策と秘策
静希は陽太とアモンの戦いが始まる中とにかく前進していた
部隊がアモンのいる場所を避けて二手に分けれて前進しているという事も把握している。今のところ思ったとおりに事が進んでくれていた
相手の奇形種の群れが索敵と同じ役割を担っているのであれば、隊を二つに分けたこと、そしてその片方にエドたちがいる事もすでに確認してあるだろう
「ねぇシズキ、よかったの?」
「ん?なにが?」
近づいてくる奇形種を軽く倒しながら静希は先に進んでいた
鏡花が左腕に仕込んでくれた武器がかなりありがたかった、自動小銃も装備の中に含まれているために軽く弾幕を張った後でメフィの攻撃によって打倒することができていた
「ヨータの事よ、確かにヨータの能力はアモンの能力とは相性がいいと思うけど・・・一対一っていうのは危なすぎよ、私達の本来の力忘れたの?」
「忘れてないって、それを含めたうえで任せたんだ・・・そのくらいはあいつも鏡花も分かってるだろ」
メフィの言っている本来の力というのは悪魔がそれぞれ持つ能力に加え、その膂力の事も言っているのだ
かつて陽太とメフィが全力で押し合いをしたことがあった、もっともメフィは手加減をしていたかもしれないが強化状態の陽太に容易に拮抗して見せたのだ
はっきり言って人間と悪魔では最初から相手にすらならないのだ
だからこそ静希は足止めをしろと陽太に言った、あの場からアモンを動かないようにさせて戦力の比率をこちらに傾けることができればそれでよかったのである
「陽太のポジションは重要だ、それこそこの戦いの全てを決めると言ってもいい、やってもらわなきゃ困る」
「・・・まぁ確かに、ヨータがアモンを足止めできればかなり有利になるわね」
戦場において状況は刻々と変化する、その中で重要なのは相手と自分の駒の配置だ
あらゆる状況においても必ずと言っていいほど戦力には偏りというものが存在する
それは駒に置き換えれば駒そのものがもつ強さと言い換えてもいい、将棋やチェスを思い浮かべるとわかりやすいだろう
チェスで言えば悪魔の契約者は盤面において最強の駒クイーン、そしてただの能力者である陽太はポーンに位置する
今回静希はポーンでクイーンを足止めするような策をとった
こちらの戦力の中でクイーン級の戦闘能力を持つのは静希とエド
相手の戦力の中でクイーン級は先程戦ったアモンと、もう一人の悪魔だと思われる
こちらにいるカレンと相手にいるブファスは確かに強力な能力を有しているがクイーン級の戦闘能力があるとは言えない
故にこのクイーン級をより有効に使ったほうが勝つと言っても過言ではない
相手の主力であるクイーン級をこちらのポーン級で足止めする、それだけで他の場所がかなり有利になるのだ
静希達が相手にする悪魔は後二人、そのうち一人はまともな戦闘能力のない奇形種操作を行っているブファス
そしてもう一人、静希はこの悪魔こそが遠距離攻撃を得意とする悪魔なのではないかと思っていた
航空支援として偵察をしていた偵察機を撃墜するほどの精度を持った遠距離狙撃能力、これを早々に潰すことができれば戦況は一気に傾く
そして奇形種を操っているブファスを倒せれば状況は終了したも同然になるだろう
それを行うためにはこちらのクイーン級を二人とも残しておく必要がある
だからこそ、盤面において最弱の駒で最強の駒を足止めするためにあの策をとった
何も勝つ必要などない、あくまで陽太に求めたのは足止めのつもりだった
人間同士の戦いでもそうだが『勝とうとしない戦い方』というのは並大抵のことでは崩せない。それこそ圧倒的戦力差がなければその状態を崩すことは無理だと言ってもいいだろう
アモンの能力と陽太の能力の相性は最高であり最悪と言っていい
今まで静希が見たアモンの能力では陽太は絶対に倒せない、だがその肉体による力では倒す可能性がある
だからこそ静希は陽太に足止めを求めたのだ、万が一にも負けることのない勝とうとしない戦い方を
だが陽太のことを一番知っているであろう鏡花はそれ以上を求めた
それが陽太のモチベーションを上げるためのブラフだったとしても鏡花はそれを陽太にさせようとしたのだ
悪魔がもともと持つ膂力、その攻撃を一発でも受けたらどうなるか、静希も陽太もそして鏡花も分からないだろう
だが鏡花はそれができると感じたのだろう、それができると思ったのだろう
だからこそ陽太に蹴散らせと言ってのけた
