未来へつなぐ取り組みを続けてきました。その活動は今、「地方と都市が強みを活かして、環境と経済が両立する社会を目指す」という次のステージへ向かっています。
「本気で取り組む仲間を増やしたい」そう語る亀山さんが、地域共想プログラムを通じて広げたい未来を伺いました。
震災で壊滅した浜に、再生の灯をともす
石巻の小さな集落・蛤浜に生まれた亀山さんは、幼い頃から海と共に育ってきました。漁師になる夢を抱きながらも、高校・大学で水産業を学び、宮城県水産高校で教員として勤務していました。そんな亀山さんに転機をもたらしたのが、東日本大震災です。
蛤浜は、津波で壊滅的な被害を受け、人口はわずか2世帯・5人に。1年後に浜へ戻った亀山さんの目に映ったのは、倒壊した家屋と瓦礫、そして人の姿がほとんどない風景でした。
「なんとかして蛤浜を残さなければ」―その想いを原動力に、2012年に「蛤浜再生プロジェクト」を立ち上げます。交流人口と雇用の拡大を目的として、築100年の古民家をDIYで改装し、カフェ「はまぐり堂」を開業。地元の魚介やジビエを使ったメニュー、古民家の趣ある空間が注目を集め、多い日には1日100人、年間約1万5000人が訪れる、活気ある場所になりました。さらに、マリンアクティビティや自然学校など多彩な活動を展開し、蛤浜は少しずつ人が集まる場所へと変化していきます。
一方、開業2年目には来訪者の増加に伴いオーバーツーリズムの課題も浮上。「浜のためにやっていることが住民の迷惑になっては本末転倒」と運営のあり方を見直し、「地域にも喜ばれる仕組みづくり」の模索を始めます。そこで見えてきたのが、海や山など自然そのものを再生し、人の豊かな暮らしを未来に紡いでいく共生型の課題解決でした。
自然再生でつなぐ未来
2014年に「一般社団法人はまのね」を設立。ニホンジカによる獣害対策や荒れた山林の再生に取り組み、鹿肉や間伐材の活用を進めながら、浜の環境が少しでも豊かになる事業を創出してきました。
また、亀山さん自身も子どものころからの夢だった漁師となり、体験や学びを取り入れた持続可能な漁業の仕組みづくりや環境再生活動に取り組んでいます。
さらに、地域内での事業づくりや、担い手の育成を進め、環境と経済の両面で地域課題解決に取り組んでいます。これまで、はまのねの活動に関わったメンバーから10人以上が飲食店やアクティビティ、ゲストハウス、ものづくり、狩猟、林業などで独立・起業しました。
浜で生まれた課題解決モデルを、次の地域へ
こうした日々の暮らしや活動の中で生まれたのが、現在はまのねの活動の主軸となっている「滞在型ライフシェアプラン」と「視察・研修プラン」です。これらは、環境や地域づくりに関心を持つ企業や自治体、大学、学生、地域活動を行う人などを対象に、日帰りの視察から宿泊を伴うプランまで、希望に応じてオーダーメイドで対応する仕組みです。全国各地、さらには海外から視察に来るケースもあります。
「この浜を残すことを軸に取り組んできましたが、同じような課題を抱える地域は全国、そして全世界にあります。『自分の地域をどうにかしたい』という想いで、ここでの取り組みをヒントにしようと、学びに来られる方が多いです」
自然環境の変化が突きつける現実
亀山さんにとって、環境の変化は暮らしそのものに直結します。海水温上昇により、石巻でも漁獲量が減少し、漁の現場は年々厳しさを増しています。
一方で、気候変動や生態系の変化による影響が深刻化しているにもかかわらず、都市で暮らす多くの人にとってはまだ「実感をともなう危機」としては届いていないのが現状です。
「このままでは、いずれお金があっても食べ物が手に入らない時代が来るかもしれない。だから今こそ、企業や都市の人たちも一緒に取り組む必要があるのです」
「本気で取り組む仲間を増やしたい」―地域共想プログラムに参加
SDGsやカーボンニュートラル、ネイチャーポジティブといった言葉が広がり、企業の多くが環境への取り組みを掲げています。一方で、都市に暮らす方々からは、「どう行動に移せばいいのかわからない」という声も聞かれます。亀山さんは、そうした人たちの背中を押す存在でありたいと考えています。
今回、地域共想プログラムに応募した背景には、これらの課題に対して「本気で取り組む仲間を増やしたい」という強い想いがあります。
「率先してやろうとする企業や人が少しでも増えれば、『自分たちもやってみよう』という動きは必ず広がっていきます。今回のプログラムを通して、そうした輪を広げていきたいと考えています」
亀山さんが提案する視点は、「Think Local, Act Global」。
「Think Global,Act Local(地球規模で考え、足元から行動する)」という言葉がありますが、亀山さんはその逆を考えています。蛤浜という小さなスケールでまず考え、そこで得た学びや気づきを出発点に、グローバルな行動につなげていく―その挑戦が始まっています。
環境問題や災害は他人事になりがちですが、浜での体験を通じて「自分にもできることがある」と身近に感じてほしい。それが亀山さんの願いでもあります。そのため、はまのねでは「最初の一歩」を共に考え、具体的な行動に変えていくための研修や対話の場を設けているのです。
あなたにとっての「Think, Our Social…」とは?
亀山さんが描く未来は、地方と都市が対等に支え合い、環境と経済が両立する社会。地方には、食料や水、エネルギーなどの生態系サービスを担う役割があります。一方、それらを持続させていくには、都市が持つテクノロジーや知見、人材の力が欠かせません。
地方と都市は、どちらかが補う・支える関係ではなく、互いが支え合うことで未来の持続可能性が成立する。亀山さんの考える「Our Social」とは、地方と都市が、対等でフラットな立場として、それぞれの強みを生かして協働する社会です。
「生産の現場にいる私たちは、自然と食を守る役割を担っています。東北・新潟の企業や都市で暮らす人々と共に考え、みんなで力を合わせ助け合いながら、豊かな社会をつくっていきたいと思います」
―あなたなら、この未来にどう関わりますか?
Profile
一般社団法人はまのね 代表理事
亀山 貴一
活動拠点:宮城県石巻市
実現したい未来
都市と地方が助け合い、環境と経済が両立する豊かな社会
事業概要
牡鹿半島でのフィールドワーク研修を通じて一次産業の実態を伝え、課題を自分ごととして捉える人材を増やす。気候変動やネイチャーポジティブに取り組む担い手を地域から広げていく。
※本インタビューは、2025年11月に行いました。
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