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J/53  作者: 池金啓太
番外編「現に残る願いの欠片」

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変装と右腕

翌日、静希達は夜明けとともに起床し今後の動きを本格的に確認していた。


現在位置から近くの軍駐屯地に行くのは危険と判断し、このまま西部へと向かいヨーロッパ地域へと抜けるというのが一番確実であろうと思われる。


その為ここから西へと移動するというのが当面の目的になるだろう。可能なら街を経由せずにヨーロッパに抜けたいところだが、それができるかどうかは正直わからない。


「それじゃあ出発するか・・・全員準備はいいな?」


それぞれ装備を確認してから頷く。ユーリアは自分の服の中に直接拳銃とナイフをベルトで押さえつけるようにして常に能力を発動できるようにしていた。


何度も能力を発動して少しでも早く拳銃を複製できるようにしているようだった。


その様子を見てアイナとレイシャは不安そうに小声で静希に話しかけて来た。


「ミスターイガラシ・・・よろしかったのですか?」


「ん?なにが?」


「彼女の事です・・・あのようなものを持たせて・・・」


二人の言葉に静希は聞いてたのかと薄く笑う。


昨夜の夜に話していたことを、アイナとレイシャも耳に入れていたのだ。ユーリアが動くと同時に目を覚ましたアイナとレイシャはそのままの姿勢のまま二人の話を聞いていたのである。


あえて起きずにそのままでいたのは様子を見守るためだろうか。


子供に拳銃を持たせるというのははっきり言っていいことではない。明らかに危険だし何よりも最初からあれほどの威力があるものを持たせるのは教育上よくないのだ。


アイナとレイシャが彼女たちの育ての親にそうされてきたように、静希もそうだったように幼い時から銃を持つのは可能な限り避けたほうが良いのである。


無論静希も何も考えなしにユーリアに銃を与えたわけではない。


「いきなり面倒に巻き込まれるっていうのはいろいろきついからな・・・自分にできることが少しでもあったほうがいいだろ。自分の身を自分で守ってくれるならそれに越したことはないしな。」