ジャイアントキリングともいわれる、弱者と強者が入れ替わるようなそんな状況
相手との相性を見極めて行われるやり取りなどは陽太にはできない、だが陽太が対峙しているのは炎の悪魔だ
不安がないわけではない、静希が見たところ陽太とアモンの戦闘において陽太の勝率は高くても一割程度と見ていた
悪魔の耐久力というものがどれほどなのかはわからない、人間と同じようにそれぞれ耐久力には違いがあるだろう
アモンの耐久力が低くとも陽太の拳で倒すことができるか、正直静希も確証はないのだ
だが鏡花が言ったのだ、陽太のことを誰よりも知っている彼女が、ならば静希は彼女の言葉を信じるほかないのだ
「うん・・・そう、そのまままっすぐ行けば合流できると思うから・・・うん、そっちも気を付けて」
「今の静希?」
「うん、向こうの部隊と合流するって」
明利達は奇形種の群れをエドとヴァラファールの力を借りて突破した後、そのまま北部へと進攻していた
丁度陽太とアモンが戦闘をしているであろう場所を通過している時静希から通信が入ったのだ
アモンとの戦闘は陽太に任せ、静希は鏡花たちが含まれる左翼に向かった部隊とは別、つまり右翼側へ向かった部隊に合流することにしたらしい
戦力の配分を考えれば自然な対応だ、すでにエドも戦闘を止め温存状態に入っている
相手の主力級である悪魔がどのタイミングで現れるかは不明であるために何時戦闘が起こってもいいようにしてはあるが、どれだけ今の状況を維持できるかもわかったものではない
この後陽太とアモンの戦闘区域を抜けたら両翼に散った部隊を合流させる予定なのだが、鏡花は何か嫌な予感がしていた
「静希聞こえる?これからあんたはどうするわけ?そっちと合流するのはいいけどさ」
『こっちは合流してからは相手の反応待ちだ、悪魔を積極的に倒していくつもり・・・たぶんエドも同じ考えじゃないか?』
静希の無線を聞いていたのか、鏡花の近くにいるエドも頷いて応えていた
悪魔の契約者である自分たちがやるべきは相手の悪魔の打倒だ、ブファスが相手でも他の悪魔が相手でも、相手の悪魔を倒すことができれば状況はかなり楽になる
悪魔を倒すことができるか否か、それが現状における戦いのキーポイントになるだろう
『鏡花、そっちの采配はお前に任せる、もし問題が発生した場合は適宜対応してくれ、状況によってはエド達と協力して戦ってくれるとありがたい』
「なによ、私に悪魔の相手を一緒にさせようってこと?」
『可能性の一つだ、でも明利から離れるなよ?あいつを守ってやれるのはお前達しかいないんだ』
相変わらず明利には超がつくほど過保護だなと思いながら鏡花はため息をつく
この場にいる戦力は多い、悪魔の契約者であるエドとカレン、そして鏡花にその他の軍人たち、これだけいれば悪魔と対峙することだってできるだろう
倒すことができるかはまた別問題だが
「はいはい・・・そっちも気を付けなさいよ?なにがあるかわからないんだから」
『こっちは問題ないよ・・・っとようやく見つけた、部隊と合流できたからこのまま北上する、んじゃまたな』
静希はどうやら向こうの部隊と合流することができたようだ、またなという事はこちらと合流するつもりがあるという事だろうか
戦力は丁度半分になるように分断された形になるが、それでもこちらの方が多少戦力に余裕があるように思える
こちらへの砲撃支援も続けられるようだが状況は少しずつ好転していると思いたい
相手の悪魔であるアモンは陽太が足止めしている、戦力的にはこちらに傾いていると思いたいが実際のところどうかはまだわからない
「キョーカ、前方やや右側に奇形種がいるらしい・・・かなりの数だそうだ」
「了解です・・・たぶん合流させないつもりね・・・」
どうするか、鏡花の頭の中ではすでにいくつかの状況がシミュレートされていた
進行方向やや右という事はこれから分断された部隊と合流するであろう場所に配置してあるというのはわかる
自分達のいる左翼側、そして静希のいる右翼側が合同でその奇形種の群れに対して攻撃を開始しても構わないのだが、無理に合流を図る必要もないのではないかとも思えてしまう
戦力はすでに二通り存在するのだ、こちらの主力はそれぞれの場所にすでに潜り込んでいる
相手の戦力において重要視されるのは片方、つまりは遠距離攻撃ができると思われる悪魔だけだ、ブファスの方は接近さえ許さなければ何とかなる
