蘇枋くんに12月25日を予約された
蘇枋くんから離れられない12月25日(R18)(novel/23465720)に続きます。
蘇枋くんにクリスマスの予定を聞いたら、「あぁ、クリスマスね。オレはお姉さんとデートしたいな」と言われる夢を見たので、前後を補完して話にしました。
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暦は十月。気温は高いが、街の雰囲気が何となく年末に向かい始めてそわそわとしてくる時期。
まだ三ヶ月ある? それとも、もう三ヶ月しかない? 人によって様々だが、私はまだ三ヶ月あると思っている側だった。だって、まだハロウィーンだって終わっていないし。それでも、カフェを営む者としては、それなりに季節感を考えなければいけなかった。
店に並べられたカボチャや、魔法使いの衣装を身に付けたテディベアをぼーっと見つめて、あそこにクリスマスツリーを置くか……なんて考えを巡らせる。
と、「お会計お願いします!」と元気良く声を掛けられて我に返った。
「あ、はい! ごめん、ぼーっとして」
「いえいえ! でも、大丈夫すか? 疲れてますか……?」
「もう閉店時間近いもんね。オレ達しかいないし……長居しちゃったかな」
「……」
声をかけてくれた楡井くんと蘇枋くんは、心配そうにこちらを見つめている。何も言わなくとも、桜くんも同じような瞳でじっとこちらを見ていた。
よくカフェに訪れてくれる三人は、この街の、私にとってのヒーローだ。お茶やお菓子はサービスさせて欲しいと言っても、「オレ達が好きで来ているんだから」と三人揃ってお代を払ってくれる。
そんな優しい彼らに見つめられ、申し訳なさでいっぱいになった。
「疲れてるわけじゃないよ。店内の装飾をどう変えようかなって思ってただけ」
「なーんだ、そうだったんすね!」
「あんだよ……紛らわしい顔すんじゃねぇ」
「誤解させてごめんなさい。でも……ふふ、みんな優しいね」
「は!?」
「良かったね、桜君。優しいだって」
「いちいち繰り返すな!!」
感謝を伝えると、桜くんの顔はあっという間に林檎のようになった。蘇枋くんの言葉でさらにその赤みが増す。可愛いと思うが、それを言ったら更に困らせてしまうので、流石に心の中に留めておいた。
手早くお会計を済ませた桜くんは、カフェの出入口にさっと移動してしまう。それを微笑ましそうに見ていた楡井くんは、そういえばと話を切り出した。
「装飾ってクリスマスですか? もう考えなきゃいけないんすね」
「そうそう。店内に置くには結構大きいものだったり、量も必要だから目星つけておかないとなって」
「もし飾り付けの手伝いとかあれば、遠慮なく言ってくださいね!」
「いやいや、そこまでしてもらうのは悪いよ……!」
「いえ! クリスマスの飾り付けってワクワクするし、むしろやらせて欲しいなーなんて……ね?」
お会計を済ませた楡井くんは、そう言って隣の蘇枋くんを見た。視線に気付いた蘇枋くんも、意見は同じだと言うようにこくりと頷く。
「大きいものだと飾るのも大変だろうし、遠慮しないで。桜君も良いよね?」
「……おう」
「うん。じゃあ、桜君はツリーの飾り付け担当ね」
「まだ担当決めんの早えだろ!」
「えー? そうかなぁ」
「あははっ。そういうわけなので、是非協力させてください!」
「……ありがとう。お言葉に甘えさせてもらいます」
お礼に、クリスマスの時期に販売予定のお菓子を味見と称して食べてもらおう。蘇枋くんには、クリスマスブレンドの紅茶が良いかな。
と、何となく世間話の延長として、思いついた話題。最後のお会計をする為に目の前にいた蘇枋くんに、その話題を振った。
「そういえば、三人はクリスマスはどう過ごすの? やっぱり高校生って言ったら、クラスの皆でパーティーかなぁ」
「あぁ、クリスマスね。オレはお姉さんとデートしたいな」
「はっ!?」
「えっ!?」
「……?」
デート? 誰とだって? と混乱するものの、蘇枋くんはこちらをまっすぐ見つめていた。
確かに、二人には伝えていないが、蘇枋くんとはお付き合いをさせてもらっている。ただ、年の差に引け目を感じている私は、周りには言わないで欲しいと、そうお願いしてあるのだ。
そんな私の我儘を受け入れてくれている彼からの爆弾発言に、上手い返しをすることが出来なかった。
この発言を聞いていた二人も固まっている。桜くんは顔を真っ赤にしたかと思うと、耐えかねたように大きな声を上げた。
「おっ、オレは先に行ってるからな!」
「あ、桜さん待ってください!」
派手な音を立ててカフェの扉を開けたかと思うと、桜くんはあっという間に外へ出てしまった。
気付いた楡井くんが慌てたように後を追う。外に出る前にこちらを振り返った。
「25日は彼女さんと過ごしたい人が沢山いるはずなので、クラスのパーティーは24日にやると思います!」
「えっ、あ……」
「クリスマス当日はお二人も楽しんでくださいね!」
「うん。ありがとうにれ君」
「もちろんっす! じゃあまた、お茶飲みに来ますね」
楡井くんは、にこっと可愛らしい笑顔を浮かべると、先に出て行った桜くんを追いかけた。
慌ただしかった店内が一気に静かになる。私は、楡井くんから視線を戻してこちらをじっと見つめる蘇枋くんに耐えられなくて、床と見つめ合っていた。
「ねぇ、オレの方見てくれないの?」
