青春18きっぷ1枚で日本縦断ずっと不可能だったけどまた可能になったので最北端の稚内から最南端の鹿児島まで行ってきた
1日目 AM5:00 北海道稚内市 稚内駅
みなさんおはようございます。
北海道は稚内市、いわずと知れた日本最北端の街に来ています。その稚内市にある稚内駅もまた日本最北端の駅だったりします。
この稚内駅、僕にとってはなかなか思い出が深すぎる駅だったりします。
もう8年も前になるのですが、いまや更新停止してしまったSPOTというお出かけ体験型メディアで以下のような記事を書いたことがありました。ご存知の方も多いかと思います。
本土最南端の駅である鹿児島県の西大山駅から最北端の駅である稚内駅まで青春18きっぷ1枚で5日間で移動するという狂気の沙汰みたいな記事です。何らかの罰でやらされてるレベルの記事とよく言われます。
青春18きっぷとは、毎年、時期限定で発売される旅客鉄道会社全線(JR線)の普通列車・快速列車が利用できる、特別企画乗車券のことです。その名称から18歳くらいの若者しか使用できないと勘違いされがちですが、僕のようなおっさんでもバリバリに使えます。むしろおっさんの方が使っている。むしろおっさんだけが使っている。
これを利用して、ほぼ普通列車のみで最南端の西大山駅から最北端の稚内駅まで、青春18きっぷが使用できる5日間で行き切ったのが上記の記事です。
この記事はたいへん多くの方に読まれまして、お出かけアプリ「駅メモ」のPR記事だったのですが、この記事をきっかけに駅メモを始めた、なんて方が多数あらわれたのです。
実は、この記事が書かれたのち、日本の国土とJRの中で様々なことが起こりまして、こうした青春18きっぷ日本縦断が不可能となっていたのです。
https://www3.nhk.or.jp/lnews/kumamoto/20250331/5000024917.html
いちばん大きかったのは令和2年7月の豪雨被害でしょう。豪雨災害により熊本県の八代と鹿児島県の吉松を結ぶ肥薩線が不通になりました。
かなり深刻な被害だったようで、当該区間は災害から5年経過した現在でも不通の状態、復旧は2033年あたりを目指すとのことです。
ここが不通になってしまったことで、青春18きっぷでは新幹線に乗れませんので、南九州から脱出する手段が鹿児島-宮崎-大分を経由する日豊本線のみになりました。
こちらの迂回路線はかなり時間がかかってしまうし、ダイヤ設定がかなりシビアなため、青春18きっぷの期限である5日間での日本縦断が難しくなってしまったのです。
さらには、その後、JR各社の何度かのダイヤ改正を経て微妙に乗り継ぎが悪化していき、長らく5日間での日本縦断は不可能という状態が続いていました。
そう、上記の記事は青春18きっぷ1枚で日本縦断が可能だった時代の産物。現状には即していない夢物語という状態が長らく続いていたのです。
青春18きっぷ1枚では日本縦断がいきなり可能になった
しかしながら、つい先日、とある発見に至りました。
ちょっと暇な時に時刻表と睨めっこして魔の乗り換えトリックなどを考える趣味があるので、いろいろと乗り換えを検討していたところ、ある事実に気が付いたのです。
「あれ、これ5日間で日本縦断いけるんじゃね?」
そう。なんか行けそうな感じになっているんです。こりゃいけるぞ、と。だったら行くしかないんじゃないか。
そもそも、以前は「なんで5日間で日本縦断する必要があるんだよ、余裕もって7日間くらいでいけよ」という大変にごもっともな意見もあったのですが、その間に青春18きっぷのレギュレーション変更があり、あとで説明しますが、この「5日間で日本縦断する」という行為の正統性みたいなものも高まってきたのです。
ということで、機運も高まってきたし、とにかく実現できるのか確かめるしかない、と取り急ぎ青春18きっぷを握りしめて稚内までやってきたというわけです。そう、とりあえずやってみましょうという完全なる見切り発車です。
早速、旅のルール説明です。
青春18きっぷ日本縦断の旅ルール
・青春18きっぷで利用できる列車で最北端の稚内駅から最南端の西大山駅まで5日間で移動する。
・新幹線以外に移動経路が存在しない青函トンネル部分は「北海道新幹線オプション券」を利用する。
・災害等で不通の区間が出た場合は他の経路での移動も可。ただし、従来の移動経路での到着時間を超えずに同じ時刻で先の路線にリカバリすることが可能。
以上のルールで本当に青春18きっぷ1枚で日本縦断が可能になったのか検証します。
青春18きっぷのルール変更
さて、こちらが今回のチャレンジで使用する「青春18きっぷ」なのだけど、近年になって大きなルール変更が施されています。ネットでもけっこう騒がれたのでご存知の方も多いと思います。
2024年冬季の青春18きっぷから適用されたルール変更は従来のユーザーからしたらかなり不便になった「改悪」と呼べるものでした。現に、このルール変更後、青春18きっぷの売り上げが大幅に落ち込んだとのことです。
まず、いちばんの変更点は、自動改札を通るようになった点だ。それまでの青春18きっぷは自動改札を通らなかったので必ず有人の改札にて駅員さんに見せて改札を通る必要があった。ハイシーズンでは18きっぷのおっさんたちが改札に列をなす光景などが見られたものだった。僕が「18きっぷはおっさんしか使っていない」と思い込んでいるのが、あまりにこの光景の印象が強いからだ。これが改善されて利便性が高まったというわけだ。
次に、利用する期間を「連続する5日」に限定されてしまった点が挙げられる。これまでは、期間内の5日間であればいつでも使用できた。1日目に1日分を利用し、2日目は旅先で観光を満喫、3日目に「2日目ぶん」を利用して次の土地に向かうこともできた。つまり、行きと帰りに利用し、その間を観光にあてても無駄はなかった。飛び飛びでもきっちり5日分を使い切れた。
ただし、ルール変更後は使用を開始した日を1日目とし連続した5日間ときっちり決められてしまった。これはなかなか大きな変更で、利便性を大きく損なう要因になっている。
なにせ、連続して5日間も使う人がほとんどいないからだ。やはり移動した先で観光などもしたいし、人に会ったりもするかもしれない。どうしても使用しない日が出てきてしまう。新ルールではそれらの利用しない日も1日として消費され、完全に無駄になってしまう。
値段の安い3日バージョンも発売されるようになったが、やはり不便であることは否めない。
さらには、「1人1枚」と限定されてしまった点も不便になったといえる。従来は、例えば改札で「5人ぶんで」と申告すればキップ1枚で5人が1日使用できた。それが完全に「1人1枚」と指定されたことで、本当にひとりで5日間乗り続けないと無駄が出てしまうキップになってしまったのだ。ひとりで5日間も乗り続ける、ほんとうにそんなやついるのか。そりゃもう18きっぷサイボーグだろ。