つまりどちらかだけでもリチャードの下にたどり着くことができればいいのだ、どちらか片方を犠牲にしてでも片方を現場に向かわせることができれば御の字である
それでたどり着くのがエドか静希かはわからないが、自分たちにできることがあるとすれば奇形種の群れを排除したうえで展開しながら行動することだけである
「エドモンドさん、その奇形種に向けて砲撃支援を、そのあとちょっと強めの一撃で軽く相手を倒してくれますか?」
「それは構わないけど・・・合流はいいのかい?」
「えぇ、たぶん静希も同じ判断をすると思います」
鏡花の考えはほぼ的中していた
静希もすでに待ち構えている奇形種の群れに対して砲撃支援を要求し、さらにメフィの一斉掃射により壊滅させようとしている
砲撃支援に加えほぼ同時進行で行われる二人の悪魔の契約者の攻撃が入れば奇形種の群れはほぼ全滅させることができるだろう
「カレンさん、一つ確認してほしいことがあるんですけど」
「なんだ?予知か?」
「えぇ、私が戦闘している未来があるかどうか、見てくれますか?」
鏡花が戦闘している未来、そんなものがあるのだろうかとカレンは自分の中にいるオロバスに頼んで未来予知を行ってもらう
すると数秒後にカレンの表情はあまり良くないものになっていた
「・・・あまりいい未来ではないかもしれないな・・・君は戦闘を行っている・・・どんな相手かはよく見えないが」
「ありがとうございます、それだけわかれば十分です」
自分は戦うことになる、恐らくは悪魔とだろう、奇形種相手であれば戦闘にすらならない
これで覚悟はできた、自分は悪魔と戦うのだ
そして自分が戦うという事は少なくとも自分の能力が通用する悪魔であるという事である
ならば鏡花は自分にできることをするだけだ
遠くから砲撃支援による轟音が響く中鏡花はエドに視線を向ける
エドもその視線の意味を理解したのだろう、近くにいる転移能力者に力を借り、前方右翼側へと転送してもらい残った奇形種に向けてヴァラファールによる一斉掃射を加えていた
ナイスタイミングとでもいうべきか、ヴァラファールが呪いを放つと同時に、静希とメフィも同じように攻撃を放っていた
クロスファイアに近い形で奇形種に悪魔の一撃が与えられたことで砲撃を受けて崩れかけていた奇形種たちはほぼ一掃されていた
残った奇形種も軍の人間による攻撃によって殲滅されつつある
これで問題はないだろう、そう思っていたら静希の元にある連絡が入る
「ミスターイガラシ、戦車部隊の近くに奇形種の群れが接近しているとの報告が入りました!」
来たか
静希は舌打ちをしながら後方に意識を向けていた
静希達が通ってきた道からはるか後方、戦車部隊が待機している場所のあたりに奇形種の反応はなかったはずだ
それが現れたという事は静希達に遭遇しないように奇形種たちを送り込んだか、あるいはそう言う能力を使ったかの二択である
これはこの森に入ってから気づいたことだが、明らかに奇形種が多すぎるのだ
いくら近くに魔素過密地帯があるとはいえ奇形種の数が多すぎる、以前はいったことのある樹海に比べその密度も数も桁違いだ
だとすれば一体どういうことか、よそから連れてきたと考えるのが自然だ
どのように奇形種を連れてくるか、方法としては二種類、転移させるか収納してから連れてくるかという事である
恐らくは後者だ、これだけ時間があったのだ、そしてあのリチャードの研究書には膨大な数のデータがあった、世界各国の魔素過密地帯から奇形種を捕獲してくることくらいはしていただろう
となれば生き物を収納できる収納系統の能力者が相手側にいる事になる
恐らくは契約者だ、そしてその契約者は静希達の後方に回り込んでいる
最初から後方支援を行う部隊の急襲が目的だったのだろう、こちらがある程度進行してから活動開始するあたり初めから予定されていたとしか思えない
こちらが攻め込むこともあるいは読まれていたのかもしれないなと思いながら静希は近くにいる部隊の人間に声をかける
「戦車の護衛部隊は?今どうしてる?」
「奇形種たちと戦闘中のようです、ですが相手の数が多く、長くはもたないとのことです」
後方からの砲撃支援を失うというのはかなりの痛手だ、奇形種相手の攻撃手段のうちの一つを失うことになる上にもし状況が緊迫した時に自分たちが出る以外にとれる手段がなくなる
後方からの一方的な攻撃というのはそれだけ強力なのだ
