俺の切り札は光らない   作:雨 唐衣

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 さあ戦いを始めよう。

 邪悪との対峙が始まります。


五十九話 手札破壊とは対戦相手の手札からカードを捨てさせることである

 

 

 まず、スカーの投げたギターケースが重い音を立てて胴体にある顔面にめり込んだ。

 次に、めり込んだギターケースごと俺の飛び蹴りがめり込んだ。

 そして、倒れたところをマリカがそいつの足首を踏み潰す。

 すかさず転んだ首根っこに俺が蹴り入れて、スカーが胴体に振り上げたギターケースを叩きこんだ。

 

 

 そうやって鎮圧した。

 

 

 

「……まだ息してるぅ?」

 

「わからん。砕け散らないが、これやっぱりクリーチャーじゃないよな」

 

 反射的にボコした異形を死んだふりからの逃亡をしないようにドア近くではなく壁際に転がす。

 痙攣はしているから生きてはいると思うが……いや、なんで生きてんだ?

 

「二人ともいい反応だ」

 

「そっちもな」

 

 ドコンと重い音を立てて、ギターケースで異形のボードを砕きながらスカーが言った。

 その手には、殴り倒した奴の手から奪い取った黒ずんだカード。

 

「それは?」

 

「闇のカードだ」

 

 だよな。

 そう思うもつかの間、スカーがそのカードを破り捨てた。

 結構頑丈なはずなんだが、繊維の向きの問題で横になら結構普通に破れるんだよな、カード。

 

「完全とはいえんが、これで呪縛もある程度弱体化したはずだ」

 

「呪縛?」

 

「これは――()()だ」

 

「……ぁー」

 

 マジか。

 いや、うん、そんな気はしてた。

 だからこそ、マリカより早く急所に一撃入れてたんだが。

 

()()()()()()()()()()()

 

 確実に殺してやるっていう気持ち全開だったわけじゃないが、殺さない手加減はしていない。

 だからこそ、普通死ぬだろっていうぐらいにやっちまったんだが。

 

()()()()()()()()()

 

「死ねなく……?」

 

「闇のカード、それも上位であればあるほどアンティの取り立ては重く、理不尽なものを叶える」

 

 スカーは人間だったものの()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「複数回やられているな」

 

「複数回って……?」

 

 ……いや……まて。

 

()()()()()()()()()

 

「そういうことだ」

 

「ぇぅ? どーいうこと?」

 

 頭のいいマリカが珍しく首を傾げるが、わからなくてもしょうがないだろう。

 いや本当にどうかしてる。明らかに仕様外の運用だろ。

 ……クズが。

 

「今、救急車と警察にここの住所を伝えた。運が良ければ助かるだろう」

 

「あ、ああ」

 

 本当に手回しがいいな。それだけ慣れてるのだろうな。

 だけどこんな人体改造、救急車に運ばれても病院で治るのか?

 まあこの世界、医療技術結構進んでるっぽいけど。

 そこまで考えて気付いた。

 

「店長がヤバい!」

 

「ぁ、セトさん! そうだ、病院に!!」

 

「己の車を回す。ついてくるか?」

 

「マリカ」

 

 危ないから残れと言おうと振り向いて、真っ直ぐな瞳があった。

 

(わえ)もいくよぉ!」

 

「わかった、二人頼む」

 

「承知した。ついてこい」

 

 ギターケースを担いで走り出したスカーの後を追って、俺たちも飛び出した。

 店の看板はCLOSEにしておくことだけは忘れずに。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 よし、壁はこじ開けた。

 

「<ブレイバー・閃光>で攻撃!!」

 

 轟音。

 ブレイバーの攻撃(アタック)が闇ファイターをぶっ飛ばした。

 

「ふぅ。あまり強くないね」

 

 闇のカードとそれで領域をどんどん展開された時はびっくりしたけどなんか結界も薄かったし、大した強さじゃなかった。

 

「他の皆は……」

 

 

「<ヴァイスファング>でラストアタック。寝てろ」

 

「<銀河乙女・ロゴス>を起動。<色褪せる夢>を除外して、貴方に3点直撃」

 

「反逆の時だ。<リベリオン・レジスタンス(R・R) マンマシーン>、ファイア」

 

