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J/53  作者: 池金啓太
二十九話「跡形もなく残る痕跡」

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準備完了

テオドールとの通話を終えると、静希もようやく自分のことを誰かが見ているという事を自覚できるようになった


以前にも似たようなことがあった、敵意を向けられているわけではないが、どこかで誰かが見ているという、そう言う感覚だ


まだ城島のようにその方角までは感知できないが、今も誰かが自分のことを観察している、そのことは静希にも十分理解できた


「今の電話、また奇妙な内容だったね」


「そうですか?ただの世間話のつもりでしたけど」


自分が話した相手は単なる知り合い、そして話した内容もただの世間話、静希はそう言う風にするつもりなのだ


そして大野と小岩も同じようにそれを黙認している、静希がどんな手を使うにしろ、その内容を二人とも理解しているのだ


この国の人間が情報を出したがらないという理屈も理解している、だがその理屈を理解してなお、静希がやろうとしていることのメリットの方が優先されるように思えるのだ


大局的な見方などは静希はまだできない、大野と小岩もそう言う考えは不向きだ、だがこの情報によって得られるアドバンテージは大きい


他国の人間がそれを知れば、事前に今回のような状況を防ぐことができる


今回は八千人近い、もしかしたらそれ以上の犠牲者がいても不思議はない


だが次はもっと多くの犠牲者が出ることになるかもしれないのだ


次があるかも定かではないが、その可能性があるのなら一つの情報くらいは流出させるべきである


「大野さんと小岩さんは、昼頃に力を使う時はどこかに避難していてください、巻き込まれると危ないので」


「それほど強い力を使うの?なんだか危なそうね」


「えぇ、なので防御はこの辺りの軍の人間に任せます、防ぎきれるかどうかはわかりませんが」


恐らく、軍の人間の中で防御を得意とする人間がいたとしても完全に防ぎきることはできないだろう、メフィの力はそれだけ強いのだ


だがそれでいい、事前に通告をしたのだ『危険である』と、めったに見ることのできない危険な力、それは今後の参考でもあり、静希が有している力の片鱗を確認することになる


どんなに集中している人間でも、必ず目を向けてしまうほどの力、メフィはそう言う力がある


好奇心、人はその『見てみたい』という欲求に勝てない


事前に通達させることで、その欲求はさらに強いものになる、なにせ悪魔の能力を実際に見ることができるのだから


周囲に存在している人間すべての視線を静希に集めるのだ、そうすることで一種の目くらましにはなる


ここまでお膳立てをしたのだ、これで失敗しようものならテオドールを思い切り小ばかにしてやろうと静希は企んでいた


その企みが上手くいくかどうかは静希自身も確証がない


「ちなみにその攻撃はどこから撃つつもりなんだい?まさか真上?」


「それも考えたんですけどね・・・もし攻撃が逸れた時地面に被害が行くのはまずいかなと・・・なのでこの付近から『あれ』めがけて使うつもりです」


メフィの姿を見られないように真上から撃つことも考えたのだが、今メフィは静希の体の中にいる、この状態で彼女が能力を使うわけにはいかないが静希のトランプで目隠しをすれば十分にその姿を隠せるだろう


攻撃が通用しないのはすでに確認済みだ、今回の攻撃は派手な花火のように人の視線を引くことが目的である


「これだけの人に見られるっていうのは、君としても本意じゃないんじゃ」


「そりゃ手の内を明かすことになりますからね・・・でもいいんですよ、俺がそう言う悪魔を連れてるって相手が知れば、それを逆手にとれますから」


静希の連れる悪魔、メフィストフェレスの能力は『再現』だ


再現できる能力は発現系統に限られ、面倒な手順をいくつも踏まなくてはならないがその手順さえ踏んでしまえばあとはその能力を自由に再現できる


操作性と制御性を犠牲にしてはいるがその威力は絶大だ、さらに言えば彼女がもつ能力の数は静希も把握しきれない


今のところ把握できているのは光弾を打ち出す能力、そして消滅の能力、念動力の能力、以前ダムを破壊した広範囲への攻撃ができる能力、東雲風香が使っていた圧縮した空気を発現する能力の五つ


本来能力は一つの存在に一つだけ、その認識が誤認を呼ぶ


静希の場合で言うなら、外国であるにもかかわらず、言語の違いを全く意に介せず会話が可能になっている点から、静希が同調系統の能力者であると誤認している人間がほとんどだろう


