僕がフリーランスを続けなかった構造的な理由
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会社を辞めてフリーランスとして働こうという人が増えているように感じます。収入が上がる、自由に働ける、リモートで好きな場所で仕事ができる。そういった魅力に惹かれて、独立を考えるエンジニアは非常に多いです。
僕の経験からになりますが、フリーランスになってどこかの会社で業務委託として働くというスタイルは、長期的にはオススメできません。
僕が2018年から2019年の夏頃までの1年半、フリーランスのエンジニアとして活動した経験を振り返りつつ、書いています。
注意事項
最初にお断りしておきます。 この記事は「全てのフリーランスに対してオススメできない」と言いたいわけではありません。実際に、フリーランスとしてうまくいっている人はたくさんいます。
この記事の内容が当てはまらない人もたくさんいることもあるでしょう。
この記事は「構造」の話を主軸としています。フリーランスとして業務委託で働くという形態には、経験が積みづらくなる構造的な力学が働いています。個人の努力や能力とは関係なく、その構造の中にいると、自然とそういう方向に引っ張られていきます。だから、その構造を理解した上で選択してほしいと考えています。
フリーランスの構造的な問題
僕は2018年から特定の会社に業務委託として入るタイプのフリーランスとして活動していました。
フリーランス時代を僕自身、振り返ると、あの期間は「経験を切り売りしていた」という感覚が強いです。確かにお金は得られましたが新しい経験はほとんど積めなかったし、社会的な価値も全然つきませんでした。
結果、市場価値としては、ほとんど上がってなかったと思います。
その後、危機感を覚えたのでフリーランスを辞め、CTOになったことを記憶しています。
僕のようにフリーランスが経験を積みづらくなるのは、個人の能力や努力の問題ではありません。構造的な問題です。
構造的な問題は大きく分けて3つあります。
挑戦させてもらいづらい
社会的な評価が蓄積されにくい
マネジメントや組織に対する意思決定に関わる機会が極端に少なくなる
順番に書きます。
問題1: 挑戦させてもらいづらい
フリーランスとして業務委託に入ると、基本的に「成功しそうなことしか任せてもらえない」という状況になります。
これは当然です。クライアントからすれば、外部の人間に失敗のリスクがある仕事を任せるのは怖いものです。正社員なら、失敗しても一緒に成長していけます。でも業務委託は違います。失敗したら、契約を切れば良い。だからこそ、確実にできることしか任せません。
正社員なら「この人は今はできないかもしれないけど、任せてみよう。成長してくれれば会社の資産になる」と考えます。育成投資の対象になれます。
でも業務委託だと「この人に任せて失敗したら困る。確実にできる範囲だけやってもらおう」と考えます。育成投資の対象にはなりません。
新しい技術に挑戦する機会
難易度の高いプロジェクトをリードする機会
事業の意思決定に関わる機会
これらは全て、「失敗してもいい」という前提がないと得られません。
フリーランスには、その前提が基本的にはありません。なので、自分の能力以上の活動を行う挑戦の機会が圧倒的に少なくなります。
よくあるケースでは、フリーランスエンジニアが「得意なことをやり続ける」状態に陥ります。新しい技術に触れる機会もなく、同じようなタスクをこなし続けます。確かに効率は良いです。でも、成長はありません。
問題2: 社会的な評価が蓄積されにくい
2つ目の問題は、社会的な評価が蓄積されにくいことです。
例えば、こういう2つの経歴があるとします。
同じ5年間、同じ会社で働いていたとしても、外から見た評価は全く違います。なぜでしょうか。
「業務委託として開発」と書いても、何をどこまで任されていたのかが見えません。「リードエンジニアとして事業を推進」と書けば、オーナーシップを持って取り組んでいたことが伝わります。
実際にやっていた仕事の内容が同じでも、肩書きと立場で見え方が変わります。これは不公平に感じるかもしれませんが、それが現実です。
さらに問題なのは、フリーランスとして働いている間、その経験がどんどん「消費」されていくことです。
正社員として働くと、その会社での実績が積み上がっていきます。
次第に、より大きな責任を持つポジションに就きます。それがまた次のキャリアにつながります。
でもフリーランスの場合、いくら長く働いても「外部の人」のままです。責任あるポジションに就くこともありません。実績として見えにくいのです。
問題3: マネジメントや組織の意思決定に関われない
