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J/53  作者: 池金啓太
三十話「その仮面の奥底で」

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鏡花姐さん大激怒

「片づけは俺がやるから、お前らは風呂に入って来い、着替えは適当に用意しておくから」


「じゃあ昔の服とかパジャマ持ってこようか、その方がいいだろうし、ちょっと待ってて」


静希が皿を台所まで持って行き洗っている間に、雪奈はセラと明利が着れる服を自分の家からチョイスして持ってきた


「入浴?どこに浴場があるの?」


「こっちにあるよ、さて明ちゃん、二人でこのお姫様を洗ってあげようか」


「わ、私もですか?」


二人を小脇に抱えて風呂場へと移動していくさまはさながら人さらいのようだ、雪奈は相変わらずだと思いながら、とりあえず静希は風呂場の近くにオルビアを置いておくことにする


万が一何かあった時に対応することはできるだろう、なにせあの二人の中には悪魔と神格が宿ったままなのだ


三人が風呂に入ったことで静希はようやく息抜きができていた、時折誰かの悲鳴が聞こえてくるが、きっと気のせいだろう


「どうやら三人とも仲良くやっているようですね」


ずっと水槽の中の水に宿っていたウンディーネがゆっくりと姿を現す、セラに姿を見せないためとはいえずっと水槽の中で隠れているのはなかなか窮屈だったかもしれない


「あぁ・・・悪いなウンディーネ、ずっと水槽に隠れさせてて、トランプの中入ってるか?」


「えぇ、お願いします」


静希はトランプを飛翔させ、ウンディーネを中に収納する


ようやく人外の一角を収納できたと安心しながらも、再びどたばたとうるさくなるのが静希の耳にも聞こえてくる


何やら逃げるなとか離せとか、そんな言葉の後に悲鳴が聞こえてくる


聞く人が聞いたらそれだけで銃を持って突入するかもしれないが、それを行っているのは幸か不幸か静希の姉貴分だった


時折明利の悲鳴も聞こえてくるのは気のせいではないだろう、思えば邪薙をあの状況に放り込んだのは少々酷だったかもしれない


今は確か雪奈の中に宿っているはず、後で謝罪の一つもしなくてはならないだろう


『シズキ、あの姫君を三日間滞在させるとなると、件の客人が来る日と重なってしまうのではないですか?』


ウンディーネの言っている件の客人というのはエドモンドたちのことだ、今週中にやってくるという事で、ウンディーネも少し気にしているのである


なにせ悪魔の契約者が二人来るという事なのだ、気にしない方がおかしいだろう


『まぁあいつらなら多少のことがあっても動じないだろうさ・・・エドに関しては元が英国人だからどんな反応するかわからないけど・・・』


悪魔召喚の一件があって以来エドは国を離れているが、もともとは英国人だ、国の姫が静希の家に滞在しているという事になろうものならどんな反応をするか


彼に国への忠誠心のようなものが残っているかは不明だが、少なくとも驚くのは間違いないだろう、なにせ静希でさえ一瞬思考が停止したのだ


『まぁエドたちは土日までこっちにいるから、その時にお前達を紹介するよ、それまでは何とかして誤魔化すしかないな』


『事情を知らない人間がいると何とも窮屈なものですね・・・メイリやユキナ達のように事情を知る者であればこちらも気が楽なのですが・・・』


一応セラは静希が悪魔の契約者であることは知っているが、静希が悪魔以外の人外たちを引き連れていることまでは知らない


というか静希が悪魔、神格、霊装、使い魔、精霊の五種類の人外を引き連れていることを知っている人間はごくわずかだ、そう易々とそんなトップシークレットを教えるわけにはいかない


それにセラはテオドールともつながりがある、あれほど厄介な人間に自らの手の内を教えてしまう可能性があるのだ、セラには絶対に静希の手の内は教えられない


『まぁ三日だけだし、ちょっとだけ我慢しててくれ、そしたらいつも通りになるだろうから』


『こればかりは仕方有りませんね、メフィストフェレスや邪薙、オルビアも我慢しているようですし』


ウンディーネも窮屈なのは嫌なのだろうが、自分と同じ立場である人外たちが何の文句も言わずに従っているのだ、自分だけがわがままを言うわけにはいかないと理解しているのだろう、それ以上追及してくることはなかった


