蘇枋くんが逃がしてくれないお話
愛の重い蘇枋隼飛シリーズ4作目!
このシチュ昔から好きで、もうほんま蘇枋で書きたくて書いてしまった。蘇枋とワンナイ(仮)してるので要注意。
ルーキーランキングに入りました!ありがとうございます!!
- 823
- 1,053
- 19,194
…やってしまった。
本当にやってしまった。本当に。
もうどうすることもできないし、起こった事実はなにも変わらないのだけれど。
ーー蘇枋隼飛とワンナイトした。
いや、してしまった…のか、もうそれすらも覚えてないけど。
とどのつまり、お酒に酔ってなにも覚えていない。
目が覚めたら見覚えのないホテルと服を着ていない自分、そして隣にはこれまた服を着ていないあの蘇枋隼飛が隣にいた。
…けど、私と蘇枋くんは私と付き合っていない。
そう、完全にやらかした。まさか自分がお酒の勢いで付き合ってもいない人とやらかすなんて。
…しかも片想いしてた相手とだなんて。
私は蘇枋くんが好きだった。今ももちろん好き。けどなんの取り柄もない私には蘇枋くんと付き合うなんてできるわけがないとわかっていたから。アタックすることもできずにずっと胸の内に隠していたのに。なのに、なのに。
こんな状況、何度も夢にみたはずなのに。今は血の気が引いて仕方ない。せっかく、せめて嫌われないよう必死に頑張ってきたのに。こんなやらかしをして、軽い女と思われたに違いない。そもそも、蘇枋くんにとって、私は一夜を過ごすに足りる程度の女であったというわけでもあって。
このまま蘇枋くんが目を覚ましたら。起きて好きでもない女が目の前にいて、今の私みたいに青ざめた顔をしたら。
ーー『昨日のことはなかったことにしよう』なんて言われたら。
「う、あ、…」
考えただけで途方もない吐き気が喉の奥から込み上げて。あ、無理だと思った時にはその場にあった服をかき集め身に纏い、ありったけのお札を机に叩きつけ痛む腰に鞭を打ちホテルから走り逃げた。
そう、逃げられた、なんて勘違いできたのはたったの数時間だけだった。
家に戻り、シャワーに入り、鏡に映った自身の身体につけられた無数のキスマークに唖然としながらお風呂から上がった時だった。
携帯には無数のメッセージの履歴、そしてその携帯は震えている状態で。
画面にでかでかと映し出された『蘇枋隼飛』の文字が現実を叩きつけて。
ひっ、なんて間抜けな声を出しながら床に座り込むと振動はあっけなく止まった。
しかし、
『ねぇ、なんで無視するの』
『先に帰るなんてどうかしたの』
『今すぐ返事して』
なんて文字が絶え間なく携帯に表示される。
それだけでも十分怖かったのに。しまいには
『わかった。君が来ないなら俺から行くね。そのまま家で待ってて』
なんて言われれば家から逃げ出すしかなくて。
なんでこんなにしつこいんだろう。心配しなくても絶対言わないのに。普段温厚な言動をしてる貴方が実はワンナイする人だった、だなんて怖くて言う度胸なんてどこにもないのに。
そう近くのカフェに身を細めているとまた携帯が震える。
恐る恐るみた携帯の画面に表示された『逃げたんだ』の文字に人目も憚らずまた悲鳴がもれてしまって。
何かしないと本当に蘇枋くんは私をとことん追いかけると分かればもう仕方がなくて。
震える手でメッセージアプリを起動する。
『ごめんなさい、今気づいて』
『私、なにも覚えてないから!』
『誰にも言わない、本当に言わない。だから』
お互いなかったことにしよう、と送信しようとした時だった。
「…やっと見つけた」
なんて頭上から降ってきた声に視線をあげれば珍しく汗をかき、額に青筋を浮かべた蘇枋くんがいて。
「す、おうく…」
