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J/53  作者: 池金啓太
三十話「その仮面の奥底で」

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少女たちのこれから

「忍者装備っていうと・・・この辺りだな、ほれ」


エドの求める忍者装備の類を源蔵が作ったことがないかと尋ねると、源蔵は奥の棚からいくつかの箱を持ってくる


その中には確かに手裏剣や苦無のようなものが収められていた


「おおおおおおおおおお!これだよこれこれ!これが本物か!まさにエキゾチックジャパン!」


源蔵の作った本物に近い忍者道具の数々にエド達はすっかり夢中なようだった


実際は投げナイフなどとほぼ変わりない苦無や、実用性に欠ける手裏剣など、源蔵が昔遊びで作ったものばかりだ、本来の用途として使えるかどうかは疑問である


「鏡花ちゃん、なんか適当に的作って、今から実演してあげようじゃないか」


「はいはい・・・ちょっと地面の形変えますよ」


邪魔にならないだろう場所に鏡花は人型の的を作り出す、そして雪奈は箱の中からいくつかの武器を手に取って軽くペン廻しのように振り回し始める


「ふむふむ・・・まぁまぁか・・・な!」


勢いよく投げた苦無や手裏剣はすべて的に命中し、深々と突き刺さる、忍者っぽい光景にエドたちは大興奮していた


「ミヤマ!やってみたい!やらせて!」


「んー・・・いきなり素人に刃物を扱わせるのはちょっとなぁ・・・どうしようか静・・・」


雪奈の言うように今まで包丁すら扱ったことがなかったセラにいきなり投擲系の武器を渡すというのは多少リスクが高い、どこに投げるかもわからないようなことをさせるわけにはいかないのだ


「最初はおもちゃで練習すればいいんじゃないか?それで慣れてきたら周囲の安全確保の後実践」


「それがいいね、よし、アイナちゃんもレイシャちゃんも我に続け!早速練習しに行くぞ!」


「「アイアイマム!」」


雪奈は鏡花からおもちゃの手裏剣や苦無を作ってもらい、どこかで練習をしに行くようだった、相変わらず子供の扱いはうまいなと思いながらその様子を眺める大人たちだったが、その中の数名が混ざりたそうにチラチラと雪奈たちの方を見ていたのはスルーした方がよかったのだろうか


「元気なこったな・・・どっかのガキどもを思い出す」


「ハハハ・・・まぁ今はもうちょっとましになってると思うけどな・・・」


自分たちの子供の頃のことを言われているとわかっている静希と陽太は少々気恥ずかしそうに頭を掻く


昔の自分を知っているというのもなかなか恥ずかしい話だ、子供の頃のやんちゃな自分を思い出すと顔から火が出そうになるのである


「そうだミスター、この刃物などを海外にも出店する予定などはありませんか?」


「あぁ?んなもんないが」


「でしたらぜひやりましょう!これだけのものなら絶対売れますよ!」


エドはかなり熱が入っているようで鼻息が荒くなっている、唐突に商売の話を持ち掛けられた源蔵は何言ってんだこいつという表情をしている


恐らくエドは国外でこの刃物の類を扱いたいと思っているのだろう、実際そう言う需要はあると思うが、源蔵にその気があるのかは微妙なところである


「要するに、市場を拡張しないかって言ってるんだよ、源爺の作る刃物がいい出来だから他のところで売る手助けをしたいんだとさ」


「あぁそういう事か、なるほどな、断る」


理解したうえで即答で拒否されたことでエドはショックを受けていたが、この反応には静希も若干驚きだった


いい出来だと言われたことに関しては好感触だったのにそれを踏まえたうえで断るというのは何か理由がありそうだった


「ちなみになんで?儲けも出そうだしいい話だと思うけど?」


「自分が作った刃物がどこの誰とも知らない奴に使われるのは気に入らん、武彦ならそう言った話は食いつきそうだがな」


源蔵は良くも悪くも刃物という危険なものを作る仕事をしている、海外でこれらを売るという事は自分の目で見極めることもできずに自分の作る作品が散らばってしまうことになる


職人として、製作者として自分の目が届かないところに商品であり作品が出回るのはあまりいい気がしないようだった


そう言えばネット販売も嫌がっていたなと静希は思い出す、頑固というか意固地というか、頭の固い職人気質な人間だったなと思いだし落胆しているエドの肩を軽く叩く


「こうなったら梃子でも動かないよ、外国での出店は諦めな」


「うぅ・・・これだけの商品を放置しておくのはもったいないなぁ・・・僕が個人的に買いたいくらいだよ・・・」


「・・・まぁ個人的に買いたいっていうならそれは好きにしろ、こっちも商売だからな」


本当ですかと目を輝かせてエドとカレンは財布を取り出す


カレン、お前もかと静希は眉をひそめたが、どうやら外国人は日本の妙なものを欲しがる傾向があるらしい


大人げないと思えてならないが、一種のお土産のような感覚なのだろう、静希も外国に行ったときにちょくちょく買い物をするが似たような感覚なのかもしれない


とはいえ忍者道具をいくつも買っていく大人というのはどうなのだろう

使う機会などないのだろうが、こういうのは買って飾っておくだけでもいいのだろうか、エドたちはご満悦な様子だった


「あ、そうだ・・・源爺、ちょっと槍見せてほしいんだけど」


「槍?お前さんそんなもん使ってたか?まぁいい、こっちだ」


静希の言葉にそれ以上疑問を持つことなく源蔵は槍の類が置かれている場所へと移動する


そこにはありとあらゆる形の槍が保管されていた、陽太が使うような刺突用、十字、三叉、ハルバード、およそ槍と呼ばれそうなものはほとんどそこにあった


その中にはもちろん投擲を目的としたものも含まれている、静希はその槍を一本手に取って左腕で軽く投げるモーションをして見せる


以前実習で鏡花の作った槍を投擲したが、あのような攻撃もできるという事を知ってからというもの何度か練習していたのだ


これを機に基本装備に槍を加えるのもいいかと思ったのである


「折り畳みの槍とかってあるかな?あるいはもうちょっと楽に収納できるタイプの」


「それだと強度は落ちるぞ、大きさも中途半端になる」


「携帯しやすさと投擲の時に邪魔にならなければそれでいいよ、できる?」


静希の注文に源蔵は頬を掻いた後近くにある棒を取り出す、一見すると三十センチ程度でしかないそれを源蔵が振ると内部からマトリョーシカのように棒が飛び出てくる、最終的に一メートル近い棒になったが、その分無理やり長さを伸ばしている感は否めない


「こういう風に手軽に伸びる形だとどうしても強度は落ちるし、何より太さが同じにならん、それなら有事の際に組み立てる形の槍にした方がいいだろうな」


「組み立てる・・・か・・・まぁそれでもいいかな・・・」


静希の場合、急襲された場合はすぐに対応できる、今欲しいのは戦闘においての手段だ、あらかじめ戦闘が起こるとわかっている状況で取れる手段を増やしておきたいのである


拳銃での射撃は最近はほとんどトランプを経由したものになっている、片手はオルビアを握っているためにもう片方の手、特に無理矢理に動かすことのできる左腕が攻撃に使えると楽なのだ


「組み立て式ならこういうのがある、さっきのよりは強度は保証するぞ」


それは先端部分がネジのような溝が作られている機構だった、それこそねじるようにはめ込めば抜けることはないだろう


全てのものを繋げると長さは二メートルにも届きそうだ


「ん・・・投擲用のが欲しいだけだからな・・・ここまで長くなくていいかも・・・あとは刃の部分か・・・」


「投擲用か・・・貫通重視か被害重視か・・・まぁいくつか用意しておこう」


「悪いね、何時頃できる?」


静希の言葉に源蔵は仕事場を見ながら唸る、実際すでにできている機構を利用するためにそこまで時間はかからないだろうが、静希が使うものを作るのだ、それなりに強度も実用性も伴ったものが欲しいのが本心である