「ご、ごめん。いきなりあんなこと言われてびっくりして……」
「確かにいきなりだったね。ところで、25日は空いてるんだよね?」
「えっと……定休日の曜日だから、今年はお店もお休みなので。その、空いてます」
「うん。じゃあ決まり」
爆弾発言をした時の微笑みを崩さないまま、蘇枋くんは淡々と話を続ける。心なしか怒っているようにも感じられる表情と声色。怒っているかも、とは分かっても理由が思い付かない。
どうして良いか分からなくて、平静を装いつつ話題を変えた。
「桜くんたち追いかけなくて大丈夫? 待ってるんじゃない?」
「先に帰ってねってチャットで伝えるから良いよ。それより、なんでそんなに怖がってるの?」
「こ、怖がってるっていうか……」
「なぁに?」
「蘇枋くんが怒ってる様に見えるから、なんでかなと……」
「怒ってないよ」
「え、本当?」
改めて表情を見る。どう考えても穏やかな笑顔ではない、気がするのだが。
納得出来なくて、でも思い当たる節が無くて思わず眉間に皺を寄せると、蘇枋くんはふ、と笑った。
「怒ってるのはそっちじゃないか」
そう言って、カウンター越しに手を伸ばしてきたかと思うと、人差し指で私の眉間をちょん、と突いた。そうして、少しだけ情けないように眉尻を下げる。
「二人の前で言ったの、ダメだった?」
「ダメ、というか」
驚いた、と。周りに言わないよう頼んだのは私だけれど、蘇枋くん自身もそういう事を進んで言う人ではないと思っていたから。
そう伝えると、彼は何とも言えない顔をした。しかしそれは一瞬で、今度はにこっと笑うと、楽しそうに人差し指を立てる。
「宿題を出そうか」
「え、宿題?」
「どうしてオレが怒ったのか。次に会う時までに考えておいてね」
「待って。やっぱり怒ってたの?」
「もしその前に分かったらチャットでも良いよ」
「聞いてる? 怒ってたの?」
「じゃあ、オレも帰るね」
「怒ってるよね!? ねぇ聞いてー!」
ご機嫌な表情で話を続ける蘇枋くんに、何度同じ質問を投げかけても無駄だった。どうやら怒っていたのは本当だったらしい。
颯爽と扉の前まで歩いた蘇枋くんは、「あ、そうだ」と何かを思い出して振り返った。
「宿題、あともう一つ言い忘れ」
「まだあるの!?」
「お姉さんのクリスマスのスケジュール、早めに予約して押さえたから。早期予約の特典、考えておいてね」
「早期予約……? 特典?」
「ほら、クリスマスケーキをこの時期に予約しておくと特典が付くだろう? 割引とかさ」
「そうだね……でもそれ私のクリスマスの予定を予約? したからって特典付くの? しかも私が考えるの?」
「そっちの宿題は、クリスマス当日までに考えてくれれば良いから」
全然分からない。状況が飲み込めない。そう言おうとしたが、彼は「おやすみ」と言ってにこやかに店を後にしてしまった。
一人になって、今度こそ本当の静寂が訪れる。閉店間際に怒涛のような展開になり、疲労感がとんでもない。
彼に課された二つの宿題について考えながら、閉店作業の準備を始めた。
年の差なんか関係ないと、想いを伝えた時にはっきりと口に出したのに。
それでも、彼女は嫌なんだろう。何が嫌なのかは分かっているつもりだ。彼女はきっと、周りのオレに対する評価を気にしている。年上と付き合っているなんて知られたら、「高校生なのに」と、奇異なものを見る目で見てくる輩もいるかもしれない。それが嫌なんだと思う。
だけど、こちらからすればそんなのは放っておけば良いとしか思わない。言わせておけば良い。
もしも、貴女が悪意ある言葉を耳に入れたくないと言うのなら、その耳を両手で塞ごう。
貴女が、悪意を向けてくるものを見たくないというのなら、正面から抱き締めて、その視界をオレだけにする。
それに、オレの周りにいるのは優しい人達ばかりだと、彼女も知っているはずだ。桜君もにれ君も、今日のオレの様子で気付いただろう。
もちろん説明はするつもりだけれど、温かく見守ってくれるはず。きっと、桜君は顔を真っ赤にして怒るところから始まるんだけど。にれ君は、前から気付いてたところがあるにも関わらず、黙っていてくれた。
他のクラスメイトも、先輩達だって、オレの周りには、オレ達のことを喜んでくれる人しかいない。
もちろん、いきなり大声で言いふらすなんてことはしないけれど。もう変に誤魔化したり、嘘をついたりしない。堂々と、オレの大事な人だと笑顔で言う。絶対、彼らは受け入れてくれるから。
怒っているのは何故だか分かったのだろうか。表情を正確に読み取ることは出来るのに、その原因までは分からないところが彼女の残念なところ。そこも愛しいと思うけれど。
クリスマスに一緒に過ごしたいと思うのは、オレだけ? あの質問は、雑談のつもりで? それでも嫌だった。「クリスマスは一緒に過ごしたい」と、そう言って欲しかった。
自分の子供じみた部分が出てしまったことは反省しているけれど、後悔はしてない。おかげで、彼女の予定を早めに予約することが出来たから。
あとは、彼女がもっとオレに愛されている自覚を持つことが出来れば、答えは出るはず。次に会う予定は立てないまま店を後にしてしまったけれど、近いうちに会いに行こう。その時は、少なくとも一つ目の宿題は終わっているだろうから。
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- Y NOctober 25, 2024