あいつの能力の場合複製する物によってできることが変わっちゃうしなと付け足しながら静希は頭を掻く。


確かにユーリアの能力は物を複製することだ。複製するものを使用するという事から考えれば確かに複製物によってできるものが変わるというのも頷ける。


これで木刀などを渡したとしてもそれほど意味はない。少女が木の棒を持ったとしても何の戦闘力もないのだ。


「それにあのまま足手まといになってもらっても困るしな。最低限のことはできるようになってもらわないと。」


戦闘能力の向上、そう言う意味を含めて静希は拳銃とナイフを持たせた。


その言葉の裏にどのような意味が含まれているのか、そして昨日の会話から静希が本当に望んでいるものは何なのか。


薄く笑みを浮かべながらユーリアの方を見てそう言う静希にアイナとレイシャは小さくため息をついてしまっていた。


彼女たちのボスが静希のことをひねくれた少年と言っていた理由が理解できたのである。


今彼はもう少年というには成長しすぎているが、その性格自体は恐らく全くと言っていいほど変わっていないのだろう。


なんだかんだと理由をつけてその人のためになるようなことをする。素直に誰かを助けることができないひねくれ少年。


なるほど確かにその通りだ。何とも不器用な人であるとアイナとレイシャは呆れながらもこういう人なのだなと半ばあきらめているようだった。


「ミスター、もう少し素直になってはいかがですか?」


「女性というのは時には正直に気持ちを言われることを望むのですよ?」


「・・・お前ら言うようになったな・・・それに十二歳の女の子に女性の何たるかなんてわかるのかよ?」


静希の言葉にアイナとレイシャは顔を見合わせた後ユーリアの方を見て大きくため息をつく。


全くこの人はわかっていませんねと言うかのような呆れた表情をしてしまっている。なんというか非常に腹が立つ表情である。


「ミスター、女性というのは幼いころから女なのですよ。そこは男性とは違うのです。」


「私達がそうだったように、私達の友がそうだったように、年齢と女性らしさというのは必ずしも比例しないものなのです。」


「・・・なんか妙な説得力があるな・・・」


それはかつて彼女たちが実感したことでもある。そして昔自分たちが感じたことでもあるのだ。


静希もなんとなくではあるが覚えがある。特に自分の身近にそれっぽい人物がいるのだ、約二名ほど。


それ故に彼女たちの言葉が正しいのではないかと思えてしまう。


「ミスターも大人になられたのですから、もう少し女性の扱いというものを心得たほうが良いかと思われます。」


「そうしないと大事な時に恥をかくことになりますよ?」


「・・・俺一応既婚者なんだけど・・・」


「「関係ありません」」


相変わらずこいつらは息ぴったりだなと思いながら静希は額に手を当てて項垂れてしまう。


結婚してすでにかなりたっているというのに今さら年下からこんなことを言われるとは思っていなかった。しかも子供のころから知っているような二人に。


ちょっと真剣に考えたほうがいいのかなと静希は悩み始めていた。


「で、これから実際にはどうするの?西に行くんだっけ?」


一通り能力の訓練を終わらせたのか、ユーリアが話をしている静希達の下にやってくるととりあえず話を終わらせてこれからの予定を話すことにした。


「いくつかのチェックポイントを回りながら西に向かう。途中で買い物とかもしたいけどな。だけどその前に一度町の近くに移動する。」


「え?どうして?それって危ないんじゃ・・・」


町の近くに行くというがそれは危険ではないかとユーリアは思ってしまう。町にはなるべくよらずに行ければ余計な接触も戦闘も必要ないように思えるのだ。


それでもわざわざ町による理由がわからなかったのである。


ロシアは幸か不幸か国土面積だけで言えばかなりの大きさである。町もそこまで密集しておらず町を避けて移動しようと思えばいくらでも可能だろう。

そんな中でわざわざ町に近づくという行動をとる意味が分からない


「今回ちょっと予定を変更してるからな。後方支援をしてる連中に連絡しておきたいんだ。実際に町に入るのはアイナとレイシャに頼む。俺らは待機だな。」


既に存在を確認されているユーリアと静希が町に入ればテロリストの目に入る可能性が高くなる。それならまだ確認されていないアイナとレイシャが町に入り連絡をした方が確実だろう。


特に二人ならもし見られたとしてもすぐに追っ手を振り切ることができる。静希はそう確信しているようだった。


「ついでになんか買ってきてほしいものとかあったら頼んでおけ。最低限の物しか持ってこられなかっただろうしな。」


「あ・・・うん・・・」


ユーリアの家に戻ったのは本当に短い間だけだった。カバンに入れられたものも最低限の衣類と持っていきたいものだけである。その為長期間逃走するとなると必需品が足りない可能性もあるのだ。


そう言う意味ではこの気遣いはありがたい。女性の買い物は女性に。もしかしたらそう言う意味も込めて協力してくれる人物をアイナとレイシャにしたのかもしれない。


「ねぇシズキ、これからずっとここみたいな小屋を移動していくの?」


「一応そのつもりだ・・・ただ場所によっては普通に野宿することになるかもな。ルート変えたからサポートが行き渡ってない可能性もある。」


昨夜寝泊まりしたこの小屋は事前に静希の仲間が用意してくれていたものだ。町から離れた森の中、仮に見つかったとしてもすぐに追い払うことができるような位置にある。


だがそれはあらかじめ用意しておいてくれたからこそなのだ。本来なら空路を使ってさっさと脱出するつもりだったのだろうが、予想以上に相手の規模が大きく周囲の人間も危険にさらしかねない。


その為空路は諦め陸路での移動を余儀なくされたのだ。


急な進行ルートの変更でそう言うサポートが間に合わない可能性もある。だからこそ早めに後方支援部隊に連絡を取ることが必要なのだ。


近場の街に移動して、買い物ついでに連絡と今後の動きを伝える必要がある。その為にアイナとレイシャがそれぞれ町に向かうのだ。


「可能なら車も確保しておきたいな・・・二人とも、適当な車でいいから買ってきてくれないか?経費で落とすから。」


「え?昨日の動物に乗ればいいんじゃないの?可愛かったし・・・」


「速度的には変わらないだろうけど明らかに目立つだろ。少しでも目立たない方がいい。でかい獣と普通の車、どっちの方が目立たないと思う?」


静希の言葉にユーリアは納得してしまう。確かに道路を走るなら後者の方が圧倒的に目立たない。いや正確に言えばあったとしても不思議ではないという認識があるためにそこまで気にならないのだ。