実際は静希の所有する霊装オルビアのおかげであるのだが、その誤認もまた静希にとってはありがたい


何もわからない状態から、実際にその能力であるとわかった状態ではその対処がまるっきり異なる、特にそれが能力であるならなおさらだ


メフィの能力も同じで、一つの能力を所謂ブラフとして見せつけることで、周りの目をくらませるのだ


そう言う意味では静希とメフィは性格的に、そして能力的に非常に相性がいいと言えるだろう、いや正確に言うなら、相性が良くなったというべきか


隠そうとするだけではなく引っ掻き回すという事柄においてメフィの能力は最適と言えるだろう、そう言う意味ではこの二人はなるべくしてなったという関係に他ならない








正午、静希は軍の用意した携帯食料を腹に入れた後、ゆっくり準備運動を始めていた


やるべき仕事の時間が近づいてきているのがわかったからでもある、なにせこの周囲に研究者と軍人が集まりつつあるのだ


そして自然とその視線が静希に集まっているのが感じられる、これから見ることのできる悪魔の力、そしてその悪魔を飼いならしている人物


実際には飼いならしているとはかけ離れた契約状況ではあるが、他人から見れば静希は悪魔を適度に飼いならしているように見えるのだ


なにせ自分の決めた時に能力を使わせているのだから、実際に操れていると言っても問題はないだろう


『さてメフィ、準備はいいか?』


『えぇいつでも、派手に一発当てればいいのね』


『あぁ、威力よりも派手さを要求したいな、どでかい花火を頼むぞ』


今求められるのはその威力よりもその強大さだ、はっきり言ってしまえばその威力は悪魔である以上人間の使う能力の何百倍もあるのだ、中身だけではなく、外見上も強力であるように見せかければなおよい、今回の目的からすれば派手であればあるほどありがたいのだ


「ミスターイガラシ、そろそろ準備が終わる、君の方も準備を」


「えぇわかってます・・・少尉、資料を返しておく、この辺りも巻き込まれるかもしれないからどこかに保管させておいてくれ」


そう言って先程まで持っていた資料をカールに渡すと、先程までずっと静希にへばりついていた視線が急になくなる


恐らく目標が静希からカールの手に渡ったという事を認識したのだろう、テオドールの部下はしっかりと目標を認識している、ここまでは問題ない


「了解した、おい、これを保管庫に」


「了解です!」


カールは近くの部下に資料を運ばせるようだった、これは好都合だ、カール自身が持っているよりもその部下がもっていた方が仕事は運びやすいだろう


カールの立場が現場の指揮である以上この辺りにいなければいけないのはわかっていたが、部下に運ばせてくれるのはありがたかった


資料がどこかに運ばれたのであれば静希としてはもう何時動いても問題ない、できる限り大きく、派手に周囲の人間の視線を自分に集める


普段なら視線を自分から逸らせるのが定石なのだが、今の立場からすると注目を浴びないというのは無理があるだろう、ならばいっそ大仰に視線を集めて派手に意識をこちらに集中させた方がいい


自分が派手に動けば、その分周りの人間は動きやすくなる


テオドールに手を貸すというのは少々癪だが、これも仕方のないことだ、あの情報はそれだけの価値がある、周辺諸国に解析させてしっかりと対策を練るべきだ


「よし、少尉、こっちの準備はオーケーだ、研究者たちの避難はどれくらい終わってる?」


「八割といったところだ、まだ場所をはなれたがらないバカがいて・・・済まないがもう少し待ってくれると助かる」


研究者というのはこういう時に厄介だ、自分の考えが立証されるまで妙に頑固になることがある


本来であるなら命の危険があるとわかるような場面で、それを理解する頭をすべて別のことに回してしまえるのだ


頭の使い方を間違っていると言いたいが、それもそれで有用な使い方だ


一点突破と言えば聞こえはいい、少なくとも他のことに目もくれない集中力と言えばそれもまたいい表現の仕方だろう


だが実際は盲目的になっているだけで周りに迷惑をかけることもしばしばだ、現在進行形で迷惑をかけている人間もいる、軍の人間が急いで避難させようとしているようだが、なかなかどうして研究者も護衛対象なのだ、むやみに傷つけるわけにもいかないのだろう


「少尉、こちらとしてもさっさと終わらせたい、強引な手を使ってでも研究者をさがらせてくれ、でなければ命の保証はできない」


「わかっている、おい、近くの研究者を今すぐさがらせろ、防御担当のチームは何時でも能力を使えるように待機しておけ!」


こういう時に悪魔の契約者という立場はありがたい、多少無茶なことでも指示できるのだから


悪魔の契約者が危険という事をわからせるいい機会かもしれない、思えば悪魔の力を大々的に使うのは実に久しぶりかもしれない


巨大な能力を使っての攻撃は、過去ダムを破壊したとき以来だろうか


『今日は久しぶりにでかい能力を使えるな、お前としてもいいストレス発散になるんじゃないか?』


『そうね・・・あれが壊れないのはわかってることだし、思い切りやってあげましょうか』


幸いにして周囲は高い魔素濃度を保っている、この状況であればメフィは最高に近いコンディションで能力を使えるだろう


普段は能力を使わせないようにしているのだ、たまにはガス抜きという意味でもこういうことがあってもいいかもしれない


『邪薙、万が一俺に余波が来たらその時は防御頼むぞ』


『了解した、任せておけ』


軍の防御だけでは心もとない、余波程度であれば邪薙が全力で障壁を張れば防ぐことはできるだろう


「ミスターイガラシ、準備ができた、全員避難完了、いつでもいいぞ」


「了解した少尉・・・それじゃいっちょやりますか」


悪魔の契約者としての仕事、こういう仕事をするのは初めてだがどれだけ注目を集められるか、せいぜい大仰に周囲の視線を集めることにしようと静希は意気込んでいた


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