蘇枋くんが浮気をしたと勘違いするお話
愛の重い蘇枋隼飛シリーズ8作目〜!
蘇枋の口が悪いです。ご注意ください。
癖ばかり詰め込んだら長くなったけど満足してる。
ほんっと同じようなシチュばっか書いてるけど好きなんだから許してほしい。
追記
ルーキーランキング入りました!本当にありがとうございます🫶嬉しい!
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『今日は楽しかったです。またお食事いきましょうね♡』
ブー…と無機質な音とともに震えるのは久しぶりにお邪魔した彼氏の携帯。
真っ黒な画面が切り替わると同時に映し出されたメッセージの左上には、知らない女性らしき人の名前。ご丁寧に最後にはハートマークまで付けられたそれが、送り先の相手への好意に溢れているのを初めて見た私でさえすぐに理解してしまう。
浮気、なのだろうか。いや、きっとそうなんだろうけど。今まで蘇枋くんはそんな影なんて一切見せなかった。人当たりの良くて頭の冴える彼は自分へ向けられる好意に対しても躱し方が上手かった。だから、付き合ってから今日という日まで蘇枋くんが浮気しているかもしれない、なんて一切疑う余地などなかった。
…けど、それも今日までらしい。その気にならずともこういった要素を叩き捨てられる蘇枋くんが連絡先まで交換していて、ご飯まで行っているのだから。
ーー私は、もう蘇枋くんの一番じゃないだけ。
「◯◯ちゃん、お茶が入った、よ…ってどうかしたの?顔色悪いよ?」
「す、おくん……」
いつもと顔色が違う私にいち早く気付いた蘇枋くんはカップの乗ったトレイを近くに置くと私に足早に駆け寄る。頬に添えられた冷たい手も、優しい声も、私に向ける心配そうな瞳も、何もかも。今はそのどれもが作り物のように見えて。なんで、この人は誰なの、私のこと好きって言ったくせに、なんてまとまりもしない感情がぐるぐると脳を掻き回して吐き気さえ呼び起こす。
「、ご、めん…気分悪くなっちゃって…あの、もう帰るね」
「無理しなくても、泊まって行けばいいよ。ね?それか家まで送らせて」
「〜〜っ、ごめん、ほんと、本当にいいから。送りもいい。ごめん」
なんて走って蘇枋くんの部屋を出て行くことしかできなくて。その後も蘇枋くんからのメッセージが止まることはなかったけれど。『頭が痛いだけ。ごめん寝させて』と送ればそれ以上携帯が震えることはなかった。
ーーそれからというもの、蘇枋くんと碌な連絡を取れていない。
今更、私からなんで送れば良いのか。今まで送れた何気ないメッセージも、浮気をされていると思えば何も送れなくて。
蘇枋くんから度々届くメッセージにも『もう体調は戻ったから。安心して』と返事して以来、デートに誘われても『また空いてる日がわかったら連絡するね』って言って何も送らなかったり、催促されても濁したまま、意味のない言葉しか返せていなかった。
今日だってそう。『迎えに行くよ』と言ってくれたのに『いい。もう家に着くから』なんて可愛げのない言葉しか返せなくて。
こんなこと繰り返していたら嫌われてしまう、なんてもう浮気されている身なのに見当違いなことしか考えられなくて。
もうどうでもよかった。
家に着いて鞄から取り出したのは煙草とライター。
蘇枋くんが好きじゃないって言ってたそれは、私だって嫌いなものだった。
けど、今はただ、ただ蘇枋くんからとことんかけ離れたものに縋りたくて。
リビングに出て、勝手もわからず手にしたそれに火をつける。
いざ吸ってみるとあまりの不味さと煙たさに咳き込んでしまって。
そのまま慌てて火をもみ消すけど煙草の匂いは簡単にかき消せなくて。
咽せたからなのか、浮気までされて自暴自棄になって慣れもしない煙草に手を出している自分の惨めさからなのか。訳もわからない涙が視界に滲んでくる始末。
それがただただ苦しくて仕方なくて。
…このまま別れてしまうのだろうか。…あっけないな、と乱雑にタバコをポケットにしまい部屋に戻った時だった。
震えた携帯に『蘇枋くん』の文字が表示されたのは。