仮に先日の巨大な獣に乗って道ではない、ただの平原や森を走ったとしても目撃者をゼロにすることはできないだろう。そんなものがいたら確実に誰かの耳に届く。そうなった場合目撃証言から自分達の行き先が露呈しかねない。


そう言う意味も含めて静希は車の入手を検討しているのだ。


「了解しました。それでは適当な車を手配しておきます。」


「かっこいい車を買ってくるので楽しみにしていてください。」


「わかってると思うけど、スポーツカーとかは買ってくるなよ?乗用車でいいからな?」


静希の指摘にアイナとレイシャは目を逸らしながらわかっていますと呟いていた。もしこの場で指摘していなかったらスポーツカーを買ってくるつもりだったのだろうか。


それはそれでよかったかもなと思いながらユーリアは簡単に車を買ってのけるという言葉に少し驚いていた。


なんというか、さも当然のように経費で落とすと言った。


一体どういう経費なのだろうかと思ってしまうが、これも必要なのだろうかとユーリアは眉をひそめてしまう。


「支払いの方法はどのように致しましょう?カードですか?それとも現金ですか?」


「カード払いして足取り残すのも面倒だな・・・現金一括にしよう。新車でいいからな。中古車だと何が仕掛けられてるかわかったもんじゃない。」


「了解しました。相変わらず太っ腹ですね。」


中古車の場合第三者の手が入っているためになにが仕掛けられているかわからない。その為新車を選択するというのは自然なことなのかもしれない。


だがただ移動するためだけに車を新しく買うという金銭感覚はどうなのだろうかと思えてならない。


自分の安全を第一に考えてくれているというのはわかる、だがやりすぎではないのだろうかとも思えてしまうのだ。


「ではお二人とも、私達が先行して準備を整えておきます。」


「少し経ってから出発していただければ問題はないでしょう。」


買い物のリストを渡されたアイナとレイシャが少しの集中の後、互いに手をつなぐと徐々にその姿が消えていき、完全に消えるより早く高速で移動を始めた。


あれがあの二人の能力なのだろうかとユーリアが感心している中、静希はうんうんと何やら頷いている。


その表情から何か嬉しいと感じているのはわかるのだが、何が嬉しいのかはユーリアにはわからなかった。


「あの二人って昔から知ってるのよね?」


「ん・・・俺が高校の頃からの付き合いだな。もう七、八年くらいか?」


昨夜みせてもらった写真をユーリアも覚えている。まだ幼さ残る静希と幼い二人の褐色の少女。


あの写真の人物があの二人であるというのは一見すれば分からないだろう。それほどまでに劇的に変化しているのだ。


「大丈夫かな?二人だけで・・・」


ユーリアは二人が心配だった。仮に戦えたとしてもあの二人は女性なのだ。多人数の男たちに襲われたときに無事でいられるかといわれると首をかしげてしまう。


彼女たちの実力を知らないが故にユーリアは不安だった。


「安心しろって。あいつらの戦闘能力は結構高いぞ。単純な肉弾戦なら俺より強い。無能力者にやられるようなことはないさ。」


「・・・もし能力者がいたら?」


「それも問題ない。そもそも見つからないようにするだろうさ。」


見つからないように。確かにあの能力なら見つからないようにすることもできるかもしれないがあの恰好ははっきり言って目立つような気がするのだ。


能力を発動していない状態では自然と目を引く格好の為目立つ。特に男性からの視線は強いだろう。


「あの恰好のまま行くのかな?」


「そんなわけあるか。ちゃんと変装するように言っておいたよ。俺らも後で変装するからそのあたりよろしくな。」


変装と聞いてユーリアは首をかしげる。確かに車に乗り込み一般人を装うのであれば変装は欠かせないだろうが、そんなに簡単にできるのだろうか。


そもそも変装とはどのレベルでのものなのか非常に興味がある。


「それって変装じゃなくて仮装とかじゃないの?」


「む・・・俺の技術をなめてるな?いいだろう、時間もあることだし軽く変装してやろうじゃないか。あとでお前にもやってやるからな。」


静希は懐からいくつかの道具を出して笑っている。能力ではなく自分の技術でやるのかとユーリアは少しがっかりしていた。


そもそもユーリアは静希の能力をまだ知らないのだ。念動力のような力を使ってはいたものの、その実態は未だ不明なのである。


先程出発したアイナとレイシャは、恐らくそれぞれ透明化と身体能力を高めるものか、高速で移動できる何かであることがわかる。


だが今までいっしょにいた静希が一体なんの能力なのか全く分かっていないのだ。


襲い掛かってきた男たちの骨を手で砕いていたりしていた点を見れば力を高めているようにも見える。だが車の進行方向を変えたりもしていた。さらに言えば今こうして自分と何の問題もなく話せている点が気がかりである。


