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Vol.032|なぜ文章がつまらないのか

『MONOLOGUE』は、備忘録を兼ねたフリースタイル文筆を毎回3本まとめてお届けするマガジンです。それぞれの内容は独立している場合もあれば、連続性をもたせている場合もあります。毎週月曜午前8時に定期更新。何かと思想強めですので、用法容量を守ってお読みください。

なぜ文章がつまらないのか

あらゆる書かれたもののうちで、私が愛するのはただ一つ、ある者が自分の血で書いたものだけだ。血で書け。そうすれば、血が精神であることを知るだろう。

『ツァラトゥストラ』

つまらない文章はなぜつまらないのか。語彙が少ないからだろうか。それとも希少性の高い体験をしていないからだろうか。いいや、違う。それらはそれらであるに越したことはないが、本質ではない。その本質はとてもシンプルで、とどのつまり「書いている人間がつまらないから」である。

前回の『MONOLOGUE』Vol.031では、この世界を読み解く鍵となる以下の数式を提示した。今回はこれを前提として論を展開するので、もし未読の場合はまずはこちらに目を通してもらえればと思う。

\frac{p > l}{e}

世界を読み解く鍵と豪語するぐらいなので、この数式はあらゆる文脈に適応できる。もっとも大きな文脈でいえば、この数式を用いて人間のあるべき生き方を論じることもできる。実にシンプルな数式ながらも、いや、シンプルな数式だからこそ、それだけ汎用性の高いものとなっている。

もちろん文筆に適応することも可能である。文筆において[p]とは「文意」にあたる。つまり何を伝えようとしているのか。一方で[l]とは「文体」にあたる。つまりそれをどう表現するのか。そしてあるべき文筆とはp>lなのだから、まず何よりも文意ありきとなる。ろくに伝えたいこともないのに文体だけ整えたところで、そんなものは単なるインクの染み、もといドットの集合体でしかない。

にもかかわらず、この社会にはそういう虚無の文章があふれかえっている。虚無を虚無であると見抜けない大衆的な読み手がこぞってそれを褒めそやし、ますます書き手も読み手も虚無へとまっしぐらという地獄絵図。令和の「蝕」とでも呼ぼうか。彼らはこの歪な社会に捧げられた贄なのだ。どおりで誰も彼も死んだ魚のような目をしている。

よき文筆は書き手が意識しているか否かにかかわらず、必ずp>lとなっている。とはいえ、文体をおろそかにしていいわけではない。むしろ、感性が磨かれれば磨かれるほどに、それだけ文体も洗練されていくもの。文章が上手くなるというよりも、その人らしい文体に仕上がっていく。

一人称、敬体・常体、読点、接続詞、口語、語尾、一文の長さ、文字の装飾、改行の位置、漢字のひらきなど、あらゆる文体を構成する要素によって、唯一無二のその人らしさが表現される。

さて、ここまでは前回の軽い復習なわけだけど、前回触れなかったもっとも肝心なテーマに「では[e]とは何なのか」がある。

文筆における[e]とは、自己そのものである。何を伝えようとしているのか、それをどう表現するのか、どちらも主体となるのは自己である。自己を超えて世界を眺めることはできないし、それを表現することもできない。自己がすべての土台にあり、自己である[e]が自動的に[p]と[l]の限界を決定づける。単純にe>p>lとせずに、わざわざ[e]だけを分母に置いて文字通り一線引いたのは、こうした構造を念頭に置いているからだ。

これが何を意味するのかというと、[e]がしょぼい、つまり人間としてつまらないやつは、何をどう書いたってつまらないものしか書けない、ということ。

自戒を込めた上で言うが、これはすべての文筆家(を志す者)が心に刻んでおかなければならない教訓である。残酷な真実ではあるが、真実とはえてして残酷なもの。おもしろい文章、すなわち読み手の心を揺り動かし、読み手の世界観を変容させるきっかけとなるような、そんな文章を書きたいのならば、愚直に[e]を磨くほかないのである。

ところが、多くの人は真実が放つ残酷さに耐えることができない。その残酷さゆえに、半ば反射的に目を背けてしまう。まるで自分には関わり合いのない別世界の物語とでも言わんばかりに。彼らは残酷な真実を受け止めて前に進むよりも、甘美な虚構に溺れて停滞することを選ぶ。

それゆえこうした大衆的な書き手は、すぐに小手先の文章術へと目を向ける。巷で持て囃される「バズる文章術」なんてのはその典型である。その文章がバズっているかどうかは、様々な指標はあれど最終的にはいかにインプレッションを稼いだかで判断される。数字ベースで判断されるのだから、これは[l]の領域なわけだ。さらに文章術そのものが一種の型であるからして、これまた[l]の領域である。

つまり「バズる文章術」とは、最初から最後まで[l]の話しかしていないのである。だからそういう文章術を喜々として学んでいるような書き手からは、ゴミみたいな文章しか生まれてこない。そもそも語るに足る自己がないのだから。ただでさえ[e]がしょぼいのに、多少[l]を伸ばしたところで、もはやどうにもならない。

オフ会in東京

先週末の10日から12日にかけて、『外にはまだ正しい世界がある』ことを背中で示してくださった恩師が主催する食事会に参加すべく、東京へと出向いてきた。実は今も帰りの新幹線の中でこれを書いている。

その少し前に、FF関係にあって前々からリスペクトしている書き手でもあるぐわんさんが、『誰も助けてくれなかったじゃん』をあげられていて、文中で東京のキーワードがでてきたため、「もし現在も東京にお住まいで、ご都合よろしければ一度お会いしませんか」と、こちらからnote上のDMにてお声がけしたところ、快諾してくださって10日の夜にお会いしてきた。

