召喚と技術
「ねぇカレン、一つ聞きたいんだけどさ、召喚ってそもそもどういう技術を使ってるの?能力ではないんでしょ?そんなにいろんな人が使えるようなものなの?」
鏡花の言葉に全員の視線がカレンに集中する
この中で召喚という技術をどのようにして行っているかを知っているのはエルフであるカレンだけだ
『どういう技術と言われても・・・召喚のものとしか言い様がない、大まかにであれば説明もできるが』
普段自分たちが使っている道具の原理を事細かに説明できる人間が少ないのと同じように、エルフの中にもその原理を理解して使っているものは少ないようだ
特にカレンの場合、その詳しい理屈を理解せずに使っているのかもしれない
「大まかにっていうのは、龍脈を使うためのコードを伸ばしていくとか、そう言う話か?」
『リュウミャク、そうか、日本ではそのように表現するのだな、我々は大地の力と呼んでいた、お前の言うようにその力を利用するために時間をかけてそこまでパイプのようなものを作るんだ』
力を利用する、それはかつて石動が説明していたことに似ている
電化製品を使うためにコンセントめがけてコードを伸ばす、人間のように小さな電池式の稼働ではなく、もっと大きな力を使うためにより強い電源を使うという事だろう
ただ単純に魔素では召喚を行えないという事でもあるのだろうが、自分ではなくよそから力を持ってくるというのは人間らしい発想と言える
『召喚陣にはいくつか役割がある、先にもいった大地に力を供給させるためのパイプを作り維持する、そしてどことつなげるか・・・この場合はどの存在を召喚するかという選別だ』
「なるほど、召喚陣によってどの存在を召喚するかは全く別物になるってことか」
静希の解釈にカレンはその通りだと頷いて見せる
静希が確認している人外の中で召喚に応じることができるのは今のところ三種類
精霊、物質や現象などに宿り、比較的召喚がしやすくエルフなどが基本的に使役する存在
神格、自らの依代に宿り、強い神格などは自らの力で強く縛られているため強大な力を使わなくては召喚不可能、少なくとも人間が呼び出せる神格は小神レベル
悪魔、人間が住む世界とは別世界に暮し、その力や契約は少々特殊であるものの力は強い
それぞれの人外を呼び出すためにはそれぞれ必要不可欠な要素を召喚陣に組み込まなければいけないのだろう
「ってことは、向こうの世界をこっちに引っ張り出すようなものとなると、通常の召喚とは異なるのか?」
『そうだろうな、だがどの召喚陣にも共通しているのは大地の力・・・お前達の言うところのリュウミャクを用いていることだ、その部分を止めてしまえば召喚陣は使えなくなる』
電化製品がそうであるように、あらゆる目的がある道具であろうと動力がなければ動くことはできない
つまりはその部分さえ破壊してしまえば少なくとも召喚陣の発動は止められることになる
「ねぇカレン、召喚陣を物理的に破壊することってできないのかしら?あの描かれてるものを壊せばいいだけなら簡単なんだけど」
鏡花の申し出にカレンは難しい顔をする、今までやったことがなかったのだろう、それを行うとどうなるのかを考えているようだった
『確かに、表層的に浮き出ている部分を壊しても問題はないと思うが・・・だが正しい手順で破壊しなかった場合、何が起こるかわからない、パイプの接続が終わる前ならまだいいが、すでに接続が終わっている状態でそれをしたら何が起こるか・・・』
召喚陣に供給する動力が供給する前であれば物理的な破壊も可能、だがもし供給され始めている状況でそれを行えばどうなるかわからない
「それってつまり、召喚陣の暴走もあり得るってことか?」
『可能性としては十分にあり得る、なにせ力をそこに集中させている状態を無理やり崩すという事だからな、よくて暴発、最悪この写真のような光景が広がることも考えられる』