「二週間だな、それで作ってやる」


「ありがと、いつも悪いな」


「ふん・・・で、あっちのガキどもは何時までじゃれてるつもりだ?」


どうやら仕事場の前でずっと練習をしているのか、先程から雪奈たちの声がずっと響いてきている


子供ならではだが、よくあそこまで元気にしていられるものだ


エドやカレンはそれぞれ仕事場にある武器の類をまじまじと観察している、そのほとんどが雪奈の使う武具の類だ


「これだけ大きいと・・・扱う人は一体どれだけ大きいんだろうね・・・」


「車でも叩き潰せそうだ・・・さすがに筋肉質な人間が扱っているんだろうな」


以前雪奈が使ったこともある大剣を見て二人とも想像を巡らせているが、それらの武器はすべて雪奈が使うものであるというのは想像もできないだろう


雪奈の能力を知っていなければその反応も頷けるというものである、あの細身でこれだけの武器を扱う姿は実際に見ていないと想像しにくいのだ


「まぁあれだ、珍しがってるだけだから勘弁してやってよ、あいつらも一応能力者だし」


「ふむ・・・まぁお前さんがそう言うならそれでいい・・・ところで静坊、左腕を見せろ、メンテナンスくらいはしてやる」


源蔵に言われ静希は左腕を外し中の武器を取り出す


日々静希もメンテナンスをしているが、物理的な摩耗まではどうしようもない、特に左腕の仕込み刃はその機構もあって摩耗しやすいのだ


「・・・これは刃を変えたほうが早いな、少し待っていろ」


左腕がないというのは何ともバランスがとりにくい、この体になって何度この感覚を味わったかもう数えられないほどである


「よし、これでいいぞ・・・雪嬢ちゃんに持たせた方もこうなってるかもしれんな・・・今度持ってこさせろ、どうせメンテナンスなんてしていないだろう?」


「そこはもうお察しだよ、あの人がメンテナンスなんてするはずない」


静希のように保管に関して几帳面な性格であれば気にするようなこともないのだが、雪奈はかなりズボラな性格だ、毎日手入れなどするはずがない


雪奈がもっている籠手型の仕込み刃も静希の左腕の刃と同じ機構を使っている、その為刃やその他の部分の摩耗が大きいのだ


さすがの静希も雪奈の刃物の管理はしてもその手入れまでしてやるほどお人よしではない


「静!そろそろ本物使ってもいいだろうから持ってきて!あと鏡花ちゃん、的よろしく!」


「・・・はぁ・・・まぁあとで言っておくよ、持ってくるかはわからないけど」


「期待しないで待っておくことにする・・・ほれ、行ってやれ」


子供たちの投擲技術がどれだけ上がったかにも興味がある、とりあえず静希は本物の苦無や手裏剣をもって表へと移動することにした









「いやぁ・・・今日は充実した一日だったよ・・・!」


あの後結局エドたちは源蔵の店から投擲用の武器をいくつも購入し満足顔で帰宅することになった


雪奈の指導のおかげかそれなりに投擲も上達したアイナ、レイシャ、セラの三人はそれぞれ自分の気に入った武器を一つずつ買ってもらい、大事に手入れしている


セラはともかく、エドたちは本来の目的を忘れているのではないかと思えてしまう


何はともあれ、明日にはセラの迎えもやってくる、ようやくこのお姫様の護衛ともおさらばできるというものである


「セラ、今のうちに荷物まとめておけよ、明日には迎えが来るんだから」


「えー・・・まぁ仕方ないわね」


今回日本に来たことでいろいろと考え方が変わったのか、セラは特に反抗することもなく静希のいう事に従っていた


鏡花と引き合わせたのは正解だったかもしれないなと静希は何度も頷く


問題児の教育に関して鏡花は随分と高い能力を持っているようだ、恐らく小学校から中学校の先生になればかなり高いレベルでの指導ができるだろう


「いやぁそれにしても驚いたよ、まさか静希の家にお姫様がいるなんてね」


「まぁ今回の場合俺も驚いたけどな・・・学校の方はどうだった?少ししか紹介できなかったけど」


「いやいや十分さ、後は試験に向けて一直線だね」


少なくとも不安要素などは払しょくできたのか、エドは快活に笑っている、アイナやレイシャも学校に強い興味を覚えているようだったためか妙に機嫌がいい


このままアイナとレイシャが学校に通いたいと思ってくれれば、エドとしてはいう事は無いのだろうが、実際にあの二人がどう思うかは彼女たち次第である


そしてそんな二人は今何をしているかというと、雪奈相手にゲームで対戦をしている


雪奈の相手をさせられていると言ったほうが正しいかもしれないが、楽しんでいるようだからよしとしよう


「テストは今週末・・・ていうか明日だったよな?二人は大丈夫なのか?日本語とか特に」


「まぁあの二人は勉強家だからね、そこまで心配はしていないさ、それに最低限読み書きができれば問題はないだろう」


小学生の状態での留学というのはなかなかハードルが高いが、少なくとも英語の読み書きは苦労していない、ひらがななども書けるらしいから最低限の意思疎通には困らないだろう


最悪直接喋って伝えるのが一番手っ取り早い、エドが無駄に日本通で頼もしい限りである


「エドたちは留学中はこの辺りに住むんだろ?どこに住むんだ?」


「住むと言ってもそんな大したものじゃないさ、近くのホテルに滞在する予定だよ、あの二人のことはシズキに任せるさ」


できる限り二人の自立心などを育てたいのか、エドは今回の留学中に関してはどこかのホテルに滞在してできる限り二人には姿を見せずに過ごすつもりのようだ


確かにエドがいると二人は安心するだろうが、その分留学の意味は半減するかもしれない


自分で考えて行動する、そう言う行動理念を育てるためには親元から離すのが一番という事である


問題はあの二人がどれだけ親元、というかエドから離れて生活できるかという事だ


そこまで依存しているようには見えないが、やはり二人が一番信頼しているのはエドだ、そこから離れた時にどんな反応をするかは不明である


「イガラシ、荷物はこんな感じよ」


「あぁ・・・それにしても随分買ったよな・・・」


静希達が買ったものは除いて、セラだけが買ったものもかなり多い、秋葉原に行ったり帰ってからもいろいろと物色していたためにその数はかなりのものだ


これをテオドールの部下が取りに来るかと思うと少々気の毒になる、荷物の量はもはや引っ越しのそれに等しいのではないかと思えてしまうほどだ


「それで?お姫様は満足したのか?」


「ん・・・まだちょっと見てみたいところもあるけど・・・今はこれでいいわ」


今はこれで


セラにしては不思議な言葉を使う、現状には満足しているようだが、一体どういう心境の変化があったのだろうか


「少しは大人になったか?もう家出すんなよ?」


「失礼ね、私は最初から立派なレディよ・・・まぁ今回は悪かったと思ってるわ」


やはり鏡花と引き合わせて正解だったと静希は満足そうにセラの頭を撫でる

彼女は最初こそいやそうにしていたが、撫でられることは嫌いではないのか最終的には静希にされるがままになっていた


「イガラシ、レディの髪に気安く触るのはどうかと思うわ」


「そうか、そりゃ悪いことをした、触らない方がいいか?」


「・・・もうちょっとなら触ってていいわよ」


セラは不満そうにしながらも静希に頭を触られ続けている、やはりまだまだ子供なんだなと静希はほのぼのしているとそれを見つけた雪奈が頬を膨らませながら静希からセラを奪取する