「どうしますか!?我々だけでも引き返しますか?」
「その必要はない、現場の指揮官にも伝えろ、引き返す必要はないと、どうせ今から行ったところで間に合わない」
現場指揮官は鏡花たちのいる左翼側にいる、右翼側にいる人間は一番頼りになる静希の意見を聞きたいようだったが、静希の毅然とした態度に僅かに安堵していると同時に不安そうにしていた
「それは・・・戦車部隊を見捨てろという事ですか?」
静希の言葉は確かにそう言う風にも聞こえた、今から行っても戦車隊を守ることは自分たちにはできない、自分たちはすでにそれだけ進攻を進めてしまっているのだ
明らかなカウンターを受けてしまった、戦況をひっくり返すことは自分たちには到底無理である
転移系統の能力者を使っても送り出せるのは数人、その中に悪魔の契約者がいた場合攻勢に回っている本隊が危険にさらされることになる
静希やエドを送り出すことはできない、とはいっても後方からの支援の要である戦車隊を見捨てるなどということは明らかにこちらへの不利に繋がる
「見捨てるつもりはない、もう手は打ってある・・・たぶんそろそろ到着する頃だ」
静希が走りながら後方へと目を向ける
そのはるか先では戦車隊の護衛部隊と奇形種の群れが戦闘を行っていた
透明化した迷彩も爆風などで剥がれ戦車がその姿をさらしている中、戦車を攻撃の的にさせないように変換系統の能力者が壁を作り、戦車を守っているのだがその壁もいつまでも持つものではない
能力者が奇形種相手に射撃系の攻撃を駆使して反撃しているがその数は一向に減ることはなかった
もうだめか
戦車隊を捨ててでも避難するべきだろうかとその場の護衛部隊が諦めかけていた瞬間、自分たちが攻撃していた奇形種たちが突然地面に血をまき散らしながら倒れはじめた
一体何が、それを理解するよりも早く奇形種の群れを突破してやってくる一つの部隊があった
「・・・まったく・・・五十嵐の奴め・・・私にこんなことをさせるとは・・・あとで教育指導が必要だな」
それは静希によって後方へと移動し、そのまま後退を続けていた城島と町崎の部隊だった
「町崎、戦車部隊の護衛は任せるぞ、誤射だけはさせるな」
「お前はどうするんだ?」
「徹底的に奇形種の駆除を始める・・・さすがにフラストレーションが溜まっているんでな・・・!」
町崎達の部隊が戦車部隊の前に立つように編成を始める中、城島はただ一人奇形種の群れの中に残り周囲に殺気を放ち続けていた
眉間にしわを寄せここまで不機嫌な城島を見るのは数年ぶりだなと、町崎は部隊に指示を送りながら自分も戦車部隊の護衛に回るべく行動を開始していた
『お前にも役に立ってもらうぞ・・・一心同体のようなものだ』
『ハイ、構いませんよ、貴女の力になるようにシズキに頼まれていますから』
そしてそんな不機嫌な城島の体の中には静希の連れる人外の一人、四大精霊の一角であるウンディーネがいた
作戦が始まる前に城島に渡していたのはものではなくこのウンディーネだったのだ
彼女からしたら精霊を自分の体の中に入れるというのは強い抵抗感があっただろう、なにせそれは彼女自身が否定し続けてきたエルフの肉体を肯定するようなものなのだから
静希としても可能なら城島のタブーともいうべきエルフの肉体に関して触れるべきではないと思っていたのだが、今回ばかりはそうも言っていられない
エルフとしての器をすでに持っている城島、そして魔素を操ることに長けた精霊であるウンディーネ
この二人がそろえばかなり強力な戦力になるのは間違いなかった
そして静希の考えは当たっていた
ウンディーネによって魔素を注ぎ込まれ、エルフとしての本来の力を発揮する城島の能力は恐ろしいまでの出力を有していた
もともと高い出力を持っていた城島だが、それ以上の能力の効果を発揮していた
彼女が能力を発動すると周囲にいた奇形種は全身から血を地面にぶちまける形で次々と絶命していく
本来の彼女の能力とは大きく異なる形で発現したその能力のことを城島はすでに大まかながら察していた
城島の本来の能力は重力の発現と操作、宙に浮くことも地面に押し付けることも容易なこの能力だが、今の彼女の能力はそれとは明らかに違う効果を発現していた
その原因は城島ではなくウンディーネにある
精霊の操作する魔素はその精霊の属性によって変化する、そしてその属性を強制的に注がれることによって能力そのものが若干変質したのだ
