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川相昌弘は野球殿堂にふさわしいのか?

はじめに

みなさんこんにちは、ヤキグラです。
先日、2026年の野球殿堂候補者が発表されました。殿堂入りの結果は、1月15日(木)に発表されます。

その中で、今年の殿堂入り最有力候補とされているのが川相昌弘氏です。1990年代に巨人の遊撃手として活躍し、犠打の世界記録を樹立した川相氏は、昨年の投票では殿堂入りを果たしたイチロー、岩瀬仁紀に次ぐ、3番目の得票率を記録しました。2012年に候補者となってから15年が経過し、規定により今年がプレーヤー表彰における候補資格の最終年となります。

一方で、川相氏の殿堂入りの是非を巡っては、SNS上でも賛否が大きく分かれています。
私が毎年実施している野球ファンによる模擬殿堂投票においても、得票率は決して高いとは言えず、下位に位置する結果となっています。

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2025年野球殿堂 プレーヤー表彰 ファン投票結果

そこで今回のnoteでは、「川相昌弘は野球殿堂にふさわしいのか」というテーマで、私なりの考えを整理していきたいと思います。
あらかじめお断りしておくと、私は川相氏の現役時代をリアルタイムで見ていない世代です。そのため、このnoteは若造の戯言と思ってもらって構いません。ただ、だからこそ当時の空気感や思い入れから距離を置き、比較的客観的に評価できる部分もあると考えています。

以上をご承知のうえ、読み進めていただければ幸いです。
(以下、敬称略)

野球殿堂選考における4つの要件

野球殿堂博物館「表彰委員会規程」第16条では、野球殿堂・競技者表彰の選考にあたり、4つの要件が定められています。

第 16 条(選考の要件)
競技者表彰委員会委員は、候補者の中から次の要件によって野球殿堂入りの選考をしなければならない。
(1)試合で表現した記録、技術が優れている者
(2)所属チーム及び野球の発展に顕著な功績をあげた者
(3)野球に対し誠実であり、スポーツマンシップを体現した者
(4)ファンに野球の魅力を伝えた者
なお、完全試合の投球、未曽有の長距離本塁打、単年度の大記録、実働が短期間での活躍等をもって、野球殿堂入りとして選考してはならない。

https://baseball-museum.or.jp/pdf/hof/halloffame_regulations.pdf

今回はこの4つの要件を軸に、川相が野球殿堂入りにふさわしい人物なのかを検討していきます。


(1)試合で表現した記録、技術が優れている者

まずは、川相の残した打撃面での記録を確認していきます。
NPB公式サイトで確認できる主な通算打撃成績について、2026年の野球殿堂プレーヤー表彰候補者の野手と比較し、川相がどの位置にあるのかを表にまとめました。

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2026年 野球殿堂プレーヤー表彰候補者の通算打撃成績1
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2026年 野球殿堂プレーヤー表彰候補者の通算打撃成績2

結論から言えば、多くの指標で川相はワースト3以内に位置しています。そもそも他の候補者と比べて出場試合数が少なく、安打などの積み上げ型の指標で下位に沈んでいるうえ、打率などの率系指標においても下位となっており、全体として見劣りする印象は否めません。

また、いわゆる小技を売りとするタイプの選手でありながら盗塁数は少なく、打率や出塁率も高いとは言えません。結果として、多くの指標で川相と同じくワースト3に入っている赤星憲広と比べても、その点で差をつけられている状況です。

その中で、候補者中トップとなっているのが犠打数と三振数です。ただし、三振数の少なさについては、出場試合数が少ないことによる影響も考えられます。そこで、打席数に対する三振の割合を示すK%を確認すると、こちらでも候補者中3位と比較的上位に位置しています。

もっとも、三振が少ないこと自体が殿堂入りの評価軸として重視されてきた例は聞いたことがありませんし、突出した水準と言えるかというと微妙です。この点を強い評価材料とするのは、やや苦しいと言えるでしょう。

そして、世界記録を樹立し、川相最大の武器である犠打については、後ほど改めて詳しく考察していきます。


続いて、打撃タイトルや各種表彰について確認していきます。

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2026年 野球殿堂プレーヤー表彰候補者のタイトル・表彰

多数のタイトルホルダーが名を連ねる今回の候補者の中で、川相は打撃タイトルの獲得歴が一度もありません。表彰面でも、ベストナインの受賞は1回にとどまり、これは候補者の中で最も少ない数字となっています。
この点でも、他の候補者との差は大きいと言えるでしょう。


次に、守備成績について見ていきます。
ここでは川相と同じく遊撃手としてプレーした候補者に絞って比較を行います。ただし、それだけではサンプル数が限られるため、過去10年間のプレーヤー表彰で候補者となった遊撃手も比較対象に加えました。