「ダメだよ静!セラちゃんは私のものさ!さぁセラちゃん私にいろんなところを撫でさせるのだ!」


「え?は!?」


セラも雪奈のものではないと思うのだが、もはやこうなった雪奈は止められないだろう


その数秒後にセラの悲鳴が聞こえてくるのはもはや言うまでもないことである


アイナとレイシャがうちに泊まっても平気かなと静希はかなり不安になっていた












「じゃあねイガラシ、三日間世話になったわ」


翌日、静希はセラを連れて空港までやってきていた


荷物に関してはすでにテオドールの部下たちが運び出しにやってきていたため、後は本人の移動だけである、ここまでくれば静希の仕事はもう終わったようなものだ


「本当にな、もう二度と家出なんてすんなよ」


「わかってるわ・・・少なくともミヤマがいる間は行きたくないわね・・・」


どうやら雪奈のスキンシップがかなりトラウマになったのか、思い出している間セラは若干嫌そうな顔をしていた


セラは今回日本に来たことでだいぶトラウマができたようだが、後悔はしていないようだった


空港で待っていると、静希達を見つけたのか、黒いスーツにサングラスをした一人の男がやってくる


静希はその男に会うのは実に久しぶりだった


「よぉ、随分と遅かったじゃないかテオドール、腹でも下したか?」


「そう言うお前こそ随分と血色がいいじゃないか、うちのお姫様を傷物にしていないだろうな?」


「お生憎俺にそんな趣味は無い・・・まぁ多少うちの奴がちょっかいかけてたけどな」


雪奈の暴走に関してはこちらとしても申し訳ないとしか言いようがないためにこればかりは謝罪しようかとも思ったのだが、テオドールに頭を下げるのは静希のプライドに関わる、こればかりは誰に頼まれようと頭を下げるつもりはなかった


「セラ、もう二度とこんな面倒はごめんだ、わかっているな?」


「えぇわかってるわ・・・テオドール、悪いわねいつも迷惑かけて」


セラの言葉に、テオドールはサングラス越しでもわかるほどに目を見開いて驚愕していた


恐らく今までセラがテオドールにねぎらいの言葉をかけたことなどなかったのかもしれない


テオドールは静希を掴んでセラから引きはがす


「イガラシ、セラになにをした?あいつがあんなことを言うなんて今までなかったぞ」


「あー・・・それに関しては俺はあんまり関わってない・・・うちのボスがちょっとセラに説教してな・・・それが影響してるかも・・・」


説教


そんな言葉で言えばそれほどたいしたことではないように思うのだが、鏡花がセラに行った説教は少なくとも普通の子供が受けるようなそれとは違う


説教というよりも尋問に近いそれに静希もほんの少しだが怯えたほどだ、セラのような小学生が真正面から受けて平気でいられるはずがない


とはいえセラは鏡花の教えから何かしら得るものがあったのだろう


「説教・・・か、たしかにあいつを叱る奴なんて今までいなかったが・・・」


それはセラがどれだけ甘やかして育てられてきたかがわかる発言だった


だからこそ鏡花の説教が効いたのだろう、正しいことしか彼女が言っていないという事が子供ながらに理解できたからこそ、自分が間違っているという事を実感できたのだ


「まぁあれだ、セラがちょっとだけ大人になったと思えよ、こればっかりは喜ぶべきところだろ?」


「どうだかな・・・アランにどう説明すればいいのか・・・」


勝手に日本に向かってどこの誰ともわからない人間に説教されていつの間にか少し大人になって帰ってきた


こんなことをどう説明すればいいのかテオドールは少し困ってしまっていた


「んじゃしっかり全員分の報酬は払っておけよ、あとこれあいつが買ったものの領収書だ、後で俺の口座に振り込んでおけ」


封筒に今回使ったすべての金の領収書を入れてテオドールに渡すと、いやそうな顔をしながらそれを懐に入れる


静希としても平日にいきなり依頼を捻じ込まれた形になるのだ、迷惑料という形でもしっかりと料金はいただかないと割に合わないというものである


「じゃあそろそろ俺たちは行く、イガラシ、今回は世話になった」


「おう、この借りは絶対返せ、熨斗とリボン付けて返せ」


和洋折衷過ぎる返し方だが、そんな軽口にも反応せず、テオドールはさっさと手続きをしに受付へと向かっていった


「イガラシ、今回はありがと、楽しかったわ」


「そうかい、んじゃ次はきちんとした形で来い、二度と迷惑かけるなよ」


静希やテオドールからしたら今回はいきなりやってきた面倒事だった、それも目が飛び出るほどの


もう二度とこんなことはごめんである


「わかってるわ・・・シミズに伝えておいてほしいの、ありがとって」


「・・・はいはい伝えておくよ」


静希の言葉に安心したのか、セラは小走りでテオドールの下へと走っていく


出国手続きも済ませ、イギリスに帰る途中、セラはテオドールの方を見上げてあることを聞いていた


それは聞かなければいけない、聞いておきたいことだった


「テオドール、教えてほしいことがあるの」


「なんだ?宿題でも出たか?」


「・・・えぇそうね、宿題よ」


静希と鏡花から出された宿題、自分がどうすればいいか、そしてどうしたいのかを考えて行動する、王を目指す道


「王様ってどうやって国を支配してたの?」


それは彼女がようやく踏み出した、茨に満ちた苦難への道、そして夢をかなえるための第一歩だった















「あぁ・・・ようやく迷惑なお姫様がいなくなった・・・」


「ふふ・・・お疲れ様」


「二人は今テスト受けてるよ、もうすぐ終わりそうだけど」


静希はセラを見送った後学校にやってきていた


今日は土曜日だ、学校に来たところでやることはないのだが目的は学業ではない、丁度今試験を受けているアイナとレイシャの様子を見に来たのだ


先にやってきた明利と雪奈は教室の近くに椅子を持ってきてその場で待っている、どうやらテストが始まってからずっとこうしていたようだ


基礎的な学力をどれだけ身に着けているか、そして日本語によるコミュニケーションがどれだけ取れるか、個人の性格なども考慮して審査するために二人はそれぞれ別の教室で多くの試験を受けている


筆記から面接、そしてそれが終わった後は能力審査だ、危険な能力かどうかもそうだがしっかりと操ることができているかも審査の対象になる


「エドたちは今どこに?」


「エドモンドさんたちは職員室で先生たちといろいろ話してるよ、近くにいると不正もあり得るからって待ってることもできないみたい」


エドがそわそわしているところが目に浮かぶようだが、時には子供の力を信じてやるのも大人の務めというものだ、カレンも一緒にいるから多少は問題ないと思うが、どうなるかはわかったものではない


明利達がこの場にいても不正の心配をしないあたり、明利たちの能力では不正の類はできないという事を知っているのだろう


『エドが妙なことをしていなければいいが・・・』


『カレンも一緒にいますから、問題ないでしょう』


『あんたらのびのびしすぎよ、もうちょっと緊張感ってものを持ちなさいよね・・・』


そして学校内にいる間は静希が二人の契約している悪魔を預かっているためにトランプの中が一層騒がしく思える、なにせ人外たちがひしめいているような状況なのだ


悪魔三人神格一人霊装一人使い魔一匹精霊一人、六人と一匹の人外を静希が保管している状況だ、人外保管庫と言われても何ら否定できない


そしてしばらくすると教室からアイナとレイシャがほぼ同時に出てくる、恐らくペーパーテストと面接がある程度終わったのだろう、二人ともやや疲れた表情をしていた


「お疲れ様、どうだった?」


「あ・・・ミスターイガラシ・・・問題自体は難しくはありませんでした・・・国語以外は・・・」


「やはり漢字がネックです、まだ簡単なものしか読み書きできませんので・・・」


算数や理科などの日本語がなくてもある程度分かる教科に関しては問題なく解けたようなのだが、やはり日本語の漢字を多用される国語などは彼女たちにとっては難関なようだった


