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J/53  作者: 池金啓太
三十話「その仮面の奥底で」

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それぞれの読み

轟音が鳴り響く中、鏡花たちは倉庫でカレンたちを守っていた、と言っても今のところ敵対勢力もやってきていない、どうやらうまく静希達が誘導し安全を確保してくれているようだった


「今のところは大丈夫そうですね・・・明利、今どうなってる?」


「・・・わからない・・・静希君達がいる場所の種が全部死んじゃってるの・・・なんか妙な液体が流れて来て・・・」


明利の話を聞いて鏡花は眉をひそめる


静希やエドがわざわざ明利の索敵網を破壊するような真似をするはずがない、という事はその液体というのは敵の能力である可能性が高い


「それってどこからどこまで?どのあたりの索敵が死んでる?」


「えっと・・・ここからここまで・・・それ以上は広がってないみたい、あとところどころに変な液体がこびりついてるところもあるよ」


明利が示す範囲と位置を見て鏡花は口元に手を当てる、道がいくつか集合して広くなっている場所から広がるように一定の距離まで明利の索敵網が破壊されてしまっている


そしてその液体とやらがこびりついていた場所を見て鏡花は頭の中で一気に思考を重ねていく


先程の静希達の行動と、今の行動、そして今何が起こっているのかを正確に把握する必要がある


「・・・相手の能力は・・・たぶん毒性の液体を発現する能力なんでしょうね、最初は水鉄砲みたいに撃ってたけど静希達に追い込まれて本気を出してこの様・・・ってところかしら・・・その場所で留まってる、こびりついてるってことは粘度の高い液体みたいね」


現状だけで相手の能力をある程度看破した鏡花にアイナとレイシャはおぉぉと感嘆の声を漏らしていた


明利の索敵があってこそだが接触する前から能力の情報を得られるというのは非常に高いアドバンテージとなる


とはいえどうしたものか、静希達は空中を移動している、液体という攻撃の性質上地面を歩いて移動するというのは危険だ


そう言う意味では静希達がとっている空中での行動というのは非常に適切である、だが鏡花たちはその術がない、サポートに行ったところで足手まといになるのが関の山かもしれないのだ


「明利、目標今どうしてる?」


「静希君達の攻撃を避けながら移動中です・・・もうすでに液体の蔓延してる区域からは離れていますね」


先程の攻撃はあくまでその場から脱するためだけに使ったという事だろう、本気での攻撃ではなかったのかもしれないがすでにその場から逃げようとしているのは間違いない


恐らく悪魔同士の能力戦になっているだろう、生身の人間が行くにはあまりにも危険すぎる


とはいえ何もできないわけではない、幸いにして目標はすでに移動している、それを先読みすることができれば


「明利、今から私にずっと目標の移動ルートを教え続けて、あいつらをフォローしに行くわ」


鏡花が立ち上がると同時にアイナとレイシャが同じように立ち上がる、自分たちの力が必要になると理解したのだろう


「了解・・・大丈夫?」


「何とかするわよ、アイナ、レイシャ出番よ!準備はできてるわね?」


「もちろんです、いつでも行けます」


「いつでも発動可能です!」


二人の準備は万端のようだ、後はどれだけ鏡花が静希とエドの思考を先読みできるかである、静のと事だ、何かしら意図があって敵を追い回しているはず、その考えを先読みすればいい


静希と考えを同調するという事は実習において何度かやってきた、今この場でも、静希が悪魔の契約者として動いている今でも十分にそれは可能なはずだ


「カレンさん、二人を借りていきます、この場はお願いします」


「・・・わかった・・・一つだけ確定した未来を見つけた・・・屋根の上にお前達がいる・・・そして目標らしき人物を見ている・・・気を付けろ」


それがどのくらい先の未来なのかはわからない、だが静希の行動と自分たちの行動の中で必ずその未来に行きつくという事なのだろう


自分に何ができるだろうか、手助けができるだろうか、いや手助けをするのだ、しなくてはならないのだ


「鏡花、俺はどうすりゃいい?」


「あんたの能力じゃ相手と相性が悪いわ、ここを死守しなさい、何があってもよ・・・一応周りの道は塞いでおくから」


この近くにも敵の能力が襲い掛からないとも限らないのだ、道から液体が流れ込んでくるのを防がなくてはならない


そして陽太の能力では明らかに相性が悪い、あの液体が不燃性かどうかはわからないが、少なくとも液体という状態であるのは間違いないのだ、しかも空を飛ぶこともできない陽太では満足に戦えるかどうかも怪しいものである


「もし来たらあれ使ってもいいか?そろそろ解禁していいだろ?」


「ダメよ、あんたあれのコントロールまだ満足にできてないでしょうが、もう少しお預け」


陽太を窘めた後で鏡花は小さく深呼吸する、いつも通りだ、今の鏡花はいつも通り、緊張もしていない、できる事だけをやればいい


「いくわよ二人とも、気を引き締めなさい」


「「はい!」」


鏡花の後に続くようにアイナとレイシャは駆けだす、この三人の協力がどのような形に未来を収束するのか、カレンは少しだけ心配しながら静かに集中し始めた













「ったく・・・案外しぶといな」


「彼がっていうより、あの悪魔がっていったほうがいいかな」


静希とエドは攻撃を続けながら悪魔と一緒に仮面の男を追い回していた


空を飛ぶことはできないのか、それとも意図的にしていないのか、先程から目標は延々と地面を移動し続けている


機動力では圧倒的にこちらが上だ、逃げ回る敵に対して一方的に攻撃できているのも機動力が違いすぎるからに他ならない


だがそれでも攻撃が当たらない


メフィとヴァラファールは全力で攻撃している、だがそれでも攻撃が当たらないのだ


あの悪魔が発現する液体による防御は正直に言えばもはやないに等しい、メフィが風香の能力を使い吹き飛ばし、その隙にヴァラファールが攻撃している、防御できるだけの時間的余裕はないのだ