とりあえずできる限り早くメフィと邪薙を回収しなければと静希は若干そわそわしている、なにせ自分の目の届くところに人外たちがいるのが普通だったのだ、信頼できる二人に預けているとはいえ、身近に人外がいないというのは若干落ち着かない


自分もだいぶ毒されてきたなと思っていると、再び風呂場から黄色い悲鳴が聞こえてくる


相変わらず雪奈が明利とセラをいじっているのだろう、あの人は一体何をしているのだと若干興味がわくが、今ここで向かおうものなら確実に制裁を加えられる


断続的に聞こえてくる悲鳴に、後で国際問題にならなきゃいいけどと思いながら静希はとりあえず鏡花と陽太に今回の件を伝えるべくメールを打つことにした


どうせ明日学校に行った途端に話を伝えられることになるだろうが、あらかじめ伝えておくことも大事だ


メールの件名は何にしようかと考えて、まずは謝罪から始めることにしようと思い立ち、静希は今回のことを簡単に説明したメールを送り付けた


件名は『毎度毎度申し訳ありません』


そのメールを送ってから数分後に鏡花からお叱りの電話がかかってくるのはまた別の話である












「で・・・何で私達まで駆り出されなきゃいけないのかしら?」


「申し訳ありません・・・俺一人だとどうしてもきついんで・・・」


翌日、いつも通り学校に通った静希、唯一違うとしたら一緒にセラがいる事である


そして朝のHRの前に城島に呼び出され、正式に依頼としてセラの護衛を任されたのだが、それを認識した途端に静希は正座させられていた


鏡花は怒り心頭である


任務を受けたからには教室にいつまでもいるわけにもいかないという事で、静希達はすでに演習場へと移動している、広いこの場所の一角で正座させられる静希と、それを眺める鏡花、そしてわれ関せずとセラと話している明利達がいる


「え?こいつが姫様なの?何でそんな普通の恰好してんの、王冠とかは?」


「そんなもの着けないわよ、これはミヤマが貸してくれたの」


「えぇ・・・なんだよがっかりだわ・・・期待外れ」


一体陽太はセラに何を求めていたのか、想像上のお姫様の像からかけ離れていたせいかすでにやる気をなくしかけている


姫といえど一人の人だ、自分たちと大差がないことに落胆するのはわからないでもないが、やる気をなくすポイントが残念すぎて何も言えない


そして近くには授業の準備をしている学生なども見受けられるが、静希達のこの異様な光景に視線をちらちらこちらに向けているのが感じ取れた


「ねぇ静希、私達を巻き込みたい気持ちはわかるわ、護衛なんて役回りあんたが一人でやるのは面倒だものね、でも前日にそんなことをいきなり告げるってのはどういう了見かしら?」


「あの・・・俺も昨日突然この話が舞い込んできまして・・・伝えるのはどうしても遅くなったというか・・・」


「一国のお姫様がアポなしでこんなところまで来るわけないでしょうが、言い訳ならもうちょっと考えて言いなさいあんたらしくもない」


静希が言っているのは本当の事なのだが、確かに常識的に考えて一国の姫様が日本の個人の住所まで一人でやってくるなんて普通はあり得ない、あり得てはならない事態だ


鏡花が静希の言う事を信じないのも納得のいく話である


「テオドールはこのことは把握してるわけ?確かお姫様の管轄はあいつでしょ?」


「正確にはあいつじゃないけど・・・一応把握してる、三日間はうちで預かるって話に・・・」


「へぇ・・・じゃあ三日間も私達を連れまわそうってわけ?随分と話が早いじゃない?こっちに何の相談もせず」


「マジすいませんでした」


静希が正座の状態から土下座へと移行する中、その様子を見ていたセラは若干不満そうにしていた


そして我慢できなくなったのか、ずかずかと鏡花へと接近し睨みつける


「ねぇ、イガラシに対して随分な態度とってるけど、こいつはかなりの危険人物よ?そのところ分かって」


「あぁ?」


まるで敵を見るような目で鏡花がセラを睨み返した途端に、先程まで言いかけていた文句は喉の奥まで引っ込んでしまったのか、目を逸らしながらどう反応したものか冷や汗を流しながら僅かに後退していく