出る気なんてさらさらない。タバコでむせて、涙が溢れるほど傷んだ喉でろくな声なんて出ない。それに、かける言葉も見つからない。
なのに、蘇枋くんからの電話は鳴り止むことはなくて。
機械的に中断されてもすぐにかけ直されるそれは『出るまでやめない』とまるで携帯越しに言われているようで。そんな圧がバイブレーションとともに私を追い詰めるから。
「もし、もし…」
もう電話に出るしかなくて。
「久しぶり。ごめんねいきなり」
出てくれないのかと思ったよ、なんて今更白々しい声が聞こえる。
「…どうしたの」
「ほら、最近話せてなかったし、体調も戻ったんでしょ?…少しでもいいから会いたい。今から家にお邪魔しても良い?」
いいよ、なんてついいつもみたいに返してしまいそうになるけれど。だめだ、今はいけない。
脳裏にずっと浮かぶ浮気という二文字が私をとことん追い詰めるから。ずっと大好きだった声を顔も何もかも、私以外にも向けられたのだと思ってしまうから。
誰よりも会いたいのに、誰よりも会いたくなくて。
「っ、あっ、…ごめ、今日は」
「今日は?ならいつ行ける?最近ずっとこうやってはぐらかされて会えてないよね俺たち」
「ちがっ…」
それと同時にピンポーンとインターホンが鳴り響いて。
「俺だよ。開けて」
「〜〜〜っ、今!家にいないの!だか、ら……」
帰って、なんてまたかわいくない言葉が口に出るよりもはやく、鍵穴に何かが差し込まれる音が響く。ガチャ、と重い音がすると鍵を閉めたはずの戸がゆっくりと開いて。
「は、……なん、で…」
「…勝手に合鍵作ってたのはごめん。…けど、居留守はないだろ。
…俺たち、付き合ってるのに。」
その戸の先にいるのは紛れもなく蘇枋くんで。
少し苦しそうな表情の蘇枋くんはお邪魔します、と小さく口にし私に歩み寄る。
「…なんで俺のこと避けてたの」
「避け、てな「避けてた。俺が何かしたのなら謝る。けどそれじゃ意味ないでしょ?だからお願い、教えて」っ…」
ぐっ、と腕を引かれれば蘇枋くんに抱きしめられて。大好きな匂いに包まれてまた泣きそうになる。
「…俺は、君にだけは嫌われたくない」
肩に顔を埋めるようにぎゅう、と抱きしめられる。少し枯れるような声は、とても演技とは思えなくて。
「す、おうくん、」
と抱きしめ返そうとした時だった。
ゴトン、とポケットからがこぼれた物が床に落ちる。
それは、先ほど乱雑にしまった煙草とライター。
「は、……?」
そしてそれを、蘇枋くんが見逃してくれるはずもなくて。
「あ、ちが、これは…「はっ、…なんだ、そういうことか…」……え?」
弁解しようとした私に、蘇枋くんは一つの解を得たかのように笑う。
「……違う男に目移りしたんだ」
そしてそれは、私が思ってもいないことで。
「は、……?ちが、まっ……!?」
低く呟いたかと思えば先ほどとは思えないほど腕を強く引かれて。
ミシッ…と今にも骨が軋み出しそうな痛みに顔が歪む。
そんな私をそのままに連れられたのは浴室で。
強引に押し込まれたかと思えばシャワーヘッドを手にした蘇枋くんはそのままシャワを私にかける。
「つ、めた……!」
いきなり出されたそれは想像以上に冷くて。
いくら顔を手で守っても水は容赦なく体に突き刺さる。
「俺が君に会えなくて狂いそうになっていた間、君は他の男と会っていたんだ?…随分とナメた真似してくれるね」
ガッと乱暴に顎を掴まれ、強制的に蘇枋くんと目が合う。
「ひっ、…」
「…君は俺だけを見ているって信じてたのに」
そこには見たこともない冷たい瞳があって。
静まり返った浴室に水の音が鳴り響く。
私の髪からはポタ、と滴り落ちた水が頬を濡らして。
服はびしょ濡れで、髪だってボサボサ。メイクだってきっと汚く滲んでいるに違いない。
…なんで私、浮気された側なのにこんな、こんな惨めな扱い受けてるんだろ。
私は、ずっと蘇枋くんのことだけを愛していたのに。なんで。
このまま別れを突きつけられるんだろうか。浮気をしたのは蘇枋くんなのに。このまま私だけが悪いまま別れを突きつけられるの?
