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「風の谷のナウシカ」を好きな人が知っておきたい10の話~上級編~※ネタバレ有り


1、蟲つかいとは

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物語のはじめにクシャナが率いていた蟲使いを、最後はナウシカが率います。風の谷のナウシカではこのような「対応する描写」が多くみられます。何と何が対応しているのか、は注意深く読まなければ見つけられません。物語のはじまりから終わりまで登場する蟲使いですが、アニメには登場しませんでした。漫画版とアニメ版との決定的な違いは、この蟲使いにこそあると言っても過言ではないのかも知れません。蟲使いは、臭くて、汚くて、かっこわるい上に、頭まで悪いという、もっとも下等な賤民として描かれています。死体を漁って金目のものを蒐集する卑しい存在であり、毛嫌いされ、差別されて、虐げられていました。しかし実は、ナウシカや森の人と同じ、エフタルの末裔でもあります。過去に大海嘯を引き起こしたエフタル人は、世界を滅ぼした呪われた民族とされて人々から忌避され、腐海のほとりで隠れ住むしかなくなったのです。風の谷は、おそらくは、エフタルの王族の末裔ということになります。そして、物語の終盤、世界の常識が崩壊していくと、蟲使いの不遇の時代は終わりを迎え、一転、堂々と時代の主役に返り咲いていくのです。読者はつい、ナウシカの気持ちが解る、いやクシャナこそ正義、いやいや最強はユパだ、と好きなキャラクターに憧れて読みたくなりますが、丁寧に読み解いていくと、この蟲使いこそが自分達の未来の姿なのだ、と思って貰える筈だと作者は期待を込めて描いているように思えてきます。

2、神聖皇帝とは

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アニメのナウシカでは、トルメキアとペジテと風の谷という三つの国の問題を描きました。漫画では、土鬼(ドルク)というよく分からない国が登場し、その支配者として神聖皇弟という更によくわからない支配者が出てきます。戦争がテーマの物語ということで、単純な正義と悪ではなく、多くの国の関わりと複雑な人間模様を描いているのですが、単純に見れば、この戦争は神聖皇帝という理想に燃えた一人の少年の「すべての人間を救いたい」という革命的な運動から始まったということが解ってきます。たった一人の少年がパンドラの箱を開けてしまったことによって、数えきれない悲劇が始まったのです。その少年は百年以上生きましたが、いくら導いても変わらない民達にすっかり絶望してしまい、更に肉体が限界を迎えてしまい、身も心もボロボロになって死んでいきました。結果、その意志は二人の息子に委ねられることになり、才能のある弟の方が皇弟を名乗り、高い理想を掲げて100年間人々を導くことになります。皇弟はナウシカのような慈悲深い名君として知られていました。作中で信奉者が沢山いることからわかるように、多くの人に慕われた人格者だったのですが、その終わり方も父のように悲惨なもので、若い頃の自分のようなナウシカに負け、そのあげく亡霊となってさまようありさまでした。しかし、その後、ナウシカによって救われることになります。このように、ナウシカと神聖皇帝の関係も対応しているのです。ナウシカは、最終的に亡霊となってしまう筈であった将来の自分を助けることが出来た、という形です。

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3、土鬼(ドルク)とは

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神聖皇帝がひょっこりと現れ、ヒドラという不死身の生物を使って人々を扇動し、革命を起こしました。その時に、土鬼(ドルク)の地を支配していたのは土王と呼ばれる王でした。それがクルバルカ。クルバルカは後に神聖皇帝となる少年に敗北し、非業の死を遂げたようです。漫画の中で重要人物となっていくチククは、滅びたクルバルカの末裔です。国が滅んだので、森の寺院でひっそりと息をひそめるように暮らしていました。そこにナウシカが空から現れたので、伝説の通りだ、とナウシカについていくことになり、歴史の表舞台に躍り出ます。ナウシカは直感で、チククも最終的には神聖皇弟のようになると予見しています。巨神兵を見て、とっさにチククを連想してしまうのは、チククに対する不安があったからです。その為、全てが終わった後、ナウシカは風の谷には帰らずに、土鬼の地に留まって、チククの成人まで寄り添うことになりました。その後、チククがどのように育ったかは不明ですが、チククが土鬼を治める王となることは、おそらく間違いありません。ちなみに土鬼とは、かつての日本における、大和朝廷に恭順せず敵対した古代の「まつろわぬ人々」である土蜘蛛のことかもしれないし、土星の鬼、という解釈も出来ます。

3、エフタルとは

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風の谷の民と、森の人は、同じエフタルの血をひいています。蟲使いはエフタルの武器商人の末裔で、森の人セルムの母は、蟲使いです。エフタルとは、5世紀から6世紀にかけて中央アジアに実在した遊牧国家のことです。5世紀中頃に現在のアフガニスタン東北部に勃興し、周辺のクシャーナ朝後継勢力(キダーラ朝)を滅ぼし、6世紀の前半には中央アジアの大部分を制覇する大帝国へと発展、最盛期を迎えます。その後、6世紀の中頃に入ると、鉄勒諸部族を統合して中央アジアの草原地帯に勢力を広げた突厥の力が強大となって脅かされ、558年に突厥とサーサーン朝に挟撃されて、その10年後に滅ぼされた…という、史実がベースとなっています。もちろん、単に名称を借りてきただけなので、物語と深い繋がりはないと考えられます。蟲使いは滅びを招いたエフタルの武器商人の末裔で、人々から後ろ指をさされてきたという歴史の背景があります。

