蘇枋と添い寝をするお話
夜、一人で眠れない女の子を寝かしつけてくれる蘇枋の話です。
封印ネタをアニメが続けてくれるとは思わなかった。ありがとうございます。掘り下げてくれてもいいんですよ……!
キャラブックで蘇枋君だけ部屋情報がないのは……。早くお部屋デートをさせてください。でも先生からイケメン認定されていて、にこにこしてしまった。
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喫茶ポトスの席はどこも日当たりが良い。
様々な街の人達が訪れるから賑やかなのも良かった。
奥の窓際、植物に囲まれた席へ座れたのは幸運で、ココアも美味しかった。
カウンターの席には一年生の桜達が並んで座っている。仲良しと言ったら桜は顔を赤くしてしまうから仲間らしいね、と言えばいいのだろうか。会話までは聞こえなかったが……それは蛍の意識がぼんやりし始めているせいかもしれない。
楽しそうなことは表情を見ればわかる。だから自然と蛍も笑みを浮かべた。
差し込む夕日が眩しくて目を閉じてしまえば睡魔に襲われる。だってここはあたたかくて安心する。怖いことなんてない、と心地良い場所だった。
わかっているから目を閉じて夢へと落ちる。
「あら。また蛍ったら寝ちゃったわ」
声を上げたのはポトスで働くことはだ。その言葉に店内の客――今の時間はほぼ風鈴の生徒しかいなかったが、カウンター席に座っていた桜は食事をする手を止め、楡井は口を閉じて、蘇枋は最初から意識を彼女へと向けていた。
そして揃って奥の席へと視線を向ける。そこには一人の女の子が窓際に寄りかかるようにして眠っていた。
週末の放課後。オムライスを食べると言う桜に合わせて楡井と蘇枋も共に喫茶店ポトスへと足を踏み入れた。先客として蛍の姿を見かけたが、日当たりの良い席ということも相まって眠そうにしていたから声をかけずにいたのだけれど本当に眠ってしまったようだ。
「起こしましょうか?」
そう口にしたのはグラスの中の氷を揺らした蘇枋だった。
蛍が眠っているためか店内はいつもより静かで氷の鳴る音が耳に残る。
「気持ち良さそうに眠っているから起こすのも気が引けるし、閉店まではいいわ」
ことはにとって珍しくない光景だったから反応は慣れたもの。きっと彼女は店が混んでいても蛍をそっとしておくのだろうと蘇枋は残っていた水を口へと含む。
窓際の壁に寄りかかって眠る蛍はきっと閉店まで起きないだろうと彼も知っていた。
揺り起こされて目を開ける。
いつの間にか日差しから照明の明るさに変わり、店内のコーヒーの香りが薄くなっていた。
夕方から夜に変わっている。窓の外、空は真っ暗で商店街の方はまだ少し明るかったけれど幾つかの店はシャッターが下りていた。
どうやらポトスの閉店時間になるまで眠っていたらしい、と店内の客は蛍一人だけ。というか閉店の準備も終えているみたいだった。そんなことはに、お礼と謝罪をして店を出る。
「気をつけなさいよ」
その言葉を背中越しに聞いてドアが閉まった。
少し冷たい空気に目を細める。もう眠気はないが、同じ体勢で眠っていたため体は痛い。伸びをしてから商店街を歩く。
商店街の明かりが少しずつ消えていき、夜が深まっていくのを感じる。この時間帯になると商店街はほとんどの店が閉まってしまうから寂しさを感じた。
迷いなく歩き足を止めた先は高架下で、向こうは飲み屋街だ。橋の奥からは喧騒と明かりが零れている。賑やかではあるだろうが――やっぱりこの先は止めておこうと振り返ろうとした時だった。
「悪い子、見つけた」
うなじをくすぐるのはタッセルピアスの飾りだ。
伸びた腕が蛍を捕まえて、実際は肩に手を置かれているだけなのだけれど――力があるようにも、入っているようにも見えないのに簡単には外れない予感があった。
「蘇枋君……?」
ようやく振り返れば間近に蘇枋の顔があって、改めて驚く。
綺麗な横顔に心臓が高鳴ったのか、笑顔だけど何故か威圧感があって背筋が凍えたのかわからない。
「良かった。そのまま向こうへ行こうとしていたのなら連れ戻すところだったよ」
静かで、穏やかなような、そう夜風みたいな声。