静希が先程から話している言語はロシアのものではない。自分が理解できるはずもないのになぜか理解できている。


これも能力の一種なのだろうか。だがそれにしてはあまりにも応用性が高すぎる気がする。


「あの・・・シズキ、一つ聞いていい?」


「ん?なんだ?」


「シズキの能力って何なの?今までいろいろやってきてるけど・・・」


ユーリアの言葉に静希はどう答えたものか迷っているのか眉を顰めながら視線を泳がせていた。


ユーリアの質問は本来の能力者ならあり得ないものだ。他人に能力を話すことも、その逆に質問をすることも普通はあり得ない。


こういうところは本当に能力者としての教育を受けていないのだなと静希は苦笑してしまっていた。


「リア、そう言うのは誰かに聞くものじゃない。一人一つしか持っていない能力だぞ?それがばれたらすぐに攻略される。だからふつうは黙ってるもんだ。よほど弱い能力じゃない限りな。」


「シズキの能力は強いの?」


「それはどうだろうな?今までの俺の所作で何かわかるものはあったか?」


今まで静希がどのような行動をしていたかを思い出しても、それが一つのものに起因しているとは思えなかった。


まるで複数能力を持っているかのような多様性を見せている。静希はもしかしたら普通の能力者とは違うのかもしれないとユーリアは思い始めていた。


ちょっとした軍隊よりも強い、それはあの時アイナが言っていた言葉だ。


もしそれが事実なら静希は普通の能力者という枠から外れているのではないかと思えてしまう。


そんな人物が自分の護衛というのはとてもありがたいのだが、同時に知りたくもあった。


静希が一体どのような能力を持っているのか、そしてどのような力の使い方をしているのか。



「よしできた・・・これでどうよ。」


静希とユーリアは一度小屋の中に戻って静希の変装を試していた。特殊メイクというものだろうか、先程までのアジア系の外見はそこにはなくほぼ完全な白人男性がそこにいた。


首から下、胴体や腕などの肌の色が黄色でなければどこから見ても白人男性だろう。


「すごいわ・・・こんなことできるのね」


「白人男性の顔は特徴的だからな。鼻を高くしてちょっと顔の形を変えればほぼ別人だよ。あとはカラコンを入れて目の色を変えて、他の肌の色を変えれば完成だ。髪の色はお好みだな。」


変装というからてっきりサングラスにマスクをする程度のものかと思っていたのだが、ユーリアが想像していたよりもずっと本格的な変装で驚いてしまっていた。


まるで映画などでよく見る特殊メイクだ。その気になればゾンビや怪物などの外見も作れてしまうのではないかとユーリアは目を輝かせていた。


「あとは服装を変えれば問題なしだな。どういう恰好がいいかは知らないけど・・・まぁ夏だし普通のシャツを着てれば・・・あー・・・この時期って半袖か・・・」


半そでという言葉に思い当たることがあるのか、静希は項垂れてしまう。何か問題があるのだろうかとユーリアは首をかしげてしまっていた。


今静希は上下ともに長袖を着ている。この時期なのに暑くないのだろうかと思えてしまうが恐らくそれが彼の行動用の服装なのだろう。もしかしたら肌を露出すること自体が嫌いなのかもしれない。