なお、NPB公式サイトでは通算の守備成績を確認できないため、守備に関するデータは「日本プロ野球記録」を参照しています。
また、データは遊撃手としての出場のみとなっています。

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近年の野球殿堂プレーヤー表彰候補者 遊撃での通算守備成績

出場試合数が比較的少ないこともあり、通算の守備成績では候補者中ワーストとなっている項目が多く見られます。
その一方で、ゴールデングラブ賞を6回受賞しており、これは候補者中2位タイの数字です。
この点は、川相の守備力を評価するうえでの大きなプラス材料と言えるでしょう。

ただし、川相を上回る7回受賞の井端弘和が、候補者1年目で得票率2.8%にとどまり資格を喪失しているという事実もあります。
ゴールデングラブの受賞回数が、そのまま殿堂入り評価に直結するわけではない点には、留意が必要かもしれません。


ここまで見てきた通り、打撃成績や表彰、守備成績を総合すると、川相は多くの指標で他の候補者を上回っているとは言えません。
その中で、唯一大きくリードしている項目が犠打です。ここでは、この犠打をどのように評価すべきかを考えていきます。

そもそも送りバントは、基本的に「打力の低い打者に対して指示される作戦」です。これは、セイバーメトリクスの普及によって送りバントの有効性が疑問視されるようになった現代特有の考え方ではありません。以前から、投手には送りバントが多く命じられ、王貞治や長嶋茂雄には送りバントの指示は出ませんでした。

では、川相が現役だった当時も同様だったのでしょうか。
それを確認するため、川相と同時期にプロ入りした選手を対象に、通算OPSと通算犠打率(1打席あたりの犠打数)の相関関係を見てみます。

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通算OPSと通算犠打率の相関関係

その結果、打力と犠打数の間には明確な負の相関が見られました。川相の現役時代においても、「送りバントは打力の低い打者に対して指示されやすい作戦」であったことが、データ上からも裏付けられているように見えます。

こうした傾向を踏まえると、たとえ犠打数で世界記録を樹立したとしても、その多さだけを理由に、川相より高い打撃成績を残している選手よりも評価を上げることは妥当なのでしょうか。
少なくとも、他の打撃指標で群を抜いた成績を残している選手と、同列に評価することには違和感を覚えます。

また、この傾向は川相自身の成績からも読み取ることができます。
川相は1990年から8年間で7度にわたりリーグ最多犠打を記録していますが、その7度のうち、ベストナインを受賞した年は一度もありませんでした。

一方で、8年間の中で唯一リーグ最多犠打とならなかった1994年には、ベストナインを受賞しています。この1994年は、川相にとってプロ生活で唯一、シーズン打率3割を記録した年でもありました。

これらの事実を踏まえると、川相の現役時代においても、犠打そのものが高く評価されていたとは言い難いように思えます。少なくとも、犠打数の多さが主たる評価軸となっていたのであれば、リーグ最多犠打を記録した年にこそ、表彰面での評価が伴っていても不思議ではありません。

「昔の選手を現代の価値観で評価するのは適切ではない」という指摘は、川相の殿堂入りに否定的な意見に対する反論として、よく挙げられます。この点については、私自身も一理あると考えています。
ただし、その前提に立つのであれば、ベストナインのように当時の価値観が色濃く反映された表彰を、より重視して評価すべきではないでしょうか。


(2)所属チーム及び野球の発展に顕著な功績をあげた者

続いて、要件の2つ目である「所属チームおよび野球の発展に顕著な功績をあげたか」について検討していきます。

まずは「所属チーム」への功績です。
この点については、やはり在籍期間中にチームの優勝へどれだけ貢献したかが、ひとつの重要な指標になるでしょう。そこで、候補者それぞれが在籍したチームのリーグ優勝回数、日本一回数を比較してみます。

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2026年 野球殿堂プレーヤー表彰候補者のリーグ優勝・日本一回数

川相は巨人に長く在籍していたこともあり、リーグ優勝、日本一の回数はいずれも候補者の中では上位に位置しています。ただし、他の候補者を大きく引き離すほど傑出しているわけではなく、この点だけをもって殿堂入りを後押しする材料になるかというと、やや物足りなさは残ります。


次に「野球の発展」への功績についてです。
こちらは数値で測れるものではありませんが、川相が送りバントを単なる戦術の一部から、「職人芸」として認識される領域にまで高めたことは、ひとつの功績と言えるのではないでしょうか。

その結果、川相は送りバントの象徴的存在となり、野球ファンに限らず、「送りバント=川相」というイメージを広く浸透させました。特定の指標と選手個人がここまで強く結びついている例は、「ホームラン=王貞治」「安打=イチロー」くらいではないでしょうか。