いつの間に蛍の背後にいたのだろう。全然気づかなかった、と瞬きを繰り返す。
「皆に迷惑をかけるかもしれないから行かないよ。……見回り、じゃないよね?」
高架の向こうは気になっているので少し悩みはしたけれど、そこは内緒。
ボウフウリンとはいえ学生で、未成年。今の蛍に言う資格はないけれどいくら見回りといえど外を出歩く時間帯でもない。
「君は閉店まで眠っているだろうと思ったから。女の子がひとりで出歩く時間じゃないよ」
ひとりで出歩く時間じゃないとしてもならば蘇枋は、と尋ねてみたかったけれど理由なんてここにいる蛍が示している。きっと桜達と別れたのは数時間前だろうに、それまで待っていてくれたのだろうか。彼も街を守るひとりだから家に帰らないと確認して蘇枋は声をかけた。
ポトスに蘇枋を始めとした一年生がいたことは覚えているが行動に移したのが蘇枋というのは意外で……桜は素直じゃないけど素直で、楡井は心配性で、蘇枋は優しい。――優しいから迎えに来てくれたのかな。
「心配かけてごめんね」
「うん。わかっているなら女の子ひとりで夜、外を出歩かないようにしようね」
笑顔でお説教をされているが正論だ。
怒らせると蘇枋は怖い感じがしている。でも怒ってくれるのはそれだけ蛍のことを心配してくれているのだとわかる。だってそうじゃなければ何時間も待っていてくれないはずだから。
だから蘇枋に非はないし、感謝だってしているけれど頷けなくて蛍は口を噤むだけ。
ひとまず頷いてしまえば蘇枋は納得してくれるかもしれないのに……騙されてくれないか、と沈黙を選んだ結果だった。
「素直なのに頑固だなぁ」
涼しげなタッセルピアスの揺れる音。それは蘇枋がこちらへ一歩近づいたということだ。
怒っているのか、笑っているだけなのかわからないな、と何故か怯みそうになるのは蛍に罪悪感があるせいだろうと思いたいけれど。
「嘘は吐きたくないし、吐いても蘇枋君にはばれちゃいそうだから……怒ってる?」
「蛍さんが思っている方でいいよ」
「怒っていてほしくないけど怒っているように見える……」
「じゃあ、そうなんじゃないかな」
これ以上、後ろへ下がると境を越えてしまうので何とか耐えている。だから蘇枋が距離を詰めて――違う、蛍の方から足を踏み出していた。蘇枋が手を引っ張ったから。
ピアスの揺れる音が耳元で聞こえた、今度は正面から。
蘇枋の片目は眼帯に覆われているから見えないのに、蛍の両目はどちらとも逸らせない、離せない。このままだと声が出なくなってしまいそうで、意識を全部蘇枋へ持っていかれる前に口を開く。
「心配して怒ってくれてありがとう」
それは蛍の想像かもしれないけれど、やはり蘇枋は心配しているから怒っているだと思うことにした。
きっと怒ると蘇枋は怖い。でも優しいから怒っているのだと思えば怖くない気がする、と取られたままの手をこちらから握り返す。蘇枋から近づかれるとちょっと心臓に悪いけれど自分からなら大丈夫そうに感じた。
瞠った片目が蛍を見つめて――やがて微笑む。
あ、もう怒っていないと安心したのも束の間。
「そうなんだ。オレは心配して怒っているから早く帰ろうか」
まだ怒っていらっしゃいますね……と握った手を引かれて帰路へつく。
人通りが大分少なくなった商店街を歩く。この時間なら飲み屋街や歓楽街はそれなりの人はいるだろうが、敢えて蘇枋はそちらの道を選ばない。行く必要がないというのもある。
蛍としても賑やかなところは好きだが、まだ自分達が立ち入るには早い場所や責任を負えないところへの賑やかさは別だった。未成年の自覚はあるし、酔っぱらった大人に絡まれると面倒事しかない。
だとしても蛍達と同世代の、それこそ不良少年と呼ばれるような姿はちらほら見受けられた。多少街の治安は落ち着いたとはいえ全ての問題が解決するのは難しい。
側に蘇枋がいなければ視線だけじゃなく声をかけられていたかもしれない、と今も引かれたままの手を見つめる。
「蛍さん、隣りを歩いてくれるかな」
「え」
「その方が安心するから」
見上げても蘇枋と目は合わなかった。彼は蛍じゃなくて周りを牽制している。あれ、警戒じゃなくて?