さらに、これは実際に購入するまで分からなかったのだけど、しっかりとキップの券面を見てほしい。9月2日から6日まで、と印刷されている。購入時に何日からの5日間にするか申告するスタイルになっているようだ。これもまあまあ痛い。
従来は、使用期限内であればいつでも利用開始できたので、とりあえずシーズンが始まったら「青春18きっぷ」を購入しておいて、なんかきょう暇だし、1日分を使って遠くに行ってみるか、ってのがあった。けれどもそれも不可能になった。さらに使いはじめたらそこから5日間、猛烈に使わなければ損をするのだ。
という風に、ことさらユーザー目線だけで論じると、本当に使い勝手が悪くなってしまい、無駄なく5日間を使い切ることと明確な使途が必要であることを考えると「よし、9月2日から日本縦断すっぞ!」という人しか購入しないんじゃないか、と心配になるほど、それくらいの不便な改正が行われたのだ。
幸いにも、僕は「よし、9月2日から日本縦断すっぞ」と1日ぶんも無駄にせず、明確な意思を持って利用するので、購入することに躊躇がなかった。これもう、日本縦断する人のためだけのキップなんじゃないのと思うのはいささか暴論だろうか。
ということで、そんな状況を踏まえつつ、さっそく日本縦断スタートだ。
5:22 宗谷本線普通 稚内発 名寄行き
チャレンジに備えて飛行機で前日入りした稚内市内は大雨の影響が色濃かった。市内のあちこちでは水が溢れたであろう痕跡がみられていて、排水溝には粉砕された木々などが詰まっていた。もちろん、到着した時もまあまあの雨だった。
稚内駅は最北端の駅なのでここで線路が終わっている。僕はこの線路が終わっている光景フェチなので、バシャバシャと写真を撮りまくってしまった。大興奮だ。それも私鉄のターミナル駅とかでよくみられる終端ではない。北の果て、正真正銘の線路の終わりだ。
文字がちょっと読みにくいのでズームアップしてみる。
最南端から北へつながる線路はここが終点です、と書かれている。ちなみに最南端の指宿枕崎線西大山駅までは3068kmくらいあるらしい。果てしない遠さだな。
稚内駅は複合施設化されており、シネコンやコンビニ、土産物屋などが併設されている。人口規模から考えるにかなり立派な駅と言える。ってか、駅の前になんかテントがはってあるな、なんじゃありゃ、と近づいてみた。
スケボーで日本縦断しているらしい。自転車とか原付とかならよくみるけど、スケボーは結構な感じで狂気の沙汰だろ。
というか、こういう日本縦断系の人々を日本のどこで目撃したとしても、「お、頑張ってほしいな、まだまだゴールが遠いぞ!」となるのだけど、稚内で目撃したときだけは話が別だ。対応が難しい。
この挑戦者にとって稚内はゴール近くなのか、それともスタートしたばかりなのか、そればかりが気になってしまう。北と南、どちらがスタートなのかで状況が大きく変わるのだ。南からスタートならゴールは近いし、北からスタートなら序盤もいいとこだ。いきなり休んでる場合か、くらい思うかもしれない。稚内という場所は最北端だけあってそれだけ特殊な土地なのだ。
さて、この18きっぷで日本縦断の旅も、北と南どちらがスタートなのかで事情が大きく変わる。8年前の記事では最南端からスタートしているが、じつは最北端からスタートした方がすこし難易度が低くなる。
なぜなら、ここ稚内と名寄を結ぶ宗谷線の普通最終列車が早いからだ。名寄から稚内に向かう普通列車の最終が14時59分なので、南から来た場合、5日目のこの時間までに名寄に到着していないと稚内には到達できない。実質的に4日半くらいリミットになる。
逆に北から出発した場合、最終の乗り換えは指宿駅で20:06となる。その前の乗り換えで考えても最終日の18時に鹿児島中央駅に到着していれば西大山駅まで到達できる。だから北から出発した方がちょっと余裕がある。
ということで、今回は、5日間で日本縦断が可能といっても、かなりタイトな乗換になる高難易度状態が予想されるので少しでも難度の低い北から出発を選択した。
青春18きっぷも準備万端。いよいよ日本縦断に向けて出発だ、と意気込んだところでいきなりトラブル発生だ。それもけっこうとんでもないパターンのトラブルだ。
乗車する予定だった5:22稚内発の名寄行きの普通列車、大雨の影響で運休らしい。
大雨で線路に土砂が流出したり、線路の土台がなくなってしまったりと、けっこう深刻な状態のようだ。復旧にかなり時間を要するらしい。被害状況が写真付きで克明に報告されていた。
こいつは非常に困った。同じように運休を知らずに始発に乗ろうと駅にやってきた人々も増えてきて、改札のあたりがごちゃごちゃしてきた。
稚内駅は、この改札部分に有人改札とみどりの窓口を兼ねる場所があるのだけど、そこの前面に駅員さんが出てきて対応に当たっている様子だった。
雰囲気から感じるに代替の交通手段が用意されているようなのだけど、青春18きっぷでそれに乗れるか不明だったので、改札の前で対応に当たっている人に駆け寄って質問してみた。
「すいません、なんか始発が運休ってことなんですけど、代替の交通手段とかあるんですか?あと、青春18きっぷでそれに乗れますか?」
「はあ」
けっこう熱心に質問したのに返答の歯切れが悪い。
「やっぱ代替バスとかですよね。そうなると名寄に着くのは何時だろう。そのあとの乗り換えもきつくなりそう。そういうのわかりますか?」
僕の熱烈な質問に駅員さんは非常に困惑している。
「わかんないですね。僕、一般人なんで」
駅員さんじゃなくて一般の人だった。
一般の人が白いシャツに紺のスラックスという、めちゃくちゃ駅員ライクなファッションで立っていた。駅員のコスプレって言われても疑問に思わないほど駅員ライクな私服だったな。
こりゃ旅の出だしからめちゃくちゃ恥をかいちゃったな。
よく見たらけっこうわかりやすい場所に代替の交通機関に関する案内が貼りだされていた。どうも運休の列車のかわりに代替バスが走るらしい。
始発である5:22発の普通列車は運休だけど、そのあとの6:36の特急列車の代替としてバスが走るようだ。
なんと、このバスは本来は18きっぷでは乗車できない特急列車の代替なのに18きっぷで乗車できるらしい。まあ、乗れなかったらこの時点で稚内から脱出できなくて詰むからね。いきなり旅が終わる。乗れなきゃ困る。
しかも、最初に出る代替バスは旭川まで行ってくれるらしい。じつはこれ、けっこうな命拾い要素になっている。
本来、大雨による運休がなかった場合、普通列車の乗り継ぎは以下のようになる。
運休等がなければ、旭川駅を発車する13:47発の滝川行きに乗って札幌方面を目指すことになる。
ここを代替バスで行くのだけど、基本的に代替バスは鉄道で移動するより時間がかかる。さらに、始発より1時間以上は遅れての出発になるので、旭川到着がかなり遅くなるのではと心配された。そうなるとそのあとの旅程がぜんぶ狂うわけだ。
しかしながら、そんな心配は杞憂だった。代替バスのダイヤは以下のようになっているようだ。
