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J/53  作者: 池金啓太
二十九話「跡形もなく残る痕跡」

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静希の中に

「ダメよウンディーネ、シズキの体には私が入るわ、貴女はクイーンの中にでも入ってなさい」


「え?・・・わ、私はそれでもかまいませんが・・・」


ウンディーネは何故メフィが急にそんなことを言い出したのかは知らないが、とりあえず彼女の言う通りにしておくことにした


何か自分の知らない約束事でもあったのだろうかと不思議がっていたが、ウンディーネは静希によって一時的にクイーンの中に入れられることになった


「・・・何で宿るのを嫌がったんだ?変な奴」


「・・・シズキの中に入るのは私が最初が良かったのよ、今までやってこなかったでしょ?」


あぁそう言えばそうだったなと、静希は他の人外たちを収納した後でメフィと向き合う


思えば人外を体の中に内包するというのは初めてだ、エドやカレンは自然にやっていることだが、いざやるとなるとなかなか緊張する


「ていうかお前表に出ない方がいいって言ってただろ、それはいいのかよ」


「シズキの中に最初に入るか他の人に気付かれるか、比べるまでもないわ、シズキの初めては私のものよ」


嫌な言い方をするなと静希は眉間にしわを寄せながらメフィの方を見る


初めてというと一種の痛みのようなものがあるような気がしてならないのだ、静希だって痛いのは嫌なのである


「一応聞いておくけど、痛くはないよな?」


「それは大丈夫よ・・・まぁ違和感はあるでしょうけどね」


メフィがゆっくりと静希と体を重ねるようにしてその内部に侵入していく


違和感


メフィはそう言ったが、確かに妙な感覚が静希の中に生じていた、自分以外の存在を自分の内側から感じる


人外の気配、そう言った類のものを感じ取れる静希にとってそれは強烈な違和感だった


なにせ自分の体の中から人外の気配がするのだ、普段から一緒にいるメフィではあるがそれが自分の内側にいるとなるとその違和感は生半可なものではない


『どうかしらシズキ、自分の体の中に入られる気分は』


どうやらトランプとは別に、こうして宿主と会話することができるようだ、なるほどこれがエルフ達が普段味わっている精霊との会話という事だろう、今までのトランプの会話に近い感じだが、聞こえてくる場所が違う気がする


『あぁ・・・妙な気分だ、歯の間になんかが挟まってるような感じ』


『嫌な表現ね・・・まぁいいわ、トランプの換装が終わるまではこの状態よ』


静希のスペードの中に入っているのは水素を用いた水圧カッターだ、今この場で入れ替えを行ってもいいのだが漏れ出た水素を吸い込んでしまったりすることもある、入れ替えを行うにはまず完全な密室状態と低温状態を作るしかない


トランプの間をほぼゼロにすれば消耗は抑えられるが、周囲の温度に触れて液体が気体にならないとも限らないのだ


なにせ水素は超低温でしか液体の状態を保てない、真空状態にすれば運動エネルギーの減衰も温度の変異もないだろうが現状では百%のトランプの入れ替えはできない、少々面倒ではあるがこればかりは仕方ないだろう


せっかく鏡花が面倒な工程を踏まえて作り直してくれた水圧カッターだ、ここで無駄に消費するのだけは避けたいところである


『なるほど、トランプの内部同士であれば会話も可能なのですね』


『そういう事だ、まぁ世間話でもして仲良くしててくれ』


どうやらウンディーネはもうすでにトランプの中に慣れ始めているのだろう、いい傾向だと思いながらも静希はどうしたものかと頭を痛めていた


なにせ体の中にメフィがいるという状況はあまりいいとは言えない、なにせ他の契約者がいた場合、その気配をたどられる可能性があるのだ


今は黒い歪みの放つ気配のおかげで、人外の気配自体を感じ取りにくくなってはいるものの、他の人間が静希の変化に気付かないとも限らない


なにせ今まではなっていなかった人外の気配を静希が放つようになっているのだから


『・・・なんか肩凝るような感じだなこれ、お前としてはどうなんだ?俺の中とやらは』


『悪い気分じゃないわ、でもやっぱり人間の体の中は窮屈ね、トランプの中の方がずっと快適よ』


以前も人間の体の中は窮屈だと言っていたが、自分の体の中の様子を言われるというのもなんというか奇妙な感覚である


普段静希は人外たちをトランプの中に入れているために体の中に人外を入れるという事は基本してこなかった


そのせいか強い違和感と存在感を体の中から感じるために、異物感が否めない


『もしかしてこの状態であればダイレクトに魔素を注ぐことができるのか?』


『できるわよ?でも乱発はしないようにね、外に出てる時と比べると精密なコントロールは期待できないわ』


元より魔素や能力の細かな制御を苦手としているメフィではあるが、静希に魔素を注ぐ時は特に細心の注意を払って行っていた


静希自身の魔素許容量が少ないために、ほんのわずかに注入する魔素が増えると静希の体が余計に奇形化してしまうためである


適量を注ぎ込めば負担の少ない少量の奇形化で済むが、その為にはメフィ自身も集中できる状況が必要なのだろう


本当に厄介だなと自分の体の『弱さ』を自覚しながら静希はため息をつく


弱さを自覚しているからこそこういう戦い方しかできないのだが、これももはや今さらというものだろう


さてどうしたものか


顔を洗うだけのつもりだったのにいつの間にかこんな面倒事を引き寄せてしまった、相変わらず自分は人外との何かしらの縁があるのかもしれない


メフィと関わってから一年弱、出会った人外はそろそろ二桁に届こうとしている


まったくもって不本意ではあるが、もう自分はこういう星の下に生まれてきているのだなと認めるほかないだろう








「あれ?随分と早起きだね・・・どこか行ってきたのかい?」


「あ、起こしちゃいましたか・・・すいません、ちょっと顔を洗いに」


静希が部屋に戻ってくるとどうやら物音で起こしてしまったのだろうか、大野がゆっくりと起き上り大きく欠伸をしていた


もう日が昇り、あたりは明るくなりつつある、すでに動き出している軍の人間もいるだろう、これから本格的に二日目が始まることになる


とはいうものの、静希達にとっては二日目でも他の人間にとってはすでに何日も経過していることなのだ、そんな中で静希達ができることは限られる、まずはこの近辺に住んでいるエルフの確認と、テオドールの部下が件の魔素のデータを拝借するのを援護する事だ