「まぁそのあたりはこれからだな、次は能力診断か?」


「はい、何かアドバイスをいただければ」


「はい、助言を頂けるとありがたいです」


能力のテストと言われても静希はいつも同じような事しかやったことがない、なにせもう長いこと能力が変化していないのだ、こればかりは変に気張ったところでいい結果は生まれない


「まぁ今できることをやればいい、見栄を張る必要はないからな」


「「了解しました」」


二人は一緒に演習場の方に駆けて行った、能力の診断、どんな能力を持っているかよりもその制御が重要だ


あの二人であれば心配はいらないだろうが、やはり気になるというものである


『二人ともどうする?エドとカレンの所に行くか?』


『・・・いや、このままあの二人を見ていてくれ』


『カレンたちからもあの二人を見ているように頼まれましたからね』


どうやら悪魔二人はアイナとレイシャの臨時保護者を命じられているようだ

契約者と一緒にその成長を見守っているからか若干情がわいてきているように思える


特にヴァラファールはその傾向が強い、時折訓練をしているという事からか、それなりに心配なようだった


「んじゃ俺らも様子を見に行くか、どうせ暇だし」


「二人の能力で試験か・・・確か強化と発現だっけ」


「身体能力強化と透明化だな・・・どの程度のものなのかはわからないけど」


アイナの透明化は見せてもらったが、レイシャの能力はまだ見ていない


話に聞くのと実際に見るのとでは大違いだ、どれくらいの性能なのか、そう言う特性があるのか、そしてそれを制御できているのかどうか、今回重要なのはあくまで操作性と制御率


万が一にも暴走がないようにしなければいけないのだ、そう言う意味ではいかに平静を保てるかというのが重要になってくる


親代わりになっているエド達から離れてどれだけの実力が発揮できるか、正直不安な部分もある


恐らく悪魔たちも同じような不安を感じ取っているのだろう、先程から二人のことに集中しているように見える


そのうち手を出しそうな勢いだが、そのあたりは二人ともきちんと良識のある悪魔だ、悪魔なのに良識があるのもどうかと思ったが、少なくとも変な手出しはしないだろう


なんというかこれほどまでに悪魔に心配される子供というのも貴重なものだ

悪魔の加護でも受けているのかもしれないなと思いながら静希達はアイナとレイシャの後を追うべく演習場へと移動した



「ん・・・なんだお前達も来たのか」


演習場に到着するとそこにいたのは城島だった、無論他の教師もアイナとレイシャに注視している、恐らく喜吉学園にいる教師数人がかりで彼女たちの能力を調査するのだろう


何とも大がかりな話になっているのだなと思いながら静希達はとりあえず挨拶をすることにした


「知らない仲でもありませんからね・・・一応心配で」


「ふん・・・まぁお前達なら問題はないだろう・・・あの二人の能力に関してどれだけ知っている?」


「一度見たことがあります・・・詳細は知りませんが・・・身体能力強化と透明化です」


静希の言葉に城島はふんと鼻を鳴らす、いい能力であるのは彼女も理解しているようだった、ただ問題はこの場でどれだけ扱えるかだ


「二人ともリラックスだよ!頑張って!」


「ファイト~!頑張れ~!」


明利と雪奈はすでに応援モードに入っている、静かに見るという事はしないようだった


そして教師たちも静希達に気付いているが、静希達の能力をある程度把握しているからか、この三人なら不正をしようがないという事を理解し放置しているようだった


多少なりとも緊張がほぐせるのであればそれもいいと思っているのだろう、少しでもリラックスした状態で能力を発動させるのがベストだ、問題は彼女たちがどれだけ緊張をほぐせるかという事である


「ではまずアイナちゃん、能力を使ってみてください」


「はい!いきます!」


彼女は懐から一枚の布を取り出して見せた


まずは小さなハンカチだ、両手で持って広げて見せると、徐々にそのハンカチが透明になっていく


十秒ほどでハンカチは完全に視認できなくなった


次に彼女が用意したのは大きめの布だ、折りたたんでおいたのかかなり大きく、人程度であれば容易に覆えるほどのものだった


そして彼女がそれにくるまり、体の露出をゼロにした状態で能力を発動すると彼女自身も見えなくなってしまう


透明化、物質そのものを見えなくするのではなく、周囲のものと同じような光景を物質に張り付ける、所謂光学迷彩のような状態にすると言ったほうが正しいだろうか


隠密行動に向いている能力だ、訓練を重ねればそれこそ捕捉することも難しくなるだろう


足音が聞こえることから動いているというのはわかるのだが、どこをどのように動いているかは視覚だけではとらえることができない、かなり練度が高く、なおかつ精密な迷彩効果を発揮しているようだった


「はい、大丈夫です、続いてレイシャちゃん、能力を発動してください」


「はい!いきます!」


レイシャは中腰になり、握り拳を腰に貯めるようにして力をためていく

そして次の瞬間、演習場の一角を高速で移動し始める


一蹴りで十メートル程進んでいるのではないかと思えるほどの脚力、そしてそれをしっかりと認識できているだけの動体視力、しっかりと体に次の指示を伝達できるだけの反応速度


どちらかというとスピードに特化したタイプの身体能力強化のようだった

数分間駆け回ると、能力が切れてしまうのを見越してアイナの近くにやってくる


強化できる時間に限りがあると言っていたが、数分間しか強化できないというのはなかなかに不便かもしれない


発展途上と言ってもいいがこれからが楽しみな能力である


そしてレイシャは再び何かをためるような動作をすると、今度はアイナに触れる


今度はアイナの身体能力を強化したのだろう、先程のレイシャほどではないがアイナが高速で移動を始める


そして一分もたたずに能力が切れたのか、身体能力の強化は終了した


それを見て静希は口元に手を当てて二人の能力を分析していた


アイナの能力は物質の光学迷彩化、実際に透明化しているのではなく、周囲の風景に溶け込むようにできる上に、恐らくどの風景と馴染ませるかというのを彼女自身が選んでいるように思える


先程の布をただ透明化、あるいは光学迷彩化しただけでは布に隠れていた時にアイナが見えていなければおかしい


中々有用な能力だ


レイシャの能力は単純な強化ではないように思える、恐らく体の中にエネルギーのようなものを溜め、それが一定に達すると強化の能力を発動できるのだろう


そしてそのエネルギーを他人に渡すことで強化を施せるが、本人程の効果は発揮しない


アイナの方は応用性が高く、できることも多そうだ、レイシャの方はまだまだ発展途上ではあるが今後の鍛え方によっては優秀な能力者になる、チーム戦などの集団行動によってその真価を発揮するだろう


そして静希が感じていることを他の教師たちも理解しているようだった


二人とも非常に優秀だ、留学生なのが惜しいくらいである、いっそのことこの学校に入学してほしいと思えるほどに


本来小学生の間は、能力の制御を第一に行うのが一般的だ、暴発しないようにとにかく安全に扱うことを目的に指導を行う、だが彼女たちはすでに能力をある程度使いこなしている


出力こそまだ劣るところもあるだろうが、自らの能力の特性を理解したうえで扱っている、小学生の練度ではない、中学生か、あるいは高校生のレベルに達している



「あれほどとはな・・・操れれば問題ない程度に思っていたが・・・」


「・・・えぇ、どうやら緊張はしてないみたいですね」


アイナとレイシャ、二人の能力は一見単純に見えてレベルが高い、アイナは周囲の風景と同一化できるような光学迷彩化、発現系統であることを考えると頭の中である程度自動演算しているのだろう、それに特化した能力だという事がわかる