…そんなの、あまりにも勝手がすぎるじゃないか。
「う、浮気したのはそっちでしょ」
「……は?」
ようやく反発した私に蘇枋くんの手の力が抜ける。もう私は蘇枋くんの顔も見たくなくて。
「女のひと、から連絡きて、た…」
何もかも耐えられなくて。枷が外れたかのように泣き出してしまう。
もう泣き方すらもコントロールできなくて。止まらない嗚咽でうまく喋ることもできない。
「また、っまた!ご飯、行こうって、何度も、…行ってるん、でしょ」
さいあく。最後ぐらい物分かりの良い女でいたかったのに。
こんな、みっともなく泣く姿なんて見せたくなかったのに。
さいてい。自分は好きに他の人と遊ぶくせして私にその疑いが出たら弁解の余地もなくこの仕打ち。クズ、最低。地獄に堕ちろ。
…大っ嫌い。
「、わ、別れ…たい」
「………」
「もういい、…やだ、もうやだ、別れて、っ!?」
「………やりやがったな、あのアマ…」
泣きながらただ「別れて」と口にしていると再び腕を掴まれる。そのまま今度はベッドに投げ捨てられて。
「いっ、た……!?」
起きあがろうとしたところを、蘇枋くんが遠慮もなく乗り上げる。
別人かのような、いつもと違う蘇枋くんに私はもうただ怯えことしかできなくて。
「ふざけるな。俺がどれだけ君のこと愛してると?…俺から離れる?はっ、許すわけないだろ」
ギリ、と押し付けられた手首は血が止まるほどの痛みで。
「あの連絡先だって、受け入れるつもりもなかった。助けたお礼だけで済むわけないってわかってた」
「まって、まって蘇枋く」
「…なのに受け取らなかったら泣き始めやがって。人目もあってさすがに交換せざるを得なかった。…はっ、どうでも良すぎて連絡先に入っているのすら忘れてたよ」
「わ、かった…もういい、、もういいから」
「ご飯なんて行ってない、おおよそ彼女である君に見せて勘違いさせたかった、なんて浅はかな考えだろうね。でも安心して。あの通知をみてすぐに消したから」
淡々と喋る蘇枋くんにいつもの優しさなんてどこにもなくて。
「あぁ、くそ、何もかもに腹が立つ」
普段の蘇枋くんから考えられないような口調の荒さが垣間見えるたび、それがただただ怖くて仕方なくて。
ぐしゃ、と自身の髪を握る蘇枋くんの瞳もどこか据わっていて。
目があっているのに、どこかあっていなくて。
「おねが、蘇枋くん、ごめんなさい、私が悪かったから、、やだ、まっ」
「…とにかく、自分が一体誰のものなのか、この際はっきりさせるべきだな」
「や、まって、お願い、話をっ…」
「ははっ…ごめん、今自分でも驚くぐらいキレてどうすることもできない。…大丈夫、痛いことはしない。けど、君が明日使い物にならないくらいには抱き潰す。だから、」
両手を掴んでいた手は両頬に添えられて。
後頭部にまで回った十本の指が、びくともしないほど強く私の顔を固定する。
そのまま蘇枋くんは額を私の額に合わせて。
もう涙で何も見えないと思っていたのに、視界に映る冷たい瞳も、肌に伝わる息遣いも、そのどれもが私が蘇枋くんの全てから逃げることを許さなくて。
「俺の怒りも君への愛も。全部、ぜんぶ心と身体で理解しろ」
君がそれができたと俺が満足するまで、絶対にやめない。と冷く口にする蘇枋くんに、私の声なんてもう届いていなかった。