従来より遅い時間に出発し、鉄道より時間のかかるバスなのに、しっかりと同じくらいの時間に旭川駅に到着する。これは、名寄駅での異常な乗換え時間に起因する。
鉄道の場合は、名寄駅において2時間14分待ちという。映画1本を鑑賞できるレベルの驚異の待ち時間だ。ちょうど映画「もののけ姫」の上映時間と同じ待ち時間がある。
けれども、代替バスにはそれがない。ここが大きい。この短縮によって従来の時間にリカバリできている。
ちなみに、大雨による不通区間が稚内駅と名寄駅の間だけっぽかったので、名寄駅で代替バスを降りて鉄道で旭川駅に向かっても時間的には間に合いそうなのだけれども、そこの鉄道が動いている保証がどこにもなかったので、そのまま旭川駅まで代替バスに乗っていくことにした。これで容易に従来の旅程にリカバリできるはずだ。
最初に乗るはずの列車が運休でどうなることかと肝を冷やしたけれども、なんとかなった。ほんと、出だしから綱渡りだな。
しばらくすると本物の駅員さんが出てきた。駅員ライクなファッションに身を包んだ一般人のおっさんではなく、本物の駅員さんだ。
改札とは逆側にある駅舎入口の部分に「代行バス」と書かれた掲示が登場した。どうやらここで待つらしい。だいたい30人前後の人が並んだだろうか。予想以上に利用者が多い。
駅の入口で本物の駅員さんに乗車券を見せて移動となる。特急あつかいのバスだけどしっかりと青春18きっぷで乗車できた。
駅の裏側、道の駅とかある方面に待機してたバスに乗り込む。けっこう立派な観光バスだ。しっかりと座席後部にトイレまで備えている。そりゃそうだ。ここから旭川まで6時間もバスに乗るのだ。トイレがなかったら死ぬ。
乗車人数の定員は100名を想定しているらしく。バスは2台待機していた。1台あたり50人という感じだろう。利用者が30人程度なのでバスは1台しか使われない。それもけっこう悠々と一人で2つの座席を使える感じだった。
いよいよ旭川に向けて代替バスが発車する。まさか青春18きっぷの旅のスタートがバスになるとは思わなかった。それも、6時間という長距離の乗車だ。だいたい東京から高速バスで6時間というと京都くらいまで行ける。長い。下手したらこれ代替バスの世界記録なんじゃないの。
前述したように代替バスはトイレも備えているし、路線バスではなく観光バスなので座席もゆったりだった。あと、USBポートもあったので充電に大助かりだった。
稚内の市街地を抜けると、その風景はすぐに広大なものへと変わった。遥か向こうまで緑色の草原が広がる景色。このスケール感を日本国内でみられる場所はそう多くない。
これは個人的感想だけど、ここ稚内ー名寄の移動においては鉄道に乗って移動する経路より、道路を使った方が雄大な景色がみられる。道路の方が内陸を走ることが多いからだ。
ちなみに、かなりタイミングが良くて稚内市内で一度も信号機で停まらなかったので、出発から2時間。天塩中川駅手前で赤信号に引っかかるまで本当に一度も信号では停まらなかった。というか、市街地を抜けると本当に信号機が存在しない。
めちゃくちゃ増水している川が見えた。もはや濁流というレベルだ。
橋を使って何度も大きな川を渡るのだけど、けっこう長いスパンで登場してくるその川がすべてが「天塩川」だった。何度も何度も天塩川を渡る。
たぶん、天塩川はアマゾンとかに流れる川みたいに大きく蛇行しているのだろう。どーんと同じ方向の道路を走行していてこんなに長い時間かけて何度も同じ川を渡った経験はそんなにない。
この代替バスは特急列車あつかいなので、特急の停車駅には立ち寄ることになっている。思った以上に途中駅で乗客の乗り降りは多い。こちらは豊富駅。ここではけっこう乗ってくる人がいた。
こちらは幌延駅。何人かの高校生が降りていった。どうやらここから海沿いを行く留萌方面へのバスに乗り換える感じだった。
この駅で気が付いたのだけど、100名を想定して2台用意されていた代替バス。乗客は30名程度だったので1台しか使っていないのだけど、2台目も後ろをピッタリとついてきていた。客を乗せずに走る2台目の代替バス、なんで、無駄じゃんと思ったけど、途中の駅で異常に客が増えた時や、旭川到着後の復路のことを考えてのことだろう。そのために客も乗せずに追尾してきている。代替バスを出すってホント、大変だな。
本当に同じ川を何回も渡る。そういうループ世界に陥ったかと思うほどに同じ景色が繰り返される。これ、なかなかできない体験だわ。
6時間のバス乗車。これがまあ、なかなかきつい。気が狂いそうになる。長いことこういった長時間乗車をしていなかったので精神的に脆くなっている。途中おかしくなって、ずっとスマホの再起動を繰り返して、どうやったら再起動が早くなるか競っていた。うおー、48秒きった!とか盛り上がっていた。再起動の時に手の平で温めるとタイムが縮む。大発見だ。完全におかしくなっとる。旅のしょっぱなから大きな試練だ。
こちらが音威子府(おといねっぷ)駅だ。名寄ー稚内の鉄道移動における中間地点みたいな駅だ。ちなみに、代替バスは幹線道路を走るのだけど、駅に立ち寄るためにその道路を外れて街中に入っていくので、やや時間をロスする。
この音威子府駅の駅舎内で営業する駅そば店は日本一の駅そばとして有名だったけど、2021年に惜しまれつつ閉店。しかしながら2025年9月に期間限定で復活したらしい。
ここでは誰も乗り降りしなかった。
こちらがスバルを応援しているSUBARU美深会の横断幕が勇ましい美深駅だ。ここ美深町にスバル研究実験センター美深試験場があることに由来しているのだろう。
この駅でも誰も乗り降りしなかった。
名寄駅だ。何度か来たことあるけど、長い年月を経ても変わらない落ち着きみたいなものがある。従来の鉄道移動できた場合、この駅で「もののけ姫」と同じだけの待ち時間が発生する。遠慮なく言わせてもらうと、この駅で2時間の待ちはまあまあきつい。
代替バスは、途中で2回ほどトイレ休憩で道の駅に停車する。だいたいの乗客が下車して、トイレに行ったり、飲み物を購入したりする。
1回目の休憩が「道の駅なかがわ」だったのだけど、早朝すぎてトイレしか開いていなかった。あと軽自動車で車中泊をしているおっさんがいるだけだった。
2回目の休憩は「道の駅なよろ」、こちらはもう程よい時間になっているので、トイレ以外の店舗も開店して活気がある状態だった。
小腹がすいたので、シュークリームを購入したんだけど、そのお釣りの500円玉が見慣れないものだった。
なにこれ。
調べてみると、地方自治法施行60周年記念貨幣として47都道府県ごとにそれぞれのバージョンの記念硬貨が出ているらしい。それの神奈川県バージョンをもらってしまった。北海道の名寄の道の駅で神奈川バージョンの記念硬貨を入手する。せめてそこは北海道バージョンじゃないか、などと言うしかなかった。