普通は透明化させるだけでも時間がかかるうえに、動いている状態ではその維持も難しいだろう、それを容易にやって見せたという事はそれだけ練度の高さがうかがえる


レイシャの行った身体能力の強化は、単純であるが故にその訓練の密度がうかがえる


なにせ速度重視の強化はどうしても問題が生じてしまうのだ、その問題とは自分の感覚と現実の相違である


人間は基本体を動かすときにはほぼ感覚で動かしている、どれだけの力を使うか、どれだけの速さで動くか、そう言うものはほとんど自らの感覚だ、頭でいちいちどれだけの力を使うかを考えて動かすことなどはしない


強化系統の能力、特に身体能力を強化するタイプは文字通り身体能力を増強することにある、それはつまり普段通りの感覚で体を動かせなくなるという事でもあるのだ


いつも通りの力を使ったと思ったら、普段の数十倍の力を出していたり、普段通りに動こうとしたら普段の数十倍の速度で動いていたりと、認識と現実の差異が最も大きい


それ故に、身体能力を強化する能力を持っている人間は能力の扱いと同時に自らの体の動かし方というものを学ぶ必要がある


教師たちがあらかじめエドたちに口頭で能力を聞いたときに、一番危惧したのがレイシャの能力だった


子供同士の喧嘩で最も怖いのは相手が強化系統だった場合である


ただの押し合いなどの喧嘩だったはずが、片方がいつの間にか能力を発動させてしまい大怪我になるというのは、幼少時にはよくある話だ


そして子供であるが故に自らの感覚と実際の身体能力の変化についていけず、怪我をするパターンが多い、だがレイシャはそのようなことは起こさず、見事に能力と体を操っている


教師たちも彼女たちの優秀さは理解したのだろうが、もう少し見てみたいと思ったのかもしれない、その場にいた城島も含め一カ所に集まって何やら話をし始めた


その隙に静希達はアイナとレイシャに駆け寄ることにした


「すごいじゃないか二人とも、あれだけ能力を使えるとは思ってなかったぞ」


「が、頑張りました・・・よかった、失敗しなくて・・・」


「ぜ、全力を出しました・・・ミスしなくてよかったです」


二人とも先程まで緊張していたのか若干汗をかいている、緊張から解放されて安堵しているのが表情からうかがえるようだった


「いやぁ二人ともいい能力持ってるじゃないか、いっそのことうちの子になってほしいくらいだよ」


「だ、ダメです!私たちは社会人なので!」


「キャリアウーマンなので!簡単に引き抜きには応じません!」


雪奈の言葉に二人は強く拒否反応を見せる、エドに対する恩義もそうだが、少なくともエドからは離れたくないようだった


これだけ慕われるのは父親冥利に尽きるだろうなと思いながらも、静希は微妙な気持ちだった


なにせエドは本物の父親ではないのだ、これからエドがこの二人とどのように接していくのか若干不安でもある


「五十嵐!ちょっとこい!」


教師たちで話し合っている中、唐突に静希が呼ばれたことでその場にいた全員がどうしたのだろうかと教師たちを眺める中、とりあえず静希は城島の下へと駆け寄る


「どうかしましたか?何か問題でも?」


「問題はない・・・いや問題がなさすぎるのが問題といったところか」


問題がないのが問題というのも妙な話だ、それだけあの二人が優秀だという事でもあるのだが


静希が何故呼ばれたのかもわからない状態で首をかしげていると、教師の一人が口を開く


「彼女たちに用意していたプログラムなんだけど、恐らくあの様子だと簡単にクリアされてしまう可能性がある、それじゃ試験にならないんだ」


「クリアされる分にはいいんじゃないんですか?それだけ優秀ってことですし」


「今回の試験は対象にストレスを与えた状態でいかに能力を扱えるかを見るテストだ、簡単すぎてはストレスを与えられん」


用意していた試験がクリアされる分には問題はないように思えるのだが、どうやら簡単にクリアされてしまうことが問題らしい


問題がなさすぎるのが問題というのはこういう事かと静希は納得する


当然ではあるが、能力を使うのにもある程度集中力が必要だ、リラックスしている状態や高い集中を保てている状態であれば能力はうまく扱える、だがその逆、集中を乱していたり極度の緊張状態にあると能力は上手く扱えない


今回用意しているテストは対象に負荷を与えて、精神状態を乱していてもしっかりと能力を制御できるかを見るもののようだ


小学生というのは良くも悪くも感情的になりやすい、万が一にも能力の暴走などがないことを確認するうえで必要なテストなのだろう、問題は彼女たちが優秀すぎて用意しておいたテスト内容が本来の意味をなしていないという点だ


「そこで五十嵐、お前今日暇だろう?」


「暇ですけど・・・何か手伝えとかそう言う話ですか?」


「あぁ、あの二人と戦え」


城島の言葉に静希は耳を疑い、同時に嫌そうな顔をする、明らかに無茶を言っていることは静希にも、そして教師たちにも理解できているのだろう


「あの・・・俺一応あの二人の関係者なんですけど、もし手心を加えたらどうするんですか?」


「私が監視している、もし手を抜いているところを見つけたら徹底的に教育指導してやるからそのつもりでいろ」


城島は静希の担任教師だ、はっきり言って静希の実力のほとんどを把握していると言っても過言ではない


一体静希を戦わせて何がしたいのかと思う中、城島は説明をするべく口を開いた


「先も言ったとおり、このテストはある程度対象にストレスを与えなければ意味がない、それこそ焦りや緊張などといったものがなければ効果を表さない」


「それはさっき聞きました、それで何で俺が戦うことになるんです?」


「あの二人には、お前に勝たなくては留学はできないと告げる」


その言葉に静希はようやく理解した、この教師たちが何をやらせたいのか


「・・・教師が相手じゃさすがに勝ち目がないから・・・勝ち目がありそうな俺を当てて精神的な動揺を誘うってことですか?」


「そういう事だ、時間制限を設け、お前には勝たない戦い方をしてもらう、時間制限以内にお前を倒すのが条件と言えば、向こうも必死になるだろう」


確かにエドの期待を受けている以上、あの二人は意地でも留学するための条件をクリアしようとするだろう、それを逆手にとって精神的負荷を与えるあたり性格が悪い


これを考えたのはきっと城島だなとため息交じりに静希は項垂れる


「さすがに怪我させちゃまずいですよね?何か木刀とか竹刀とか用意してもらえますか?」


「私のトンファーでよければ貸すが?」


「使い慣れてないんで」


静希の要請に教師の一人が近くの倉庫から竹刀を一本持ってきてくれる、剣の類であればある程度は戦える、能力を使ってもいいのであれば他に戦いようもあるが、問題はどれだけ相手をあせらせることができるかだ


「先生、あの二人への説明は・・・」


「わかっている、私からしておく・・・お前は準備運動でもしていろ」


この教師達の中で静希を含む悪魔の契約者たちの事情を知っているのは城島だけだ、静希がただの劣等生であると思っている他の教師たちと違い、本質が危険であるという事を知っている城島が説明するのが一番手っ取り早いだろう


アイナとレイシャが静希が敵になったという時点で戦意を喪失しないように、ある程度しっかりと事情を話さなくてはいけないだろう


「アイナ、レイシャ、次の試験を始める」


「「は、はい!」」


城島が出てきたことで明利と雪奈は若干緊張を強める、そしてその緊張は二人にも伝わっていた


静希から聞いている城島は怖いけど立派な教師という事だけ、自分達にもしっかりとした指導をしてもらえるであろうことを予想していたのだが、怖いのはやはり嫌なのだろう、少しだけ体が硬くなっていた


