蘇枋くんと喧嘩をするお話
愛の重い蘇枋隼飛シリーズ3作目!!
余裕のない少し口の悪い蘇枋が好き。
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「…君といると疲れるよ」
ガツン、と頭を鈍器で殴られたのかと思った。でも、それくらいの衝撃だった。
昨日の夜、蘇枋くんと喧嘩した。本当些細なことから発展して、そのまま火が燃え移るようにお互い関係のないことまで指摘し始めて、取り返しがつかなくなって。
しまいには、冒頭の言葉を蘇枋くんに吐かれた始末。
ギュッてなる心臓と痛む喉の奥、次第に滲む視界にもう全てが嫌になって。
「ちが、ごめん、まって」なんて珍しく焦った顔をしている蘇枋くんのことも信じられなくて。
不幸中の幸いか、近くにあったスマホを片手に2人で住んでる部屋を飛び出た。
かといって、私に頼れる場所なんてなくて。
コンビニで思いつく限りお酒を買いこみ、ネカフェで一晩過ごした。
ぜったい帰んないって意思でスマホの電源も切ってしまって。
ずっと、ずっと蘇枋くんがそばにいてくれたから、1人で泣くのさえ久しぶりで。
蘇枋くんならその気になれば出て行った私に追いつくことなんてわけないはずなのに。それなのに今の私は確かに1人で。
そりゃそうじゃん。一緒にいて疲れるんだもん。私はずっとずっと好きなのに。最低。嫌い。
そう1人で声を押し殺しながら泣いてお酒を飲めば勝手に体力は尽きてしまって。勝手に瞼が閉じていた。
気がついたら朝だった。重い体と二日酔い特有の頭痛に目覚めも最悪だった。
けど吐き気がないだけ、まだ歩けるからいっか、ぐらいにしかもう何も考えられなくて。気晴らしに一度ネカフェを後にする。
本当は今日、蘇枋くんと久しぶりにデートするはずだったけど。こんな状況じゃできるわけないし、どうせ今日も帰らない。気になってたカフェのスイーツとか買い占めてもう一回戻ろう、とか、今日仕事休みでよかった、なんてぼーっと考えていると後ろから「すみません」と声をかけられる。
「…え?ど、どうしました…?」
「あ、すみません。ちょっと駅までの道がわからなくて…」
そう声をかけてきた男性の手には地図が映し出されたスマホ。駅までの道がわからなくなってしまったらしい。
私も今日の予定なくなったし、せっかくなら駅で買い物もしてからスイーツ買おうかな、なんて思い、「私もちょうど駅まで行こうとしてたので、良かったら一緒に行きませんか?」なんて声をかける。すると相手は嬉しそうに「ありがとうございます」って笑ってくれて。
じゃあ行きましょうか、と声をかけようとした時だった。
「……なにしようとしてるの?」
ぱし、と腕を掴まれた途端、後ろに引かれ男性の姿が見えなくなる。
目を開いたそこには蘇枋くんがいて。私を背中で隠すと蘇枋くんは男性に声をかける。
「…駅ならあっちです。この子は俺と用事あるので。失礼します」
いつもより余裕がないのか淡々とした口調で男性に道を案内すると、男性はそのまま消えて行く。目の前の蘇枋くんは昨日と同じ服用で、珍しく皮膚には少し汗ばんでいる。
…まるで、私のこと一夜中探し回ったみたいに。
結局私は蘇枋くんのことまだ好きだから。こんな単純なことで勘違いして舞い上がってしまう。
そう、離してくれそうもない掴まれた手をじっと眺めていると頭上から声をかけられる。
「…で、君はなに浮気しようとしてたの?」
「、は…?」
"浮気"なんて思ってもいない言葉が出てきて思わず間抜けな顔をしてしまう。
浮気?私が?