不思議な気持ちを残しながら隣りに並ぶ。こうしていると手を引かれるから繋ぐにちゃんとなった気がする。
「今日は蘇枋君がいるし、声はかけてこないと思うけど」
「声、かけられたことあるんだね」
本当のことを言っただけなのに墓穴を掘った気持ちになるのは何故だろう。
「えぇと……走って逃げたよ」
「うん、でもオレは捕まえるし、逃がすつもりもないから」
笑って怒っている。いや、笑って心配させている。
それが心苦しくもあるから、どうして蘇枋に囚われようとしているのかまでは頭が回らなかった。
「……迷惑をかけてごめん」
「迷惑はかけられていないし、君にならかけられたっていい。オレは心配なだけ――そっちは謝らなくていいよ。家に帰りたくない?」
「帰らなきゃ駄目?……そのままの意味で他意はないんだけど」
質問で返してしまったのもいけないし、言い方が悪かった。
夜の街で未成年が一人でうろついているのも、本当のことだとしても誰かに家に帰りたくないとか言ったら厄介なことにしかならないのはわかっている。
僅かの間とはいえ笑顔のまま蘇枋を硬直させてしまった問題発言に反省はした。
「そういうこと、オレ以外にも言ったりしている?」
「言わないよ。本気にも、誤解されたいとしても好きな人にしか言わない」
こちらにそのつもりがないとしてもそんなのは相手の受け取り方次第。でも好きな人にならそのままの意味で受け取ってほしい。――帰りたくないのは貴方と一緒にいたいだけ。
「そうなんだ」
蘇枋の相槌が風に乗って流れる。
少し変な空気にしてしまっただろうか。だって今の流れ、言い方。まるで蘇枋のことが好きみたいだ。いや、好きだけれど。友達として、男の子として、蘇枋として。
このまま深く考えてしまうと答えが出てしまう気がして内心頭を振った。
「えっと、ポトスでしっかり寝ちゃったから家に戻っても眠れないかなって……」
こんな子供っぽい理由は呆れられるだろうか。でも気になって蘇枋を見上げれば静かに彼は蛍を見つめている。
呆れられてはいないようだが、閉じた唇がどんな言葉を紡ぐのかと緊張した。
冷たくない、でも穏やかでもないような眼差しは夜より静かで先に笑みを作った口元を目にした瞬間ぞくりと鳥肌がたったみたいに蛍の体が震えた。それを抑えたのもまた蘇枋で、握った手に力を込める。
「――じゃあ、オレが寝かしつけてあげようか」
外から来た蛍はマンションで一人暮らしだ。
だから家というか部屋には誰もいないから蘇枋が訪れることは問題ない。――そうじゃなくて。
何か蛍が言う前に蘇枋が笑って前を向いてしまうから口を閉じてしまう。
「帰ろうか」
手を引かれて頷く以外に何が出来ただろう。
もしかして動揺させて部屋へ帰すことを目的とした発言だったのならば効果は絶大だ。
まるで手のひらの上で転がされているみたい、と笑みを浮かべる蘇枋の横顔を見つめ続けることは難しくて並ぶ影へ目を落とした。
セリフ一つ一つの言い回しがオシャレ💃ドキドキしました…😍