この写真、それは静希が撮影してきた歪みの写真のことだ、強い力を扱うという事は良くも悪くも大きな結果を残す
時には悪魔や神格、精霊などを召喚し、失敗という形でこのような歪みを残すことだってあり得るのだ
電気の通っている機械を物理的に破壊しようとすればショートする可能性がある、燃料が大量に入った車を破壊すれば爆発する可能性がある、これはつまりそういう事だろう
「となると、有無を言わさずに破壊っていうのはやめたほうがよさそうだな」
『あぁ、召喚陣の状態を見ればある程度の進行状況は把握できる、私が現場に向かうのであればしっかり確認してから破壊したほうがいいだろうな』
この中で召喚陣の状態を把握できる人間は限られている
メフィはある程度その種類などは把握できるだろうが、その進捗状況まではわからないだろう、そしてメフィと同じくヴァラファールやオロバスも同様であると思われる
となればカレンの存在は必須だ、鏡花ならば能力を使って強引に召喚陣の破壊もできるだろうが、それを行って大事故を引き起こす可能性があるのだ、危険すぎる
「今回はカレンをメインにして、俺たちがそのサポートになりそうだな・・・現地で召喚陣に対応できる人間がいればそれでもいいけど」
『少なくとも人間の研究者よりは正確な対応ができると自負している、そのあたりは任せろ』
カレンとしてもエルフの誇りのようなものがあるのだろう、人間の研究者ごときには後れを取らないという事だろうか、こういう時に実力のある人間が身近にいると本当にありがたい
負担を自分だけに集中させず、まんべんなくことに対応できるのだから
「カレン、人間にも普通に召喚ができるなら、私達もそれを覚える事ってできるのかしら?」
鏡花の言葉にカレンは口元を抑えて悩み始める
鏡花が言っているのはつまり、自分たちも召喚に関わる技術を得ることができるかという事だ
人間の研究者がそれを行うことができているのだ、別に不可能なことはないだろう
だがカレンは難色を示しているようだった
『結果から言えば不可能ではない・・・だがそれらを修得するのは専門のものでも年単位の時間がかかる、十年、あるいはそれ以上かかるかもしれんな』
十年、その途方もない時間に鏡花は唖然とする
「そ・・・そんなにかかるものなの?」
『元より召喚というのはエルフが代々受け継いできた技術だ、人間が物理学を解析し機械を作ったように、エルフが自然の力を解析しその知力の粋を凝らして作り上げたものだ、そう易々と真似されても困る』
エルフは昔からあらゆる場所で隠れて暮らしていた、世間で能力者が異端の存在として粛清されるようなことがあった頃にも、逆に能力者が為政者を務めた時代にも表に姿を現すことなく潜んできた
そうして長年自然と共に生き、自らの体とその力をどのようにして強く活用するか、それを考え抜いた末に生まれたのが精霊の使役とそれを可能にするための召喚陣なのだ
「やっぱり土地によってその手法とかは異なったりするのか?文化が違えば技術も異なるっていうし」
『そのあたりは私も詳しくは知らんが、細かい手法はともかくたどり着いた先は似たようなものであるらしい、研究の段階で各国の召喚技術を少しだけ見たが、大きな違いはなかった』
同じような生活をし、同じような手法で力を得ようとすれば、その手法は似通ったものになるらしい
カレンに言わせれば手法が異なっていたり、細部が異なっていたりするらしいが根本的なところは同じなのだという
もしかしたらエルフ達がそれを考え出したのではなく、エルフ達が宿した精霊の類がそれを教えたのではないかとも思えるが、そんなことは考えていても仕方がない
今は召喚による歪みの発生を止められるかどうかが重要なのだ
「召喚の類のことを覚えられれば楽だったんだけどね・・・さすがにそう上手くはいかないか・・・」