「ちが、さっきのはただ道案内を、」
「道案内するだけ?一緒に歩いて行くように見えたけど」
淡々と話す蘇枋くんにいつもの優しさはなくて。本当に浮気するつもりなんてなかったのにまた私を咎めるような物言いにまた心の余裕がなくなる。
「…家、帰るよ」
痺れを切らしたのか、蘇枋くんが家の方向へ私の手を引っ張る。
有無を言わせないような圧が私を襲うけども。こちらとて家出をした身なわけで。そう簡単に引き返せないところまで来ている。
どうせこのまま帰っても、結局口では蘇枋くんに敵わないし。
「…い、いや」
「…は?」
「いや、だ、帰ら、ない…」
だって、そもそも。
「わ、たしといるの疲れるんでしょ、もう、やだ、…!?」
「ちっ、」
泣いて思うように言葉は出なかったけど。やだ、と言い切った途端、先ほどとは比べようもないほどの力で腕を引っ張られる。
なにも言わない蘇枋くんはそのまま私を連れて歩き出して。転けないようにするので精一杯で足を踏ん張ることすらもできない。
「、ひ、や、だまって蘇枋くん、まってやだ帰りたくな「帰らないよ。あと俺今怒って余裕ないから少し黙ってて」っ、…」
いつも優しい蘇枋くんからは聞いたこともない声で。目も合わせてくれないのがさらに恐怖心を煽って涙がぼろぼろ溢れるけど、足取りも不安定な中ではそれを拭うことすらできない。
そのまま連れて行かれたのはまさかのラブホ街というところで。
さすがにここまで来て蘇枋くんがなにを考えているかを察せられないほど私も純粋じゃない。
「やだ、…ねぇ、嘘でしょ、ごめんなさい、家に帰るから、だからおねが…」
い、と言おうとしたけども。人目も憚らず必死に絞り出した助けはこちらを向いた蘇枋くんの瞳で一瞬にして押し殺された。
…怒ってる、確実に。なんて今更全身で感じても遅いのに。恐怖と焦りでぐるぐるしている間に近くのホテルに連れ込まれてしまった。
なにも喋らない蘇枋くんはそのまま私をベッドに投げ捨てる。
上着を脱ぎ捨てながらこちらに歩み寄ってくる蘇枋くんから逃げようとするけれども。ベッドの上じゃ大した逃げ場なんてなくて、すぐに逃げ場を失ってしまう。
ふとさっき解放された手を見ると少しあざが残っていた。
それがまた、蘇枋くんの怒りを彷彿とさせて。
「ごめ、まって、お願い」
途端に膨れ上がる恐怖に突き放そうとした手もすぐに捕えられて。あっという間に押し倒される。目を開けるとすぐそばに蘇枋くんの顔があって。目があったまま逸らすこともできない。
「…余裕なくて思ってもないこと言ってごめん。本当に、そんなこと1ミリも思ってない」
「す、おうくん…」
嘘なんて疑うことさえできない瞳につい私は絆されそうになるけれども。
「…けど、俺から離れるのは許さない」
「は、…?」
私はともかく、
蘇枋くんは違ったみたいで。
ぐ、と私をベッドに縫い付ける手に力が入る。
「帰らないって言ったのも許さない。…今から抱き潰すから。動けなくなるほど抱き潰して、俺が家まで抱えて連れて帰る」
ーー今更、本当に今更、本当にいつもの蘇枋くんじゃないって気づいても。
必死に抵抗したくても手も足も押さえつけられててなにもできないのに。
「あー…、ほんっと、君の前では1番余裕をもった俺でいたいのに、君のことになるとすぐ余裕がなくなる自分にも、簡単に離れて行こうとする君にも腹が立つ」
「ちが、離れない、待って、お願い話を」
「自分が一体誰のものなのか、わかるまで何度でもその身体にわからせてやる」
そのままキスをされればもう私には抗議の声を発することも、酸素さえ自由に吸い込むこともできなくて。
「…ほんと、余裕のない俺にとことん疲れるよ」
なんて蘇枋くんの声すらも、脳に届くことはなかった。
ふぉー!