なのに攻撃が当たらない


これだけ攻撃しているにもかかわらず攻撃が一発も命中しないというのは明らかにおかしい、それこそ偶然にしては出来過ぎている


となれば、この状況は作られたものである可能性が高い


「エド、あの契約者・・・太った仮面の奴が能力を使ったところ、確認できたか?」


「いいや、一度も・・・この状況で能力を使わないのは妙だね・・・となれば、使わないのではなく、使っているように見えないだけ・・・という事かな」


静希とエドの考えはおおよそ一致していた、能力を使っていることを確認できない、視認できない能力となると数が限られる


その中でもあの仮面の男が何か細工をしているとみるべきだろう


「ことごとく攻撃が避けられた・・・少なくとも攻撃が消えるようなところは見えなかった・・・ってことは避けられてるか・・・曲げられてるか」


「軌道が変わったところは確認できなかったよ、となれば避けてるんだろうね、身体能力強化・・・いやそんなものがあるならもっと素早く逃げてるか」


お世辞にも速いとは言えない移動と仮面の男の肥満体型から察するにまず強化系統ではないことが予想される


強化系統でもなくメフィ達の攻撃をとにかく避けることができる、あるいはその状況を作り出せる能力となるとかなり数は限られる


「予知系統に一票」


「気が合うね、僕も同意見だ」


良くも悪くもメフィやヴァラファールの攻撃は射撃系、攻撃そのものが弾丸のようになっているため軌道さえ分かってしまえば避けるのは容易い


攻撃が直撃する瞬間にタイミングを合わせて能力を発動すれば多少軌道を逸らすことだってできる、静希やエドたち全員の攻撃をかわせているとしても不思議はない


「簡単に追い込めることとかも考えると・・・どうやらあんまり遠い未来は見えないと予測するけど・・・どうだい?」


「大体同意するけど・・・それにしては対応がお粗末だ、たぶんなんかが見えてるんだと思うぞ、そうでなきゃ何も考えず逃げるはずがない」


「追い込んでるんじゃなく、誘い込まれてる・・・そう言う事かい?」


静希の言葉にエドだけではなくメフィやヴァラファールも若干警戒を高める

ただ逃げている、そして静希達の思うように追い込めている、そう思わされている可能性があるのだ


予知能力と射撃系、そして遮蔽物の多いフィールドは相性がいい、それは以前のカレンとの戦闘で身に染みている


何かしらあるのだ、静希の勘がそう言っている、悪魔の力を使って静希達を追い込もうとしているのか、それともどこかにおびき出そうとしているのか


あの機動力で静希達を相手に逃げられるなどと悠長な考えをしているとも考えにくい、そうなるとまず間違いなく何かを企んでいるだろう


この軍人たちが大量にいる中でそう易々と行動できるとは思えないが、そう考えている中静希の頭の中に一つの可能性が浮かぶ


「あー・・・ちょっとまずいな」


「何か思いついたのかい?しかもその声音から察するにあまり良くないことだ」


「あぁよくない、最悪のパターンだ・・・」


静希が思いついた内容は考えうる限り最悪のパターンだ、もしかしたら今回の事件のために用意してきたものをすべてひっくり返されかねない


「メフィ、オーダー変更だ、威力はそこまでなくてもいい、あいつを足止めするぞ」


「あら、倒さなくてもいいの?」


「倒すよりも大事なことがあるんだ、頼む」


静希に頼まれたら断れないのか、メフィは先程までの威力重視の能力から数重視の形に切り替えていく


避けることが困難になるが、その分あの液体でも防御できるだけの威力になったのか、移動速度が下がり、仮面の男全体を覆うように液体の壁が作り出される


「シズキ何に気付いた?」


「今の俺たちが優位な状況がひっくり返されかねないことだよ、ヴァラファールは高い威力の攻撃であいつを足止めしてくれ、当てる事よりも動けないようにすることが大事だ」


静希の言葉を正しく理解できずとも、今この時点で止めなければまずいことになるという事を察したのだろうか、ヴァラファールは強く能力を発動していく


近くに通信手がいればこのことを軍に伝えることもできるのだろうが、生憎と静希達の近くには軍人はいない、どうやら悪魔との攻防中に振り払ってしまったようだ


カレンを経由して伝えてもらわなければいけないが、それで十分に伝わるかどうか、不安ではあるが静希はカレンに向けて通信を試みた















「じゃあ静希達はその場所で急に動きを止めたのね?」


『うん、少しずつ動いてるみたいだけど・・・さっきよりは移動速度が落ちたよ』


鏡花は街を移動しながら明利と通信していた、常に静希の状況を報告してくれているために思考を止めることができない、常に動く状況を先読みするというのはそれだけ面倒で難しいのだ


先程までは移動し続けていたのに急に速度が落ちたという事に鏡花は眉をひそめていた


「どういう事でしょう・・・ボスたちの攻撃が当たったのでしょうか?」


「それとも足止めに集中しているのでしょうか、よくわかりません」


明利ができるのはあくまで近くにいるかどうかとその光景を確認することまで


近くに種があればその様子もしっかり確認できたのだろうが相手の能力のせいで索敵網が破壊されながら移動しているに等しい、そこにいる事がわかってもかなりあいまいな情報になってしまうのだ


だが今までの情報で鏡花の中である程度の仮説は生まれていた


「ちょっと厄介な状況になってきたかもね・・・」


「厄介・・・危険な状態なんですか?」


「ボスたち・・・大丈夫でしょうか」


鏡花の言葉にアイナとレイシャは不安を覚えているようだったが、鏡花の懸念はあの二人の無事ではない


いや勿論あの二人が無事であることに越したことはないのだが、現状であの二人が負傷をするだけの材料はないのだ


問題はそこにはない、鏡花が厄介といったのは相手の危険度という意味ではなく、今のこの状況に関してだ


「静希やエドモンドさんたちは大丈夫よ、それよりもちょっと早く移動しないとまずいことになるかも」


「どういうことですか?」


「どんな問題があるんですか?」


アイナとレイシャの言葉に鏡花はどう説明したものかと小さく悩み始めるが、相手が陽太ではない分多少難解な内容でも理解できるだろうと小さくうなずいてから指を一本立てる


「まず、静希達の攻撃をことごとく受けておきながら未だに戦闘不能になっていないという事は能力を無力化されてるか、避けられてるかの二種類よ、明利の報告によるとメフィの攻撃で地面とかが壊れたりしてるから前者はないわ、つまりかなりの数の攻撃を避けられてるってこと」


攻撃を避ける、それだけなら何も不思議な話ではない、攻撃にある程度の範囲があるのだからそれは避けることができるという事でもある


それを相手が行っていることの何が不思議なのだろうか


「そしてあの場にいる奴らの攻撃手段は主に射撃系、一斉射撃を受けてそれを全部躱すことができるってのは異常よ、たぶん能力を使ってる」


「待ってください、悪魔の能力・・・あの液体を壁代わりにして防ぐことだって・・・」


「メフィの能力がその程度で防げるとも思えないし、何より静希があの場にいるのよ?すぐに対応してるはず、それなのに契約者の方に当たってない・・・契約者の方が能力を使ってると考えるのが自然ね」