『一応アイナとレイシャにはそのあたりの指導はしているが・・・そうだな・・・彼女たちなら二十歳になるころにはしっかりその技術も修められるだろう』
カレンの言葉にアイナとレイシャは胸を張っている、エドの指導に加えエルフであるカレンの指導も受けているのだ、恐らく彼女たちは将来恐ろしい人材になるだろう
「あぁそうだ、二人とも・・・っていうかエド、今回のことなんだけど一つだけ条件を付けていいか?」
『条件?随分といきなりだね、どんな条件だい?』
行動するうえでの条件というといくつか考えられるものがあるが、静希にとって今回提示する条件はエドたちが考えているようなものではない
制限を加えるというよりはむしろこの先の方針を決定しかねないものだ、一応話しておくのが筋というものだろう
「お前達を現地に呼び寄せるにあたって、第三者・・・まぁこの場合はイギリスとかそう言う国からになるかもだけど、お前の会社アイガースに依頼を持っていこうと思ってるんだ」
『・・・ワォ・・・つまり僕の会社の初仕事になるってことかい?』
初仕事という言葉にアイナとレイシャ、そしてカレンも反応している、今までエドの父親の会社の手伝いをしていたがそれはエドの会社の仕事ではない
エドが作った会社アイガースの初仕事、社員である彼女たちも待ちに待ったという感じだろう
「あぁ、一応コネとかを作りやすくするために俺が仲介しようと思ってるんだけど、構わないか?」
『ありがたいよ、いやぁようやくか!まぁやってることは今までと変わりはないかもしれないけど、それでも仕事となるとテンション上がるなぁ!』
言葉の通り、エドは随分とテンションが上がっているようだった、近くにいるアイナとレイシャもお互いに鼓舞し合っているように見える
エドが始める会社の第一歩、茨の道に至るための最初の仕事だ、テンションが上がるのも仕方がないというものだろう
『そうなってくるとますますこの子たちも一緒に連れて行かないとね、カレン、こりゃ忙しくなるよ』
『あぁ、やるべきことがたくさんだ』
エドとカレンは互いに嬉しそうにしながらこれから舞い込むであろう仕事に対して想いを馳せていた
静希を仲介して回される仕事だ、まだ自分たちの力で勝ち取ったものではないとはいえその第一歩は彼らにとって何よりも大事なことである
「とりあえず向かうべき場所を特定できたら連絡をくれ・・・リミットは明日までにしたいんだけど」
『あぁ、問題ない、オロバスも少しやる気を出しているようだ、その点は任せてくれ』
どうやらカレンたちがやる気を出したことによってオロバスも触発されたのかやる気を出してくれているようだ
これなら明日までもかからないかもしれないなと静希は少しだけ安心していた
詳しい情報などを手に入れ次第また連絡するという事を告げ、静希はエド達との通話を切った
後は話についていけなかった陽太に鏡花が事情を説明するだけである
「むー・・・私はまた蚊帳の外か・・・」
いや、陽太の説明だけではなく不貞腐れている雪奈の機嫌を取るのも必要だろう、偶々この場にいたとはいえ完全に蚊帳の外にされていたのだ、不満がたまるのも当然だろう
「しょうがないだろ、雪姉は俺らと同じ班じゃないんだし、どうしても行動にずれが出るって」
「むぅ・・・これならあと一年遅く生まれてくればよかったよ、そうすれば一緒に行動できたのにさ」
「そしたら俺が雪姉のことを姉呼ばわりもしなかっただろうな、たぶん陽太達と同じ扱いだぞ?」
自分を姉と慕ってくれる昔の静希を知っている雪奈からすると、やはり姉と呼ばれないことには抵抗があるのか妙に渋い顔をしている
だがそれと同じくらいに同級生であるという事は魅力的であるらしい
「んんん・・・それでもなぁ・・・」
「・・・なんなら呼んでみようか?雪奈」
いつものように雪姉ではなく雪奈と名をしっかり読んだことで、雪奈は一瞬硬直する
その響きを確認しているのだろう、少ししてから顔をクッションに叩き付けるように顔を隠してしまった