なんども言わせてもらうけど、代替バスに6時間乗車、これはかなり精神を蝕まれていく。それは僕だけではなく、他の乗客も同じだ。
後ろのほうに座っていたカップルの男性の方は、ついにその苦しさを吐露したのだ。
「なあ、6時間ってながくね?」
「ながいね」
女性のほうがけっこう「はいはい」って感じでおざなりに返答する。
「6時間を6倍したらちょうど36時間だぜ」
「そうだね」
6時間を6倍する意味もよく分からないし、36時間のなにが「ちょうど」なのかよくわからない。みんなけっこうおかしくなってきている。
車内の乗客の多くはけっこう精神的に限界だった。そりゃそうだ。代替バスに6時間はそう経験できるものではない。
12:27 旭川駅
チェックインした駅
稚内、南稚内、抜海、勇知、兜沼、徳満、豊富、下沼、幌延、上幌延、南幌延、安牛、雄信内、糠南、問寒別、歌内、天塩中川、佐久、筬島、音威子府、咲来、天塩川温泉、豊清水、恩根内、紋穂内、初野、美深、南美深、智北、智恵文、北星、日進(北海道)、名寄、名寄高校、風連、瑞穂、多寄、下士別、士別、北剣淵、剣淵、東六線、和寒、塩狩、蘭留、北比布、比布、南比布、北永山、永山、新旭川、旭川四条、旭川(53駅)
ついに、6時間という代替バスとしては異例の長さを誇る乗車を経て旭川駅へと到着した。長かった。バスから降りた瞬間、足に力が入らなくて上手に歩けなかった。それくらいに長かった。
旭川駅はめちゃくちゃ大きなビルが立ち並ぶ大都会だ。人口は32万人で、北海道第二の都市だ。その中心駅である旭川駅もなかなか立派なものだ。
以前から力説させてもらっているのだけど、この旭川駅は日本でいちばんの駅だと思っている。その造りや使われ方が、ぼく個人が考える「最強の駅」そのものなのだ。
旭川駅の内装は木の温もりを感じるイメージで、改札部分を取り囲む通路は広く、回廊状になっている。この回廊部分は、人が腰かけられるようになっている場所が多く、机と椅子が用意されている場所もあれば、窓枠部分に腰を掛けて休憩できるようになっている。これが温かい。こんなスペースが東京のターミナル駅にあろうものなら、座らないよう、寝ないように殺傷能力の高い剣山みたいなものが設置される。東京の駅を造っている人、人を休憩させる気がないからな。
ちょうどお昼の時間ということもあってか、その腰掛けられる場所には高校生が座って弁当を食べたり、近くの会社で働いているであろうOLが、そんなサイズじゃ足りないだろうという小さな弁当を食べたりしていた。
全面採光の大きな窓からは日の光が入り込み、それら市民の憩いの時間をキラキラと照らす。これこそが駅、人が集まる駅だよと言わんばかりの光景だ。
回廊部分にはこのように広いスペースがあってオブジェが置かれている。ここでイベントもできるし、ツアーや修学旅行の集合場所にも使える。よく考えられている。
旭川駅の正面側は町の中心なのでビルや店舗が建ち並んで大きな道路もあって人と車の往来が激しい。けれども逆側は川辺が広がり、緑あふれる光景が佇んでいる。
とにかく、いつ来ても旭川駅は素晴らしい。日本の駅でいちばん素晴らしい。
さて、次の列車は札幌方面に向かう滝川行きの列車だ。13時47分発なので1時間20分くらい待ちがあるようだ。
もし、これより早い時間の普通列車があったとしてもルール上はそれに乗車できない。代替バスに乗らずに普通に青春18きっぷで旭川まで来た場合は、13時47分発滝川行きにしか乗れないからだ。リカバリしたのでこちらもそれに準じた列車にしか乗らない。
待ち時間があるので食事にすることにした。こういった青春18きっぷの旅は過酷なもので、タイトな乗り換え待ちが生じると食事をとる時間がなくなる。また大層な乗り換え待ちが発生したとしても、その駅がコンビニすら存在しない僻地ということも多々ある。
よって、食事はとれる時にとる。これが鉄の掟となる。覚えておいてほしい。たぶんこれから何度も出てくる。
ということで、旭川駅に併設されるイオンで食事をとることにした。
このように、駅にイオンが直結していることは珍しい。イオンは郊外にあることが多いからだ。
ここも旭川駅を評価する点で、イオンがあることで人が集まるようになっている。駅はとにかく人が集まる必要がある。人さえ集まれば色々とやりようがあるのだ。旭川駅はそれをよく理解している。
駅と直結する入り口から入るとすぐ目の前がフードコートなので、そこのラーメン屋でラーメンを食することとした。
ラーメンとライス。この世における至高の組み合わせだ。
けっこう好みの味で美味かったな、これ。
フードコートには高校生がたくさんいて、とあるテーブルではなにやらスマホでゲームをしながらワイワイと盛り上がっていた。
そのゲームの中でバトル的な展開が白熱したのか、高校生たちの語気が荒くなっていって「そっちまわりこめカス!」「テメーぶっ殺すぞ」「死ね死ね死ね!キチガイ!」とか乱暴な言葉遣いになっていた。
それをグループ内のいちばん大人しいっぽい男の子が「乱暴な言葉使うのやめようや。ゲームの勢いで本心じゃないのはわかるけど、次第に言葉に思考が支配されていく。丁寧な言葉を使おうぜ」と仲間を諌めていた。
ほう、なかなかどうして立派な若者じゃないか、とほっこりした気持ちになった。
その彼の提案に同調した仲間たちとまたゲームが始まったのだけど、「そっちに回り込んでいただけますか!カス!」「あなたさまを殺害することも辞さない構えです」「命を絶て絶て絶てお狂いになられてるのですか」みたいに、ちょっとChatGPTに変換させた少しずれた言葉になっていた。そういうこっちゃないだろ。
そうんな高校生たちを眺めながらラーメンを完食。腹も膨れたし、程よい時間になったのでホームへと移動した。
ホームで待っていたら長い編成の貨物列車がやってきて、めちゃくちゃ大きな音を立てていてビックリした。けれども旭川の民たちは涼しい顔をしていてまったく驚いていない様子だったので、たぶん旭川では普通のことなのだろう。
次に乗るべき列車がやってきた。
13:47 函館本線普通 旭川発 滝川行き
ついに鉄道に乗車である。
旅の開始を前泊ホテルを出た朝の5時だとすると、じつに出発から9時間ちかく経過して初の鉄道乗車となった。狂ったように鉄道に乗る記事なのに出発から9時間も鉄道に乗らないのはどう考えてもおかしい。
車窓だ。ずっと、おおよそ6時間ほどバスからの眺めを見ていたので鉄道の車窓が新鮮で仕方がない。いま僕は列車に乗れているんだ。
とはいっても、この旭川ー滝川の普通列車はそこまで乗車時間は長くない。40分程度しかない。あくまで旭川近郊に行く感覚の列車だ。
北海道の鉄道は特急文化が根強く、都市間の移動のほとんどが特急列車でまかなわれる。旭川から札幌方面を目指す場合も、ダイレクトに札幌まで行ってくれるのは特急列車のみだ。
普通列車は、滝川行きか岩見沢行きに限られる。そこから乗り継ぎで札幌方面を目指すしかない。稚内ー旭川でも名寄で極度の乗り換え待ちが発生するように、普通列車は意図的だろと言いたくなるほど不便に設定されていることが多い。都市間を移動するなら特急を使ってね、というやつだ。