鏡花の考えはおおよそ正しい、現状において弾幕を張っているにもかかわらずそれをすべて避けられているというのは人間の動体視力などではほぼ不可能だ、見えやすいメフィやヴァラファールの攻撃と違い、静希が放つ銃弾などは視認できるような速度ではない


それもすべて避けている、あるいは正確に防いでいるとなると能力は限られる


「だとしたら・・・壁を作っているか・・・いえ・・・地面に当たった痕跡があるなら軌道を変えているとかでしょうか?」


「それも十分あり得るわ、でもそれなら今速度を落とす理由がわからない・・・攻撃を曲げられるならそのまま逃げ回ってもいいものなのにそれをしない・・・あるいはできないか」


「ボスたちが動けないようにしているんでしょうか・・・でもなんで急に」

アイナとレイシャの意見を聞きながらも鏡花はそこなのよと呟く


先程鏡花が厄介な状況だと言ったのは能力云々よりもむしろそちらにある、本来気にしなくてはいけない、そして自分たちがやるべきことはそこなのだ


「さっきまで動いていた、というより追い回していたのに急に足止めにシフトした理由よ、たぶん静希は何かしらに気付いたんだわ、あのまま動かすのは危険だと判断したのよ」


「危険・・・何が危険なんですか?」


「まさかボスたちの身に何か・・・」


アイナとレイシャの不安をよそに鏡花は思考を続ける


何故追い回している静希が先程失敗したような足止めにシフトしたのか、静希が何に勘付いてそのような行動に出たのか


鏡花は思考を巡らせる


そもそもにおいて自分たちがやりたいことと相手がやりたいことを一度思い返す必要があるかもしれない


そして相手が何をしようとしているか、その中で今一番危険だと思われる内容は何か


そんな中鏡花は一つのことに気付く、それは静希が気づいたのと同じ可能性

この状況をすべてひっくり返しかねない危険な行動


「やっば・・・ちょっと急がないとまずいかも、レイシャ、私達に身体能力強化お願い」


「え?は、はい!わかりました!」


鏡花の言葉通りにレイシャは鏡花とアイナ、そして自分にも身体能力強化を施す


全員の身体能力が高まったところで鏡花たちは全力で移動を開始する、早くしなければ間に合わないかもしれない、可能な限り急いで準備をする必要がありそうだった
















「てなわけだ、忙しいところ悪いけど伝言頼めるか?」


『了解した、こちらから伝えておこう、そちらも気を付けろ』


召喚陣にかかりきりになってしまっているカレンに頼むのは心苦しいが、静希が離れた今鏡花たちでは軍の人間に伝達することができない、ドイツ語が話せるカレンに頼むほかないのである


「ところで鏡花たちはどうしてる?さっきから明利となんか話してるみたいなんだけど」


周波数を同じに設定してるために先程から静希の無線には鏡花と明利の会話が聞こえていた、何か聞いているのはわかるのだが敵に集中していたために完全に聞き流していたのだ


『キョーカならお前達をフォローするためにアイナとレイシャを連れて出て行った、メーリはこの場にいる、今も状況を彼女に伝え続けているようだ』


その言葉に静希は眉をひそめる


鏡花が動き出したという事は、恐らくは自分の行動を先読みしようとしているはずだ、悪魔同士の戦闘を行っている中に、ただの能力者である彼女たちが正面から向かってくるとは考えにくい


ともなれば、静希の行動、そして相手の行動を先読みして準備を整えておくはずである


その近くにはアイナとレイシャもいる、となればすでに移動を始めているとみて間違いない


問題は彼女がどこまでこの現状に気付いているかという事だ


状況を鏡花にも伝えてやりたいところだが、どうやらそんな暇はないようだった


「シズキ、どうやら動くようだよ」


「ったく話くらいゆっくりさせろっての」


こちらが話をしているのを悠長に待ってくれるほど相手は気が長くないようだった、静希が話していれば当然その分攻撃は散漫になる、可能な限り集中するも話をするとなると限界があるのだ