「半袖だとダメなの?ていうか長袖だと暑くないの?」


「こっちは日本に比べればずっと涼しいよ。長袖でいいくらいには・・・いやまぁ半袖でも問題はないんだけど・・・ちょっと面倒というか・・・」


静希の言葉にユーリアはますます疑問を持ってしまう。問題はないが面倒、妙な言い回しだ。もしかしたら何か両腕に問題があるのだろうかと視線を静希の両腕に向ける。


服の上からだからよくわからないが何の変哲もない普通の腕のように見える。


少なくとも普通に動いているし、先程変装していた時も非常に滑らかに動き続けていた。


もしかしたら傷があるのかもしれない、それも見たら驚いてしまうような傷が。


「腕に何かあるの?」


「鋭いな・・・まぁそういう事だ。半そでになると隠し切れるかどうか・・・昔はこうじゃなかったんだけどなぁ・・・」


昔はこうじゃなかったという事はやはり後天的な何かなのだろう。一体どういうものなのか気になってしまう。


「ねぇ、腕見せてよ」


本人が気にしていることを考慮に入れても、ユーリアは静希の腕が気になっていた。そこまでの傷ならば見てみたいという興味本位の要求だった。


だから静希が断れば不満そうにしながらも諦めるつもりでいた。


「別にいいけど、見ても面白いものじゃないぞ?」


てっきり見せるのを渋るかと思っていたのだが、静希はどうやらその腕を見せてくれるようだった。


一体どうなっているのだろうかとのぞき込む中、静希は自分の右腕の裾をまくって見せる。


だが一見するとその腕は何の変哲もない普通の腕のように見えた。


特に目立った傷があるわけでもなく、特徴的な何かがあるわけでもない。

しいて言えば少しごつごつしているくらいだろうか。


「・・・?変なところなんてないじゃない。」


「パッと見はな。でも実際はこうなってるんだ。」


そう言って静希は右腕の皮膚をはがし始める。


物騒な言い方かもしれないが本当にそう見えたのだ。右腕の肩のあたりから自分の皮膚を掴んでめくり、そのまま引き剥がし始めていた。


一瞬何をしているのかわからず放心していたユーリアもその行動の意味に気付き静希から距離をとってしまう・


「ちょ!いったい何してるの!?」


「落ち着けって。これはただの肌のスキンだ。肌色で誤魔化してるだけ。」


そう言って全ての皮膚をはがすとユーリアにそれを手渡してくる。確かにそれは本物の肌ではない。見た目はそっくりだが質感や重さからそれが本物ではないという事を理解しユーリアは安堵の息をついていた。


皮膚をはがし始めた時は本当に何をしているのかと思ったが、ひとまずは安心して腕を見ることができそうだった。


だが少なくともこんなスキンを使ってまで隠すものなのだ。相当大きな傷なのだろうなとユーリアは意気込んで静希の右腕を見る。


そこには人間の腕はなかった。


最初に目に入ったのは白だった。本来の人間ならあり得ないような色。白人の肌よりも白いそれが肌ではないと気づくのにユーリアは時間がかかった。


それは鱗のようだった。白い鱗が腕を覆い尽くしている。肘まで覆われたその鱗は静希の腕が人間のそれとは決定的に違う事を確認するには十分すぎるものだった。


そして手の部分を見てその違いがさらによくわかる。


通常の人間ならあり得ないほど黒い、黒人の肌よりさらに黒いそれがまるで爬虫類の表皮のように固いという事がすぐにわかった。


鋭い指先、黒く硬い表皮、白い鱗。それらは人間なら本来持ち合わせることなどできない部類であることは容易に理解できた。


あの時妙にごつごつしていると思ったのはこれが原因だったのかと理解し、ユーリアはまじまじとその腕を観察し始めていた。まるで奇妙な動物に触れる時のような感覚である。



「これ・・・どうなってるの?何でこんな・・・?」


「どう説明すればいいかな・・・奇形種・・・いやエルフって知ってるか?」


「聞いたことはあるけど・・・」


ユーリアも能力に対しての最低限の知識くらいは持ち合わせている。確か強い能力を使える人種だったと記憶している。


詳しいことは全く知らないが。


「エルフは普通の体じゃなくて、体のどこかしらが奇形化してるんだ。どんな形かはそれぞれだけどこんな風に本来の体とは違う形をしていたりする。」


「・・・シズキはエルフなの?」


「いいや、俺の場合はちょっと事情が違うけど・・・まぁ大体理屈は同じだな。強い力を使おうとしてこうなった。」


強い力というのが能力の事であるというのはユーリアもなんとなく理解していた。


逆に言えば強い能力を使おうとすると静希のように体の一部が奇形化してしまうという事でもある。それに気づいたユーリアはほんの少しだけ恐ろしくなった。


自分は今までそれほど能力を多用してこなかったが、もしこれから能力を多用するようになったらいずれこうなってしまうのではないかと、そんな想像をしてしまったのだ。


「・・・ねぇシズキ・・・能力って使うとそんな風になっちゃうの?」


「いいや、俺のこれははっきり言ってレアケースだ。普通に能力を使ってたらこうはならないし、そもそもふつうはこんな風にはできない。裏技というかバグ技というか・・・まぁとにかくお前はこんな風にはならない。それは間違いない。」