列車の中も、これから大移動するぞという人はほとんどおらず、旭川近郊に住む人が多いように見えた。
14:28 滝川駅
チェックインした駅
近文、伊納、神居古潭、納内、深川、妹背牛、江部乙、滝川(61駅)
滝川駅の駅名標を撮影しようとしたら、ベンチに腰掛けて遊ぶ3人の少年たちの姿が見えた。なぜかこの駅は若者が多かったように思う。基本的に地方の路線は通学に使う高校生が多いのだけど、そうではない大学生風の若者がけっこういた。
駅名標画像の後ろの方に「国学院大学短期大学部」と書いてるので、滝川には大学があるのだろう。その関係で若者が多いのかもしれない。
14:45 函館本線普通 滝川発 岩見沢行き
20分ほどの待ち時間で次の列車がやってきた。岩見沢行きだ。やはり普通列車はダイレクトに札幌を目指してはくれない。札幌の手前の岩見沢で刻んでくる。ダイレクトに行きたいなら特急を使ってねというやつだ。
若者が多い車内、そこにドカドカと大きな荷物を持った若者集団が乗り込んできた。大きなバッグにつけられたタグとか刺繍を見ると、東京の大学の登山部のようだ。おそらく登山部の活動で北海道の山を登り終えて帰るところのようだ。けっこう人数が多かったので名門の登山部なのかもしれない。
帰りに新千歳空港で何を食べるかみたいな話をしていたので、これから東京に戻るのだろう。
けっこうな人数の登山部員がロングシートに腰かけたことにより車内は混雑していた。いつもだったらそこまで混んでいないだろうこの列車も、登山部のぶんだけ混んでいて、満員とまではいかないけれども、座席がほぼ埋まっているけどギュウギュウではない、くらいの状態になっていた。
滝川駅を出発して1駅。砂川駅というところに停車した時だった。
登山部とは逆側のロングシートに座るヒョロそうな青年がおもむろに立ち上がった。たぶん、少し離れた場所に掲示されていた路線図かなにかを確認したかったんだと思う。ちょっと確認して座席に戻る、そんな雰囲気だった。
ヒョロが路線図の場所まで移動したその瞬間に事件が起こる。
「でさー、いってやったわけよ」
砂川駅に到着してドアが開いた瞬間でもあったので、そこにゴリゴリのギャルが3人、砂川にこんなギャルがいるんだというレベルのギャルが3人、乗車してきたのだ。そのゴリゴリのギャルは別に悪気があったわけではなく、ヒョロが座っていた席とその左右でポッカリと3人ぶんが空いていたのでそこに座った。
路線図を眺めて席に戻ろうとしたヒョロが気づく。自分の席にゴリゴリのギャルが3人も座っている。
ヒョロは自分の席だった場所を通りすぎて僕の近くに立っていたんだけど、蚊の鳴くような小さな声で
「まあ、健康のために立たないとね」
と言っていたのを聞き逃さなかった。
そんなこんなでまたもや40分ほどの乗車を経て岩見沢駅に到着した。
15:24 岩見沢
チェックインした駅
砂川、豊沼、奈井江、茶志内、美唄、光珠内、峰延、岩見沢(69駅)
やはり札幌方面を目指したい人がほとんどで、大半の乗客が下車してそのまま乗り換えの列車を待つ状態だった。ヒョロもギャルも登山部も他の乗客もホームにて待つようだ。
岩見沢、滝川と小さく刻むのではなく、ドーンと旭川から札幌まで普通列車を設定してくれればいいのに。
岩見沢駅のホームにはドーンとでかい馬のオブジェがある。けっこうな迫力だ。この木彫りの馬はソリみたいなものを引っ張ってるところからわかるとおり「ばん馬」だと思う。そうなると、馬の巨大さは誇張して大きくデザインして迫力を出したとかではなく、実際にこの大きさの馬を模していることになる。
我々が競走馬といわれて想像する馬はだいたいサラブレッドと呼ばれるものである。極限まで速く走れるように血筋を繋いできた馬だ。
それとは別に、北海道は開拓の歴史において力強い農耕馬が重宝されてきた。この力強い「ばん馬」は本当に体が大きく、サラブレッドの体重が500キロくらいなのに対し、だいたい800~1200キロくらいの体重になる。
この大きな農耕馬に重いソリをひかせて競わせる「ばんえい競馬」へと発展した。ばんえい競馬は旭川、北見、岩見沢、帯広の四市で公営ギャンブルとして開催されていたけれども、現在は帯広のみの開催になっている。
開催こそなくなってしまったが、岩見沢は「ばんえい」と共にあった街としていまもこうして木彫りの像などを展示しているわけだ。たぶん、市内にも「ばんえい」ゆかりのものがたくさんある。
そういった背景を踏まえてみると、この像は誇らしげでもあり、寂しげでもある。
次の列車は「ほしみ」という駅まで行くようだ。「ほしみ」は小樽の手前くらいにある札幌市の駅だ。小刻みだった列車もやっと札幌まで行ってくれるらしい。
ちなみに乗り換え時間は12分ほど。
みなさん、特に都会に暮らす人は誤解していると思うのですが、東京などで乗り換え時間12分だと「まあまあ待つな、乗り換え失敗や、立ち食いソバでも食うか」って思うかもしれないけど、青春18きっぷの旅で乗り換え12分、これもう奇跡ですからね。ほぼ刹那。完全に乗り換え大成功ってわけですよ。
15:36 函館本線普通 岩見沢発 ほしみ行き
車内の乗客はほぼ先ほどの列車をトレースした感じだ。ヒョロもこんどはしっかり座席を確保。二度と路線図を見たりしないという確固たる信念みたいなものを感じる。
さて、ここから少し、戦略めいた話をさせてもらう。まず、これまでの経路とここからの予定経路を描いた北海道地図を見てほしい。
現在、稚内から岩見沢までやってきたわけだけど、ここからは2通りのルートがある。
紫のラインで示した函館本線は札幌駅周辺や小樽駅を経由して長万部駅に至るルートだ。
青のラインで示した苫小牧、室蘭周辺などを経由する室蘭本線ルートも結果として長万部駅に至る。
どちらを選ぶかという選択肢が生じるわけだ。悩むところだけど、この最北端から5日間で青春18きっぷルートの場合は、べつにどちらを選択してもいいという結論になる。
ぶっちゃけてしまうと、ルート探索にによると、どちらを選択しようとも1日目の到達点は変わらず、長万部で打ち切りになるからだ。そこで次に向かう列車がなくなる。
ただし、乗り継ぎの良さなどの要因で、この時間帯は室蘭本線ルートの方が早く長万部駅に到達する。次の日の始発までゆっくり休みたい場合は室蘭ルート、そんなに早い時間に長万部に解き放たれてもすることがないという人は函館本線ルートを選ぶのが良いだろう。
今回は、しょっぱなの6時間代替バスで疲れ切っているので早めに長万部に到着する室蘭本線ルートを選択した。
そうなると、この列車で終点の「ほしみ」に行くのではなく、途中で乗り換えが必要となる。
よし、乗り換えるぞと決意していると高砂という駅に到着した。ここで尋常じゃない数の高校生が乗り込んできた。その人数が本当に尋常じゃなく、そういった類のドッキリなんじゃないかと思うほど多数だった。