「悪いカレン、こっちも忙しくなりそうだから無線切るぞ、そっちは任せた」


『了解した、任せておけ』


召喚陣の方はカレンに任せておいて大丈夫だ、問題はこっちにある、静希の考えが正しいならこのまま目標を動かすわけにはいかないのだ


だが相手も静希の思惑通りに動いてくれるはずもない


一瞬目標を覆う液体の壁が収縮したと思ったら、次の瞬間静希とエドめがけて大量の液体が放出される


先程通りに釘づけにされたときに放った大量の液体放出、先刻は側面から攻撃されていたために横方向に放ったが、今度は静希達にいる上空めがけて放ってきた


静希とエドは攻撃をいったん止め回避行動に専念する、邪薙の障壁を展開しながら急上昇し放たれる大量の液体を避けていく


速度がない分避けることは容易い、特に邪薙の障壁のおかげで液体の流れにも裂け目ができるため避けやすくなるのだ


そして大量の液体が視界を遮る中、静希は液体の向こう側にいる悪魔と仮面の男を探していた


これだけの距離だ、たとえ見ることができなくても気配で感じることはできる、それは静希だけではなくエドも同様だ


大量の液体に紛れて逃げようとしているのだろうが、二人の契約者を前にこの程度で逃げられると思っているのであれば考えが浅い


避けた液体と、落下してくる液体を躱しながら静希とエドは一気に距離をつめていく


「メフィ!わかってるな!」


「もちろん、逃がしたりしないわ!」


「ヴァル!追い詰めるよ!」


「心得た!」


静希とエドは互いの悪魔を引き連れながら目標を追い詰める、いや再び足止めするべく弾幕を張っていく


稼いだ時間は数秒、移動した距離はせいぜい数十メートル、人間が走る速度と相違ない


その程度の機動力で逃げられると思っているのだろうか


いや違う、何かが違う、何を狙っているのか、静希の懸念以外に何かを狙っているとしか思えない動きだ


何かしらの予兆、静希はそれを感じ取った


次の瞬間、静希達の進行方向から迂回するような形で大量の液体が襲い掛かる


またかと思った瞬間、静希はその考えを覆す


背後、先程自分たちに向けて放たれた大量の液体、避けて地面に落下したはずの液体が再び宙に浮き静希達めがけて襲い掛かってきていた


考えてみれば当然だ、あの液体は悪魔が作り出した物なのだから、たとえ落下したとしても操れても不思議はない


大量の液体に周囲を囲まれた、逃げ場はない


メフィが瞬時に念動力の能力で防御してくれているが、全方位を囲まれているせいか守るのが精一杯になっているようだ


悪魔の能力同士、いつまでもこの拮抗状態が続くとは限らない


「シズキ!これは・・・!」


「エド!こっちにこい!」


静希はエドを呼び寄せ瞬時にこの状況の打開策を考え始める


前後から襲い掛かる大量の液体、すでに周りは囲まれた、あと数秒も経たないうちにその液体は静希達の全身を覆い込むだろう


ならばどうするか、突破するしかない


今有効なのはメフィの持つ風香の能力、空気を爆散させて周囲の液体を吹き飛ばすこと


だがメフィの攻撃は良くも悪くも威力が高い、これだけの距離だと静希達も同じように巻き込まれるだろう


どうするべきか、ほんの一瞬だけ目を閉じ、静希は決断を下す


「メフィ、俺たちの体をしっかりつかんでろ、真上の液体を吹き飛ばす、防御は任せた」


「わかったわ、ホントに危なっかしいことばっかりね」


そう言うなよと静希は苦笑する、どうしようもないという事はあるものだ、今回の場合は特に


「エド、俺が先行する、お前は後ろからついて来い」


「・・・わ、分かった」


静希が何をするつもりなのか、エドはわかっていなかった、だが静希がついて来いと言ったのだ、エドは静希についていくつもりだった


静希は一度深呼吸した後で覚悟を決める


多少痛いだろうが、悪魔の能力に晒されるよりずっとましだ


この能力とメフィの念動力の能力はどうやら相性が悪いらしい、最低限防ぐことはできているがそれも限界だ、悪魔の液体の操作の力とメフィの念動力の力、恐らく前者の方が力が強い


一つのものだけど動かすことができるか、それとも多くのものを動かすことができるか、この二つの力には大きく違いがある


それはつまり、特定の物に対して強い力をかけることができるか否かという事だ


前者の場合、特定の物だけに力がかかるがその力は強い、後者の場合、多くのものに力が作用する代わりに前者に比べて出力は弱くなる


万能な能力程、浅く広くと言えばいいだろうか、効果が薄まる傾向にある、それは悪魔の能力でも同じだ


この能力と相性がいいのは風や衝撃を生み出せるタイプの能力、それこそ風香の能力などがそれにあたる、液体ごと吹き飛ばすことができるような能力は相性がいい


この液体を吹き飛ばすとなるとメフィが使う風香の能力が最適なのだがそれでは威力が高い、何よりメフィがその能力に集中すると静希達に大きな負傷が出る


ならばどうするか


静希はトランプを二枚取り出し、一つを液体の手前に、一つを液体の外側に配置する


「いくぞエド!振り落とされんなよ!」


「了解!」


真上の液体めがけて突進する瞬間、静希はトランプの中に入れられた物体を放出する


それは以前から静希とメフィがコツコツ作り上げてきた高速弾


もはやどれほどの速度に達しているかもわからないその弾丸を、静希は上空めがけて射出した


瞬間、その弾丸の進行方向にある空気が弾かれ、押しのけられ、吹き飛ばされる


近くにあった液体ごと、その空間さえも吹き飛ばすような勢いで静希達の真上にある液体を吹き飛ばした


液体の檻を突き出た弾丸は向こう側に設置されていたトランプの中に収納され、それ以上の余波を作ることは無くなった


静希を先頭にエドたちはその穴から一気に脱出していく、大量の液体の檻から抜け出した静希達はすぐに移動を開始し、メフィはあの場にあった液体のほとんどを風香の能力で吹き飛ばしていった


「シズキ・・・無事かい!?」


「・・・あぁ・・・さすがにきついな・・・右腕がいかれた・・・」


衝撃波は何も上だけに発生するものではない、僅かながらにも後方に発生する、その物体が小さいゆえに安全な部分というのは限られる、メフィの念動力の能力で多少防御してもらったからこそ何とか無事ではいるが、吹き飛ばされるのではなく自ら衝撃波に向かっていったのだ、その被害は大きい


静希の右腕は完全にあらぬ方向を向いている顔を守るために両腕を盾にしたのだが、左腕と違い静希の右腕はほぼ生身だ、その衝撃に耐えられなかったのだろう、皮膚が裂けているところもあれば骨がひしゃげているところもある


左腕を駆動し腕を元通りの方向に曲げなおすと左腕の能力が発動しすぐに静希の右腕は元通りに修復されていった


「エド、お前は無事か?」


「あ・・・あぁ君たちが盾になっていてくれたおかげで無事だよ・・・」


「ならいい・・・さてあの野郎・・・どうしてくれようか・・・」


右腕が元通りになるのを確認した後すぐに静希は悪魔の気配を追っていた、液体の檻に囲まれていたのは十数秒、そこまで遠くには行っていないはずだ


少々高い場所まで上昇して探してみるとその姿を確認することができる、逃げていく姿を見た瞬間、静希は満面の邪笑を浮かべて見せる


「ハハハ・・・あれだけのことをしてもまだ逃げるか・・・ここまで追い詰めておいてなお逃げるか・・・!」


あの状況において後悪魔がもう一手打てばこちらはやられていた可能性もある、あれだけの突破力だけで液体の檻から抜け出せたのも、本体が離れて行ったからなのだろう


だからこそ静希は頭に来ていた、自分が相手ならまず敵を倒すことを目的にする、悪魔にはそのつもりがあったのにもかかわらずその契約者がふぬけすぎる


いや、もしかしたらこちらを馬鹿にしているのかもしれない


お前達など戦う価値もないと


「上等だ・・・さっきので止め刺さなかったのを後悔させてやる・・・」


「フフ・・・シズキ、とっても怖い顔してるわよ?」


「仮面してても分かるか?今結構イラついてるからな」


両者ともに攻撃は当たらない、こちらは足止めをしたいが相手は逃げ続ける

相手の攻撃は当たらないが厄介、フラストレーションの溜まる戦いに静希もだんだん限界が近づいてきているのだ


これ以上相手の思うようにはさせない、静希は頭をフル回転させながらどうやって攻撃するかを考えていた


もはや加減などいらない、相手の動向を探るのもこれまでだ、ここからは徹底的に攻撃していくほかない


「でもシズキ、どうやって止めるんだい?相手の能力が予知であるならこっちの攻撃はまず当たらないよ?」


エドは予知系統との戦闘経験がない、というかそもそも戦闘経験があまりないのだ、もともとが研究者であったというのもあるのだが彼自身戦闘を得意としていないというのもその理由の一つである