「セラ、こいつに逆らうな、こいつは俺たちのボスだぞ」


「え!?そ、そうなの!?」


静希は土下座したままセラにそう言うと、彼女はかなり驚いていた


悪魔の契約者である静希がチームのトップだと思っていただけにその衝撃は大きいようだった、なにせ悪魔の契約者をも手玉に取るような存在という事になるのだ


テオドールから悪魔の契約者の危険性は十分すぎるほどに教えられている、存在するだけで他国にプレッシャーを与えかねない、それほどの脅威なのだ


そしてそれほどの脅威である悪魔の契約者が『ボス』として認めている存在

セラの中で鏡花の評価がそのあたりの一学生から組織のトップのレベルまで一気に上昇した瞬間である


普段の鏡花ならここまでの威圧感は与えなかっただろうが、いきなり面倒事を突き付けられて今の鏡花は非常に不機嫌だ、今年十二歳になろうという少女には少々強すぎる気迫である


護衛対象にもかかわらず殺気を向けているあたり相当いらついているようだった


「へぇ、あんたでも一応私の事をボスって認めてくれてたんだ」


「そりゃあ鏡花姐さんにはいつもお世話になっていますので・・・ほんとマジすいませんっした」


いつもの三下演技も土下座状態で行っていると真に迫っているような気がするから泣けてくる


鏡花には毎度毎度面倒をかけているため本当に頭が上がらない、静希はあまり土下座をしたことがないのだが、今回ばかりは少し顔をあげるのをためらうレベルだったのだ


「ね、ねぇイガラシ、イガラシの力ならこの・・・ボスにも勝てるんじゃないの?」


「・・・どうだろうな・・・運が良くて埋められるか・・・最悪地底深くにさようならだ」


静希の力でも勝てないという事実にセラは驚愕し、二歩三歩と後退していき近くにいた雪奈の背中に隠れてしまう


悪魔の契約者ですら勝てない存在、セラは鏡花をそんな風に認識した


静希単体の実力であれば、鏡花に勝つことは正直難しい、そう言う意味で言ったのだがどうやら妙な勘違いを起こしているらしかった


「あんたね、もうちょっと説明するときは言葉を選びなさいよ」


「間違ってないだろ?実際お前に勝てる気がしないし」


間違ってはいない、確かにセラの質問に対して自分の正しいと思う回答をした、決して間違っていないのだが両者の認識を考えると壮大な勘違いが生まれているような気がしてならなかった


「まぁまぁ鏡花、お叱りもそのくらいでいいじゃねえか、せっかく公的な理由でサボれるんだから羽を伸ばそうぜ」


「あんたはまたそんなことを・・・一応依頼だってこと分かってる?」


気楽に今回のことを捉えている陽太は、せいぜい都合よく休む口実ができた程度にしか認識していないだろう


護衛対象が姫とはいえ、あまりにも姫らしくない恰好をしているためか陽太のモチベーションは護衛よりも遊ぶことを目的としているようだった


なんにせよ静希はこの土下座状態から解放されるのであれば何でもいいという境地に達しつつある


「まぁ鏡花ちゃん、静の言う事は本当だよ、セラちゃんは昨日突然やってきたんだよ、家出中みたい」


「はぁ?そんな思春期の子供みたいなことが一国の姫にできるわけないでしょう、ていうか家出で国越えるとかどれだけの行動範囲ですか」


「まぁそこはお姫様だから家出範囲もワールドクラスってことで・・・」


鏡花は雪奈のフォローでも納得しかねていたが、どうやら静希が嘘を言っているというわけではないのは理解したのだろう、小さくため息を吐いた後面をあげなさいと静希に申告する


