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高校物理が「難しい」と感じるのは「物理的な考え方」を身につける必要があるため

中学まで理科は得意だったのに、高校の物理はわからない。教科書に書いてあることはまあまあ理解できるけど、問題をどう解けばいいのかわからない。基本問題は解けても、応用問題になるともう解けない。そんな人は多いと思います。自分もそうでした。
しかし物理を勉強してきてある時ふと真相に気づき、そこからは物理が得意科目になってセンター試験(現:大学入学共通テスト)では100点満点を取れるようにまでなりました。実は物理というのは中学までの理科とはもちろん化学や生物とも全く異なる考え方が必要となります。ここではそれを便宜上「物理的な考え方」と呼びます。


「物理的な考え方」とは

物理で初期に学ぶ基本的な法則にma=Fというのがありますね。「質量mの物体に力Fを加えると加速度aが生じる」という意味です。
物理が苦手という人でも「質量10kgの物体に30Nの力を加えたときの加速度は?」という問題ならa=F/m=30/10=3m/s^2とカンタンに答えられるでしょう。
さて、ではここで質問です。あなたの体には重力が働いてますね? ではなぜあなたの体は地球の中心に落ちていかないのでしょう?

おそらく多くの人はこの質問の意図がわからないと思います。「え、そりゃ床や地面があるからでしょ?」と思うでしょう。
しかしもう一度上の文章を見てください。「質量mの物体に力Fを加えると加速度aが生じる」んですよね? そしてあなたの体には重力という力Fが働いています。だからma=Fが成り立つならあなたの体には加速度が生じていないとおかしいんです。
教科書を読み込んでいる人ならここで「垂直抗力Nも同時に働いており重力と合成するとF=0になるから加速度が生じないのだ」と気付けるでしょう。
しかしふつう人は「私の体には重力が働いてる。なのになぜ落下しないんだ? そうか、きっと床からも重力を打ち消すように同じだけの力が働いてるんだ!」とは考えません。ma=Fの説明を聞いた直後ですら。
しかし物理を勉強する上ではこのことをしっかり心に留めて置かなければいけません。物体は物理法則「のみ」に従って動く。これが「物理的な考え方」の1つ目です。

モデル化

さて、物理の教科書を読んで物理法則などを学んでも、例えば

軽い糸でつながった、質量 M の物体Aと質量 m の物体Bが、なめらかな水平面上に置かれている。物体Aに一定の大きさ F の力を水平方向に加え、全体を等加速度運動させる。ただし、糸は水平であるものとする。このとき糸の張力と物体A、Bに働く加速度を求めよ。

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というような問題を出されると、とたんにわからなくなってしまう人は多いと思います。えっ、そんなこと言われたって……。
おそらくこのとき頭に渦巻いている混乱を言葉で表すと次のようになるでしょう。
「そんなこと言われたって、どうやればいいか見当もつかないし、だいたい空気抵抗とかあるし、うまく滑らないかもしれないし、途中で進路がずれて落ちちゃうかもしれないし、いろんな要因が絡んでくるんだから一概にどうなるかなんて言えないんじゃないの?」
これはまったくもって正しいのですが、物理では現実世界を単純化……より正確に言うとモデル化しています。具体的にいうと、物理世界では「力を水平方向に加え」と書かれていたらそれは完全に水平で横にそれたりしないし、空気抵抗は(特別な指示がある場合を除いて)ない。「摩擦力は無視する」と書いてあったら、摩擦力はない。
「そんな風に単純化したら現実を正しく表せないんじゃないの?」と思うかもしれませんが、現実世界というのはそのまま捉えるとあまりに複雑すぎるので人間の手には負えません。科学というのはまずごく単純化した状況から考え、少しずつ現実の複雑さを取り入れながら発展してきました。そして現在では天気予報など複雑な事象も扱えるようになっています。高校物理でも初期の科学者たちのように現実を単純化(モデル化)して科学の基礎を勉強しているわけです。これが「物理的な考え方」の2つ目です。

実際の問題の解き方

では改めて上の問題をもう一度見てみましょう。

軽い糸でつながった、質量 M の物体Aと質量 m の物体Bが、なめらかな水平面上に置かれている。物体Aに一定の大きさ F の力を水平方向に加え、全体を等加速度運動させる。ただし、糸は水平であるものとする。このとき糸の張力と物体A、Bに働く加速度を求めよ。