4、青き衣の伝説

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見えにくいですが北斗七星が描かれています。3つの星は何を意味するのでしょう。キリスト教の三賢人。八咫烏の足の本数が関係するかも知れません。土星はサターンなので、土鬼という名はサタンに通じるかも知れません。アニメ版から大きな謎としてある「青き衣の伝説」ですが、果たしてその言い伝えの始まりはどこにあったのでしょうか。これは答えが出ませんが、考えないわけにいかない裏テーマです。タペストリーはナウシカの回想に出てくるので、ナウシカが生まれる以前に伝説はあったようです。少なくとも言えるのは、風の谷のナウシカの中で歴史は何度も繰り返していて、同じような青い服を着た人が人々を導き、人類は滅びの窮地から脱することが出来たという伝説が、この世界の基本的な世界観としてあるということです。そうなると、ナウシカの死後も、人間はまた同じ過ちを繰り返してしまうのか、という絶望的な未来を想像させられてしまうのですが…。ちなみに青い衣は、聖書の中においてキリストを象徴するものです。

5、ユパの物語

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始めはナウシカを守る為に身を挺したユパですが、最後はクシャナを守る為に身を挺することになりました。これも対応関係にあります。クシャナとナウシカは表裏一体、どちらも主人公です。ユパはクシャナにとっても大切な恩人、先生と呼べる存在になります。同時に、僧正さまから預かった命をお返しするという表現をユパは使っていて、同じように土鬼の戦士の怒りを身に受けて亡くなってしまいました。これも対応関係にあります。アニメでは、ナウシカより先にユパが登場しています。基本的に物語は始まりと終わりが対応するもので、アニメの物語はユパで始まったからこそ、最後はユパで終わっていました。ユパのこれまでの人生は多く語られていませんが、剣士として名が広まっているので、伝説がいくつもあるに違いありません。国の枠に囚われず博識であることも特徴的です。かつてはユパにも先生がいたのでしょうか。その先生もユパのように腐海の研究をしていたのか。ユパの意思を継いだのが、ナウシカとクシャナ、それにアスベル。人々に伝えられていくユパの物語も、人知れず繰り返されてきたのかも知れません。

6、王をもたない国

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エフタルの民は滅びに瀕したことで改心し、王を持たない国を作るようになりました。同じ道をトルメキアがこれから辿って行くことになるようです。これも対応しています。結局は、トルメキア人は世界を滅びに導こうとした忌まわしい民族とされるのかもしれないし、風の谷のような国を作っていこうという流れになっていくのかもしれません。クシャナの言う、新しい王とは誰のことでしょうか。その後、クシャナは代王の地位につき、生涯に渡って王にはなりませんでした。

7、超能力

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僧侶に額を触られてナウシカは念話が可能になりました。不思議な能力を授かったようです。力を発揮する時は額が光っています。漫画版のナウシカは超能力なしには語れない物語になっています。そもそも、風使いという能力も常軌を逸していたのですが、物語を見ているとなんとなく、メーヴェに乗れば誰でも飛べるような気になってしまいます。本来、メーヴェはまともに飛べるような代物ではないのですが、風を読めるナウシカであれば、風を見つけて乗ることが出来る。それは風の谷の人間にしか真似の出来ない秘術です。更にナウシカは、蟲と心を通わせる特殊な能力を才能として身に付けており、その延長で、人を惹きつける魔性の魅力を持っています。クシャナとクロトワだけがその異常さに気づいていました。その上、念話も出来るようになって、更に、庭の主に肉体の改造を受けた為、死に瀕していた肉体が回復しただけでなく、これまでより更に強くなりました。ナウシカは、実はすっかり人間を超越した存在に登りつめているのです。

8、クシャナ

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クシャナは幼い頃に毒殺されそうになり、身代わりになった母親が毒におかされています。クシャナの戦いは全て母の為にあるといっても過言ではなく、復讐だけが生き甲斐となっていたようです。その毒を盛った犯人は三番目の兄である線が濃厚です。しかし、そもそもクシャナは唯一、前王の血をひいた人間という設定があるので、どのみち、母以外の全ての身内と殺しあいをしなければならない運命でした。祝いの酒とあるので、クシャナの成人の祝いでクシャナに酒が渡されたのでしょうか。なぜ死に至る毒ではなく心を壊す毒だったのか。なぜわざわざ祝いの場で狙われたのか。クシャナが前王の正当な血をひいていると気づかぬフリをしなければならないのは何故か。
これは余談になりますが、漢字の風という字は鳳の字と同じで、風の中にある虫は中国では「蛇」を意味しました。トルメキアの紋章は蛇です。そしてクシャナは鳥であるとチククは語ります。どちらも風の字に通じるわけです。風の字は、ナウシカとクシャナの両方を象徴することになります。