子どものころに、赤と黒のエクスタシーというキャッチコピーで宣伝された武田信玄と上杉謙信の戦いを描いた「天と地と(1990年)」という映画いのCMが印象に残っているんだけど、ものすごい多数の軍勢が激突するワンシーン、それくらい高校生が乗り込んできた。
旭川ではお昼だったけど、いつのまにか3時を超え、高校生の下校時間でもおかしくない感じになっていた。この時間に帰宅するということはこの軍勢のほとんどは帰宅部なのだろうか。
その大量の高校生の中の女子高生のグループがなにやらキャイキャイしていた。雰囲気から察するに、この女子高生グループの中の誰かが憧れる同じ高校の先輩が、いつもはこの時間の列車には乗っていないのに今日は乗っていて、それにひどく動揺している感じだった。
「やだ、なんで」
顔を赤らめる女の子。
「園子、気を確かに!」
「あーん、こんな髪型にしてくるんじゃなかった」
「大丈夫、園子はかわいいって!」
みたいな会話が延々と展開される。完全に青春。列車の中にいるだけでこれだけこの子たちに影響を及ぼして動揺させるのだから、憧れの先輩の影響力もなかなかのものだ。
列車に乗るだけでこれだけ人を動揺させる存在ってのもすごいぞと考えていたのだけど、そういや僕も、取材で四国に行った時に四万十川で深みにはまってしまって、そのままビチョビチョの状態で歩くたびに靴から水がボッゴボッゴでてくる河童みたいな音を立てて列車に乗った時はこれくらい周囲を動揺させていたわ。憧れの先輩も俺もそう変わらん。
園子と先輩の顛末が気になったのだけど、乗換駅がきてしまったので後ろ髪ひかれる思いで下車した。
16:11 白石駅
チェックインした駅
上幌向、幌向、豊幌、江別、
高砂(北海道)、野幌、大麻、森林公園(北海道)、厚別、白石(JR)(79駅)
白石駅で下車した。札幌市内にある駅だ。札幌駅まで行って乗り換えると微妙に遠回りになるので、手前のこの駅で苫小牧方面に行く列車に乗り換える。
苫小牧への列車の乗り換え時間は11分。はっきりいって11分の乗り換えは完全に刹那。乗り換え成功。
16:22 千歳線普通 白石発 苫小牧行き
この路線は、札幌から南下していき、新千歳空港の付近を通過して苫小牧へと至る路線だ。ここまでくると通る場所も完全に都市部で、列車の中の乗客も多い。
途中、北広島のあたりを通過した。ここではけっこう心が躍った。新しくできた日ハムの本拠地、エスコンフィールドを見たかったからだ。地図で下調べしたところによると、札幌からみて北広島駅の手前くらいに見えるようだ。
ワクワクしながら車窓の風景を凝視する。
見られなかった。
方角を間違えて逆の窓を凝視していたようで、気づいたときには完全に後の祭りでとっくに通り過ぎていた。
エスコンフィールド、見られなかった。これみたくてこっちの苫小牧ルートを選んだ節すらあるのに、思いっきり見逃してしまった。
エスコンフィールドを見逃したという失意を抱えながらも列車は先へ先へと進んでいく。白石駅を出た時はけっこう混みあっていた車内だったけど、千歳駅を過ぎたあたりが空いてきて、苫小牧駅に到着する頃には余裕がある感じになっていた。
17:24 苫小牧駅
チェックインした駅
平和、新札幌、上野幌、北広島、島松、恵み野、恵庭、サッポロビール庭園、長都、千歳(北海道)、南千歳、美々、植苗、沼ノ端、苫小牧(94駅)
苫小牧駅に到着した。相変わらずホームからのぞくどでかいドンキホーテが目立つ駅だ。
駅についたらとりあえず時刻表を確認しに行く。事前に下調べはしてあるのだけど、それでもネット上のものより実際のものを信頼しているので、必ず確認するようにしている。これもこの種の旅の鉄則だ。
ここから長万部行きに乗る。待ち時間は30分ほどだ。本日は長万部までしか行けないことは分かっているのでこの乗り換えが最後の乗り換えとなる。
時刻表を見て気が付く。あれ、もしかしてここから長万部まで一気に行く列車はこれから乗る17:52のやつで終わり?それ以降は長万部行きの表記がない。
まさかこれが長万部への最終列車かと思ったけど、その後の遅い時間でも東室蘭行きに乗って、東室蘭で乗り換えても長万部までは行けるみたいだ。ただ、ダイレクトにいってくれるやつは次の乗るのが最終列車だ。
早い時間に長万部に到着してもどうしようもない、という人はここ苫小牧で夕食などを済ませるといいだろう。苫小牧なら食事にも買い物にも困らないはずだ。なにせ巨大なドンキがある。
待ち時間は30分だけど、これより遅い列車でも行ける。東室蘭で乗り換えが生じるけど、結果は変わらないのだ。
ただし、少しだけ雲行きが怪しい。なんだか長万部のほうけっこう強い雨が降りそうな気配だ。そうなると早めに到着しておいた方が賢明だ。なにせ昨今は大雨で運休になることがけっこうな頻度で起こるからだ。遅い列車を選択したばかりに運休してしまって長万部にたどり着けなかった、という事態は避けなければならない。
到達できる駅は変わらなくとも、なるべく早く到着する経路を選ぶ。これはこの種の旅における新たな鉄則かもしれない。
17:52 室蘭本線普通 苫小牧発 長万部行き
ということで、30分ほど待ってダイレクトに長万部駅に行く列車に乗ることにした。けっこう空腹で苫小牧での食事が魅力的だったのだけど、なるべく早く到達するほうを選んだ。
ちなみに、この長万部行きの列車、点検に戸惑っているかなにかで到着がかなり遅れた。15分くらいは遅れたと思う。出発時間を大きく過ぎても乗るべき列車が来ない状態が続いた。
15分も遅れると、ここまで何度かあった大成功な乗り換えの11分や12分といった乗り換えが控えている場合、乗り換えができなくなる。
普通は焦るのだけど、もうこれがきょう最後の乗り換えなのでいくらでも遅れてもらって構わない。長万部に到着さえしてくれればいくら遅れてもいい。
大きく遅れて到着した列車は、到着即出発という、それこそ1分も停車していなかったんじゃないかという慌ただしさで出発した。ボーっとしていたら置いて行かれてもおかしくない慌ただしさだった。
列車に乗るとすぐに周囲が真っ暗になった。北海道は暗くなる時の速度が速いように思う。ちょっと暗くなったなとおもったらすぐに闇に包まれる。この画像は社台のあたりで撮影したもの。あのへんが社台ファームだぞ、と地図を見ながら撮影した。
ちなみに、この社台のあたりでiPhoneのfaceIDが機能しなくなった。ロック画面を解除するのに顔を判別してくれる機能なのだけど、あまりに虚無の時間が長すぎて疲労により人相が変わってロック解除されなくなった。
あるいは、このfaceIDは顔全体を認証するのではなく、マスクをしていても機能するように眼を認識して認証していると聞いたことがある。つまり人相が変わったのではなく、あまりに虚無の時間が長すぎて疲労により死んだ魚のような眼になっている可能性がある。