「次はお前達の素質を見る、一定時間以内にある人物を倒してもらう」


「「ある・・・人物?」」


城島が指差すとその先には竹刀を片手に準備運動をしている静希の姿がある、その瞬間アイナとレイシャの顔が青ざめた


「む!無理です!ミスターイガラシに勝つなんて!」


「あ、あの人はボスと対等な人なんですよ!私たちが勝つなんて」


「できなければ留学の件はなしだ、お前達のボスにそう告げろ」


圧倒的威圧感で逃げ場をなくす城島の言葉に二人は絶句してしまっていた


エドやカレンから静希の戦闘能力については聞いている、どんな性格をしているのかも、そしてその危険性も


戦って勝てる相手ではない、その程度の事アイナとレイシャにも理解できていた


「安心しろ、あいつにも手加減はさせる・・・ついでに、奴の悪魔たちにも手は出させない」


城島の言葉にアイナとレイシャは思い出す、城島は静希達の、悪魔の契約者たちのことを知っているのだ


自分たちの事情もある程度は知っているのだろう、だからこそ城島はこう告げた


「一応手心を加えるという意味ではないが、お前達を怪我させないような手段に限定し、なおかつあいつが使う武器はあの竹刀一本のみだ、その状態のあいつを倒せ」


「あの竹刀・・・」


「一本だけ・・・」


静希が普段使うのはオルビアやナイフや銃、近接戦闘よりも中距離戦を得意としているのだ、それが封じられているとなれば自分たちにも勝ち目はあるのではないかと思えてしまう


「ついでにこれは私からの餞別だ、お前達にあいつの弱点を教えてやろう」


「弱点・・・?」


「そんなものあるのですか?」


勝つことができると思わせる事、今必要なのはその希望的観測だ、そして時間が経過するとともにその希望が焦りとなって精神に負荷をかける


今回のテストで重要なのはその精神にかかる負荷だ、彼女たちにはせいぜい勝てると思ってもらうほかない


「・・・なるほど!わかりました!」


「や・・・やってみます!」


「よし、今のうちに準備運動をしておけ、十分後に始めるぞ」


静希の弱点を話した後城島はすぐに二人から離れて観察を始める、自分でも嫌なやり方をしているのは理解している、だが今はこれが一番楽なのだ


知っている相手だからこそ手ごわい、そして勝てるのではないかと思わせることができる


後は静希がどれだけの戦いをするかにかかっているのである



城島の判断では、静希とアイナとレイシャの戦力差はかなり大きい


実際の戦闘になったら恐らく静希が圧勝するだろう、だが条件を限定した状態ではどうなるかわからない


少なくとも今回静希は殺傷能力のあるトランプの中身の使用を封じられている、具体的にはナイフ、釘、銃弾、そしてスペードシリーズ等々


ほとんど体一つで戦えと言われているようなものだが、それでも城島は静希に軍配が上がると思っていた


静希の戦闘経験は一朝一夕で培ったものではない、多少訓練を積んだとは言え小学生に負けるとは考えられないのだ


特に静希の戦闘の訓練をしているのは近くで応援している雪奈だ、彼女の斬撃によく似た攻撃を訓練で静希が使っているのを見たことがある


「先生、なんで静が竹刀持ってるんです?」


「ん・・・テストの一環であいつらと練習試合をさせるんだ、五十嵐なら怪我をさせることもないだろう」


静希だけ呼び出され何やら準備をした後、雪奈と明利は城島に事情を聞こうと近くにやってきていた


練習試合、これも恐らく合否に関わってくるのだろうが明利と雪奈としては複雑だった


どちらを応援したものか、個人的にはもちろん静希を応援したいが、留学のために頑張っているアイナとレイシャも応援したい


とはいえ静希も同じ状況のはずだ、無理に本気を出して二人を潰すようなことはしないであろうことは予想できた


「それってなんか意味あるんですか?てか静は武器あるのに二人にはなしですか」


「ある、すでに五十嵐にはその内容を教えてある・・・これはあの二人にとっても必要なことだ・・・武器を渡そうとしたら断わられた」


必要な事と言われても事情を知らされていない明利と雪奈は納得しかねていた


特に静希が武器を持っているのにもかかわらず二人が武器を持っていないというのは不公平に感じたのだ、年齢も経験も実力も差があるとはいえ二対一で不公平か否かを考えるのもどうかと思ったが、武器を持っているか否かで戦い方は大きく変わると言っていいだろう


明利と雪奈がそう思っていたところで、少なくともすでに練習試合をするのは決定事項のようだった、あくまで観客でしかない自分たちはどちらかを応援することになるのだが、どちらを応援しようか迷っていた


どうしたものかと悩んでいる時、明利と雪奈は静希から放たれる殺気を感じ取っていた


竹刀を持った状態の佇まいはすでに戦闘状態に移行している、鋭い刃のような殺気を漂わせ精神を集中させているのが傍目からでもわかる


練習試合のそれではない、明らかにアイナとレイシャを一時的にではあるが敵として認識しているのが二人には感じ取れた


「先生・・・本当に練習試合なんですよね?」


「無論だ、あいつも怪我をさせないようにするようなことを言っていた、問題ないだろう」


静希は自分の使い慣れた剣ではなく、怪我をさせないために竹刀を選択した、そう言う意味ではしっかりと気配り程度はできるだろう


もっとも状況によってはそれも難しくなることは容易に予想できた


「・・・刃物持ってくればよかったな・・・もし万が一が起きた時私じゃ止められないよ?」


「その時は私が止める、問題はない」


城島の能力ならあの場にいる三人を一度に制圧できる


一人は収納、一人は強化、一人は物質に作用する発現、城島の重力操作を使えば容易に制圧することは可能だろう


とはいえ、静希の殺気を直接受けているあの二人が不憫だと思う節もあるのだ、どんなに訓練していたとしても彼女たちは小学生なのだ


実戦も経験したこともないような子供に、静希の殺気は強すぎる


そして城島の心配通り、静希の殺気を直接肌で感じているアイナとレイシャは僅かに身震いしていた


自分に向けられて初めてわかる、静希の殺気の鋭さ、鋭利な刃物で体を切り裂かれるような感覚が肌を刺激する中、アイナとレイシャは互いの手を握ってお互いを鼓舞していた


勝たなくてはならない、自分を拾ってくれたエドに恩を少しでも返すためにも


「では勝利条件について確認しておく、アイナレイシャ両名は時間内に五十嵐静希を戦闘不能状態にすること、気絶、拘束、どちらでも構わない、逆に戦闘不能にされた場合、あるいは時間切れになった場合敗北となる」