「<バニシング・イーグル(B E)インメルマンターン>をコスト3軽減して証言。飛行のため、ブロックされずに直撃ですねぇ」

 

 

 振り向いた先では、ヴァイスファングが、他の人たちのクリーチャーがそれぞれの対戦相手を吹き飛ばしていく。

 あ、店長すごい。なんかもう三人ぐらい倒してる。

 サレンさんでもまだ二人目なのに。

 やっぱりあのデッキ強さおかしいよぉ、レガシーいれてないんだよね? 共鳴率奪われてるはずなのに。

 

「でも一体何が起きてるの?」

 

 目に付く範囲を倒し終わって、ようやく息がつけた。

 これは一体……

 

≪ユウキ、終わってない! 前!≫

 

「終わってない?」

 

 アリーシャの声に、目を向ける。

 そこには他の人が倒したはずの闇ファイターが、よろめきながら立ち上がろうとしていた。

 

「ぁ、あ」

 

「え?」

 

 まって。

 確かに倒されたはず、ライフも削り切ってバトルフィールドでのファイトでもないから結構衝撃があるはずなのに。

 

「ふぁい「邪魔」

 

 閃光。

 構えようとしていた闇ファイターのボードが斬り飛ばされた。

 サレンさんのワイヤーだった。

 

「とぶぅ!?」

 

 最後まで言い切る事も出来ずに顔にサレンさんの回し蹴りがめり込んで吹き飛ばされちゃった。

 

「え、いいの!? それ」

 

「いい。無駄だから」

 

 無駄って。

 

「こいつら、死ぬまでファイトさせられてるゾンビ」

 

「ゾンビ?」

 

「アンティは聞いた?」

 

「う、ううん? なんか領域出していきなり襲ってから」

 

 そういえば闇のファイトってなんかアンティ、勝ったら何をしろとかっていうこと言い出してくるよね。

 でも、このいきなり襲いかかってきた闇ファイターたちはいってこなかった。

 なんかゴニョゴニョ言ってたような気がするけど。

 なんでカードの宣言はちゃんとするのに、他は人語喋れないんだろう。

 

「こいつらはアンティでファイトをさせられてる。死ぬまで」

 

≪はぁ?!≫

 

「唇で読めた。”負けたらこの時間、この病院で死ぬまで目に付く相手にファイトをする。同じアンティで”」

 

「同じアンティ?」

 

「言わばドミノ倒し。感染性のパンデミックのように暴れる奴が増えていくことになる」

 

 なにそれ。

 そんなのありなの?

 

「それってマズいんじゃあ!?」

 

「だから、ボードを破壊する必要がある。あるいは」

 

 そういってサレンがボードを破壊された闇ファイターから、一際真っ黒なカードを奪い取った。

 一瞬顔を顰めた。

 

「うざ」

 

 でもそれも一瞬で引き千切る。

 取り戻そうと手を伸ばしてた闇ファイター……いや、アンティで洗脳されていた被害者の人がぐったりと力が抜けて動かなくなった。

 

「こうやって闇のカードを破壊する。出来れば素手で触れないほうがいい、げキショだから」

 

「ゲキショ」

 

 なんかわかるけど言い方ぁ!

 

「でもさすがサレンさん!」

 

 ファイトも強くて、リアルファイトにも強くて、本当に凄いや。

 色々とデリカシーがないし、美人だけどちょっと残念なキャラだけど、それを補って余りあるぐらい頼れる人だ本当に。

 

「じゃあそうやってバンバン倒していけばなんとかなる」

 

「難しい」

 

「難しいってなんで?」

 

「殲滅速度が足りない」

 

 サレンさんが上げた手の先から、あちこちから悲鳴が聞こえてくる。

 まさか。

 

「多分病院の内外でも仕掛けられてる」

 

「!? そんなの止めなきゃ!」

 

「当たり前。ユウキ、よく聞いて。さっき言った通り通り、殲滅速度が足りない。いや私と店長がひたすらゴリ倒していけば全員潰せるとは思うけど時間がかかる」

 

 確かにセト店長のデッキだったら全然負けないよね。

 サレンさんも強いし。

 

「でもそれだと被害が増え続ける」

 

「じゃあどうすれば」

 

「本体を潰さないといけない」

 

「本体?」

 

「動きが陽動に見える。愉快犯の騒ぎにしては仕込みが念入り、多分どこかで仕掛けたやつが動いてる」

 

 そういうサレンさんの目は、あちこちに目を向けていて、そして病院の本棟を見た。

 

「サイコパスでも、頭がいいやつでも、どちらでも多分近くに”本体”がいる」

 

「なんで? 逃げてるかもしれないのに」

 

「店長が狙いなら消耗してゾンビにしたあと、上書きするために接触してくるはず」

 

 そこまで説明されてようやく私でも理解出来た。 

 そっか、店長がファイトゾンビとかに負けたりしても結局同じようにファイトしまくるように暴れさせられるだけで意味がない。

 そこから本体? の奴がいるとしたら、そこからアンティさせたり、命令させるにしても本人が来ないといけない。

 ということなのかな。

 

「私はそれを迎撃するつもりだけど、問題がある」

 

「問題?」

 

「ユウキと違って、私たちだと倒しきれない可能性がある」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()。闇の干渉を一発でぶち壊せない」

 

 

生命秘札(レガシー)……ヴァイスファングは?」

 

「ヴァイスファングはレガシーカードじゃない。力をあるけどあくまでもレガシーカードの複製(コピー)品で、私は本物はもっていない」

 

 サレンさんが珍しく少しだけ悔しそうな顔をした。

 

「決め手になるとしたらユウキ、貴女になる」

 

 私が……

 

「ユウキちゃん、サレンちゃん! 大丈夫だった?!」

 

「あ、店長! そっちこそ大丈夫です?」

 

「ボクは平気。ザコばかりだったし」

 

 少しだけ赤く滲んでる眼帯を押さえながらセト店長が安心させるように笑う。

 確かに、見てた限りなぎ倒してた速度は店長が一番上だった。

 だけど、少し足元が震えてる。目の調子もよくなさそうだし。

 

「無理はしないほうがいい」

 

「そうはいってられないよ。サレンちゃん、ボクが倒した範囲だと強いやつはいなかった、そっちは?」

 

「こっちもいない。多分陽動」

 

「やっぱり眷属だけか……」

 

「眷属?」

 

「闇ファイターのアンティで従わされる人のこと。あるいは闇カードの株分けで闇カードを与えられて、同化ともいうんだけど……さっきの実体化クリーチャー。ハンドグールだったよね?」

 

「間違いなく<喰手(ハンドグール)>だった」

 

「だとしたら……【教授(プロフェッサー)】?」

 

「確かにハンドグール使いといえば教授のはず。でもセトが教授を倒したはずじゃ?」

 

「……倒しはしたんだけど、警察に確保されたはず」

 

 

「教授でしたら教会に連れていきましたよ」

 

 

「えっ」

 

 振り向く。

 そこにはスーツをやや見出しながらもボードを展開している二人の刑事さん。どっちも無事だった。

 

「なので今彼がどうなっているかはこちらにはわかりません」

 

「待ってください。幾ら闇ファイターだからっていってカードを処分さえすれば普通の犯罪者扱いのはずでは?」

 

「あとはファイター専用の刑務所にぶち込まれるはず」

 

「いえ? 彼の入ったカードならしばらくこちらで厳重に警護していたんですがね」

 

 言葉を切って、少し周囲に視線を動かしてから刑事さんが言った。

 

 

顔差し(ネームド)の闇ファイターであり重異端者である彼は教会で裁きに掛けるルールだとおっしゃられまして」

 

 

「そんな……」

 

「じゃあ教会が取り逃がして、報復に襲いかかってきてる可能性もあるわけだ」

 

「サレンちゃん?!」

 

「あるいはそう思わせてるかも」

 

 大人たちとサレンさんの会話は私の知らない事が多くてよくわからなかった。

 ただ今こうしてる間にも、これを仕組んでる本体がいるのは間違いない。

 

 だから私は周りを見渡しながら、なにかおかしいことはないかって探して――気付いた。

 

「病院が黒くなってる!!」

 

 病院の窓から次々と黒く染まった。

 まるで黒い絵の具で塗りつぶされてるみたいで、真っ白だった壁も薄汚れていくのがわかる。

 

 そして、聞こえたのは甲高い悲鳴。

 病院の中から無数の悲鳴が一斉に上がった。

 痛みを感じるぐらいに冷たい嫌な感触に、思わず駆け出す。

 

「ユウキちゃん!?」

 

 店長の声、それ以外にも聞こえた声があったけど止まれなかった。

 今すぐいかないと間に合わなくなる。

 

「アリーシャ!!」

 

 デッキから迷わず引き抜いたアリーシャのカードに力を込めて、実体化。

 一番近くの扉に向かってお願いする。

 

≪てやぁ!!≫

 

 実体化したアリーシャが扉をぶち破る。

 そこから私は飛び込んで。

 

 

 黒かった

 

 

「なにこれ」

 

 右と左。

 上と下。

 何もかもが真っ黒だった。

 隙間なく、一つの白さも許さないと言わんばかりに真っ黒なペンキを塗りたくればこうなるんだろうか。

 かろうじて病院の廊下だという輪郭がわかる。

 だけどそれだけ。

 人はいない。

 声がない。

 音もない。

 冷たいのか熱いのかもわからないぐらいに丁度悪い温度で、吐き気がする。

 

 まるで誰かの喉を通って、胃に落ちる最中のような気分。

 

≪ユウキ、ボードは絶対引っ込めないで≫

 

「アリーシャ、これがなにかわかるの?」

 

 黒い世界で唯一、黒い衣装だけど見慣れて色付いたアリーシャの存在にホッとする。

 

≪【領域】。この建物という閉鎖空間を使って()()染め上げたんだ≫

 

「……ぜんぶ?」

 

≪全部……生き残りはいない≫

 

 ……いない?

 いないって。

 

「喰われたか」

 

 !?

 思わず跳ね上がって、慌てて後ろを見る。

 そこには瑞西刑事さんが銃を構えて立っていた。

 

「瑞西刑事さん?!」

 

「勝手に飛び出したのは色々説教したいところだけど……そこの精霊の言う通り、ボードは展開したままで。喰われるわ」

 

「刑事さん、アリーシャが?」

 

 アリーシャは精霊だ。

 普通の人には見えないはずだけど……

 

「そこまで実体化してれば見える。多少、精霊との交戦経験もあるから」

 

 交戦経験? ファイトポリスって精霊と戦うこともあるの?

 いや、そんなことを気にしてる場合じゃない。

 

「喰われるって」

 

「闇の領域はボードを持っていない人間を取り込む。持っていても展開が遅れれば不戦敗扱いで取り込まれる、病院の人間はおそらく……」

 

「そんな」

 

「だけど、ここまでの規模の領域を張れる奴なんて普通じゃない」

 

「まって」

 

 刑事さんの言葉を聞きながら、私は気付いた。

 

 真っ黒な廊下の奥に、なにか見えた。

 

「なにあれ」

 

 音はない。

 黒以外の色はない。

 

 なのに、その奥になにか違うものが、違和感があった。

 

 少しずつ大きくなる。

 ゆらゆらと大きくなる、それに最初は煙か何かかと思った。

 だけど違う。

 

「下がれ」

 

 見える。

 なにか聞こえる。

 ひた、ひた、ひたと、耳朶に音がする。

 

「下がれ」

 

 身体の中から音がするような響き。

 足音?

 こんな距離で?

 

「下がれ!!!」

 

 誰かが叫んでる。

 叫んでるけど、目が離せない。

 

 ゆらゆらと揺れるものは大きく、大きく、迫っていた。

 

 それは何かを抱えて、ゆらゆらと左右に揺れていた。

 白いシルエットがあった。

 丸いシルエットがあった。

 黒い中に真っ白な丸が浮かんでいると思った。

 違う。

 

 それは水母のように見えて、そんなものじゃなかった。

 大きく、大きなつぶつぶしたものが集まった球体だった。

 親指の先ぐらいの大きさの丸い粒。

 粒一つ一つがホタルのような明るさをもって、真珠みたいな色をしながら、たくさんたくさん集まって丸い形になっていた。

 まるで電灯。

 まるで松明。

 まるで、まるで、まるで――キモチワルイ。

 

 ゆらゆらと身体を揺らすものは、その明るく光るものを肩から上に乗せた真っ黒な身体をしていた。

 身体。

 そう身体だ。

 光る巨大に膨れ上がった頭を抱えたヒトガタだった。

 その体は真っ黒くて、光源となる頭に照らされてぬめぬめとしている。まるでカエル、まるでナメクジ、まるでカエルになりそこなったオタマジャクシだ。

 指が長い、腕が細くて変に長い、足は素足、え? 素足? 変なヒレみたいなのがついている、靴なんだと思う。靴であって欲しい。

 胸はないから多分男だと思う。

 だけど、性別がよくわからない。気持ち悪すぎるマネキンが変な頭で歩いている、そんな例えをするしかないもの。

 

 そんなものが真っ黒な廊下をゆらゆらと歩いていた。

 

「――――」

 

 声が出ない。

 悪夢としか思えないものをみて、声の出し方が思い出せない。

 

 その悪夢はゆら、ゆら、頭を揺らしながら、こちらに歩いてきて。

 

 その動きが見えるようになって気付いた。それが脇に何かを抱えているのがわかった。

 

「え」

 

 抱えられているのは病院着を着ている子供だった。

 髪の長い、黒い髪をした……見覚えがある。

 

 知っている、戦ったことのある子供だからわかった。

 

「社長さん!?」

 

 メガバベルの日本支部社長だった。

 

 

ロス

 

 

 え、しゃべった?

 化け物が反応した。

 

ロスロスロス

 

 甲高い機械を通したような声だった。

 いや、違う。機械を通してる。

 そうだ、人間がこんな声を出すわけがない。

 

「だ」

 

 誰だ。

 そう尋ねようとして、出せなかった。

 

 空気が抜けるような音と共に化け物の手が消えたから。

 

「れ?」

 

 キュルキュルと音がする。

 消えたと思った化け物の空いた手が現れていた。

 その長い指先に音を立てて回転しているものがあった。

 

 弾丸だった

 

「下がって!!」

 

 瑞西さんが発砲していた。

 迷わずに引いた引き金の火花と同時に化け物が手を動かす。

 銃撃が届かない。

 片手で弾かれて、受け止められて、塞がれている。

 ありえない光景。

 

「チッ! 消音器(サプレッサー)付きじゃあ駄目か!」

 

「ゔぉえ!?」

 

 首根っこが刑事さんに掴まれて、引っ張られる。

 

「せめて散弾銃でもあれば――」

 

 グシャリと弾丸が握り潰した手が、横の壁を叩く。

 真っ黒でわからなかったけど窓があったのだろう、まるで発泡スチロールのように剥がれて。

 

「ロス♪」

 

 投げた。

 

 ボールを投げるような無造作で、剥がし取られた窓枠が飛んできた。

 

 私は動けない。

 だから目の前に割り込んで、庇ってくれた瑞西刑事さんが吹き飛ばされた。

 

「ぁ、刑事さん!?」

 

 それでようやく動けた。

 吹き飛ばされた刑事さんに振り向こうとして 「ロス♪」 後ろから声がした。

 

 目と鼻の先に、化け物の頭があった。

 真っ白で、真珠のようなつぶつぶが視界いっぱいに広がって、わかった。

 それは。

 目だった。

 

 【人間の眼球】

 

 白濁して、真っ白になったものが集まっていた

 

≪うらぁ!!≫

 

 アリーシャの叫びと共に離れた。

 ぐるんと重力を感じない動きで、天井に着地した。

 

≪ユウキ、大丈夫!?≫

 

 アリーシュの声は聞こえる。

 けれど、歯がガチガチと音を立てていて、上手く呼吸が出来ない。

 こわい。

 こわい。

 

 いみがわからない。

 

 なにこれ、なにあれ、なに。

 

 

「ロスロス……――レェガシィ」

 

 

 声がする。

 天井に立ったまま、社長ちゃんを抱えて、そいつが喋った。

 どこからかわからない声をしたまま、肩を揺らして。

 

「どゥしょゥかァ?」

 

 声。

 声がして、そいつは嗤って。

 

 私は、私は――

 

 

 

「おい」

 

 

 

 展開したままのバトルボードに、自分のデッキを叩き込んで。

 

 

「ファイトしろ!」

 

 そう叫んだ。

 

 それこそが、私のやるしかないことだと信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







 これほど甘く、舐め回したいものがあるだろうか。


                     ――尊厳啜りの舌
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