静希の能力がメフィの魔素を注入したことによって僅かに変異した様に、城島の能力もまたウンディーネによって魔素を注ぎ込まれたことで変質していたのである
具体的には『重力の発現及び操作』という能力から『水分にのみ作用する重力の発現と操作』という形に変異しているのだ
生き物において最も重要なのは水分だ、体の中に存在する血液や体液はほとんどが水分で構成されている
その水分のみに負荷をかけ、血管や内臓などを破壊し皮膚を突き破るほどの圧力をかけることで血液を体外へと放出させる
生き物に対して絶大な効果を発揮する、これほど強力な能力はなかなかないだろう
城島本来の能力では、奇形種の足を止めるのが限界で能力の発動までは止めることはできなかったかもしれない
だがこの能力ならば相手が反応するよりも早く奇形種を絶命させることができる、この状況において最適な能力と言えるだろう
「・・・よもやこの体に感謝することになるとはな・・・」
自らの出生を呪い、エルフであるこの体を恨み、自らエルフであることを否定し人間として生きて来た城島が、この窮地においてエルフとしての力を発揮している
これ程皮肉なことがあるだろうか
静希が悪意を持って城島にウンディーネを渡したのではないことくらいわかっている
だが絶対に一発殴ってやろうと城島は思っていた
周囲の地面が血にまみれていく中、城島は広範囲にわたって能力を発動させていく
能力そのものの出力もかなり高まっている、より広く、より強く能力を発動することができていた
これがエルフの力かと自嘲気味に笑いながら城島は能力を発動し続ける
こんな力が惜しくて、こんな力に囲まれたくて、あの女は自分たちを捨てたのかと城島は笑う
この状況において、戦いにおいてはエルフの力は絶大だろう、だがそれだけだ
エルフの力はその程度のものでしかないのだ、有事の際にしか活躍できないような、そんな能力なのだ
城島はそう感じてしまっていた
中には虎杖のような生活を送っているようなものもいるだろう、だが結局のところそれもまた能力の利用でしかない
エルフとはつまり能力を依代にすることでしか生きられない生き物なのだと、城島は思ってしまった
そんな生き方が嫌だったから自分はエルフであることを捨てたのに
結局エルフの力に頼っている、そうすることしかできない自分に嫌気がさしていた
『ジョウシマ、集中してください』
『あぁ・・・わかっている・・・』
ウンディーネの声を受けて城島は集中して周囲の奇形種を殲滅し続けていく
一発じゃなくて、二発殴ろうとそう心に決めながら周囲の地面を血に染めていった
「え?じゃあ戦車部隊の方には先生たちが向かってるの?」
「うん・・・そうみたい、たぶん静希君が指示してたんだと思う」
索敵によって部隊の状況を把握し続けていた明利は、その動きをほぼ正確に把握できていた
静希の指示によって後方へと移動した城島達は自軍を包囲しようとしている奇形種の群れを薙ぎ払いながらそのまま南下を続けた
そして後方からの挟撃を受けないように徹底的に奇形種を排除した後、今まで来た道をそのまま戻っていったのである。
最初はなぜそのようなことをしたのかわからなかったが、静希が城島にあらかじめ何かを告げていたことからそれを遂行しようとしているのだという事は理解できた
そして戦車隊が急襲を受けているという事から明利はその意図を完全に理解することができていた
静希は戦車部隊が攻撃を受ける可能性を想定していたのだと
護衛部隊だけではどうしようもないほどの大部隊を差し向けられる可能性も考慮に入れ、万が一のことを考え城島達を自分たちの後方に位置する戦車部隊の方へと移動させたという事だろう
これは一種の賭けのようなものだ、城島達はこちらにとっても重要な戦力、その戦力を来るかもわからない後方部隊への攻撃の対処に当てるなど、普通であれば考えられないことである
「ったくあいつは・・・もし外れたらどうするつもりだったんだか・・・」
「それはそれでよかったんじゃないかな・・・?城島先生の安全は確保されるだろうし・・・静希君なりにいろいろ考えてるんだよ」
「この局面でそう言う気づかいができる程度に余裕があるっていうのはいいことなのかしらね・・・?」
静希にとって城島は身内にカウントされる人物だ、今まで世話になっているうえにこれからも世話になるだろうことは目に見えている
だからこそあまり危険にさらさないようにしているのだ