ガタ、と思わず席を立って逃げようとするけども。それよりも先に重ねられた手にそれは阻まれてしまって。連れと勘違いした店員さんに愛想よくドリンクの注文をした彼はそれでいてこちらに『逃げるな』なんて鋭い視線を送ってきて。昨日彼に痛めつけられた身体ではどうしようもないと悟って大人しくすることしかできず、腰を下ろせばまるでいい子、とでもいいたげに優しくニコ、と笑って蘇枋くんは手を解放してくれた。
そのまま、お互いが頼んだドリンクが届いても蘇枋くんはなにも言わなくて。息苦しい空気と緊張感に、私のグラスはもう空になろうとしていた。
…蘇枋くんがなにを考えているのかなんてひとつもわからないけれども。
これ以上蘇枋くんとの関係を崩したくないの思いで私は重い口を開く。
「…わ、私、絶対しゃべらないから」
「…」
「そ、そもそも私覚えてない、し…だ、だから、あの、お互い、なかったこと、に…」
…うそ、ほんとは覚えてて欲しい。
私を一度は抱いたことあるって記憶、嫌でも覚えてて欲しい。なんなら責任だってとって欲しい。好きだもん。ずっと好きだったんだもん。
私は絶対これからもずっと引きずるのに、蘇枋くんだけ簡単に忘れて、本当に好きな人を簡単に抱くのなんか嫌だもん。
…けど、私にはそんな我儘を言う度胸も自信もないから。
こうやって、泣きそうになるの我慢しながら言ってるんだからはやく頷いてよ。いつもみたいなあの安心する笑顔で、けどどこか胡散臭げなあの笑顔で『そうだね』って言ってよ。
と、泣きそうな顔を隠すように下を向いていると蘇枋くんが口を開く。
「…◯◯ちゃん、」
「…な、に…」
「これ、聞いてもらえる?」
なんて差し出されたのはイヤホンの片方で。
は、…?なんて思いながらそれを受け取り耳に刺す。一体なんの真似だ、と思った時だった。
「………は…??」
「ふふっ、よく撮れてるよね」
一応、撮っておいて良かったよ。なんて蘇枋くんの声は私には届いていなかった。
だって、イヤホンの先からは、
昨日の蘇枋くんとの音声が流れていたから。
肌のぶつかる音に水の音。
生々しすぎるこの音に思わず耳を塞ぎたくなる。
信じたくもないけど絶え間なく聞こえる女の声は確かに私の声で。そんな私に『可愛い』『やっと手に入れた』『逃がさない』『まだ足りない』なんて蘇枋くんの声を聞こえれば、覚えていないはずの身体が勝手に熱を帯びる。
「ひっ、…!?」
思わずイヤホンを投げ捨ててしまうけども。なんともないようにそれを拾いながら蘇枋くんは楽しそうに笑う。
「ほんと、昨日の◯◯ちゃんは可愛かったよ。俺のことずっと離さないんだもの。」
「ちがっ、あれは…!」
「お酒のせい?…ほんと酷いなぁ。起きたらいないし何度連絡しても無視。…挙句には『忘れよう』、ねぇ…」
そう蘇枋くんは私の手に手を重ねる。すり、と5本の指を意識させるように甲を撫でられれば私の身体は勝手に跳ねてしまう。
「まるで俺が◯◯ちゃんを汚い手で手籠にしてるみたいになっちゃうから、本当はこんな手、使いたくなかったんだけどな」
けど仕方ないよね、なんて喉で笑う蘇枋くんは本当に楽しそうで。
「…これでも◯◯ちゃんは、俺とのことを"無かったこと"にしたいのかな?」
大丈夫だよ、近い将来こんなものなくても俺のことしか考えられないようになるから♡なんて言われてもなにも安心はできなくて。
「俺が逃がしてあげるとでも思ったの?」
なんて言われても頭が真っ白になった私はただ怯えることしかできなくて。
あれ、…?私蘇枋くんと結ばれて幸せなはずなのに。
理想とは違って今の私は顔を真っ青にして手は震えて、先の未来の真っ暗さにただただ絶望するしかなくて。
する、とわざとらしく左手の薬指を撫でられ思わず手を引っ込めようとしても、絡め取られた手はそれすらもできなくて。
「やだ、…!ごめ、なさ」
「覚えてないならさっきの続き、もう一回しよっか。俺は優しいからね。何度でも付き合うよ」
さ、復習の時間だ。なんて言葉にも、何もかもにも。
私はただ、瞳に涙を浮かべ震えることしかできなかった。