3つ目の問題は、マネジメントや組織に対する意思決定に関わる機会が極端に少なくなることです。
エンジニアとして成長するには、技術力だけでは足りません。特に、ある程度のキャリアを積んだ後は、技術以外の能力が重要となる場合が多いです。
組織としての意思決定、マネジメント経験などは組織の中で責任あるポジションに就かないと身につきません。
フリーランスとして業務委託に入ると、こうした経験は基本的に得られません。なぜなら、外部の人間に組織のコアな部分を任せることは、ほとんどの会社がしないからです。
特に、マネジメントや組織の意思決定については、業務委託に関わらせることはまずありません。採用の判断、チーム編成、評価制度、組織文化の形成。これらは全て「中の人」だけで行われます。
なぜこの構造が生まれるのか
ここまで3つの構造的な問題を見てきました。では、なぜこの構造が生まれるのでしょうか。
根本的な原因は、企業が「企業内人的資本の最大化」を目指すからです。
「企業内人的資本 = 社員のスキル・知識・経験・ノウハウの総和
」となります。
企業内人的資本が企業の競争力の源泉になるためです。
企業は自社の人的資本を増やしたいと考えています。そのためには、社員を育て、経験を積ませ、スキルを向上させる必要があります。この人的資本は、企業の競争力に直結します。
正社員に投資すれば、その成長は企業内に蓄積されます。でも、業務委託に投資しても、契約が終われば企業外に流出してしまいます。
よって、企業が正社員に様々なことを任せるのは、極めて合理的な判断です。
正社員を雇う場合、会社は長期的な視点で投資します。採用コストをかけ、教育コストをかけ、時間をかけて育てます。なぜなら、その人が成長すれば会社の資産になるからです。
だから、失敗してもいいから挑戦させます。責任あるポジションを任せます。成功すれば会社の成長につながるし、失敗しても学びになります。どちらにしても、長期的には会社にとってプラスです。
一方、業務委託を使う場合、会社は短期的な視点で考えます。特定のスキルを持った人材を、必要な期間だけ使います。契約期間が短くなりがちな業務委託に、投資して育てるインセンティブはありません。
だから、確実にできることだけを任せます。リスクのあることは任せません。育成のコストをかける理由がありません。契約が終われば関係も終わります。
この「投資対象かどうか」の違いが、全ての構造的な問題の根源です。
会社の立場で考えれば、これは合理的な判断です。外部の人に投資しても、その人が辞めれば投資は回収できません。正社員に投資する方が、リターンが見込めます。企業内人的資本の最大化という観点から、当然の経営判断です。
でも、フリーランスの立場からすると、この構造の中にいる限り、成長の機会は限られ続けます。
例外: 労働市場の需給で変わるケース
ここまで書いてきたことには、例外があります。
それは、労働市場において「需要が供給を大きく上回るスキル」を持っている場合です。
下記の図にて、ほとんどのエンジニアは②か④に位置すると考えております。
例えば、以下のような「希少人材」の場合、状況は変わります。
特定の領域で日本に数人しかいない専門家
世界的に見ても希少な技術スタックの経験者
業界で名前が知られているレベルの実績がある人
オープンソースのメインコミッターなど、代替不可能な立場の人
こういった人は、フリーランスであっても立場が強いです。「この人にしかできない」という状況があるから、会社側も挑戦的な仕事を任せざるを得ません。むしろ「やってください」とお願いする立場になります。
でも、これは例外中の例外です。
ほとんどのエンジニアは、「できる人が他にもいる」領域で仕事をしています。そうなると、この記事で書いた構造的な問題がそのまま当てはまります。
「自分は希少人材だ」と思い込んでフリーランスになる人もいます。でも、実際にはそこまで希少ではなかった、というケースをよく見ます。市場での自分の立ち位置を正確に把握するのは難しいです。だから、この例外に自分が当てはまると安易に考えない方がいいでしょう。
また、希少人材で居続けることができるかについてもよく考えていきましょう。
「即戦力」という罠
フリーランスになる時、多くの人が「即戦力として価値を提供する」と考えます。
実際、フリーランスが求められるのは即戦力です。「今持っているスキルで、今すぐ価値を出してほしい」というニーズがあります。
でも、この「即戦力」という言葉には罠があります。
即戦力として評価されるのは、「今持っているスキル」です。新しいスキルを身につける機会ではなく、既存のスキルを使う機会を与えられます。
最初は問題ありません。持っているスキルを使って、価値を提供します。報酬を得ます。効率が良いです。