城島の宣言にアイナとレイシャは頷いて応える


何も静希に真っ向正面から戦う必要はないのだ、何とか拘束するなり、気絶させるなりすれば勝ったことになる


相手は手加減もしてくれているのだ、この条件なら勝てないことはない、アイナとレイシャは互いにそう思いながら深呼吸して緊張を少しでも和らげていた


「五十嵐の勝利条件はアイナ、レイシャを戦闘不能にするか、一定時間経過だ、敗北条件は先に述べたものと同じだ」


「・・・先生、一つ質問があるんですけど」


静希の言葉にアイナとレイシャも静希の言葉に意識を向ける、条件に何か異論があるのだろうかと思う中、静希はそれを口にした


「俺は時間内、ずっと逃げ続けててもいいんですよね?」


その言葉にアイナとレイシャ、そして城島は眉をひそめる


「あぁ、ルール上問題ない、一定時間経過すればお前の勝ちだからな」


「了解です」


そのやり取りの中で、アイナとレイシャは静希が自分たちに手心を加えてくれているのではないかと感じていた


正面切っての戦闘では二人に勝機がないことを悟り、自分たちに自由に攻撃させようとしてくれているのではないかと思ったのだ


逃げ続ける敵を倒すのは正直かなり困難ではあるが、静希が攻撃してこないのであれば勝ち目もある、アイナとレイシャは互いに視線を合わせて同時に頷く


「それでは、練習試合・・・始め!」


合図とともにアイナとレイシャは戦闘行動に入るために能力を発動した


アイナは布を取り出して光学迷彩を作り出そうとし、レイシャは中腰になって能力発動の準備を始める


静希が逃げてくれるのであれば準備は簡単だ






そう、静希が逃げてくれるのであれば





二人が戦闘の準備をする中、静希は一直線に二人の下へ突進してきていた


逃走するとばかり思っていた二人は一瞬静希が何故こっちにやってきているのか理解できなかった


左手で竹刀を振りかぶり、まずはアイナの持つ大きな布に当ててその手から奪い取る、さらにそのやや後ろにいるレイシャに向けて思い切り竹刀を振り下ろした


逃げるのではなかったのか、いきなりの先制攻撃に若干混乱しながらも、レイシャは元より前衛気質、静希の攻撃を横に跳躍することで回避する

だが静希はさらに追撃を続けてきた


竹刀を振りかぶり連続でレイシャめがけて攻撃を仕掛けてくる


静希がアイナとレイシャを同時に相手にする際、もっともさせてはいけないのはレイシャの身体能力の強化だ


幸いにして彼女の能力は他人も強化できるという能力の代わりに短い時間ではあるがチャージが必要になる


止まっていなければチャージができないのかどうかは静希には判断できないが、チャージする暇もなく攻撃を続ければ彼女は身体能力を強化することはできない


アイナの能力は身を隠すという事に向いている、つまりは状況の攪乱が可能な能力だ


二人の作戦としてはレイシャが身体能力強化で静希と真正面から戦い、隠れていたアイナが静希を拘束、あるいは攻撃するという流れだったのだろう


だが静希はその起点となる隠れ蓑代わりのアイナの布を奪い取り、連続攻撃を行うことでレイシャに能力を発動させないようにした


最初に逃げることを質問に含めることで意識をそちらに向け、逆に急襲する

意識のフェイントのようなものだ、逃げを選択すると思っていた人間がいきなり接近戦を挑んで来ればどうしても混乱する、今の状況はまさにそれだ


レイシャに攻撃を仕掛ける静希だが、なかなか彼女に攻撃は命中しない、いや正確には命中はしているのだがクリーンヒットにならないのだ


彼女は腕や肩などを盾にすることで静希の攻撃から身を守っている、伊達にエド達から訓練は受けていないという事だろう、静希の攻撃では彼女を行動不能にすることはできないかもしれない


だが何も竹刀で行動不能にする必要はないのだ


静希は竹刀を右手に持ち直し、左腕を前に出す、以前未来のどこかの誰かに対して使った戦法の一つだ


アイナとレイシャは静希の左腕について知っている、警戒の度合いをあげるのは十分理解できた


だが次の瞬間、唐突にレイシャが眼前から消えた


一瞬何が起こったのかわからなかったが、静希はその耳で聞いていた、何か布のようなものが翻る音を


恐らくはアイナが予備の布を持っていたのだろう、一枚布を奪ったからといって油断するべきではなかったかと静希は自らを叱咤する


そして静希の眼前から消えて見せたレイシャは、アイナの光学迷彩をかぶせられたことを理解するとその場から音をたてないようにして離脱していた


そして何かにぶつかる、どうやら同じく迷彩を被っていたアイナとぶつかったようだった


「アイナ・・・どうしましょう・・・私が集中的に狙われています」


「落ち着きなさいレイシャ、今こうして離脱できたのです、ミスジョウシマの助言通り、機動力でかき回しましょう」


城島がアイナとレイシャにした助言は、静希は機動力がなく、素早い多方向からの攻撃に弱いというものだった


事実静希は肉体強化などをは施されていないために、左腕で掴める物のない平原のようなフィールドでは機動力は普通の人間とそう変わらない


そして動体視力もほとんど人並みだ、雪奈との訓練によって素早い攻撃に対して反応できるようになってはいるが、見えていなければ何の意味もない

つまりは多方向からの、死角からの攻撃に極端に弱いのだ


さらに言えば静希は索敵能力がない、収納系統なのだから当たり前かもしれないが、基本的に自分の体と収納したものなどを駆使することでしか戦えないのだ


本来収納系統は戦闘を行うタイプではないためにこの辺りも仕方がないだろう


だからこそ姿を隠した状態での連撃によって戦う、それが二人にとっての勝機となっていた


二人同時に姿を消して、両方に身体能力強化を施し攻撃する、そうすれば勝てないことはないというのが城島の見解だ


城島が告げた助言は確かに正しい、確かにその作戦通りに戦うことができれば静希に勝つこともできるだろう


だが小さな子供が考える程度の作戦で、静希の培ってきた経験を破ることはできない


「敵を目の前にしておしゃべりとは、随分と余裕なんだな」


迷彩で隠れているうえに、極力声を小さくして話していたのに、静希の声は自分たちの間近に迫っていた


どうやって自分たちの居場所が分かったのか、それを把握するよりも早く二人めがけて竹刀が振り下ろされる


ギリギリのところで回避した二人は迷彩の一部から顔をだし周囲の状況を確認しようとした


二人の目の前に広がっていたのは、大量のトランプだった


周囲を円軌道で移動し続け、自分たちに当たった時だけ奇妙な軌道を描いているのが見て取れる


静希の作り出すトランプは触れるものを選ぶことができる、ある程度の制限はあるものの、静希がただのトランプとして操っているのであれば、その場にあるものは触れられる


周囲にトランプを大量に展開し、トランプが触れた部分に透明になったアイナとレイシャはいる、索敵などとは言えないような原始的で単純な対処だ


相手が透過ではなく、透明になれる迷彩を被っているという事をあらかじめ知っていなければできない対処だ


アイナに対してはトランプを使った対処を、レイシャに対しては体を使った対処をそれぞれ行うことで二人の能力のアドバンテージはほぼ潰した、後はレイシャの能力を使わせないようにしながら二人を行動不能にすればチェックメイトである


そしてそのことを二人も気づいていた、透明化したところで逃げられない、でもレイシャの能力発動の時間を稼がなければいけない、静希がそれだけの時間的余裕をくれるはずがない


これが経験の差、実戦を潜り抜けた人間と訓練だけを行ってきた子供の差、たとえ二対一でも、相手が加減をしていても明確に浮かび上がる優劣の差

負けてしまうのではないか、自分たちは勝てないのではないか


先程まで勝てるかもしれないと思っていた希望が徐々に打ち消され、強い圧力とどうにかしなければという焦りが二人の中に蔓延していた


どうすればいい、どうすればいい、どうすればいい


頭の中でいくつも案を考えるのだが、能力によって得られる優位性を奪われてしまっている今、彼女たちにできることはほとんどなかった


「・・・レイシャ」


アイナがレイシャの方を情けなくも力強い目で見つめる、そして彼女もそれを理解したのか頷いて互いに手を握る


静希は竹刀を握り二人に一気に接近する、再び布を奪い、透明化自体をさせなければ自分の勝利は揺るがない


二人に向けて竹刀を振りかぶる瞬間、アイナは静希に向けて突進し、レイシャは逆に後退した


「うわあああああ!」


アイナは絶叫と共に静希めがけて先程まで迷彩化していた布を目くらましのようにしてかぶせようとする


無論そんな攻撃をされたところで静希は痛くもかゆくもない、竹刀で軽く払って布を回収すると自分の腰に思いきり衝撃が走った


いや、それは衝撃というにはあまりにも弱弱しい、自分の腰に腕を回し、アイナが思いきりタックルしてきていたのだ


もちろん、彼女の体躯ではタックルなどしても攻撃として意味がないのは明白だ、事実静希には何の痛みもないし静希を倒すこともできていない


だが静希は彼女の行動の意味を理解していた


先程から周囲に展開しているトランプがそれを知らせている、レイシャが自分からかなり遠くに離れているのだ


アイナが迷彩を投げた一瞬の隙にレイシャは迷彩をかぶりなおしたのだろう、静希の視界には彼女は捉えられない、トランプで索敵は続けているがいずれその範囲外に逃げられてしまう