静希からすれば予知系統はすでに戦ったことのある相手だ、問題はその近くに悪魔がいるというだけである


ならば答えは簡単だ、悪魔と契約者を引き離してしまえばいい

悪魔の契約者とはいえ人間だ、引き離してしまえば静希達にも十分勝ちの目がある


とはいえ過保護なくらいにべったりくっついているのだ、あれを引き剥がすのは容易ではないだろう


できるとすれば、相手がそれ相応に油断している時でないと無理だ


明らかに戦力が上回ってる状態で相手を油断させるなんてそう簡単にはできないだろう、どうするべきか


そう考えながら静希達は再び契約者たちに向けて射撃を繰り返す


再び足止めと称した鬼ごっこが始まるのだ、どうしたものかと悩んでいると静希は妙な変化に気が付ける


それは街全体、いや今静希が見える部分からでもはっきりとわかる違いだ、そして下にいる悪魔と契約者はそれに気づいていない


その変化に気付いたとき、静希は薄く笑う


「エド、作戦続行だ、このまま相手を追い込んでいくぞ・・・ただし射撃系の攻撃メインだ」


「いいのかい?射撃系じゃ相手を止められないんじゃ・・・」


「あぁ、射撃系で仕留められるならそれに越したことはないけど・・・今回はちょっと頭に来たからな、徹底的にすりつぶす」


静希がこういう声を出してるときは本当に怖いけど頼りになるなと、エドは少しだけ苦笑しながら了解と返していた


その変調に気付いているのはどうやら静希だけではないようだった、軍の人間も目標の現在位置と移動先を見極め、そのことに気付いている


さすがに遠くから状況を判断しているだけはある、少なくとも現場にいる静希達より早くそのことに気付けていても不思議はない


再び射撃を繰り返し、それを防ぎ避けながら逃げる契約者と悪魔、先程の攻撃が避けられたことでかなり焦っているのか、逃げ方に余裕がなくなっている気がする


どうやらあの攻撃はかなり自信があったようだった、事実静希に負傷を与えているのだ、それなりに考えて撃った攻撃だったのだろう


それでも静希を倒すにはまだ足りない、静希を倒したいのであればもっと面倒で厄介な攻撃を仕掛けてくるべきなのだ


あの男はどのようにして悪魔と契約したのか、そもそも動きからして軍人ではない、訓練を受けているのかどうかも怪しい程だ


「シズキ、僕にも一応教えておいてくれないかな、君が何をしようとしているのか」


「・・・俺は一応何もする気はないぞ、少なくとも今は追い回すだけだ、たぶんだけどもう条件はそろってる」


静希の言葉にエドは眉をひそめた、一体何を言っているのかわからなかったというのもそうだが、何故そのことに静希が気づけたのかわからなかったのだ


「エド、敵をだますにはまず味方からっていう言葉もある、今回は何も聞かずについてきてくれ」


「・・・わかったよ、君がそう言うんだ、きっと何か意味があるんだね」


静希がそう言うからには何か意味がある、そのことを理解しているエドはそれ以上何も聞くことはしなかった


エドは頭がいい、静希が何をしようとしているのか理解はしていないようだが、すでに静希の中では状況が終了していることを察知している


この戦いはすでに終わりに近づいているのだ、それがどのような結末に至るかは、エドもまだわからずにいる


「て言っても、そこまでたどり着くのは至難だぞ・・・相手だってそれなりに本気で向かってくるんだからな」


「確かに・・・さっきみたいなことをされないように気を付けないとね」


先程のような大量の液体を出されても問題ないようにある程度距離をとり、警戒して静希達は攻撃を再開していた


遅い攻撃を放つ程度であるならば絶対に避けられる距離、こちらの速い攻撃は相変わらず脅威になる距離


すでに相手の能力はほとんど見切っている、それは静希だけではなく、メフィもエドもヴァラファールもだった


単純な戦闘ならばまず負けは無い


普通の人間なら苦戦、あるいは勝てないような相手だったのだろうが、こちらには悪魔が二人、そして軍人多数、そして勝つための布石もすでに打たれている


本当に数の暴力とはよく言ったものである、ここまで順調に話が進むと流石の静希も相手に同情してしまう


後は用意されたレールの上から外れないように静希達がうまく誘導するだけである


ここまでお膳立てされて失敗したとあってはさすがに末代までの恥になるだろう、静希は気を引き締めて目標への攻撃を再開した


その攻撃が当たるかどうかが重要ではない、その攻撃によって相手を導くことが重要なのだ


笑みを押さえ、徹底的に冷徹に、冷静に、慎重に、静希はゆっくりと心を鎮めていった






しばらく交戦をつづけ移動し続けていると周囲に霧が発生し始めていた


この時期、そしてこの時間に霧が出るというのは珍しいはず、その為これが能力によるものであると気づくのに時間はかからなかった


そしていつの間にかかなり移動していたのか、その霧の中にある建物の窓の中には人影も見える


どうやらこの辺りは避難が完了していないように見えた


「・・・シズキ・・・この辺りでの戦闘はまずいんじゃないかい?一般人が犠牲になりかねないよ」


「・・・とはいってもあいつは今もあそこにいるぞ、そのことにあいつが気付いてなければ」


「そこのお前ら!降りてこい!」


問題ない、静希がそう言いかけた瞬間、空中にいる静希とエドに対して怒声が浴びせられる


声からして今もなお静希達が追っている仮面の男からのようだった


「降りてこい?降りてきてくださいだろ?立場が分かってないな」


「立場が分かっていないのはお前達の方だ!何の関係もない一般市民がどうなってもいいのか?」


霧が立ち込めているとはいえ窓から見える人影に気付けないほど間抜けではなかったようだ、相手の言葉にエドは不安そうに静希の方を見る


静希が懸念していたのはこれだった、相手がもし一般市民たちを人質にして何かを要求した場合、全てがひっくり返る


カレンの召喚陣への対応も、今こうしている自分たちの行動も、全て封殺されかねない、だからこそ静希達は目標を動かさないように努めていたのだ


「早く降りてこい!住民を皆殺しにしてもいいのか?」


「そんなことをすればお前が終わりだってことも分かってるはずだ、今さら人質を取ったところでもうお前に未来はないぞ」