「今回はこのくらいにしておくけど、私達だって平凡に暮らしたいと思ってるの、あんたの面倒事をこっちに呼び寄せるのはやめてよね」


「はい、マジすいませんでした」


「あとそこで隠れてるお姫様、こっちに来なさい」


雪奈の後ろに隠れていたセラを睨むと、彼女は蛇と対峙したカエルのごとく動けなくなっていた


彼女の中での鏡花の評価が恐ろしいことになっていそうだが、そんなこと鏡花には関係ないのか能力を使って地面を拘束具のように変換し静希の横に並べ、同じように正座させる


有無を言わさずに正座させるあたり、さすがは鏡花というほかない、さんざん陽太に正座をさせているのだろう、その手際は素晴らしいものだった


「ねぇ、貴女はお姫様なんでしょ?しかも家出だとかで迷惑をかけてる、その自覚はある?」


「あ・・・えと・・・」


「あるの?ないの?」


「・・・あり・・・ます・・・」


鏡花のドスの聞いた声にセラはすっかりおびえてしまっている、すでに半泣き状態だ


当然ではあるが今までここまで強烈な殺気や圧力を受けたことがないのだろう、もはや正常な受け答えができるとは思えなかった


「貴女がいきなりいなくなったことで、一体どれだけの人間が迷惑していると思ってるの?そのあたりの認識はどうなのかしら?」


「え・・・えと・・・ごめんなさい」


「謝ってほしいんじゃないの、どういう認識をしているのかって聞いてるのよ?」


もはや説教ではなく尋問なのではないかと思えるほどの圧力をかけている鏡花に、近くにいた陽太はあちゃーという表情をしていた


そして静希の後ろに近づいて小さく話しかけてくる


「鏡花がこの状態になると長いぞ?正しい受け答えするまでずっとこうだから」


「もはや拷問だな・・・俺そろそろ足崩したいんだけど・・・」


土下座状態を解除したとはいえ静希はずっと正座のままだ、長時間の正座は足にしびれをもたらす、すでに静希の足は限界に近かった


「あの・・・お父様たちや・・・テオドールに・・・迷惑を・・・」


「それだけ?それだけじゃないわよね?他にもいるわよ、考えてごらんなさい」


鏡花の圧力にもうセラは半泣きではなくマジ泣き状態になってしまっている、それでも鏡花の能力で固定しているせいで正座を崩すことができない、逃げることもできない


先程の静希の鏡花の紹介から、もはや自分は埋められるしかないのではないかという強迫観念から、セラは頭の中で早くも走馬灯もどきを見始めていた


「イガラシや・・・ミヤマ、ミキハラ・・・それに、日本のいろんな人に・・・迷惑・・・かけてます」


「そうね、貴女が勝手な行動をしただけでそれだけの人間が迷惑したの、それだけじゃないわ、貴女の家族はとても心配したはずよ、それについてはどう思ってる?」


「・・・ご・・・ごめ」


「謝ってほしいんじゃないのよ?どう思ってるの?」


さすがに小学生にこの説教は辛すぎるのではないかと、近くにいる静希達は冷や汗を流している、その中で陽太だけは相変わらずだなと平然としている


恐らくこの状態の鏡花に何度となく叱られてきたのだろう、もはや彼にとって今の鏡花は見慣れていると言ったところか


「わ・・・悪いことをしたと・・・思ってます・・・」


「そう、じゃあなんでこんなことしたの?悪いことをしてるって自覚はあったのよね?なんでこんなことしたの?」


これはさすがに追い詰めすぎではないかと静希は若干セラが可哀想になってくる、相手が姫様だろうと誰だろうと容赦なく説教をする、鏡花らしいというかなんというか


というか相手が子供だからこそ、こうやって少しずつ理解させようとしているのかもしれない


なまじ陽太という理解力にかけた人間を一年も指導してきたのだ、どうやって相手に理解させるか、どういえば伝わるのか、そのあたりを心得ている


鏡花は本当に小学校の教師になるべきではないだろうかとその場にいる全員が思っていた


その後、約一時間にわたり鏡花による説教が行われ、もう二度とこんな真似はしないと約束されたところでセラは解放された


恐らく彼女の中で、鏡花こそが日本で一番恐ろしい人物であるとインプットされただろう、なぜ静希が鏡花に逆らわないのか、その理由も理解できたようだった


誤字報告を五件分受けたので1.5回分(旧ルールで三回分)投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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