でも、数年経つとどうなるでしょうか。技術は進化します。新しいフレームワークが出てきて、新しいアーキテクチャが主流になります。でも、フリーランスは「今持っているスキル」で契約しているから、新しいことを学ぶ機会が少ないのです。
正社員なら、会社が新しい技術の研修を受けさせてくれることもあります。プロジェクトで新しい技術を試す機会もあります。でも業務委託は、「既にできること」を前提に契約しています。新しいことに挑戦するコストは、自分で負担するしかありません。
よくあるケースでは、フリーランスエンジニアが5年前のスキルセットのまま停滞しています。その時は需要があった技術が、今は古くなっています。でも、新しい技術を学ぶ機会がありませんでした。
「即戦力」として求められ続けることで、皮肉にも「戦力としての価値」が下がっていきます。これが、フリーランスの陥りやすい罠です。
経験の「切り売り」という感覚
フリーランス時代に感じていたのは、まさに「経験の切り売り」という感覚でした。
過去に積み上げた経験やスキルを、少しずつ消費している感じ。新しく積み上がっていく感じがない。
これは比喩ではなく、実際にそうでした。
正社員として働いていた時は、難しいプロジェクトに挑戦させてもらえました。失敗もしたけど、その分学びがありました。責任あるポジションも任せてもらえました。経験が積み上がっていく感覚がありました。
でもフリーランスになると、「確実にできること」しか任せてもらえません。新しい挑戦は自分で作るしかありません。でも、クライアントの期待に応えながら、自分で挑戦の機会を作るのは簡単ではありません。
結果として、過去の経験を使い続けるだけの日々が続きました。
これは、収入の面では問題ありません。むしろ、確実に正社員時代より稼げていましたが、キャリアの面では確実にマイナスが大きかったです。
振り返ると、あの期間で得たものは「お金」だけで、新しい経験も、社会的な信用も、ほとんど得られませんでした。
社会資本という見えない資産
ここで、「社会資本」について少し掘り下げます。
社会資本とは、人間関係や信頼関係を通じて得られる価値のことです。人脈、信用、評判、実績。これらは全て社会資本の一部です。
正社員として働くと、社会資本は自然と蓄積されます。
同僚との信頼関係
上司からの評価
社内での実績
業界内での評判
昇進による肩書き
これらは全て、長期的なキャリアに効いてくる資産です。
でもフリーランスの場合、社会資本が蓄積されにくいです。
業務委託として入った会社の人との関係は、契約が終われば薄れていきます。社内での実績も、外部の人間として見られているから、評価されにくいです。肩書きもありません。
エンジニアであれば、社内でブログを書いたり、勉強会やカンファレンスで登壇することが推奨されやすいですが、業務委託だとそうはいきません。
よくあるケースでは、フリーランスエンジニアが「次の案件を探すのが大変」と言います。毎回、ゼロから信頼を築き直さないといけません。過去の実績があっても、それが見えにくいから、毎回同じような説明を繰り返します。
正社員なら、社内での実績が蓄積され、それが次のポジションにつながります。でもフリーランスは、毎回リセットされる感じがあります。
これが、社会資本が蓄積されにくいという構造的な問題です。
「自由」の代償
フリーランスになる理由として、多くの人が「自由」を挙げます。
働く時間を自分で決められる。嫌な仕事を断れる。場所を選ばずに働ける。確かに、これらの自由はあります。
でも、その自由には代償があります。
挑戦の機会を得る自由は、失われます。成長する機会を得る自由も、失われます。責任あるポジションに就く自由も、失われます。
この代償は、最初は見えにくいです。フリーランスになりたての頃は、過去の経験やスキルで十分やっていけます。自由を満喫しながら、それなりに稼げます。
でも、数年経つとこの代償が見えてきます。周りの正社員エンジニアは、責任あるポジションに就いて、新しい経験を積んでいます。自分は、同じようなことを繰り返しています。差がどんどん開いていきます。
表面的な自由と引き換えに、キャリアの自由度を失っています。これが、フリーランスの本質的なトレードオフだと思います。
構造から抜け出すには
では、この構造から抜け出すにはどうすればいいのでしょうか。
いくつかの選択肢があります。
選択肢1: 正社員に戻る
最もシンプルな選択肢は、正社員に戻ることです。
組織の中で、責任あるポジションに就きます。挑戦の機会を得ます。社会資本を蓄積します。これは、フリーランスの構造的な問題を根本的に解決する方法です。