前原という婚約者がいる以上、これ以上顔に傷をつけるようなことは避けたほうがいいだろう
もし戦車部隊に攻撃が差し向けられなくても城島と町崎の部隊、そして後方支援である戦車隊の安全は確保できる
そう言う意味を含めて静希は城島にウンディーネを預けたのだ
「その気づかいを私達にも向けてほしいところなんだけどね・・・もうちょっとだけでもいいからさ」
「ハハハ・・・静希君に頼られてるっていう意味ではいいことだと思うよ?」
静希が城島を後方支援部隊の護衛に差し向けたのは自らから遠ざけるという意味もあった
自分の近くにいれば危険かもしれない、だからこそ城島と町崎、つまりあまり人外たちと関わってこなかった人種は遠ざけたのだ
悪魔との戦闘経験の薄さと言い換えてもいいかもしれない、実戦で役に立ちそうな人間だけを選別しているようにも思えたのだ
「それって、俺たちは頼られてるってことなのかな?」
「彼の事だから何か意味がありそうだけど・・・」
鏡花と行動を共にしている大野と小岩としては危険なところに行かなくてはいけないというのはもはや何度目だろうか
静希と行動を共にして以来悪魔の戦闘に巻き込まれたこともあるために他の軍人よりは役に立つことは間違いないだろう
「お二人は結構頼りにしてますよ、少なくとも私たちは・・・なにせ実戦を潜り抜けた正規の軍人ですからね」
「そうかい?そりゃ頑張らなきゃな」
「調子に乗らないの、気を引き締めなさい」
鏡花の言葉は嘘ではない、なにせ大野と小岩は何気にかなりの経験を積んでいると言っていいのだ
静希と一緒に行動していたおかげで、いや行動していたせいでといったほうが正確だろう
そのせいで数多くの経験を積んでいる二人はちょっとやそっとではもはや驚いたり狼狽したりすることも無くなっているのだ
悪魔の契約者と対峙したり王族と謁見したり世界の歪みを見つけたり、およそ普通の軍人にはできないような経験を何度も行ってきた
それでいて軍人として訓練を積んでいるのだ、それなり以上の戦力と言えるだろう
静希がこの二人をどのような扱いで自分たちに付けているのかはわからない、恐らくはこちらの戦力を過剰にするのが目的ではないかと思える
偏に明利と鏡花を守るため
エドにカレン、そして大野と小岩、そして自分達
静希が信頼できるだけの人種はほぼこちらに存在している、そんな状態で静希は大丈夫なのかと思えてしまうが静希がそうするように仕向けたのだ
恐らくはこれから何かがあっても明利と鏡花だけは無事でいられるように手を打った結果がこれなのだろう
相変わらず身内に関しては徹底的に甘い男だと思いながら鏡花は前進を続けていた
「明利、状況報告を続けて、あと陽太の方はどうなってる?近くに町崎さんの部下がいたはずよね?」
「うん・・・依然戦闘中、町崎さんの部下は消火に手一杯みたい」
炎を操る悪魔と陽太が全力で戦えば周囲に及ぼす被害はかなり大きいものになるだろう、妙なことをしていなければいいがと鏡花が心配になっていると再び前方から轟音が響き渡る
どうやら砲撃支援を再開したようだ、城島達の部隊はちゃんと戦車部隊を守ることができたようである
鏡花のそんな心配をよそに陽太はアモンとの戦闘を続けていた
周囲の温度がどんどん上がっていく上に、もう近くには焦土と化した地面しかないような状態で陽太は炎を巻き上げている
そしてアモンも延々と炎を防ぎ続ける陽太を自らの炎で陽太を倒すことはできないのではないかと思い始めていた
陽太の能力は炎との同化、たとえ炎を繰り出したとしてもそれは陽太の力をあげるばかりである
「オラオラ!ぬるい炎出してんじゃねえよ!それでも悪魔か!?」
「・・・この・・・!調子に乗るなよ!?」
アモンが炎を出すのを見て陽太は盾を顕現し身を隠していく、そして盾に炎を吸収し全力で操作し続けその形を維持しようとしていた
陽太は今のところ二つの策を行っていた
それは自らがアモンの炎を受ける瞬間必ず防御すること
相手の炎がきかないのであれば防御をする必要などは無い、だが防御することによって相手の炎がきいている、あるいは防御する必要があると思わせることが重要なのだ
そうすることで相手は炎が有効であると勘違いし攻撃を続ける、陽太にとってはこれ以上ない好条件と言えるだろう
なにせ相手は炎がきくと勘違いして陽太の力の源になる炎を放ち続けるのだから