9、On Your Mark

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ナウシカの連載が終わったあとで、宮崎駿監督が次に手掛けたのがOn Your Markというアニメでした。黄色い車で走っているときに背後に見える巨大な煙突のような変な建物は、アメリカのスリーマイル原発そのものです。実は、日本の福島のように、アメリカでも原発の事故は起こっています。放射能に汚染された街を軽快にドライブしているという映像を、楽しげに描いているのです。この後、少女は空に登っていき、男二人を乗せた車は道路から外れて動かなくなってしまいます。この少女は平気なのですが、そもそもこの少女が体から放射能が出ているという描写が細かく描かれています。この少女はゴジラと同じような、原発の恐ろしさを具現化した存在としてあるわけです。少女は翼で空を飛んでいく。しかし、実際に空を飛んでいるわけではなくて、これはどうやら全て男二人の妄想でした。少女は既に亡くなってしまっているようです。なぜこのような不思議なアニメを作ることになったのか。これはCHAGE and ASKAという当時大人気だったアーティストのライブ会場で放映された6分程度のアニメで、本当なら宮崎駿監督はやりたくない仕事でした。しかし、当時の日本はものすごい好景気で、お金が有り余っていましたから、6分程度のアニメを作るだけで5000万円ほど出せるという流れに、連載が終わって収入の途絶えたジブリは飛びつきます。しかし、たんなるPVを作っても宮崎駿監督としては面白くありません。そこで「ジブリ実験劇場」というタイトルをつけて、これまでやりたかったけどやってはいけない、やったらどうなるか分からないようなタブーを詰め込んで、かつ、ばれないようにうまく誤魔化してしまおう、という計画を、密かに思い付いてしまったわけです。だから、ジブリ作品で唯一の、実験劇場、となったのです。まず、ナウシカのその後の世界はどうなったのかを考えることになります。同時に、火の七日間の以前の世界はどうだったのか、漫画の連載が終わってから、ふつふつとイメージがわいてきてしまって、そういったイメージを断片的に絵にしてみることにした結果、鳥の人という伝説の始まりとなった少女というキャラクターが出来上がりました。しかし、これはナウシカの世界の未来の話でもおかしくありません。転がっているコカ・コーラの缶や、アメリカの原子力発電所が背景にある時点で、過去の話であることが濃厚ですが、そもそも、この作品の中で描かれていることは、ほぼ全て登場人物の妄想という形になっているので、起こっていることは何一つ、確かなことがないのです。ただし、世界観の繋がりは一貫しています。その根底にあるのが永劫回帰というテーマでした。ナウシカの世界では、人類は何度も同じ歴史を繰り返してきたという因果に囚われる世界観を描きましたが、それを、6分の短い映像の中で目まぐるしく表現したのがOn Your Markでした。この作品は、風の谷のナウシカを補完する物語。構造と設定の根底に繋がる作品となっています。

10、ナウシカの世界観

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On Your Markで、警察が襲撃した宗教団体は目を信仰していました。これは神聖皇帝のシンボルに近いものです。現実の宗教に、ゾロアスター教、という信仰があります。その象徴は、横を向いた青い服の男性です。アニメに出てくる青き衣の人物はそのシンボルにそっくりです。ゾロアスター教は拝火教とも言いますので、火を象徴し、水の神は蛇、トルメキアが連想されます。火と水の調和が、風の谷のナウシカの中に描かれる、土鬼の信仰です。風の神様には、エンリルという鬼の起源と考えられているメソポタミアの神様がいます。神社の狛犬の二匹が、エンキ(雷神)とエンリル(風神)です。風の谷では、風を信仰しているようです。風の谷のナウシカという物語は、実在の宗教を無視しては語れない物語です。戦争は宗教戦争でもあります。この世界で唯一宗教を持たなかったのが蟲使い達でした。持たなかったのではなく、持てなかった、が正しいようです。人間社会から追放された武器商人の末裔なので、人間至上主義の末路でもありました。彼らは、ナウシカが王蟲の中から救出されたとき、仮死状態のナウシカを見て「美しい」と感じてしまいます。

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人間社会が衰退し、これからは森の時代がくる。これまで虐げられてきた蟲使いが人間を支配する側に回るのだ、と、宴をひらいて盛り上がっている新しい夜明けの朝に、森の人が抱きかかえて持ってきたのが、王蟲の体内から出てきた仮死状態の少女。まさしく、森と人の融合した姿であり、我々そのものであり、神そのものだと感じられたわけです。これによって、この瞬間、新しい宗教が生まれました。ナウシカを女神として祀る、蟲使いの時代のシンボル。念願だった神を信仰出来る喜びに我を忘れてしまう虫使い達。森の人は、彼等に見せたのは軽率だったと悔いることになりますが、時既にに遅しです。すっかり宗教化してしまったナウシカへの信仰は、頼んでもいないのに世界の果てまでナウシカを追いかけ続けるという信者達を生み出し、それを受け入れてナウシカは新世界の頂点に君臨していきます。その血脈が、アニメのオープニングに登場するタペストリーにつながっていくのでしょう。

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