実際、フリーランスを辞めて正社員に戻り、フリーランス時代には得られなかった経験を積んだケースは多いです。
選択肢2: 自分で事業を作る
もう1つの選択肢は、自分で事業を作ることです。
僕も前職ではほぼ共同創業のCTOとして、この選択肢を選びました。
業務委託ではなく、自分のプロダクトを持ちます。自分が意思決定者になります。リスクも責任も自分が負います。
これは、フリーランスの構造的な問題を「逆転」させる方法です。誰かに任せてもらうのを待つのではなく、自分で機会を作る方法となります。
選択肢3:戦略的にフリーランスを使う
3つ目の選択肢は、フリーランスを「戦略的に」使うことです。
長期間フリーランスを続けるのではなく、特定の目的のために一時的に使います。例えば
キャリアの転換期に、複数の会社を経験するため
特定のスキルを集中的に使って、実績を作るため
正社員のオファーを見極めるため
こういった目的意識を持ってフリーランスをやるなら、構造的な問題に飲み込まれにくいです。
ただし、これには強い意志が必要です。フリーランスの収入や自由に慣れてしまうと、「そろそろ正社員に戻ろう」という気持ちが薄れていきます。気づいたら数年経っている、というケースをよく見ます。
キャリア早期に今後フリーランスになる人に向けて
フリーランスを選ぶタイミングについては重要です。
特に20代から30代前半は、キャリアの中で最も成長が期待できる時期です。体力があり、時間を投入できます。新しいことを吸収する能力も高いです。
この時期に、「確実にできることしか任せてもらえない」環境に身を置くのは、もったいないです。
フリーランスで得られる「表面的な自由」より、組織で得られる「成長の機会」の方が、長期的には価値があります。
良ければ、下記のnoteも読んでください。
経験の価値は複利で効く
経験の価値は「複利」で効くということです。
20代で得た経験は、30代のキャリアに効きます。30代で得た経験は、40代のキャリアに効きます。経験が経験を生みます。これが複利の構造です。
逆に言うと、20代で経験を積まなければ、30代で積める経験も限られます。30代で経験を積まなければ、40代の選択肢も狭くなります。
フリーランスで「経験の切り売り」を続けると、この複利が効かなくなります。今持っている経験を消費するだけで、新しい経験が積み上がりません。
10年後、20年後のキャリアを考えた時、今どんな経験を積むかは決定的に重要です。
AI時代には状況が加速する
下記のようなnoteを書いています。
その中で↓のような図で表現しているのですが、フリーランスエンジニアは
右下の危険ゾーンにかなり寄りやすい構造化にいます。
※実際、現在のフリーランスエンジニアのニーズも右下が大多数である
よって、フリーランスの消耗具合がより加速すると考えています。
オススメできません。
まとめ: 構造を理解して選択する
フリーランスエンジニアが経験を積みづらくなるのは、個人の問題ではなく構造の問題です。
挑戦させてもらいづらい: 失敗のリスクがある仕事は任せてもらえない
社会的な評価が蓄積されにくい: 外部の人間として、実績が見えにくい
マネジメントや組織の意思決定に関われない: 責任あるポジションは任せてもらえない
この構造は、「投資対象かどうか」という違いから生まれています。正社員は会社にとって投資対象ですが、業務委託は違います。だから、挑戦の機会も成長の機会も、業務委託には与えられにくいのです。
例外として、労働市場で希少な人材であれば、この構造を超えられる可能性はあります。でも、それは本当にごく一部の話です。
あなたは本当に業界内でも希少な人材なのでしょうか?その希少性は10年後も保持しつづけられるものなのでしょうか?
フリーランスになること自体が悪いわけではありません。目的を持って、期間を区切って、戦略的に使うなら問題ありません。
問題は、この構造を理解せずにフリーランスを続けることです。気づいたら「経験の切り売り」を続けていて、社会資本も蓄積されず、キャリアの選択肢が狭まっています。
フリーランスを選ぶなら、この構造を理解した上で選ぶこと。そして、定期的に「今の自分は成長できているか」「社会資本は蓄積されているか」を問い直すことです。
答えが「No」なら、環境を変えることを真剣に考えた方がいいでしょう。
表面的な自由や短期的な収入より、長期的な成長とキャリアの自由度の方が、結局は大きな価値を生み出します。
以上、僕がフリーランスを続けられなかった理由になります。
こういった個人的に感じたことなどもメンバーシップの方だけが読めるように書いていきますので
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