単純な身体能力で勝てないのは承知の上、アイナは静希に勝つのではなく、静希の足止めをするために接近してきたのだ


「この・・・離せ!」


「離しません!絶対に!」


静希は二人に負傷をさせることはできない、二人はそれを理解している


無論強引に静希が引き離そうとすればそれもできるだろう、殴るなり傷つけるなりすればアイナを振りほどくこともできるだろう、だが静希にそれはできない


それを見越した作戦だった、強引すぎる、捨て身すぎる行動こそが最も安全であるという事である


それに彼女のタックルはかなりいい場所に決まっている、油断すれば重心を崩されかねない、絶妙な位置に抱き着いているのだ


なるほど、エド達から最低限の近接戦闘の手ほどきは受けているという事だろう


すでにレイシャは静希とかなり距離を離していた、今から接近してもチャージを済ませてしまうだろう


迷彩を使用している状態で能力を発動されたら、静希のトランプによる索敵などは意味がなくなる、高速で移動し続け攻撃されれば静希とてどうなるかわかったものではない


今レイシャがどのあたりにいるのか、すでにトランプの索敵は役に立っていない、それほど遠くにいるのだろう


静希のトランプによる索敵が有効なのはせいぜい十メートル程度、トランプの数にも限界があるのだ、仕方がないと言えるだろう


だが相手が能力を発動するのであればそれなりに手段はある


静希はトランプの飛翔範囲を狭め、半径三メートル程までにする、広範囲に高速で飛翔させていたトランプの範囲を狭めたことで、静希の周囲の視界は一気に悪くなる、だがそれは逆に言えばトランプの飛翔範囲の外にいるレイシャから自分たちの姿を視認できなくする意味も込められていた


すでにレイシャは身体能力の強化を終えているだろう、いつ突っ込んできても不思議はない


だからこそ、静希はある仕掛けをした


レイシャの速度はすでに見た、あれが全力かどうかはわからないが反応できない速度ではない


静希は体ごと動いてアイナを振り回し、力が緩んだ一瞬を見計らって思い切り地面に押し付けて拘束した


「レイシャ!ここです!」


アイナの叫びと同時に、トランプの中めがけてレイシャが突進した





アイナの声を頼りにレイシャは突っ込んだ


顔だけを迷彩からだし、トランプが大量に顕現している空間の中心めがけて思い切り蹴りを放つ


だがその蹴りは誰にもあたることはなかった


そう、トランプの飛翔区域の中心に静希達はいない、静希はあえて中心点を自分たちからずらすことでレイシャの攻撃を回避していた


そして静希は一瞬見えたレイシャの速度を確認した


一度でだめならもう一度、レイシャは自分の身体能力強化に時間制限があることを知っている、せめてアイナだけでも助け出しておかなければこの後が厳しい、どうにかして静希を蹴り飛ばさなければと再びトランプの飛翔しているその中心へと突進していく


先程よりも低く、高すぎたから外れたのではないかと思い、思い切り低い場所に蹴りをぶつけるために低空で突っ込んだ


中心に蹴り込んだのにまた誰もいない、レイシャが何かおかしいと感じるよりも早く、静希の左腕がレイシャの着ていた迷彩を掴んだ


唐突に迷彩をはぎ取られ、一瞬何が起こったのかもわからず体勢を崩し地面を数度転がり、その後すぐに体勢を整える


飛翔しているトランプが徐々に集まっていき、静希はその姿を現した


いくら身体能力を強化していようと、どのあたりにやってくるのか、そしてどの速度で突っ込んでくるのかが分かればそれに合わせるのは難しくはない

一度目で見て、一度トランプで感じ取ったのだ、ほんの一瞬の余裕とはいえ雪奈の攻撃には劣る速度、静希の左腕ならギリギリ反応できる


静希が目的としているのはあくまで迷彩を無力化する事、そうすればトランプでの索敵は必要ない


静希の足元にはアイナが倒れている、静希に踏まれ体重をかけられているせいで身動きができないようだった


女の子を踏むというのは正直静希も心が痛むが、これも仕方のないことだと割り切ることにした


迷彩を奪われ、アイナも動けない、動けるのは自分だけ、身体能力強化も、残り時間もどれほど残っているかわからない


それに自分の速度に合わせて迷彩を奪われたという事実にレイシャは動揺していた


今自分が突進して攻撃しても通じないのではないかという迷いが生まれているのだ


かといって何もしなければこのまま負けるだけだ、それはダメだ、エドがあれほど頑張って自分たちのためにこの機会を作ってくれたというのに、自分たちがそれを台無しにするわけにはいかない


アイナもレイシャも僅かに目に涙を浮かべながらどうすればいいのか頭の中で考えていた


小学生にはつらいなと思いながら静希は竹刀を構えてまっすぐにレイシャを見る、先程までの刃物のような殺気はむけず、レイシャめがけて視線だけを向けた




この程度で諦めるような鍛え方をエド達はしていないだろう、かかってこい




そう言っているかのような瞳、レイシャもその変化に気付いたのか、涙をぬぐいながら静希の方を注視した


「終了まであと一分!」


城島の言葉にアイナとレイシャの表情が変わる


あと一分で静希を倒さなければいけない、迷っている時間などは無い、そう判断したのかレイシャは全速力で静希めがけて突進する


レイシャの蹴りが静希に直撃する寸前、アイナが全力でもがく


足元で彼女がもがいたせいで静希は若干バランスを崩し、レイシャの蹴りを受け流せず竹刀で直接防御してしまう


速度と筋力の両方が相まってか、静希の体はほんのわずかだが宙に浮く、そしてその隙をアイナは見逃さず脱出することに成功した


二人が自由になったものの、状況は未だに不利、なにせ迷彩は静希に回収された、もう自分たちがもっている迷彩は無い


後はこの体でできることをするしかない


先程の蹴りでも静希にダメージは無い、竹刀で完璧に防御されてしまった、だが竹刀の破壊には成功している、竹刀はレイシャの蹴りを受けた部分でひしゃげるように曲がってしまっていた


武器は破壊した、後は肉弾戦、これならまだやれる


すでに一分を切った、時間は無い、アイナとレイシャは視線を合わせて再び行動を開始する


レイシャがチャージをする間に、再びアイナが静希の動きを止めようと真っ直ぐ突っ込んでくる、先程と同じだ、チャージするための時間稼ぎをアイナが行うつもりなのだ


だがそう何度も静希も同じ手は食わない


突っ込んでくるアイナを軽くいなし、その腕を掴んで拘束し盾代わりにする

正面からの攻撃はアイナを盾代わりにして防ぐ、そうするとレイシャは後方、あるいは側面からの攻撃しかできなくなる


静希の動体視力でどこまで確認できるかはわからないが、縦横無尽に走り回られるよりはましな状況になったと言えるだろう


だがレイシャは動かない


アイナを盾にとられているという状況を前にして動くことができなくなってしまっているようだった


どうやら彼女には仲間を盾にされている状況では攻撃をするという選択肢を選ぶことはできないらしい


優しい子だなと思っていると、城島が試合終了の合図を出す


その瞬間、レイシャは膝から崩れ落ち、涙を流し始めた


そしてそれは拘束を解除されたアイナも同様だった、全身の力を抜いて静かに涙を流し始めている


誤字報告を五十件分受けたので六回分(旧ルールで十二回分)投稿


多くの方々がまるで連携するかのようなタイミングで誤字報告をしてきました、おかげでこの様です・・・ありがたいんだけどね・・・


これからもお楽しみいただければ幸いです

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