こうした点は、川相を評価すべき部分であり、要件(2)における「野球の発展」という観点では、一定の加点要素になると考えます。


(3)野球に対し誠実であり、スポーツマンシップを体現した者

続いて、要件(3)である「野球に対し誠実であり、スポーツマンシップを体現した者」についてです。
この項目については、残念ながら客観的な指標で評価することが難しく、明確な判断材料を見出すことができませんでした。

可能な限り資料や記事を調べてはみたものの、特定のエピソードや行動が、この要件を強く裏付けるものとして広く共有されているわけではないように見受けられます。少なくとも、殿堂入りを左右する決定的な根拠として提示できる情報は確認できませんでした。

この点については、実際に川相に投票しているメディア関係者が、どのような観点からこの要件を評価しているのかを、ぜひ言語化してほしいところです。そうした議論が提示されることで、川相の殿堂入りに対する納得感も、より高まるのではないでしょうか。


(4)ファンに野球の魅力を伝えた者

続いて、要件(4)である「ファンに野球の魅力を伝えた者」について検討します。
この要件は、「ファンからの人気が高かったスター選手」と言い換えることができるでしょう。ただし、人気という要素を定量的に評価するのは容易ではありません。

その中で、プロ野球において比較的客観的な指標となり得るのが、オールスターゲームのファン投票です。そこで、候補者それぞれのオールスターファン投票による選出回数を確認してみます。なお、データは「日本プロ野球記録」から引用しています。

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2026年 野球殿堂プレーヤー表彰候補者のオールスターファン投票選出回数

その結果、川相のファン投票選出回数は1回にとどまり、これは候補者の中でワーストタイの数字となっています。少なくとも、ファンからの人気という観点において、殿堂入りにふさわしいと評価できるほどの実績を残しているとは言えなさそうです。


まとめ

以上のように、各要件に沿って川相の殿堂入りについて検討した結果、私は「川相昌弘は野球殿堂入りにふさわしくない」と考えました。
犠打のイメージを変えた点については一定の評価に値する実績だとは思いますが、その一点のみで殿堂入りとするには、他の実績があまりにも物足りない、というのが率直な結論です。

もっとも、これはあくまで「自分が投票者であれば川相には投票しない」という立場を示したにすぎません。仮に今年、川相が殿堂入りを果たしたとしても、投票者に対して異議を唱えるつもりはありません。むしろ、現在の野球殿堂は殿堂入りできる人数が少なすぎると感じており、一人でも多くの選手が殿堂入りすること自体は、喜ばしいことだとも思っています。

川相に投票している投票者たちは、このnoteでは客観的に検証しきれなかった要件(2)や要件(3)を高く評価したのかもしれません。あるいは、送りバントに対して私とは異なる解釈によって、その世界記録を重く評価したのかもしれません。

また、理屈や数値とは別に、川相という選手に強い好感や信頼を抱いているファンが多いことも、否定できない事実でしょう。
監督の指示を忠実に遂行し、与えられた役割を黙々と全うする姿勢は、90年代のプロ野球を象徴するものであり、「チームのために身を削る選手」として記憶している人も少なくないはずです。
そうした姿に価値を見出し、殿堂入りにふさわしいと考える意見があること自体は、十分に理解できます。


私がこのnoteを通じて最も伝えたかったのは、川相昌弘の殿堂入りの是非そのものではありません。

今の野球殿堂が抱える、より大きな問題点についてです。

その問題とは、「川相昌弘が殿堂入りできること」ではなく、「川相昌弘が殿堂入りできた理由を、我々野球ファンが知ることができないこと」です。言い換えれば、「投票者が何を基準に、どのような判断で投票しているのかが、ほとんど見えてこないこと」だと考えています。

昨年のアメリカ野球殿堂では、投票者の81.5%が投票内容を公開しました。多くの投票者が自身の記事やSNSで投票理由を明らかにし、その内容をめぐってファンの間で議論が生まれることで、野球殿堂そのものが大きな盛り上がりを見せています。

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アメリカ野球殿堂における投票者別の投票内容

一方、日本の野球殿堂で投票内容を公開している投票者は、私の知る限りわずか2名のみで、その割合は0.6%に過ぎません。残る99.4%の投票者たちは、このnoteのように要件に基づいて選手を評価したのでしょうか。あるいは、自身の判断を言葉にできるほど、十分に考え抜いたうえで投票しているのでしょうか。

この問題を解決しない限り、アメリカのように野球殿堂が「球界最高の栄誉」として広く認知されることは難しいでしょうし、知名度や権威の面でも、今後も名球会の後塵を拝し続けることになるのではないかと感じています。

長くなりましたが、今年の殿堂入り発表を楽しみにしつつ、今後の野球殿堂がより開かれ、より納得感のある制度へと進んでいくことを願い、本noteを締めたいと思います。

最後までご覧いただきありがとうございました。
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