援護と言ってもたいしたことはできない、静希が盗んだわけではないというアリバイも欲しい、そう考えるとできるのはせいぜいカールの意識を自分に向けさせる程度だろう


裏でこそこそ何かを行うのは静希の得意分野ではあるが、それを自分から主導で行わずにサポートに徹しなくてはいけないというのもなかなか不便なものだ、全ての人間の意識を自分に集中させるには、多少荒事を行わないと難しいかもわからない


「んん・・・やっぱりまだ体がだるいな・・・一日じゃそう簡単に時差ぼけは治らないか」


「まぁそうでしょうね、俺も若干体に違和感があります」


違和感があるのは時差ぼけだけが原因ではないのだが、このことは言わない方がいいだろう、この二人はあくまで静希の護衛役としてここにいるのだ、余計な心労を与えるのはよくない


新しい人外が増えましたなんてことを言えばそれだけ面倒になるのはわかりきっている、静希の人外事情を知っている人間は数が限られているとはいえ毎度毎度面倒に巻き込むわけにもいかないだろう


「とりあえず俺は朝食を終えたら少尉の所に行ってきますけど、大野さんはどうしますか?」


「ん・・・わかった、こっちはそれまでに動けるように準備をしておくよ、あまり早く動きすぎないようにしてくれるとありがたいかな」


まだ寝起きという事で完全に意識が覚醒していないのだろう、頭をふらふらさせながらもなんとか起きようとしている


彼らは表向き静希の護衛という役目ではあるものの、静希の監視という役目も担っているのだ、あまり強くその旨を主張するようなことはしないが、静希はそのことをある程度察していた


公になっていないとはいえ、静希は数少ない悪魔の契約者だ、存在するだけで他国にプレッシャーを与えることができる存在と言ってもいい


そんな危険人物から目を逸らさないようにする、どこかに逃げないようにする、そう言う意味もどこかに含まれているのだろう


もっとも大野と小岩は静希の人柄を少なからず把握しているために、監視というよりは同行といったほうが正確かもしれない


彼らの上司の町崎も恐らく同様だろうが、さらにその上にいる人間がどういう反応を示すかは微妙なところだ


静希の立場をそのままにして、犯罪を犯すことなく行動する、面倒ではあるが平和的に学生生活を送るためには必要なことだ


とはいえただでさえ事件の解決法も見いだせず、どうやってこの状況から解放されるか、あるいはどうやってこの事件を管理している人間に情報を伝えるか、考えることもやることも多いとなると非常に面倒だ


『シズキ、なんだかざわざわしてるわよ、何考えてるのかしら』


『あぁ・・・まぁ今日の行動についてだよ・・・中に入ってるとそう言うのも分かるのか』


普段のトランプの中に入れている状態と違い、今は静希の体の中にダイレクトに入っている状態だ、今のメフィが静希の心理状況を把握できても不思議はない


『なんとなくだけどね、シズキの心理状態くらいならわかるわ、もっと気楽に考えたらどう?』


『それができれば苦労は無いんだけどな・・・ていうかそう言うのを察知されるってのはあれだな、ちょっと気恥ずかしいな』


今までは静希が苛立っていたり焦っていたりしてもトランプの中には影響はなかったからこそ知られることもなかったが、今メフィは静希の中にいる

なんだか心の中を見透かされているようで少しだけ恥ずかしかった


『あら、それなら考えてること全部察したらどんな風になるのかしら、ちょっと楽しみね』


『勘弁してくれ、日常生活のプライバシーもないに等しいのに思考の個人情報まで無くなったらどうしたらいいんだよ』


常日頃からメフィ達人外と一緒にいるため、静希のプライバシーは現在ないに等しい状況である、ある程度は人外達も察して静希を一人にしてやったりと気を回しているが、それもある程度のものでしかなく実際静希にプライバシーも何もあったものではないのだ


自分の個人的な時間だけではなく精神的な自由も無くなるとなると本格的に静希の一人での時間というものは皆無になるだろう


こんな状態をずっと続けているエルフやエド達は恐ろしいなと思いながら静希は一種の尊敬の念すら覚えていた


精神状態まで察知されるというのは思考することが多い静希からすると厄介極まりない、メフィの発言から察するにある程度の感情の機微程度しか察することはできないのだろうが、もし彼女が全力で静希の感情を察知しようとしたらどうなるかわかったものではない


『どうしたのシズキ、またちょっとざわついてるわよ?』


『・・・お前が中にいるといろいろと緊張するんだよ、お前外見上はいい女だからな』


『心にもないことを言うわね、まぁ嘘でも嬉しいわ』


嘘を言ったつもりはないが、メフィは静希の言葉をお世辞のようなものだと受け取ったらしい、実際メフィは『外見上は』美しい女性だ、角と目が普通の人間のそれでないことを除けばの話ではあるが


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