「うー・・・ダメ、やっぱ静は私をお姉ちゃん扱いしなきゃダメ」
「はいはい、わかりましたよ姉上、仰せの通りに」
雪奈としては静希は弟という認識が強いのだろう、自分の名前を不意打ちで呼び捨てにされたことが恥ずかしかったのか嬉しかったのか嫌だったのか、そのどれなのかは不明だが若干顔を赤くしている
扱いやすいようで扱いにくい、何とも難儀な姉貴分である
「っていうわけ、状況は理解した?」
「おぉ、大体わかった」
そうこうしているといつの間にか鏡花による説明も終わったのか、陽太はようやく今の状況を理解した様だった
いちいち鏡花による解説が必要となるのもさすがに問題である、鏡花が陽太の指導を行うことになってから陽太が考えることを放棄する傾向が強くなっている気がした
「つまりあれだろ、街ごと破壊されかねないからそれを阻止したくて、みんなの安全を考えて一緒に行動して、もう片方は口出しするだけってことだろ?」
「・・・まぁ大体合ってる、うん、大体合ってる」
細かい事情などはさておき、今の状況は大まかに理解できたのか陽太は満足そうにうなずいている
緊急時と妙な時にだけ陽太の頭は活性化するが、平時の状態でここまで考えることを放棄するというのも問題だ、そのあたりの対策は鏡花の教育方針に組み込まれているだろうが幼馴染としては心配である
「後はいつも通り静希の指示に従って迎撃だろ?なんか俺向きの奴がいるとか言ってたけど」
「あぁ、炎を出す悪魔だ、多分お前なら対応できる、勝てるかどうかは別だけどな」
炎を出す悪魔と聞いてへぇと陽太は笑って見せる
今まで敵の中で純粋に炎を出す相手というのはいなかったのである、爆発を起こすような能力者はいたが、その攻撃も陽太には効かなかった
自分の出す炎とどちらが強いか、そのあたりを比べてみたいと思っているのだろうか、陽太は少しやる気を出しているように見える
実際にその炎を目の当たりにした静希からすれば、炎の規模そのものが違う、一瞬にして広がる大量の炎、あれは炎の顕現という言葉では生ぬるいように思える
まるで炎の海を作り出しているかのようだった、あれほどの炎を一度に出されたら人間ではひとたまりもない
だが陽太の能力であれば対応できる、炎そのものと同化する能力ならば、たとえ炎の海に投げ出されようと、炎の雨が降ってこようと陽太は傷一つ負わないのだ
ただ問題は、それが単独戦に限られるという話である
今回の場合どちらの国に行くとしても市街地戦を想定しなければならない、その場合広範囲に炎を出されるのは大きなマイナスだ
静希や鏡花はその消火に追われるし、何より無防備になる市民や他の能力者などを守らなければいけない
市街地での戦闘そのものを避けるべきなのだが、現場が市街地であることを考えると敵の誘導も難しいだろう
なにせ相手が召喚陣を守ろうとした場合、否が応でも街のど真ん中で戦わなければいけなくなるのだ
取れる対策としてはとにかく市街地に被害がいかないように変換能力者などが召喚陣などのある区画を完全に隔離することくらいである、そうでもしない限り守りに入っているとはいえ悪魔の攻撃をしのぎきれないのである
陽太はあくまでリチャードの連れるアモンの攻撃に耐えることができるだけだ、悪魔に対しての有効打を持っているわけではない
悪魔に対する有効打を持っているのは静希の方なのだ、もっともゼロ距離まで近づかなくてはいけないというリスクがある時点でアモンに対しては使えないに等しい
リチャードが悪魔の心臓に細工をしているのであれば静希の能力で解除できる、それはメフィのお墨付きだ、だが近づくことができないのであればどうしようもないのである
誤字報告を五件分受けたので1.5回分(旧ルールで三回分)投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです