第279話 愛との逃避行/美雪の後悔

―愛視点―


 私たちは電光掲示板から流れてくる速報をただ見つめることしかできなかった。

 周囲の人たちが、彼に気づき始めているように見える。このままではまずい。

 もしかするとパニックになるかもしれない。


「愛さん、行こう」

 センパイもそれに気づいたのだろう。私の手を強く引いて、逃避行を始めた。

 まるで、初めて会った日の時のように。あの学校の門を出るまでのドキドキ感を私は思い出していた。


「センパイ、おめでとうございます。最年少受賞すごいです」

 私は心から叫んだ。彼は「ありがとう。さっきの件があったから、編集さんからの電話に気づかなかったんだ」と言った。あの時は、先生からの逃亡だったけど、今日は不特定多数の人たちから逃げなくてはいけない。まるで、世界が私たちだけになったようにすら思う。


「今日はお祝いですね」

 たぶん、キッチン青野では今頃お祭り騒ぎだろう。知り合いが自然と集まるような気がする。


「ごめん、予定していたカフェはまた別日に」

 そんな時でも、私のことを気にしてくれる彼が大好きだった。


「もちろんです。今日は早く帰りましょう」

 私たちの帰りを待ってくれているあの温かい場所に。


「センパイ‼」


「ん?」

 私は絶対に伝わるだろうと思って説明を簡単にして言う。


「あの時の私たちは絶望しかなかったけど、今は幸せでいっぱいですね」

 彼は嬉しそうに頷いてくれた。


 私たちはこれからもずっと手をつないだまま歩ける。なぜだか、そう確信できていた。


 ※


―美雪視点―


 いつものようにただ家出無気力に過ごす。

 消し忘れたテレビが永遠についている。


 そこには、エイジの写真が映し出されていた。


「史上最年少で高校生が文学賞を受賞」

 その信じられないニュースのテロップが、私の幼馴染に向けられている。

 最初は一瞬、信じられなかった。そして、それが現実だとわかるまで数秒が必要だった。


 そして、現実に引き戻される。どんどんエイジが遠いところに行ってしまう。今の状況で復縁することができるとは思っていない。少しずつ忘れていかなくちゃいけない。そう理性ではわかっている。


 でも、それを現実的に突きつけられると激しく動揺してしまう自分がいた。

 自分が最低のことをしたとわかっているのに忘れられない。忘れようとしても、ふとした瞬間に幸せだったあの頃につながってしまう。そして、エイジが遠くに行けば行くほど、私は彼を忘れることができなくなっていく。


「最低だ。あんな最低なことをしたのに、エイジを好きだと思ってしまう」

 なんでだろう。あの日、私は最低の選択をしたのに。

 どうして、こんなに自分勝手なことを言えるのだろう。


 もう遅いとわかっている。

 なのに、なのに、なのに……


 幸せな場所へのあこがれは失ったことでどんどん深くなってしまう。

 

 私は前に進めない。それは、私が矛盾の塊だからだ。

 そして、一つだけ見えてきたことがある。


 私はスマホの電源をつけた。せめて、少しでも前に進むために。

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