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このとき「えーっと、物体Aには力Fが働いて、物体Bは糸で引っ張られるわけだけど、物体Aは糸で引っ張られる分遅くなって、そうすると物体Bを糸で引っ張る力も弱まるわけだけど、そうなると物体Bはさらに遅くなって糸で繋がれた物体Aも遅くなるわけだからつまりえーっと……」とか考え始めると一生かかっても解けません
中学までの理科の問題というのは「1つの細胞が分かれて2つの細胞になることを何というか」というような知識を問う問題であったり、「アンモニアは水上置換法で集めることはできないのはなぜか」というような考察問題だったり「100gの水に25gの食塩を溶かした水溶液の質量パーセント濃度は何%か」というような計算問題だったりしました。
しかし高校物理の問題は日常生活とはもちろん他の理科の科目ともまったく異なる考え方、手順を使わないと解けません。
具体的には:
1. 状況の把握
2. 成り立つ法則や関係を考えて立式
3. 2.で立てた式を中学数学のときと同じように普通に連立方程式として解く

これが最後の「物理的な考え方」です。以下、順に詳しく見ていきます。

1.状況の把握


対象とする物体について、どの方向に運動しているか(または静止しているか)、どのような力が働いているかを考えます。高校物理で登場する力は以下だけです。
遠隔力(離れた物体に働く力)
・重力
・電気力
・磁気による力(通常ローレンツ力)
遠隔力以外は直接触れている物体しか力を及ぼせません。具体的には、
・垂直抗力
・摩擦力
・張力
・弾性力

なお、

  • ピンと張った糸でつながれた物体は速度や加速度が等しい

という(教科書には明示的に書かれていない)暗黙の了解を理解している必要があります。
そして、力や速さなどに名前をつけます(たとえば垂直抗力ならN、速さならv、といった具合)。
今回の場合求めたい張力にはT、加速度にはaと名前を付け、以下のように物体に働いてる力を書き出します(正確には重力と垂直抗力も働いてますがここでは説明をカンタンにするため省略しています)。

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2. 成り立つ法則や関係を考えて立式


物体A、Bに対してma=Fの法則を当てはめると以下のような式ができます。
物体A: Ma = F - T
物体B: ma=T

問題によって質量の記号や働いてる力が異なるので「ma=F」という形がそのまま出てくる訳ではないことに注意してください。

今回の場合はma=Fしか使いませんでしたが、実際には物体の衝突など相互作用のみ働く場合は運動量保存則が成り立つ、重力しか働いてない物体については力学的エネルギー保存則が成り立つ、などを考慮して立式します。

3. 2.で立てた式を連立方程式として解く

ここまで来たら後は中学数学で習った連立方程式と同じように解けばいいだけです。と言っても中学数学の

10x+3y=2
3x+13y=4

のようなものとは違って文字だけの式なのでどう解けばいいのかわからないかもしれませんが、物理の場合は「分かっている値(文字)」で「求めたい値(文字)」を表すように解けば大丈夫です。
今回の場合、問題文で質量M, m、力Fが書かれてるのでこれらは「わかってる値(文字)」になります。要するに、3や7のような具体的な値を表してるとみなしてもいいということです。
Ma = F - T
ma=T
の場合、例えばM→4、m→9、F→5のように置き換えると
4a = 5 - T
9a=T
となって「求めたい値(文字)」である張力Tと加速度aを普通の連立方程式のように解けることがわかると思います。改めて文字に戻し、
Ma = F - T
ma=T
TとaをM,m,Fだけで表すことを考えます。具体的には:
1番目の式のTを2番目の式からmaに置き換える。
Ma=F-ma
maを移項し、
Ma+ma=F
さらに(M+m)a=Fと変形し、両辺を(M+m)で割れば
a=\frac F {M+m}
と、求めたい加速度aを「分かっている値(文字)」であるM, m, Fだけで表せます。
後はma=Tを反対にしてT=maとし、aに上式を代入すれば、
T=m \frac F {M+m}= \frac m {M+m} F
とすれば張力Tも「分かっている値(文字)」であるM, m, Fだけで表せます(この例だと2番めの式も間違ってるわけではないですが、質量を表す文字はまとめたいので3番めの式のように変形しています)。

まとめ

今回解説したのは主に高校物理の中でも力学の初歩の部分だけですが、電磁気学など他の分野も「状況を認識し、どんな物理法則が成り立つかを考え立式し、連立方程式として解く」という点は変わりません。
なお、本文中に書いた「ピンと張った糸でつながれた物体は速度や加速度が等しい」などの「暗黙の了解」には他にも「問題文に『物体が床から離れる瞬間』と書いてあったら床からの垂直抗力は0」などいくつかあるのですが、それほど数は多くないのでいくつか練習問題の解説を読めば自然と身につくと思います。

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