「いいからとっとと降りて来いって言ってるんだ!」


相手はどうやら今まで追い回されたストレスが溜まっているのか随分短気になっているようだった


このままでは辺りに構わず攻撃をしかねない、静希がどうするべきかと悩んでいると隣にいるエドが静希の肩を掴んで首を横に振った


「シズキ、ここは言う通りにしておいた方がいい・・・さすがに無関係な一般市民まで犠牲にはできないよ」


「そうは言うけどな・・・俺たちが下に降りたところで何が変わるわけでも・・・」


静希は若干気乗りしない声でそう言って見せたが、静希の方を見るエドの顔は真剣だ、無関係な人間は巻き込めない、何より自分たちが追い回した結果こうなっているのだ


懇願するような瞳に静希はため息をついて降参する


「わかった、わかったよエド、降りればいいんだろ」


そう言うと静希は指を鳴らしてメフィに合図をする


彼女もその動作を理解したのかゆっくりと静希を地面におろしていった、エドとヴァラファールもそれに続き、静希達は久しぶりの地面を踏みしめていた


「ようやく高いところから降りて来たな・・・よくも延々と追い掛け回してくれたなこの野郎・・・」


静希達が霧の立ち込める地面に立つ中、先程まで追い回していた男が静希達の近くまでゆっくりと歩いてくる、その傍らにはずっと静希達の攻撃を防いでいた悪魔の姿もあった


「近くで見ると余計酷い姿だな、見たことないような外見してるぞ」


「何を言ってやがる、確かにお前の悪魔は別嬪だが・・・俺の悪魔だって」


「悪魔じゃなくてお前のことを言ってるんだよ、鏡でも用意したほうがよかったか?」


静希の言葉に頭に来たのか、仮面の男は静希の腹部を思い切り殴りつける

メフィがいきり立って襲い掛かろうとするのを静希は手で制止した


一般人は犠牲にできない、ここで静希達が無理に動けば犠牲者が出る可能性がある


「なめた口きいてんじゃねえぞガキが・・・悪魔がいなきゃ何もできないくせによ」


「それはこっちの台詞だよ、ぶくぶく太って醜いったらありゃしない・・・あと顔近づけんな、息がくさいんだよ」


静希の再三にわたる挑発に男は堪忍袋の緒が切れたのか、静希の体を徹底的に殴ってきた


だが正直その拳は全くと言っていいほど痛くなかった


黙って殴られ続けても毛ほどの痛さしか感じない


仮にわずかに痛みを覚えたとしても左腕がすぐに修復してくれるのだ、こんなものはストレス発散以外の何物でもないのである


「そこまでにしてくれないか・・・君の目的は一体なんだ?なにが望みだ」


静希と違い、まだ交渉の余地があると踏んだエドは可能な限り紳士的に振る舞っていた


静希が殴られているという事もあって若干頭に来ている風ではあるが、それでも冷静であろうと心掛けていた


「んなもん簡単だよ、軍の連中を引かせろ、俺の倉庫にいる連中も全部だ、あそこのものに指一本触るんじゃねえ」


「そりゃ生憎だったな、悪いけどもうとっくにいろいろ引っ掻き回しちゃってるわ」


「シズキ!・・・あまり挑発するのはやめるんだ」


エドの制止もむなしく静希は笑っている


そして仮面の男は静希のその態度に腹が立ったのか胸ぐらをつかんで思い切り静希を揺さぶる


筋力の差があるからか、それとも胸ぐらをつかむという行為に慣れていないのかまったくもってゆさぶりにもならないが、エドは緊迫した表情でそれを見ていた


怒らせてはいけない、ここで下手に相手を刺激すれば無関係な人間が犠牲になるのだから


「調子に乗っていられるのももう終わりだ、お前らは俺の言いなりになるしかないんだよ、分かったらとっとと跪け、それとも今すぐに毒液に浸りたいか?」


男が合図すると悪魔の持つ蛇の尾が静希の顔に近づいてくる


やはり先程までの液体は毒だったのかとわかると同時に、未だ状況を理解していない言葉に静希は笑いを抑えられなかった


「そうだな、調子に乗っていられるのももう終わりだ・・・もうすでに王手詰みだからな」


そう言って静希は左腕を駆動し蛇の顔を一瞬で『掴む』


それと同時にトランプの中に眼前にいる悪魔を一気に収納した


唐突に目の前から消えた悪魔に目の前の男は困惑しているようだった、だがそれが静希の能力であると理解したのか、静希を突き飛ばし、なお強情に静希めがけて暴言を吐く


「はっ!たかが人間の能力くらいで悪魔が抑えられるかよ!とっとと出てこいフンババ!俺を守れ!」


あの悪魔の名前はフンババというのかという感想を得るよりも早く、静希達は一旦男から距離をとった


その男の言葉は正しかった、静希のトランプから出て来た悪魔は一瞬で男の元に駆け寄るが、その表情は困惑しているように思えた


自らの手を見つめ、そして自らの胸に手を当てている、その異変に仮面の男は気付けていない


「形勢はまたもと通りだ、もう王手詰みとか言ってたよな?それはお前らの方だっての」


男が笑う中、静希も同じように笑う、すでにもう静希が行うべきことは終えた


「残念、形勢はそのままだ、もういい加減猿芝居も終わりにしよう」


静希が指を鳴らすとゆっくりと霧が晴れていく、そして周囲の全貌が明らかになった


周囲にあるのは街だ、先程まで静希達が駆け回っていた街とほとんど変わらない、だが一つだけ異なる点があった


窓から覗く人影、それらはすべて人形である、時折動いてはいるが、それらはすべて無機質な何かで作られているように見える


「え・・・?あ・・・?」


ようやく近くにいる人間が自分たちだけという事に気付けたのか、仮面の男は周囲を見渡しながら狼狽していた


この場にいるのは自分たちだけ、窓から見える人影はすべて人形、それに気づいたのか、男は悪魔の後ろにすぐさま隠れた


「何してるんだフンババ!攻撃しろ!早く!」


男の言葉が聞こえているのにもかかわらず悪魔は動かない、それどころか男に向けて僅かな敵意さえ向けていた


「ようやく来たわけね・・・準備してた甲斐があったってもんだわ」


「お疲れ様って言ったほうがいいか?これだけのものを用意するとはさすがの俺も予想できなかったよ」


静希が声のする方に視線を向けるとそこには屋根の上で一休みしている鏡花の姿があった


恐らくは悪魔の能力を警戒して屋根に上がったのだろう、その近くにはアイナとレイシャの姿もある