静希がそう言うと安心できるのだが、なら静希はどうやってこんな状態になったのかが気になる。


そもそも能力を強く使いすぎるとこんな風になるなんてきいたこともなかった。


「ちなみになんだけど・・・これってどうやったの?」


「ん・・・能力を使うために魔素が必要だっていうのは知ってるか?」


「えっと・・・能力の燃料だったわよね?」


ユーリアは無能力者としての教育しかされていないためにはっきり言って能力に関しての知識はかなり欠如している。


能力者としてはかなり残念な部類だろう。だがそれでも自分が能力者であることを自覚してからは最低限の知識は手に入れようとした。


本を読んだりした程度ではあるがそれもやはり独学の付け焼刃程度でしかない。そう言うものがあるんだな程度にしか理解していないのだ。


「その燃料は個人によって許容量がある。この奇形はその許容量を超えると起きるものでな。生き物の体が大量の魔素に適応しようとするとこうなるんだ。」


「・・・つまり、奇形化してると本来よりたくさんの魔素を入れられるってこと?」


まぁそう言う事だなと静希は右腕のスキンを元に戻していく。長い手袋をしていくようなものなのだが、その色が皮膚であることを考えても妙な光景だ。


少なくとも普通の人間が見たら驚いてしまうだろう。


「燃料である魔素が多ければその分強い力を使える。エルフ達が強い力を使えるのはそれが原因だな。」


「・・・じゃあやっぱり静希はエルフなんじゃないの?」


今の理屈を言えば静希は奇形化もしているし強い力も使えているしエルフなのではないかと思えるのだが、どうやらそう言うわけでもないらしい。


体だけならそうなんだけどなと静希は苦笑しながら頬を掻く。


「俺の場合は遺伝による先天的なものじゃなくて後天的なものだからな。無理やり魔素を入れられる器にしたってだけで・・・正直エルフと比肩できるほどじゃない。人種的にはただの人間だよ。」


遺伝で奇形が引き継がれるってこともなかったしなと静希は笑っている。


静希の話によるとエルフの子供というのは基本的にエルフが生まれるらしい。中には例外もあるらしいがそのほとんどは奇形化されたエルフなのだという。


それはエルフという種族が遺伝的に優れた魔素耐性を持っており能力適正を有しているからであるらしい。


だが静希の場合は無理やりにその体をエルフのそれに近づけたというだけであって、遺伝情報までが変わるようなものではないようだ。


実際に静希の二人の子供には奇形は見られず、ただの人間の子供であるという事が判明している。


後天的な奇形はあくまで個人の変化であり、骨折のようなものであるらしい。


「・・・その奇形化って私でもできるの?」


「お前ひとりじゃ無理だな、第三者の協力が必要だ。ただやろうと思えばできないことはない。おすすめはしないけどな。痛いし、最悪死ぬし。」


最悪死ぬという事をあっさり言ってのけた静希にユーリアは顔をしかめる。だが確かに奇形化というのは見ただけでも容易ではないことがわかる。


先程の静希の右腕、一見何でもないようにしていたがあの皮膚だけではなく鱗などは恐らく腕の骨が変形してあのような形になったのだろうということが予想できる。


つまり骨が皮膚を突き破ってできたものなのだ。想像するだけで頭の中に痛みが走る。はっきり言ってやりたいとは思えない。


「何でシズキはそんなことしたの?危ないってわかってるのに・・・」


「いろいろあったんだよ。少なくともやりたくてやったわけじゃないぞ?まぁそのおかげでいろいろ便利にはなったけど・・・その分不便にもなったな。」


自分の腕に付けているスキンを軽く触りながら静希はため息をついていた。

能力面では強化されたかもしれないがこうやって隠さなければいけないことが増えたのだ。


確かにそれを考えると不便なことの方が多いような気がしてしまう


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