とにかく、顔認証が機能しないのでいちいちパスコードを入力するのが面倒だった。
鷲別という東室蘭駅より1つ手前の駅で事件が起こる。
突如として急ブレーキがかけられ、大きな振動とともに列車が停まる。そして、けたたましい警報音が鳴り響いた。
「鹿と衝突しました。安全確認を行います」
あまりの音と振動、さらに警報音、鹿と衝突したという事実に動揺が隠せないのだけど、車内の高校生などは平然としていた。こういうのは日常茶飯事なのだろうか。鹿と衝突なんて当たり前でしょといわんばかりだ。なんなら英単語のクイズとか出し合っていた。そのままティックトックの踊り狂う動画を撮り始めてもおかしくないくらい日常を過ごしていた。
「安全確認終わりました。出発します」
ただでさえ遅れていた列車がさらに遅れて出発する。たぶん30分くらいの遅れになったんじゃないだろうか。この先の乗り換えがない本日最後の列車で本当によかった。
そんなこんなで東室蘭駅に到達する。
(19:29 東室蘭駅)
東室蘭駅は、苫小牧から長万部方面に向かう普通列車の多くがここを終点としていることからわかるとおり、人の乗り降りが多い。
苫小牧からの乗客がわっと降りたかと思うと、わっと大量の高校生が乗ってきた。地方ローカル線は通学の高校生によって支えられている。それを痛感するほどに各地で大量の高校生に囲まれる。
乗り込んできた高校生たちは和気あいあいとしていて、30分ちかく列車が遅れたことに焦りも怒りもない様子だった。なんだか、全体的にほんわかしている。
何よりも印象的だったのは、大量の高校生のうちの一部の女子高生たちが、あまりにも暇だったのか「しりとり」を始めたことだった。
スマホにエアポッズにで自分の世界に閉じこもる通学をする高校生は多い。そこまでいかなくてとも仲間たちとスマホゲームに興じる高校生などが大半だ。
そんな令和の時代にあって「しりとり」に興じる女子高生。しかもけっこう盛り上がってるし。なんというか、すごく良いものを見た気分になった。北海道の女子高生は、いいぞ。
(18:01 伊達紋別)
伊達紋別に到着する。ここで東室蘭から乗ってきた大量の高校生が大量に下車した。そして入れ替わるように大量の高校生が乗車してきた。
こんな綺麗に入れ替わるということは、この伊達紋別を境に高校の校区みたいなものが変わるのだろうか。
伊達紋別では数少ない一般乗客もすべて降りてしまったので、車内での高校生純度は99%くらいだ。残り1%の不純物、それが僕だ。本当に僕以外はぜんぶ高校生みたいな状態になってしまった。これ、ワンチャン僕も高校生でいけるだろ。
「俺が高校生だったらあの地味なメガネのやつと友達になる。クラスライングループには2人だけ入れてもらえなくて、ずっと2人でクラスの連中の悪口を言うだけのライングループを作って盛り上がる。そのうち、二人のトークは世界一面白いと錯覚しはじめて、血迷って「伊達紋別おもしろ高校生ラジオ」と題して二人のトークを収録した動画をYouTubeにアップする。成功したら東京に引っ越して多くのYouTuberとコラボだなとか言うけど、再生数が24から伸びず、2か月くらいでアップロードするのをやめる。若さゆえの過ち。黒歴史。狂った果実」
などと妄想しながら時を過ごした。
洞爺駅だ。けっこう長時間の乗車で、遅れを含めても苫小牧から3時間くらい乗車している。それでもまだまだ先は長い。
(20:48 小幌)
小幌駅に到着したときは少し面白かった。
小幌駅は知る人ぞ知る秘境駅で、トンネルとトンネルの間、わずか80mほどの限られた空間に存在する駅だ。道路とも隣接していないし、住民もいない。はやい話、誰も乗ってこないだろうし誰も降りない駅だ。
昼間なら秘境駅に降り立つことが目的の人がいる可能性もあるけど、ここまで夜が深い時間になると降りる人などいない。というか、この列車が最終になるので降りたら闇に一人取り残されることになる。降りる人がいたら止めた方がいいくらいだ。
よって、ここで乗り降りする人はいないと判断したんだろう。点検と鹿との衝突で大幅に遅れていた列車、運転手は少しでも遅れを取り戻したいと考えたのか、ここ小幌駅では、到着してドアが開いた瞬間に閉まった。断頭台かと思うほどの切れ味で即座に閉まった。マリーアントワネットが見えた。それくらい急いでいたのだろう。
なんとまあ、3時間越えの長時間乗車を経て、ついに1日目の最終到達地、長万部駅の到達した。
21:06 長万部駅
チェックインした駅
青葉、糸井、錦岡、社台、白老、萩野、北吉原、竹浦、虎杖浜、登別、富浦(北海道)、幌別、鷲別、東室蘭、本輪西、崎守、黄金(北海道)、
稀府、北舟岡、伊達紋別、長和、有珠、洞爺、豊浦、大岸、礼文、小幌、静狩、長万部(123駅)
やべえな。分かっていたことではあるけど、ホームから確認しても駅の周りになにもありそうにない。深淵なる闇が広がっている。夜を明かす施設が駅周辺になさそうだ。
駅の内部もひっそりとしている。無人だ。伊達紋別から乗り込んでいた高校生たちが、暖かい家に向かっていそいそと歩いていく。みんな迎えの車がきているみたいだ。
「いいなあ、帰る家があって」
この状況では帰る家があることがなんとも羨ましかった。僕はここ長万部には帰る家がない。
ちなみに、長万部駅に到着した瞬間、ドグシャーと激しい雨が降ってきた。もはや傘なしでは一瞬たりとも歩けないレベル。
ただし、駅周辺にはなにもない。駅は無人だし、周辺に店舗も宿泊施設もコンビニもありもしない。列車内で宿泊施設を探したのだけど、今日はどこも空いていないらしい。というか、そもそも宿泊施設が少ない。
ただただ禍々しき闇が長万部駅を包んでいた。
駅構内で迎えを待っていた女子高生の視線が「このひと、傘も持たずにどうするんだろう」という感じだったのだけど、その蔑んだ視線すらも、迎えの車がきてなくなってしまった。
「どうすんだよ」
大きな雨の音を闇が包む。こうして1日目は終わりを迎えたのだった。
1日目まとめ
総移動距離 591.0km
正規料金で乗車した場合 10,890円
総チェックイン駅 123駅
総乗車時間 15時間42分(遅れ含む)
※移動距離・乗車時間は代替バスを使わずに従来の路線に乗車した場合
いきなり大雨による不通をくらい、6時間の代替バス乗車からスタートする羽目になったけど、なんとかリカバリできた。
ちなみに、結果として同じ駅までしか行けない場合でも、少しでも早く到着する経路を選ぶという選択が大正解だったっぽい。
長万部到着時のドグシャーという大雨、これによって小樽方面から長万部に到達する列車が大幅に遅れているっぽい。もしかしたら、苫小牧方面からくる最終もかなり遅れそうな感じだ。小樽方面を選ばず、苫小牧でも食事をとらずに早い列車を選択したのは完全に大正解だった。
ここまでの経過図はこちら。
5日間で行き切らなきゃならないのに、1日目でこれだけしか移動してないの!?北海道脱出もできないの!?北海道広すぎない!?本当に達成できるの!?