「本当にここまで働いたのは久しぶりだわ、ダムの時以来かしらね」


「本当にお疲れ様です姐さん、後で午後ティー奢りますよ」


ドイツに午後茶売ってないでしょと鏡花がたしなめる中、エドと目の前の仮面の男はまだ状況が理解できていないようだった


ひとまず状況は終了した、だがまだ問題は残っている


「な、なんだよ・・・ここ街の中じゃないのか・・・!?」


「・・・シズキ・・・これは一体」


「それを話してもいいけど・・・その前にそこの悪魔・・・フンババとか言ったっけ?まだ俺たちと戦う意志はあるか?」


男が壁役にしているフンババと呼ばれていた悪魔は静希の瞳を見ながらゆっくりと息をついた


「そうか・・・お前の仕業か・・・私の枷を外したのは」


「その通り、で?どうする?」


この場で最も脅威となっていたのは悪魔だ、目の前の男は警戒するに値しない人間である


だからこそ静希はまず第一に悪魔の対処をすることにした


先程からずっと、悪魔の戦い方が妙に消極的なような気がしたのだ


あれだけの大量の液体を出せるのにもかかわらず、それを連発してこなかった、主を守るにしてももっと大量の液体で防御することだってできたはずだ

なのにそれをしなかった、それは何故か


彼が心臓に細工をされているのではないか、静希はそう思ったのだ


「な、何してんだよフンババ!さっさとこいつら皆殺しにしろよ!」


「・・・戦う理由はとうに失せた・・・こちらはこちらで勝手に動かせてもらう・・・まずはこの男を・・・」


悪魔が振り返り仮面の男を掴んで持ち上げると、仮面の男は苦しそうにもがいている


恐らくあの悪魔は仮面の男を殺すつもりだ、だがそれは困る


「おっとそれストップ、そいつは俺に任せてくれないか?」


「・・・なに・・・?」


悪魔としては今まで言いように扱われていた屈辱を晴らす絶好の機会なのだろう、だがそれは静希にとっては困る、貴重な情報源だ、生かしておいて損はない


「俺はそいつに何度も殴られてフラストレーション溜まってるんだ、あんたが今までどんなことされてたか知らないけど、枷を外してやったんだ、それくらい譲ってくれてもいいだろ?」


静希の言葉にフンババは少々悩んでいるようだった、恩義を感じていないわけではないようだったが、それだけで解消できるだけの屈辱ではなかったのだろう


「とりあえずこいつ捕まえとくか・・・鏡花!頼む!」


「・・・ったく、まだ働かせるつもりなのねあんたは」


悪態をつきながらも鏡花は屋根を足で叩き、仮面の男を拘束していくその場に倒れ込むように地面に拘束された仮面の男の頭を踏みしめながら静希はとりあえず目の前の悪魔に向き合うことにした


「ひとまず状況終了だ、俺はこいつから情報を聞き出したい、情報を全部聞き出したら後はあんたの好きにしろ、殺すなり生かしつづけて弄り続けるなり自由にすればいい・・・ダメか?」


「・・・わかった、だがそう長くは待てんぞ」


問題ないよと言いながら静希は大きく伸びをする、ようやく今回の目の上のたん瘤を片付けることができた、今まで集中しっぱなしだったために静希としてはようやく肩の荷を下ろせるというものである


「・・・で、シズキ、これは一体どういう事なんだい?この街は・・・さっきまでいた街とは違うのかい?」


「ん・・・俺たちが動き回っていた街じゃないな・・・たぶんうちのボスが作ったんだ・・・そうだろ鏡花」


静希が話しかけると鏡花はゆっくりと建物の一つを地面に戻しながら静希達と同じ高さまで降りて来た


街一つ作り出す、それが一体どういうことを表すのか、エドは理解が追い付かなかった


「えっと・・・何もなかった平野を、ここまで?」


「何もなかったわけじゃないですよ、他の街に続く道路はありましたし、何より地面もしっかりしてたし・・・まぁ作るのには時間がかかりましたけど」


そう、鏡花は静希と同じように避難していない人間が人質にとられたときの危険を察知していた


軍では悪魔に対抗しきれない、たとえ戦闘になったとしても住民を盾にされればこの状況全てがひっくり返ることを視野に入れていたのだ


そこで鏡花は、避難が完了していないと見せかけた街を作ることにしたのだ


周囲にある建造物を模倣し、街の中の道路の形を作り出し、誘導するために本物の町へと続く道を封鎖し、標識などをアイナの能力を使って見えなくし、人がまだいるかのように見せかけるために室内に人形を作りだした


「まさかあんたに気付かれてるとは思わなかったわ」


「上から見てると結構道を塞いでるところで雑な部分があってな、お前がどっかに誘導しようとしてるってところから気づいた、人形って気づかせないために霧まで出させたのはいいアイディアだったと思うぞ」


「結構頑張って作った人形だったんだけどね・・・ほんと何がどこで役に立つかわかったものじゃないわ」


鏡花は今まで何度か精巧な人形を作ったことがある、ほぼ人間にしか見えないような細かいものばかりだった、そう言う経験がまさかここで活きてくるとは彼女自身予想もしていなかっただろう


そして、この場の霧を出していたのはウンディーネだ


あの時静希が鏡花に渡したのは、静希の体の中に宿っていたウンディーネだったのだ


もし万が一戦闘に巻き込まれたときに鏡花たちを守ってくれるように頼んでおいたのだ、まさかこんな形で彼女に助力を乞うとは思わなかったが


「にしても・・・これだけの質量をどうやって・・・」


「ここに無いものはよそから持ってきてますよ、近くにある平野部分はかなり陥没してます、あっちも後で直さないと・・・」


一体どれほどの市街を作り出したのか、その全貌が一見しても分からないほどの規模だが、既に状況は終了した、後は軍に後片付けを頼んでも問題はないだろう


「道の標識とかを隠すのはアイナが、徹底的に機動力をあげるのはレイシャが、それぞれサポートしてくれたわ、この二人のおかげで間に合ったっていうべきね」


鏡花が二人の頭を撫でながら、二人のボスであるエドに胸を張ってそう報告する


二人も頑張ったという事を示しているのか、目一杯胸を張っていた


本来ある標識などを地面に変換して隠してもよかったのだろうが、そんなことをしたらどこにどの標識があるのかを忘れてしまうと思ったのだろう、事前に用意しておいた隠れ蓑用の布でアイナの能力を使い隠し続けていたようだ