そしてもう一つの策、それは陽太の攻撃自体は接近して行わないことという事である
陽太が得意としているのは近接戦闘、接近しなければ戦うことはできない
そう、今まではそうだったのだ
だが鏡花の訓練によって陽太は自らの炎を硬質化し武器にする手法を身に着けた、その両腕に武器と防具を作り出しある程度の距離から攻撃を続けているのである
アモンのプライドが高いことが幸いしたのか、どうやら人間の攻撃を受け止めるようなつもりはないらしい
一発不意打ちを受けたことでもう二度と陽太の攻撃を受けるつもりはないのか、繰り出し続ける陽太の攻撃をとにかくかわし続けていた
逃げてばかりのアモンに陽太は僅かにではあるが勝算を見出していた
なぜ逃げるのかというのは相手のプライドが高いから、それは今までの会話でも理解できる
そのプライドの高さこそ陽太がアモンに勝つことができる可能性に他ならない
陽太の能力ならば、悪魔に対して触れることができる、それはすでに確認済みだ
そして悪魔の攻撃に対してある程度の耐久力が期待できることもすでに把握済み、さらに言えば相手の能力は陽太との相性は最高の炎
問題があるとすれば相手の物理攻撃くらいのものだ
もし相手が奥の手などを隠しているようであればこの策は瓦解する、メフィの話ではただ炎を発現するだけの能力と言っていたが、万が一にも別の使い方を隠していた場合陽太の策が打ち破られかねない
自分の頭で考えられる策などこれくらいだ、確実な勝利のためには慎重に相手をしなくてはならないだろう
なにせ相手は悪魔なのだ、決して油断できる相手ではない
「おいアモン、そろそろ準備運動は終わりでいいか?」
「・・・なんだと・・・?」
陽太は一旦動くのを止め軽く準備運動をするような動きをしたあと間延びした声をあげて見せる
「いい加減退屈だからそろそろ本気で戦っていいかって聞いてるんだよ、そろそろ手加減するのも疲れてきたんだ」
陽太の言葉にアモンの表情が怒りに満ちているのが見て取れる、その周囲の温度が上昇していき、明らかに怒っているのが傍から見ても分かるほどだ
これでいい、相手の本気と全力を引き出すうえで最も手っ取り早い方法は相手を怒らせることだ
陽太ができる事なんて炎をたぎらせて殴ることくらいだ、相手の心理状態をコントロールすることなど陽太にはできない
ならいつもの挑発にちょっとしたアレンジを加えて、なおかつ静希っぽく話せばどうだろうかと考えたのだ
相手の神経を逆なでするようなしゃべり方、十年以上一緒にいたのだ、多少の真似くらいはできる
そしてそれは十分に功を奏していた
「んじゃギア一つ上げさせてもらうぞ?ついてこいよ犬っころ!」
「上等だ・・・!その体灰も残さず焼き尽くしてくれる!」
陽太がその体の炎を白く変化させた瞬間、アモンは自らの周囲に大量の炎を顕現する
怒ってくれたおかげで相手の本気を引き出せるかもしれない、だがそれは同時に自分が危険になるのと同義だ
だが勝つためにはそれは必要なことだ
あのまま戦っていれば確かに負けることも勝つこともなく戦い続けることができただろう、それこそ静希の注文通りに
だが自分のボスである鏡花が蹴散らせと言ったのだ、ならば自分に与えられた選択肢は勝つ以外に存在しない
両者の炎は周囲の強力な熱量を発生させ周囲の温度を強烈に上昇させている
そしてそれは徐々にではあるが上昇気流となって雲を生み出し始めていた
人間と悪魔の戦いが、天候さえも変えていく、その場の近くで消火作業に追われていた町崎の部下たちはその光景を目に焼き付けていた
あの子は本当に人間なのだろうかと、そんな疑問さえ浮かべながら
炎の段階を一つ上げた陽太の速度は先程とは比べ物にならないほど向上していた
アモンの攻撃を防御することすらせず、完全に回避してから一気に接近しようと全力疾走している
アモンも唐突な速度の変化に対応しきれなかったのか、陽太をかなりギリギリのところまで接近を許してしまっていた
「なんだ、この程度か」
陽太は右腕に巨大な槍を作り出しアモンに向けて振りぬく
だがアモンも黙ってやられるわけにはいかない、何よりそのプライドにかけて二度と攻撃を受けるわけにはいかないのだ
体をひねるようにして跳躍し陽太の槍を避けると炎をまき散らしながら陽太から距離を取り始めていた
これまでの戦いから、陽太はアモンの立ち位置を中衛の発現系統であると認識していた