というか、この大雨、明日も運休区間とかでてくるんじゃないか。そう、ただただ運休だけが怖い。
ということで、2日目に続く!
2日目 AM5:00 長万部町内
昨日の夜は激しい雨が降っていた。なんというかこちらがずぶぬれになる程度の雨なら一向に構わないのだけど、そんなレベルではない激しい雨で恐怖すら感じた。
この日本列島、あきらかに大雨の質がかわってきている。昨日の雨はどこかで災害が起こっていてもおかしくないほど激しいものだった。
そんな激しい雨が幻だったのかと思うほどに雲一つない快晴の2日目だ。さっそく長万部駅に向かって歩き出す。
駅の近くで大掛かりな工事が行われていた。おそらく線路をまたぐ跨線橋を作っているのだろうけど、そこまで高くしなくてもいいだろうと言いたくなるほどに大きな柱をぶっ立てていた。これ、相当に大規模な工事だぞ。長万部にこんな高さの橋脚が必要なのだろうか。
昨日の大雨は本当にまいった。なんとか駅から10分くらい走ってコンビニに駆け込み、夕飯と傘を買うことに成功した。あれがなければ濡れすぎて肺炎とかで死んでいたかもしれないし、カバンに入れた電子機器もぜんぶ壊れていたと思う。まさに命を繋ぐコンビニだった。
駅までの道中を歩く、このままいけば昨日、命を繋いでくれたコンビニがある。今朝もそこに立ち寄ってちょっと朝飯でも購入してから行きましょうかね。
食料は買える時に買っておく。それが青春18きっぷ旅における鉄の掟だ。
しまっとる。
なんと、長万部のセブンイレブンは夜間は閉店するみたいだ。ってことは、昨日も遅い時間だったら、命を繋ぐコンビニだ、と駆けこもうとしていたらビシッと閉店していたのか。ずぶ濡れで絶望することになっていたのか。ちょっと恐ろしくなった。つくづく早く到着する列車を選んで良かった。ファインプレーだったな。
長万部駅は目と鼻の先みたいな距離に海がある。交差点の向こうに海が見える。だからこの付近は少しだけ潮の香りがする。なんだか懐かしい感じだ。
長万部駅に到達した。昨日、絶望した闇の駅も今は柔らかな光に包まれている。しかしながら、なんだか様子がおかしい。なんだかひっそりとしている。
早朝であることを差っ引いてもなんだか人の気配がしない。妙に落ち着いているのだ。そういや、列車の気配がない。機械的な音がしない。普通なら始発列車が音を立てて準備しているはずだ。それがない。なんだか嫌な予感がする。おそるおそる駅舎内へと入っていく。
6:35 函館本線普通 長万部発 函館行き
運休!
運休!
運休!
運休!
運休!
ぜんぶ運休じゃねーか!
どうも午前中の列車は函館方面、札幌方面、すべて運休らしい。これ特急列車しか記載されてないけど、もちろん普通列車も函館方面は運休。
というか、普通列車に関しては「運休」というアナウンスも掲示もなく放置されていた。なぜか特急列車しか存在しないかのような扱いだった。
時間になっても来ないから運休なんだと理解した。
どうやら夜のうちに降り注いだ大雨によって線路内に土砂が流入したらしく、少なく見積もっても午前中は復旧しないみたいな感じだった。
さあ、困ったぞ。本当に困った。まったく身動きが取れなくなってしまった。ここ長万部が陸の孤島になってしまった。
じつはこれ、青春18きっぷのルール変更の影響を大きく受けている。こういった運休によって身動きが取れなくなってしまった場合、これまでの18きっぷなら「仕方ない、長万部にもう1泊して復旧してから再開するか」という作戦が可能だった。期間内の任意の日に5日ぶん利用できるからだ。使わない日があってもいい。
しかしながら、新しいルールでは「連続した5日」と明記されているし日付を指定して購入するので、このように運休等で身動きできない日が生じても、そのまま1日ぶんが消えるだけである。
そう、新ルールの青春18きっぷは運休に弱い。これまでは旅程がズレるだけで済んだものが、明確に1日分が消えてしまうのだ。そこに救済はない。
2日目の出だしから詰んでしまった。災害等で運休の場合は別の交通機関を使ってリカバリしても良いというルールだけど、リカバリできる交通手段がないのだ。いつ復旧するかも定かではない。
どうしたものかとトボトボと駅の周辺を歩く。
すると、制服姿の高校生たちがチラホラと駅に集まりだす光景が見えた。昨日の夜に長万部駅に降り立った時にワーッと降りていった高校生たちと同じ制服のようだ。昨日の高校生たちだ。
どうやら特急列車は函館方面、札幌方面ともに運休なのだけど、通学需要がある室蘭方面の普通列車だけ動くらしい。だから高校生たちが集まっている。ちなみにそれに関しても明確なアナウンスや案内はない。本当に普通列車は無視されている。
土砂災害は長万部ー函館間なので、本当は特急列車も室蘭方面にはいけるのだろうけど、たぶん函館にいる車両がここまで来れないのだと思う。もともと長万部発だった普通列車は長万部駅にいたので室蘭方面にいくということだろう。
その中に、昨日、迎えを待っていた女子高生もいた。昨日、あんな夜遅くに帰ってきて、夜あけてこんな早朝にまた列車に乗る。なかなか大変だなと眺めていた。
そんな高校生たちの会話で気になるものがあった。
「くそー、学校に行く列車だけ運行してんじゃん。そこは運休になれよ」
「俺の親、仕事で特急で函館に行くつもりだったのに行けなくなったって」
「こっち方面も運休になれよ」
「なんかさ、うちの親、どうしても行かないといけないらしく、バスで行くために時刻表を調べてた」
え、函館までバスでいけるの!?めちゃくちゃ遠いのに!?かなりの距離があるんじゃないの!?
高校生たちの会話から現状打破の糸口をつかんだ。高校生たち最高だな!急いで駅舎の外に出てバス停を探す。
どこだバス停はどこだ。
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