鏡花自身の欠点の一つ、身体的な機動力の面もレイシャによってカバーされ、徹底的に動き回り変換を駆使して街を再現していったのだろう


途中静希がその変化に気付き、鏡花がどこかに誘導しようとしているという事に気付いたからこそそこにたどり着くように目標を追い詰めることができた


互いが互いの行動を上手く先読みした結果、上手く事を運ぶことができたというべきだろう


「にしても静希、もうちょっと連絡してきてもいいんじゃないの?やばかったのはわかるけどさ、こっちとしてもどう動くか迷ったのよ?」


「悪かったって、でも俺の行動もしっかり先読みできてたろ?さすが鏡花姐さん」


「そういう事を言ってるんじゃないの、報告連絡相談、チームでの行動の原則よ」


状況が終了しても鏡花の説教が残っている、そう言えばまだ気を抜ける状況ではないのだったということを思い出し静希は苦笑しながら鏡花をなだめていた


そう、まだ気を抜くわけにはいかないのだ、なにせカレンの方では召喚陣への対応がまだ済んでいない


それにまだ他にも悪魔の契約者がいないとも限らないのだ、気を抜ける状況ではない


幸いにして情報源は確保できた、後は軍と協力して行動するだけである


「ミスターイガラシ!ミスターパークス!よかった、お二人とも御無事でしたか」


ずっと静希の後を追っていたのか、それとも探していたのか、静希のそばに配置されていた通信手が静希の姿を見つけるや否や走り寄ってきた


悪魔の戦闘自体は終了したと理解したのか、周囲の建物を見ながら静希の元へやってくると息を切らしながら何かを伝えようとしている


「ちゅ、中佐からの伝言が、両名ともに、悪魔の契約者との戦闘が終わり次第本部に帰還し報告すること、両名の同行者も同じく本部に出頭するようにとのことです」


その言葉に静希とエドは顔を見合わせた後ため息をつく


半ばこの対応は予想できた、はっきり言って静希達は悪魔の契約者を相手にするために送り出されたようなものだ、その契約者を倒してしまえばはっきり言って用無しなのである


後は軍の人間が周囲を包囲して召喚陣をなんとかすればいいとでも考えているのだろう、用済みのアマチュアはとっとと大人しくしていろと言うのが相手の意見なのだろうがそうはいかない


「中佐に伝えろ、申し訳ないがその命令は聞けない、まだ契約者がいる可能性もある、それに悪魔自体は沈静化させたがまだ状況は終了していない、俺たちはこのまま行動を続けると」


「は・・・で、ですが帰投するようにとの命令で・・・」


「俺は中佐の部下になった覚えはない、生憎命令を聞く義務もない・・・ミスターパークス、貴方はどうする?」


通信手がいる手前あまり仲良くしているのも不自然であるためにあえてエドのことをそう呼ぶと、彼もそのことを理解したのだろう、腕を組んだ後で大きく息をつく


「こちらも同じく、警戒状態を続けようと思う、これで事が済んだと考えている様なら考えが甘い、こちらはこいつらの監視もしなければいけないんだ、悪魔の相手を君たちがしてくれるのであれば話は別だけどね」


エドの言葉に通信手はとりあえず二人の意見を中佐に伝えるべく本部へと通信しているようだった


向こう側からは何やら怒鳴り声のような声が聞こえてくるが、どうやら相手にもこちらの意見は伝わっているようだった、通信手には少々申し訳ないがこちらは勝手に動くしかないようだった


「鏡花、とりあえずこいつから情報を絞れるだけ搾り取るぞ、場所を用意してくれ、後は俺が聞き出す」


「・・・オーライ、固定できる椅子と防音の部屋を作ればいいわけね」


分かってるじゃないかと言いながら静希は踏みしめている男の方を笑みを浮かべながら見つめる


「この後どうなるか、お前の能力でしっかり見てみるんだな、もしかしたら痛い目を見なくても済むかもしれないぞ?」


「なんで・・・何でいう事聞かないんだよ・・・クソ・・・クソ・・・!」


どうやらまだフンババにかけている心臓への細工が解かれていることに気付いていないのか、仮面の男は悪態をつき続けている


ここまで来るともはや哀れだ、だが哀れだろうとなんだろうと加減をするつもりはない


「フンババ、お前も見ていくか?少しは気が晴れるかもしれないぞ?ついでにいろいろ聞きたいしな」


「・・・そうだな、ご一緒させてもらおうか・・・」


鏡花が足で地面を叩き静希のご所望通りの小部屋を一つ作り出すと静希は男を立たせて小屋の中に放り込む


そしてあぁそうだと呟いた後で通信手めがけて声を飛ばす


「なぁ、部隊の中に治療ができる奴はいるか?」


「は、はい、一応何人かは軍医や衛生兵もおりますので」


「じゃあそいつらの中の誰でもいいからここに来るように言ってくれ、できるならしっかり治療ができる類の奴で頼む」


その言葉に了解しましたと通信手は返し、すぐに該当する軍人をこの場に呼び出そうとしているようだった


哀れな


鏡花はあの仮面の男にもはや同情しか持てなかった


静希がこれからやろうとしているのは尋問ではない、恐らく拷問の類になるだろう


情報を聞き出すためとはいえ、一体どれほどの苦痛を与えるつもりなのか、いやどちらかというと静希が私的な鬱憤を晴らすために行うと言ったほうがいいのではないかと思えてくる


そんなものをこの二人に見せるわけにはいかないなと、鏡花はアイナとレイシャの手を取ってこの場から離れようとした


「ミスターイガラシ、僕も同席するよ、僕にはその義務がある」


「了解だ、気分を悪くしないように気を付けろ、エチケット袋くらいなら貸してやる」


静希は笑いながら男を部屋の中にある椅子に固定していく、鏡花の能力によってほとんど動くことができないほど強固な椅子だ、この状態になってしまえばまな板の上の魚同然である


「鏡花、召喚陣の方に行ってフォローと護衛を頼む、軍の人間はこの町の索敵を続けてくれ、万が一悪魔の契約者が来るようであれば対応する」


「了解よ・・・この子たちもつれていくわね、教育上良くなさそうだし」


「・・・アイナ、レイシャ、その人についていくんだ、いいね?」


「「了解しました、どうかお気をつけて」」


通信手が呼んでいた衛生兵がこの場にやってきた時点で静希の尋問は開始された


扉の奥でどんな悲鳴を上げようと、どれだけ叫ぼうと、外には聞こえない


「さぁて、それじゃあ楽しいお話を始めようか」


仮面に隠れてその表情を見ることはできなかったが、その後その場に偶然呼び出されてしまった衛生兵は後に静希のことをこう語る


まるで悪魔のような男だったと


誤字報告を五件分受けたのと累計pv20,000,000突破記念で5回分投稿


どこかで切ろうとか考えてたけど、5回分ならいいかと思ってそのままです、読みにくかったらごめんなさい


これからもお楽しみいただければ幸いです

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