メフィと同様接近戦よりも中距離における射撃戦を得意とするタイプだ、先程から陽太の攻撃を避け続け、なおかつ接近されるのを嫌っているのがいい証拠である
この状況はむしろ陽太にとっては望むべきものだった
なにせ悪魔の膂力というものの恐ろしさを陽太はすでに知っている、強化状態であるとはいえ悪魔の全力の物理攻撃を陽太が耐えることができるかどうかわからなかったのだ
それ故に、陽太にとって相手がとにかく逃げてくれるというのはありがたいことでもあった
だが逃げていくからと言ってそのまま逃がしているような陽太ではない、相手の全力を引き出すためにも、相手に少しでもダメージを与えるためにも、徹底的に攻撃を加える以外の選択肢は今のところないのだ
避けられればその分追い、槍を叩きつけたり突き出したりと延々と攻撃し続ける
だが相変わらずアモンの攻撃手段や対応は変わらない、その体を上手く動かして避けているばかりだ
このままではらちが明かないなと陽太は姿勢を低くしてアモンの周囲を高速で移動し始める
相手が避けるのはこちらの攻撃が見えているからだ、ならばこちらの攻撃が見えないように四方八方へと移動し続けるだけである
自らの近くにやってくることがわかっているのであればと、アモンはその体の周囲に炎を顕現し防御態勢をとった
一応はこちらの攻撃を警戒しているのだろうが、そんな炎の防壁では何の意味もない
ただの人間であればその炎を越えて攻撃するにはそれなりに覚悟が必要だろうが、陽太の体は炎そのものだ、そして陽太の放つ槍は炎程度では止められない
一度助走をつけるために後方へと跳躍した後、陽太は右腕の槍を巨大にして一気に接近していく
目の前にあるのが炎で作られた防壁ならば、陽太の槍はそれを易々と突き破るだろう
何故なら陽太の称号は『攻城兵器』
城壁だろうと防壁だろうと容易く突き破るが故に付けられた強力な一撃を秘めているが故の名だ
あの程度の壁を突き破れないはずがない
陽太には確信があった、自分の槍が、鏡花とともに作り上げたこの槍が、悪魔が作り出した軟弱な炎の壁ごときに阻まれるはずはないと
陽太が全力で炎の壁に向けて槍を突き出すと、陽太の予想通り、右腕の槍はアモンの作り出した防壁を易々と突き破って見せた
その槍の直撃を受けたのか、それとも危険だと判断してとっさに後方へと飛び出したのか、アモンは陽太から離れるように宙を舞っていた
槍に手ごたえはない、恐らくは槍が直撃する寸前に避けたのだろう、徹底して陽太の攻撃をその身で受けたくないらしい
この状態を何とかしなければ相手の本気を引き出すことはできないだろう
人間の攻撃など体に当てるまでもない
つまりはそう言う考えなのだ、まだまだ余裕がある、もっと怒らせるには、もっと本気を出させるには確実に一撃を当てなければならないだろう
恐らく陽太の速度は見極められている、もう一段階ギアをあげようかとも思ったのだが、青い炎の状態ではまだ槍の制御は長時間行えない
持ったとしても十数分だ、長期戦に耐えられない以上今この場で出すべきではない
ならばどうするか
陽太には一つ考えがあった、あまりいい考えとは言えないかもしれないが一発当てる程度であれば十分だと考えていた
「・・・お前って炎を出すしか能がないのか?」
「俺はもともと炎の悪魔だ、それ以外の力など必要ない」
隠している力はないのだろうかと陽太は訝しみながら少しあることを試すことにした
炎の総量をあげ、集中を高めていく
すると陽太の体に若干ではあるが変化が生じる、その体が少しだけ大きくなり角がさらに太く長く、そして巨大な尾が生え始める
鏡花には実戦にはまだ利用はできないと言われそうだが、そんなことを言っている場合ではない
勝つためにはできることをする、静希と同じだ、自分もできることをするだけである
「動物をしつけるには鞭がいいらしいよな!ちょろっとでかいかもしれないけど!」
陽太は自らの体に生えている尾の場所を徐々にではあるが変化させていく
その尾が右腕に沿うような形に変化すると、陽太はその右腕についた尾でできた鞭を思い切り地面に叩き付ける
今までの陽太にはない、柔軟なその武器、これが今回の戦いの鍵になると陽太は確信していた
本気投稿+誤字報告十件分で3.5回分投稿
この辺り結構長くなる予定だったのにバンバン進んでいく・・・!今までの努力が・・・ストックが・・・!
これからもお楽しみいただければ幸いです