よそではとてもおおっぴらには話せないような、めちゃくちゃおもしろい話をたくさんできて、やはり文章から受ける印象のとおり、誰よりも真摯に生と向き合ってる方なんだな~と感じた次第で。

二件目の隣にいたカウンターのおじさん連中なんかは、自分たちが何を話してるのかがまったく理解できなかったことだろう。

「突き詰めればスピざるをえない」「本能としてのpとe由来のp」「神と科学と人怖のエンディング分岐」など、どう見ても場末の飲み屋で飛び交うキーワード群ではない。もちろんこれはいい意味で言っているわけだが、ぐわんさんが纏われているぐわんさんならではの雰囲気もあいまって、あの瞬間あの飲み屋はまさに異空間と化していた。その異空間に当事者として参加できたこと、本当に得がたい体験となった。

なんというか、ぐわんさんという方は、一見すると派手な見た目をされているのだけど、とても繊細な感性の持ち主で、今この瞬間にふっと目の前からいなくなってしまいそうな儚さを感じるのに、同時に存在としての密度はすごいのである。

以前、CreepyNutsの松永が椎名林檎と会ったときに「目の前にいるのにいない」と表現していたけれど、これは言い得て妙でぐわんさんにも通ずるものがあるんじゃないかと思う。あらゆるアンビバレントな性質を真正面から受け止め、それらを統合しようとしている人、そんな印象を自分はもった。そういった世界との向き合い方こそが、真摯な生につながるのだろう。

自分がぐわんさんに突如DMしようと思い立ったのは、自らの[p]に忠実に従った結果であった。この人とお会いしてみたいという感性も[p]であり、実際にお声がけしてみるという決断と行動もまた[p]が司るもの。

もし、自分の[p]が今よりも磨かれていなければ、そう感じることも決断することもできなかっただろう。さらにはp>lが逆転してp<lになっていたならば、やれ突然声をかけたら迷惑かもしれないだとか、やれ最新の記事がセンシティブなテーマだから今は避けようだとか、なんだかんだと自分に言い訳をして、結局は行動に移さなかったことだろう。

車にたとえてみる

ぐわんさんとしたおもしろ話については、追々書いていくとして、このエピソードトークで何を伝えたいのかというと、[e]はいかにして磨かれるのか、ということだ。土台としての[e]の重要性はわかった、ではその[e]はどうやって磨けばいいのかというのは、当然湧いてくる疑問だと思う。

実はそれはもうすでに提示している。すなわちp>l状態にあるときにこそ、[e]は磨かれるのである。

これは車にたとえるとわかりやすい。[e]は車体そのもので、[p]はハンドルおよびアクセル、[l]はブレーキだと考えればよい。

まず[e]は車体そのものなのだから、当然ながら車体の性能を超えて、ハンドルおよびアクセル[p]や、ブレーキ[l]が動作することはありえない。その意味で[e]はやはり土台といえる。

では、その車体である[e]をグレードアップするにはどうすればいいのかというと、この世界には人間として進むべき道というのがあって、その道を進めば進むほどに車体である[e]はグレードアップしていく。この道を前へ前へと進んでいくのが、われわれの人生の目的であり、人によって辿るルートは違えど、最終的には同じ方向性へと収斂していことになる。

そして、その道がゴールへとたどりつくことは生涯ない。前に進み続けているその一瞬一瞬の過程こそが、人生であり幸福の正体なのだ。

あるべき方向性を見極め、車を前へ進めるためにはp>lになっていなければならない。これが逆転しているということは、ブレーキ[l]を思いっきり踏みながら、アクセル[p]をふかしているようなもの。けたたましいエンジン音は鳴るが、まったく前に進んでいない。p<lになっている人が一見するとご立派そうなことを言いはするものの、その実、人生が停滞していてろくに説得力をもちえないのは、こうした構造によるものだ。

p<lになっている人ほど自身の人生がなぜ停滞しているのかを、[l]を用いて分析しがちだが、そうじゃあないのである。いいからまずその思いっきり踏んでいるブレーキから足を離して、ハンドルを握ってアクセルを踏めと。そしたらとりあえず前には進む。前に進むのが人生の目的なのだから、とにかく前に進まなければお話にならない。その場で止まっているのがいちばん最悪で、それならば多少方向性は見誤って壁に激突したとしても、アクセルを踏んで前に進むべきである。

ただし、たとえp>lになっていたとしても、ブレーキである[l]の性能がしょぼければ、これまたうまく前に進むことができない。これは自己啓発やスピリチュアルに傾倒しているような人に多く見られる。

彼らは一応はp>lにはなっているので、見すえている大雑把な方向性そのものは間違ってはいない。けれども、たとえ大雑把な方向性そのものは間違っていなかったとしても、その途中で絶対に壁にぶつかる。そうやって壁にぶつかりながら軌道修正して、前に進んでいくのである。どんな人であっても壁への衝突は避けられない。

この時、なぜ壁に衝突してしまったのか、次に衝突しないためにはどうすればいいのかなどを分析し、適切なポイントで減速するのが[l]の役目である。

ところが、彼らの場合はいかんせんブレーキ[l]の性能がしょぼすぎて、毎回のように猛スピードで壁に激突している。p>lにはなっているので、なんやかんや行動はするものの、彼らの人生がたいして前に進まないのは、猛スピードで壁に衝突して車体が大破し、再び走り出すためのメンテナンスに時間と労力を要しているからだ。さらに衝突の原因をろくに分析もしないので、すぐにまた壁にぶつかっている。

p>lというと、どうしても[l]を軽視してしまうかもしれないが、そうではない。ハンドリング、アクセル、ブレーキ、すべてがうまく嚙み合ってはじめて前に進むことができる。

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Vol.032|なぜ文章がつまらないのか|成善哲宏
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